個人事業主として事業を行われている方の中には、タイミングを見て会社設立による法人成りを検討されている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
個人事業主が法人として会社を設立することで信用力の強化や資金調達のしやすさ、決算日の設定が自由など様々なメリットがあります。今回の記事では、会社設立によるメリットの1つとされる「節税」について紹介したいと考えています。
一言で「節税」と言っても、どのようなメリットを得られるのかを知らなければ、会社設立をすべきかどうかの判断ができません。また、メリットがあれば当然、デメリットも存在します。
個人事業主が会社を設立することで得られる節税のメリットとデメリットについて確認していきましょう。
目次
1.個人事業主が会社を設立すること得られる節税面でのメリットについて
個人事業主が会社を設立すると、社長個人と会社の資産を分けて考えることが出来ます。そのため、社長個人と会社でそれぞれに納税義務が生じます。それぞれに納税義務が生じるにも関わらず、節税面でメリットが得られる理由は、事業で得た収益を分散させることが出来るからです。
では、具体的にどのような方法がとれるのかを紹介していきましょう。
(1)消費税での節税
消費者から受け取った消費税は、事業者が納付をすることになりますが、一定の要件を満たしている場合、消費税の納付が免除されることになっています。消費税の納付が免除されている事業者を「免税事業者」と言います。
免税事業者の要件は以下の通りです。
引用:国税庁HP「消費税のしくみ」
基準期間の課税売上高及び特定期間の課税売上高等が1,000万円以下の事業者(免税事業者)は、その年(又は事業年度)は納税義務が免除されます。
基準期間とは、その年の前々年(法人のは前々事業年度)を言います。設立から2年以内の場合、資本金額や出資金額が1,000万円以下であれば免税事業者に該当することになります。
つまり、個人でも法人でも事業をスタートしてから2年間は原則として免税事業者に該当することになります。個人事業主で事業をスタートしてから、2期終えた後に法人として会社を設立すると、さらに2年間消費税の免税事業者となります。
したがって、合計4年間は消費税の納税が免除されることになります。個人事業主としてすでに課税事業者になっていたとしても、会社設立をして法人になることで、再度2年間の免税事業者になることが出来ます。
-ただし、以下の場合は課税事業者となるため注意が必要-
消費税の免税事業者は、「基準期間の課税売上高」と「特定期間の課税売上高」等が1,000万円以下の事業者です。
特定期間とは、その年の1月1日から6月30日までの期間(個人事業主の場合、法人は前年の事業年度開始日以降6か月間)を示しています。この期間の課税売上高が1,000万円を超える場合には、創業後でも課税事業者に該当します。
また、設立した会社の資本金が1,000万円以上の場合も納税事業者に該当します。
(2)経費での節税
経費とは事業を行う上で必要な費用のことです。これは、個人事業主でも法人でも同じです。違いは、個人事業主は事業とプライベートの支出を区別することが難しいですが、法人の場合は明確に区別することが出来るという点です。
その結果、同じような物でも法人は経費計上が可能で、個人は経費計上できないというケースが存在します。
具体的にいくつか例を挙げてみましょう。
例1)家賃
個人事業主の方が賃貸に居住している場合、居住スペースはプライベートですから、当然、家賃は経費という扱いにはなりません。また、賃貸している自宅の一部を事務所として使用している場合には、事務所スペース分のみ経費として認められる可能性はありますが、居住スペースは経費にはなりません。
しかし、法人の場合、賃貸物件の契約を法人が行い、社宅として居住することで経費として扱うことが出来ます。
例2)生命保険等の保険料
個人事業主の場合、事業主の方が加入している生命保険の保険料は経費という扱いにはなりません。しかし、法人の場合、受取人と契約者を法人(会社)にすることで、保険の種類によっては保険料の全額や半額が経費として計上できるケースがあります。
個人事業主の場合、生命保険料控除で控除される所得は最大12万円となっているため、経費計上が可能な保険契約であれば、法人で契約した方が節税効果を高めることが出来ます。
例3)退職金
個人事業の場合、退職という概念がありませんので、当然、退職金もありません。しかし、法人の場合は退職金を設けることが可能となり、さらに、退職金は経費に含まれます。受け取った退職金は退職所得控除の対象となるため、個人の所得税の節税にも役立てることが出来ます。
ちなみに、退職所得控除の控除額は以下の算出式から算出することが出来ます。
勤続年数 | |
20年以下 | 40万円×勤続年数 ※80万円に満たない場合は80万円 |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
(3)給与所得での節税
個人事業主の場合、事業で得た所得=個人の所得という考え方です。
個人の所得には所得税が課税されます。基本的には事業利益など総収入から経費、所得控除、青色申告を利用している場合には青色申告特別控除を引いた金額が課税対象の所得となります。会社を設立した場合、事業で得た利益は会社の所得となり、利益から支給される役員報酬は個人の所得と2つの所得に分けることが出来ます。
役員報酬は給与なので経費として計上することが可能です。つまり、収入から差し引く経費を増やすことが出来ます。個人で得た役員報酬は給与所得となり、所得税の対象となりますが、給与所得には給与所得控除があります。給与所得控除は収入金額によって異なりますが、最低65万円、最高で220万の控除を受けることが出来ます。
-ちなみに家族の給与も経費になる-
個人事業主の場合、原則として家族に給与を支払うことが出来ません。(青色事業専従者給与の申請を行っている場合には、対象者に給与の支払いが可能です。)法人の場合は、家族を役員や従業員にした場合には、ご自身の役員報酬と同様に役員報酬や給与を支給することが出来ます。
支給した給与はすべて経費として計上することが可能なため、節税に大きく役立ちます。
(4)欠損金で節税
欠損金とはいわゆる「赤字」のことです。個人事業主でも法人でも事業の損失(赤字)があった場合、翌年以降の所得から損失を控除することが出来ます。これを「欠損金繰越控除」と言います。
欠損金繰越控除には、繰越しができる期間が定められています。個人事業主は3年間、法人は9年間繰越しが可能です。適用期間が長い分、課税対象となる所得を抑えることができるため、法人税の節税に繋がります。
(5)税率で節税
事業によって得た所得には、個人事業主は所得税等、法人の場合は法人税等が課税されます。個人の所得に課税される所得税は、超過累進税率となっているため、所得が大きくなると所得税額も大きくなります。
課税所得金額 | 税 率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超え330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超え695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超え900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万年超え1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
最大税率は45%です。一方、法人税は比例税率となっており、中小法人の場合には800万円までは一律15%、800万円を超える部分は23.2%です。800万円を基準に2つの税率と至ってシンプルです。例えば、個人事業と法人の課税所得がそれぞれ1,000万円だった場合、個人事業主に課税される所得税は176万4,000円ですが、法人に課税される法人税は166万4,000円と、法人税の方が納める金額が少なくなります。
(6)相続税の節税
個人の資産は、資産を保有している方が亡くなった場合、相続財産として相続税の課税対象となります。個人事業主の方の場合は、個人の資産と事業用資産の区別がはっきりしていないため、資産はすべて相続の対象となります。
相続税を抑えるためのポイントは、課税対象となる資産そのものもしくは資産の価値を減らしておくことが一番です。相続税は、プラスの資産(預貯金・不動産等)からマイナスの資産(負債・売掛金等)を差し引いた金額に対して課税されます。
所得税同様に、相続によって取得する額が大きいほど課税される相続税も大きくなります。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税 率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 500,000円 |
5,000万円以下 | 20% | 2,000,000円 |
1億円以下 | 30% | 7,000,000円 |
2億円以下 | 40% | 17,000,000円 |
3億円以下 | 45% | 27,000,000円 |
6億円以下 | 50% | 42,000,000円 |
6億円超 | 55% | 72,000,000円 |
法人の場合は、個人の資産と会社の資産は別です。そして、法人には相続という概念はありません。従って、社長個人が所有している財産に対しては相続税が課税されますが、会社の資産は相続とは無関係ということになります。
事業を引き継ぐ場合にも、相続税や贈与税は課税されません。(ただし、社長が所有している株式は相続税や贈与税の対象となります。)
2.個人事業主が会社を設立すること得られる節税面でのデメリット
会社を設立すると、所得や資産をきちんと分けることが可能となり、節税に繋がるメリットが多くあることがご理解いただけたかと思いますが、メリットがあるということは、当然、デメリットも存在します。
(1)赤字でも必ず納める税金がある
個人事業主の場合、事業の利益(所得)が出なければ所得税や住民税などの税金を支払う必要はありません。しかし、法人の場合、赤字であっても法人住民税の均等割り(おおよそ70,000円)は必ず納める必要があります。
法人住民税の均等割りとは、法人都道府県民税均等割と法人市町村民税均等割の合計です。各都道府県によって金額が異なります。
-税金以外にも法人になることで必要になる費用-
法人として会社を設立すると、社会保険の強制適用事業所となります。社会保険は保険料の半分を会社が負担することになります。
例えば、40歳以下で給与が30万円(月)の従業員の社会保険料は健康保険が29,700円、厚生年金が54,900円です。それぞれの半分を会社が負担することになりますので、健康保険14,850円、厚生年金27,450円の計42,300円を毎月、会社が負担することになります。
年間で507,600円となります。従業員の数が多ければ多いほど、会社が負担する社会保険料が大きくなります。※上記の社会保険料は平成31年4月分の保険料額表(東京都)を参考にしています。
また、法人の場合は会社の設立に202,000円~242,000円程度の費用が必要となり、廃業する場合にも32,000円(解散登記と精算決了登記費用)の費用がかかります。個人事業主の場合は、開業・廃業に伴う手続きのコストは発生しません。
(2)接待交際費には上限がある
個人事業主の場合、接待交際費の上限がありませんので、事業に必要な交際費に関しては経費として計上することが可能です。しかし、法人の場合、交際費の範囲と損金として扱うことができる金額に決まりがあります。
税法で定められている交際費は以下の通りです。
引用:国税庁HP
交際費、接待費、機密費その他費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出する費用をいいます。
損金算入できる交際費は、会社の規模や交際費の金額によって判断されることになっていますが、中小企業の場合は「接待飲食代の50%」もしくは「定額控除限度額(800万円)」のいずれかが損金算入の金額となります。
3.節税以外に会社を設立することで得られるメリット・デメリットについて
最後に、節税以外に個人事業主が会社を設立することで得られるメリットとデメリットを簡単に紹介します
メリット | デメリット |
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|
会社を設立することで、法人格を得ることにより信用力を上げること可能となり、個人と法人を区別して考えることになりますので、事業に万が一のことが起こった場合のリスクを減らすことが出来ます。しかし、個人と法人を区別して考えることにより、廃業時にもコストがかかる、赤字でも支払う税金がある、社会保険料など負担すべきことが増えるというデメリットも存在します。
節税だけではなく、様々な要素をしっかりと考えて会社設立を行うことが大切です。
個人事業主の方が会社設立をした際のメリット・デメリットについては、下記に詳しく記載しています。会社設立に関するタイミングについても触れていますので、詳しく知りたいという方は、下記記事を併せてご確認ください。
会社設立を検討している方は絶対に読むべき!会社を設立した際のメリット・デメリット |
まとめ
個人事業主の方が法人を設立することで得られる節税に対するメリット・デメリットについて紹介しました。個人事業主から会社を設立して法人成りするということは、節税を含め多くのメリットがあります。事業規模がある程度大きくなってきたら法人を設立する方が良いケースが多いです。
個人事業と法人の様々な違いを把握し、あなたの事業にベストな方法を選択してください。また、これから事業をスタートしようとお考えの場合には、法人の設立が本当に必要かどうかをしっかり確認しましょう。
特に、創業に伴い金融機関からの資金調達を検討している場合は、個人事業主で融資を受けた方が良いケースも存在します。
-創業時の会社設立については下記もご覧ください。-inQup「ほんとに必要?無駄な会社設立はもうやめませんか?」 |
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