今やっている事業を後継者に円滑に引き継ぐことを事業承継と呼びます。事業承継と一口に言っても、やるべきことは無数にあります。事業の規模が大きければ大きいほど、事業承継を正しく完了するには平均5年以上はかかります。
事業承継をすることでH30年4月から実質株式承継や資産移譲での税金はゼロ円になっています。また、事業承継をする事業者は事業承継補助金も狙えます。
今回の記事では、事業承継の計画の立て方をわかりやすくご説明します。
目次
1.【ステップ1】会社(事業)の現状を把握しよう
事業承継で必要なことは様々です。後継者選びや教育という人事的なコトだけでなく、株式や財産の分配・処理などの財務的なコト、そして定款の変更という法務局での手続きもあります。
しかし、「あれもこれもやらなきゃ!」と焦ると頭が混乱しますよね。まずは落ち着いてあなたの行っている事業の現状を少しずつ把握していきましょう。現状把握は意外に時間がかかります。何曜日の何時から何時は事業承継について進める時間にする、というように決まった時間を設けるか、または事業承継の専門家に依頼して進めるというのも良い方法です。
①会社の経営資源についての把握
会社の経営資源ってなんなのでしょうか。ベタな言い方ですが、会社経営はよくヒト・モノ・カネの循環が命!と言われていますよね。ですので、やはりヒト・モノ・カネが会社の経営資源と言えるでしょう。

では、この「ヒト・モノ・カネ」をそれぞれ深掘りしていきましょう。

これらを全て確認し、紙に書くのです。最初からキレイに書こうとしなくても大丈夫です。事業承継専用のノートか何かをつくり、ヒト・モノ・カネに分けて書き溜めていき、ある程度貯まった時点でワードやエクセルでフォーマットを作って人に見せられるものにしていきます。社内で事業承継プロジェクトを立ち上げ、適切な担当者を決めて守秘義務を徹底し分担するのとスムーズです。
②事業のマーケットと将来の展望について把握

今あなたの事業が業界においてどのような立ち位置にあるかを把握することで、次期後継者のすすむべき道も明確になります。地図において、「今どこにいるか」はとても大切ですよね。
【事業の市場・競争力】
- 業界においてあなたの事業所は第何位の売上なのか?
- 業界においてあなたの事業所はどのような立ち位置にあるのか?
- 業界においてあなたの事業所と似ている事業所はどこなのか?
- 業界においてあなたの事業所が目指している事業所はどこなのか?
上記のように、客観的にあなたの事業所を分析したデータを作成します。第三機関に頼んで作成してもらうという方法もあります。
③会社の定款について把握
事業承継をするのであれば、会社定款の変更もしなければいけません。会社の定款は会社の憲法です。代表が変わればその名義変更も必要です。株の譲渡などについても定款に書かれていますが、事業承継時にその保有割合などの変更をするのであればそれも変更しなければいけません。会社定款の変更は株主総会での特別決議が必要なので、株主総会を開かなければいけません。
事業承継における会社定款の変更については専門知識が必要であり、経営者が司法書士や弁護士に相談する場合が多いようです。
④事業者(あなた)自身の状況を把握

あなたが創業者の場合でも後継者の場合でも、事業承継ではあなた自身が今までどのように事業を行ってきたかのストーリーを可視化する必要があります。どのように新商品や新業態を思いつき、どのようにそれで利益を得たのか、どの点が苦労したかというストーリーです。
それらとは別に、以下の経営者自身の資産・負債状況についても明らかにする必要があります。
【経営者の資産・負債状況】
- 保有する株式の数と契約について
- 保有する個人名義の不動産と契約について
- 個人的な資産と負債について
⑤後継者候補を把握

後継者候補には誰がいるかを確認しましょう。通常であれば、親族内承継と言って親族の中で後継者を選出するという方法が一般的です。しかし、親族内に適当な人物がいない場合や事情がある場合は、社内の候補者や社外の候補者を選ぶことになります。
詳細は、当サイトの以下既存記事をぜひご参照ください。
⑥相続関連について把握
あなたが事業の第一線を退くということは、会社の資産や負債を後継者に相続するということになります。その際、法定相続人は誰になるのか、株式の譲渡で株主や会社の意思決定に影響は出ないのか、税金はどうなるのか、と言った少し専門的なことについて確認しなければいけません。
ちなみに、相続税についてはH30年4月から税制が大きく変わりました。今までは事業所の保有する2/3の株式が税金免除の対象でしたがそれが100%の対象に変更になったのです。実質、事業承継の相続税についてはゼロ円が可能になっています。これは経営者にとって嬉しいニュースです。
※上記URLをクリックすると、中小企業庁の公式ページにリンクします
2.【ステップ2】現状把握したことを活かして、3つの事業承継から選ぶ
上記で少し触れた親族内承継以外に、事業承継にはあと2つのタイプの事業承継があります。
親族内承継 |
従業員への承継 |
M&A(企業買収と合併) |
あなたの代わりになる後継者をこれら3つの中からどう選ぶかにより、事業承継の方法も異なってきます。親族内承継であれば相続の問題は比較的トラブルが少ないのですが、その他の場合は正しい知識と手続きを踏む必要があり、事業承継完了までにより時間を費やします。
3.【ステップ3】今後の予測をして最適な事業承継次期を決める
さて、【ステップ1】で現状を把握しましたが、その際に事業のマーケットと将来の展望について分析していると思います。事業承継で後継者に事業を引き継ぐ際には、できる限り事業が良い状態で引き渡すのが基本です。潰れかけで借金だらけの事業を引き継ぐのは、後継者の方にとっても精神的に負担となってしまいますからね。
【事業承継のベストタイミング(例)】
- 後継者の年齢が35歳以上となるタイミング
- 現経営者の年齢が65歳以上になるタイミング
- 事業承継活動を始めて5~10年以内に設定する
- 事業スタート後〇周年という節目を利用する
- 株式が社外に多数ある場合、それらを社内に戻せるタイミング
上記は事業承継のベストタイミングの一例です。親族内承継の場合、一般的手法は後継者である息子や娘が経営者として働けるであろう年齢や経験を積んだ時期を設定します。それ以外にも、最初にゴール(事業承継時期)を〇年後として先に決めてしまい、そのゴールから現在すべきことを落とし込むという手法も有効です。
4.【ステップ4】事業承継計画書=事業の中長期計画に追記すればいい
事業承継はあなたが現在行っている事業と分かれている訳ではなく、あなたの行っている事業と同時に走らせる1つのプロジェクトです。そのため、事業で作成している中長期計画に事業承継に関連するタスクを追記していけばいいのです。
【事業承継計画書の例】
現在 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | 6年目~ (続く) | ||
事業計画 | 売上高 | 1億 | 2億 | 4億 | ||||
計上 利益 | 2,000 万円 | 3,500万円 | 55,00 万円 | |||||
会社 | ・定款 ・株式 ・研修 ・挨拶 | 株保有率の確認と計画策定 | 株取得計画1実行 | 株取得計画2実行 | 株取得計画3実行 | 定款変更計画策定 | 定款変更 | 挨拶周り |
現経営者のタスク | ・ヒト・モノ・カネの現状把握 ・事業計画策定 ・会社内のタスク洗い出し ・会社外のタスク洗い出し
| ・実務実 行中 | ・ヒト・モノ・カネの現状把握 ・事業計画策定 ・事業承継の専門家への依頼検討 ・後継者の検討 ・家族会議 | ・社内へ事業承継系計画について公表 ・会社資産の移譲について計画を策定 | ・金融機関へ事業承継について相談 ・定款の変更計画を立てる・相談 ・後継者へ実務の一部を割り振る | ・後継者へ実務の一部を割り振る ・後継者の役割をランクアップする ・株主へ説明会1を開く | ・株主総会を開く | ・社外へ事業承継系計画について公表 ・株主へ説明会2を開く |
後継者のタスク | ・ヒト・モノ・カネの現状把握 ・実務の引継ぎ | ・実務実 行中(社内の場合) | ・現経営者と一緒に会社資源について把握 | ・実務を経験する ・会社株や定款について学ぶ | ・取締役会に加入する ・現経営者の実務の一部を担当 | ・副社長へ任命される ・株主総会で挨拶 |
上記のように、まず中長期の事業計画を立て、それに会社内と会社外でやるべきことをリストアップします。さらにその下に現経営者と後継者のやるべき仕事(タスク)をリストアップします。
しかし、事業承継についてはこの計画を立てるのが真の目的ではありません。計画を立てた方が実務が実行しやすいので中小企業庁では計画を立てましょうと推奨しているだけです。
事業承継については、中小企業庁が作成した「経営者のための事業承継マニュアル」もあわせて是非ご覧ください。
※上記URLをクリックすると、中小企業庁作成のPDFへリンクします
まとめ
事業承継は今まであなたが行ってきた事業を安全にかつ最高の形で後継者へ引き継ぐものです。後継者選び、株式や土地などの資産の譲渡などやるべきことはたくさんあります。
取り組む時期が早ければ、スムーズに事業承継を完了することが可能です。