相手の目標達成に必要な気づきを促すように対話を重ね、自発的な行動を支援する手法、コーチング。
身近な例でいえば、スポーツをしている人が「コーチ」と呼ばれ、教え子にコーチングをしていますよね。
このコーチング、ビジネスで活用すると、一体どんな効果があるのでしょうか。また、メリット・デメリットはどんなものがあるのでしょうか。
今回の記事ではコーチングをビジネスで活用する上でのポイントを交えて、ご説明します。
コーチングとは?その効果とメリット・デメリット
コーチングは、相手の目標達成に必要な気づきを促すように対話を重ね、自発的な行動を支援する手法です。
必要だと気づかせるのは、視点であったり考え方であったり、単にスキルや知識の不足であったりします。
要は、相手(一般的にコーチングの対象者を「クライアント」とも呼びます)が、自発的に行動するために、何が必要かを自分で気づかせるのが最も重要である、ということです。
コーチングを行う人(コーチ)は、クライアントが達成したい目標に対し、確実にアプローチできるよう、対話を通して支援します。
具体的に例をあげてみましょう。
コーチといえば、身近なところではスポーツのトレーナーです。
水泳のコーチがいます。教え子が「足をつかずに25mプールを泳げるようになりたい」と望んでいます。
「息継ぎは苦手なの?」
「うん、息継ぎはちょっと…」
「息が苦しくない泳ぎ方をするのは?」
「あ、背泳ぎでいけばいいのか」
「あと、バタ足の推進力が足りないね」
「足にヒレみたいなやつをつければいいね!」
コーチは対話を重ねて、どうすれば25mプールを泳げるようになるかを教え子に気づかせます。
いささか極端な例ですが、このように「足をつかずに25mを泳ぐ」という目標を達成するために、対話を通して、いろんな可能性を提示するのがコーチです。
ビジネスでコーチングを使われるのは、主にキャリアやスキルアップといった自己実現、仕事上の目標達成などのシーンです。
グローバル化によってより一層の競争力強化が求められる今日、一人ひとりが自主的に考えて行動し、パフォーマンスを上げるニーズがあります。
上の水泳のコーチが行ったように、ビジネスにおけるコーチも、対話を通してクライアントがゴールに到達するためのサポートを行います。
メリット
コーチングによって得られるメリットは次のようなものです。
- 潜在能力や特性など、クライアントの新たな可能性を引き出せる
- クライアントの問題について多角的に考える力、問題解決能力を向上させる
- クライアントが目標達成のために必要な手段を選択し、自発的に行動できるようになる
- 自主性を尊重するため、クライアントの目標達成までのモチベーションが維持できる
デメリット
コーチングのデメリットは次のようなものです。
- 他の手法と比べて、目標達成や効果が現れるまで時間がかかる
- 目標達成までのスピードが重視されるケースには適さない
- 自ら考える判断材料となる知識や経験が不足するクライアントには適さない
- 基本的に対話はマンツーマンで行うため、一度に多くのクライアントに対してコーチングすることは管理プロセスが複雑になり難しい
コーチングは、クライアントが自分で何とかしようとする問題解決能力を向上させることができます。
あくまで行動を選択するのは、自分自身ということで、クライアントの自主性を最大限に尊重することができ、目標達成までのモチベーションを保てるのも特長の一つです。
注意したいのは、コーチングは短期的に効果を上げる手法ではありません。
クライアントとの信頼関係を構築することも含め、時間をかけて行うことで効果が出る手法です。
半年や一年といった長期で、かつ週に1回など信頼関係が持続する頻度での対話が求められるため、時間の効率を求めるケースの場合、あえてコーチングの手法を取らないことも大切です。
ティーチング、カウンセリング、コンサルティング、トレーニングとの違い
コーチングと同じようなシーンで使われる言葉として、ティーチング、カウンセリング、コンサルティング、トレーニングがあります。違いを確認しましょう。
まず、前提として、コーチングは、対話によって、目標達成までのプロセス管理をし、支援することです。
確実に目標を達成できるよう、クライアントの自発的な行動を促し、見守ります。
ティーチングは、相手に不足する習得が必要な知識やスキルなどを教えることです。
「ティーチャー」がそのまま先生や教師の意味ですね。
基本は見守るコーチと、教え込む先生の行動の違いをイメージすれば区別できます。
当然、現実では先生がティーチングとコーチングを使い分けるシーンもあるので、定義を混同しないように注意が必要です。
カウンセリングは、対話によって、精神的な問題の解決を支援します。
「カウンセラー」が心の問題について取り組む仕事なので、容易に区別できます。
コーチングも、目標達成までの途中過程で、精神的な問題に取り組むことはありますが、心の問題の解決がゴールの場合だけ「カウンセリング」と呼ぶので、注意しましょう。
コンサルティングは、専門分野における問題解決の提案、助言をします。
コーチングが「クライアントが答えを出すのを促す」のに対し、コンサルティングは「クライアントが求める答えを出す」のが大きな違いと言っていいでしょう。
また、コーチングはいわばプロセス管理の手法なので、専門分野の目標に対して専門分野でないコーチがつくこともあり得ますが、コンサルティングの場合、専門性のある助言を求めているので、ほぼあり得ません。
トレーニングは、目標達成のための訓練をします。
コーチングやティーチング、カウンセリング、コンサルティングは、相手がいないと行えませんが、一人でも行える行動であることが特徴です。
目標達成に際して、コーチングとともにティーチングを使い分けるケースは珍しくありません。
クライアントの状況や目的によって使い分けることによってより効果的に目標達成を行うことができます。
ティーチングとコーチングの違いについては↓の記事をご覧ください。
https://jfc-guide.com/basic-knowledge/8834/
コーチングをするのに必要な能力や知識とは
コーチングは対話が要です。相手との信頼関係の構築を含めた、対面でのコミュニケーション能力が問われます。
コーチングのステップごとに求められるものをご説明していきます。
クライアントと信頼関係を構築する
コーチングは、クライアントの自主性が重要です。
半年や一年といった長期間、目的達成へ向けてコーチのサポートを受けて成長しようとクライアントが心から思えるためには、初対面で緊張を解きほぐすことが信頼関係の構築にとって欠かせません。
第一に、安心感を与えること。
そのためには、相手の特性に合わせたコミュニケーションを行います。
例えば、共通の話題で世間話をする、話を遮らずに聞く姿勢に徹する、相手の言葉を繰り返すなどが効果的です。
また、言葉以外のコミュニケーションも、クライアントとの関係性を築くために欠かせない要素です。
視線を合わせる、口角を上げる、クライアントの方へ体を向けるなど、オープンマインドを示し、親近感を与えて話しやすい雰囲気を意識しましょう。
また、コーチングでは、行動や成長などの変化に対して、都度「承認」を行うことも重要です。
承認とは、相手の存在を肯定する・認めることを意味します。
人の基本欲求と呼ばれる「承認欲求」を満たすということです。
例えば、相手に感謝を伝える、相談や質問など相手の求めにその場で応じる、などです。
このように承認を繰り返すことで、信頼関係をより強固なものにして行きます。
これらを対話の中で、都度承認を行うことを「フィードバック」と呼びます。
3つのポイントでフィードバックを行います。
適度な相槌
うなずきとあいづちを適度に行います。相手の話を聞いていることや理解していることを伝える一般的なフィードバックです。安心して会話を進める効果を生みます。
相手の状況をコーチが理解しているか確認
相手の状況をコーチが正しく理解しているかの確認です。
例えば、ある程度クライアントの話を聞いたところで「このように理解しているが大丈夫かな?」と確認します。
また、理解できない内容のとき、もう一度話してもらうようにお願いします。
クライアントへの理解度に対して適宜フィードバックをすることで、クライアントがコーチのサポートをより受け入れやすい効果を生みます。
相手がコーチのサポートを受け入れているか確認
相手がコーチのサポートを受け入れているかの確認です。
例えば、対話中の相手が困惑した表情をしていると感じたとします。
その際に「話をどのように理解しているかな?」、「わからないところはある?」と聞きます。
コーチのサポートに対し、クライアントの感情や戸惑いに対して適宜フィードバックをすることで、コーチのサポートをより受け入れやすい効果を生みます。
目標設定を確認する
コーチングにおけるコーチの役割は、クライアントが自ら目標達成するため、対話によって支援することです。
達成したい目標を決め、そこへ向かうために必要な方法を選択し、行動するのはクライアントです。
ですが、まず目標設定が本当に正しいのか、コーチは確認する必要があります。
先ほどの水泳のコーチの例では「足をつかずに25mを泳ぐ」と望んだ教え子に対して「足ひれをつけて背泳ぎで泳ぐ」という答えを引き出していました。
しかし、これは正しいのでしょうか。ゴールに対してのあらゆる可能性を引き出した点では間違っていません。しかし、最初の目標設定が間違っていることを指摘すべきです。
もし「学校の水泳テストで合格できるよう、足をつかずに25mを泳ぐ」であれば、コーチも息継ぎのタイミングや、バタ足のフォームを改善することなどを気づかせることもできたでしょう。
ゴールの設定が間違っているととんでもない方向に行くこともあり得ます。まずは対話の中で、本当にクライアントのゴールは正しく設定されているのかを確認することが重要です。
目標達成に適したアプローチを模索する
クライアントとのコミュニケーションがうまくいくようになったら、目標達成へのアプローチに意識を向けていきます。
次の3つの手法が一般的です。
傾聴する
相手の話を聞き、共感し、あるがままに受け止める傾聴。
相手が伝えようとしていることをそのまま受け取るためには、自分の価値観で判断や解釈をせず、話の内容を理解することだけに集中することです。
簡単にいえば、色眼鏡で見るな、ということです。
聞くだけでなく、うなずきやあいづち、話を理解できているかの確認などのフィードバックも大切です。
質問
質問には大きく分けて2つ、「オープンクエスション」と「クローズドクエスション」があります。
信頼関係が構築できていないうちは、「はい」か「いいえ」で答えやすいクローズドクエスションで会話を進めるとスムーズです。
答えの選択肢がない、相手に自由に発話させるオープンクエスションは、相手に考える力や成長を促しますが、信頼関係がなくては十分な効果が得られません。
信頼関係を構築した後も、クライアントの状況に合わせて使い分けるとよいでしょう。
例えば、水泳のコーチの例で言えば、こんな感じです。相手にとって答えにくいことについてはクローズドクエスションで質問しています。
「息継ぎは苦手なの?」(クローズド)
「うん、息継ぎはちょっと…」
「息が苦しくない泳ぎ方をするのは?」(オープン)
「あ、背泳ぎでいけばいいのか」
「でも、テストで合格したいんじゃなかった?背泳ぎで大丈夫?」(クローズド)
「うん…ううん、ダメかも。テストはクロールだもん」
「そうすると、やっぱり息継ぎだね。自分が泳いでいるときの息継ぎのタイミングとか見られればいいんだけどね。どうすればいいかな」(オープン)
「あ!じゃあ、今から泳ぐから泳いでいるところ動画で撮って!」
提案
コーチングを行う上で提案を行うことは、新しい視点を提供することを意味します。
コミュニケーションを活性化させ、さらに発展させたいシーンで行います。
相手の気づきのヒントになる場合や、アイデアが生まれる場合もありますが、あまり行いすぎるとクライアントの自主性を損なうため、注意が必要です。
クライアントによっては、提案を望まない場合もあります。
提案する際は「提案があるんだけど、いいかな?」と確認してから行いましょう。
提案した後に提案内容はどうだったかの確認のフィードバックを得て、それに応じて新しい提案を行なう、あるいは逆に相手の提案を聞かせてもらうようにするのが効果的です。
コーチングをビジネスで活用するには
ビジネスにおける代表的なコーチングの活用シーンをご紹介します
コーチングが活用できるシーン
業務経験を着実に積んでいる若手・中堅だが、成長実感が持てずに仕事へのモチベーションが低下している
⇒上司や同僚からのコーチングで、適宜承認を受けることで、現状把握と目標達成へのアプローチが見え、モチベーションの復活も見込めます。
十分な業務経験がある中堅・ベテランで、仕事へのモチベーションも高い
⇒上司や同僚からのコーチングで、新たな視点を与えるきっかけを生み、更なる成長を促すことができます。
コーチングが活用できないシーン
成長意欲は高い新人・若手だが、必要な業務知識などが不足している
⇒達成したい目標が業務上のものであれば、コーチングで自主性を引き出すことが難しい状況です。ティーチングやトレーニングが効果的でしょう。しかし、キャリアやスキルアップに関する目標であれば、コーチングは十分に活用できます。
中堅・ベテランで、今すぐに具体的な成果を出す必要がある
⇒コーチングには長期的な視点が欠かせない手法です。短期的に成果を出すには、ティーチングやトレーニング、達成したい目標の内容によってはコンサルティングが効果的でしょう。
十分な業務経験がある若手が複数いるが、コーチとの人間関係に課題がある
⇒コーチングは信頼関係あってこそ行える手法です。コーチの人選を間違えると、効果的なコーチングにはなり得ません。
また、コーチとのマンツーマンの関係を確保できない状況でのコーチングの活用は効果が見込めません。
ビジネスにおけるコーチング活用のポイントとは
ビジネスにおけるコーチング活用のポイントについてご紹介します。
ビジネスでコーチングを活用する場合、まずは業務目標の達成を目指す手段からが導入しやすいと言えるでしょう。
定期的に行われる、上司と部下のマンツーマンでの面談の場での活用が効果的です。
部下の業務目標とこれまで成果について上司がコーチとして認識合わせを行います。
現状と目標達成までに何が必要か、部下が自発的に気づくように促します。
こうして上司部下の理解が深まることで、業務効率アップ、ひいては業務改善や生産性向上に繋がる効果も見込めます。
続いて人材育成にコーチングを導入する場合、単に部下の能力や意欲を引き出すだけでなく、自ら考えて行動するようになることをゴールとすることがポイントになってきます。
状況に応じてティーチングやトレーニングも用いながら、最終的にセルフコーチングができるよう独り立ちを支援するよう、コーチングを活用するとよいでしょう。
組織内でセルフコーチングできる人が増えることで、成果をあげる組織へと変化させる組織開発の効果も見込めます。
コーチングの効果的な活用などを社内で共有しながら、全社的にコーチングの導入を進めることも重要です。
まとめ
「コーチング」をまとめると次の通りです。
・コーチは、クライアントの目標達成までのプロセス管理をサポートする
・コーチングは一定期間継続して行う(例えば、半年間、週に2回など)
・コーチは対話を通して、クライアントが多角的に深く考え、気づきが促されるようにサポートする
・コーチはクライアントの特性を理解し、それに適したサポートをする
・コーチとクライアントは対等な関係にある
・目標設定、達成方法の選択、行動を起こす主導権はクライアントにある
コーチングという観点から言えば、クライアントの目標達成は、ゴールへの通過点でしかありません。
コーチングの目指すゴールは、コーチングなしにクライアント自身が自主的に問題について考え、解決方法を選択し、自主的に行動できるようになることです。
もしあなたがコーチングを活用するのであれば、相手が最終的には独り立ちできることを目指して、コーチングしましょう。
相手が求める「答え」という魚をあげるのではなく、魚のとり方を教えてあげること。コーチングで広がる世界が、そこにあります。