日々事業をしていると、金融機関の営業から「事業融資、受けませんか?」と提案されるかもしれません。また、ネットサーフィン中に「融資」という言葉がやたら気になるかもしれません。
融資で損をせず、賢い事業主として融資を活かすにはポイントがあります。 ①融資のメリット・デメリットの両方を正しく知り、②その上で「融資をしない」あるいは「融資をする」という選択をすることです。
この記事では、「融資は必要ない」という意見と同時に「融資は必要」という意見の両方をご紹介し、双方のメリット・デメリットを考えていきます。
1.「融資は必要ない」派の意見とは
①融資のタイミングは自分で決めたい

「今は特に資金調達するべき時期ではないし、自分の好きな時に好きな金額を借りたい。」事業融資に否定的な事業主は、金融機関などからの提案で決めるのではなく、あくまで主体的に融資に申し込みたいという意図があります。確かにわかる気がします。
しかし、融資のタイミングを自分で決めたいとしても、「自分が借りたいときには銀行は貸してくれない」のはよくあることです。このことは過去にアメリカ人のロバート・フロスト(著名な詩人・ピューリッツァー賞を4度受賞)が、以下のように格言を残しています。
「銀行とは、天気の良いときに傘を指し、雨が降り出すと返せという所である。」
洋服屋さんでも、セール時期に購入しないのではまるで値段が違います。どんな条件や金利でもいいから、とにかく融資のタイミングは自分で決めたいという事業主は「融資条件が優遇されない」という可能性があります。が、それも一つの経営方法として良いと思います。
大切なのは、金融機関担当者と良好な関係を築く事。なぜ今このタイミングでの融資を勧めてくるのか?膝を突き合わせて話あってはいかがでしょうか。
②絶対に借金を増やしたくない
「融資って言っても要は借金だろ?うちは30年無借金経営!絶対に借金はしたくない」というタイプの経営者も日本にはまだまだ多いことと思います。売上がコンスタントにあり利益を豊富に出せる事業なのであれば、融資は必ずしも必要ではありません。
無借金経営のメリットは、とにかく借金をしていないという点。無借金経営の事業主の信用情報はクリアです。さらに、融資の金利を支払わなくてもいいという点は最大のメリットですね。

上記は中小企業庁が2016年に公表した無借金経営をしている事業種別割合のグラフです。こちらを参考にすると、無借金経営をしている業種は医療・福祉(22%)と卸売・小売業(15.9%)です。逆に、融資を受けて経営している割合が多い業種は鉱業・採石業・砂利採取業、電気・ガス・熱供給・水道業、運輸業・郵便業といった生活インフラ系の事業と生活関連サービス業・娯楽業、教育・学習支援業・情報通信業となります。
融資をしないデメリットとしては、手元にいつでも十分な資金がない状態ということです。時代の流れはとても早く、臨機応変に事業を対応させないと廃業となる可能性が常にあります。実際、雑誌・新聞が売れなくなって、Web化対応するためには多くの資金が必要になりました。

上記は総務省より公表されている基本データと政策動向のページ内の図(図表5-2-1-1 情報通信機器の世帯保有率の推移)を加工したものです。2017年に日本ではパソコン保有率(72.5%)よりもスマートフォン保有率が2.6%増加しています。10年前にはまさかPCよりもスマホを持つ人口が多くなっています。10年前にはパソコンメーカーはこれを予想できていたでしょうか。
あなたの事業も5年後、10年後、時代の流れの影響を受ける可能性はゼロではありません。金融機関と良い関係を築けると、いつでも現金を使える状態となり、時代変化や急な出費などにも安心して対応することが可能です。
③借金しても、事業が成功するかわからない
「低利子っていっても、払わなくていいお金を払わなきゃいけないんでしょ?融資を受けて、もし事業が軌道に乗らなかったら借金だけが手元に残るよね?」このように考える方もいらっしゃいます。ごもっともな意見ですね。
もし、融資を受けて事業がうまくいかなかった場合、どのように返済すればいいのでしょうか。一つの方法として、金融機関には嫌がられるかもしれませんが、繰上返済をして早めに返済してしまう、という方法があります。
例えば、ラーメン屋を開きたいAさんが公的融資(日本政策金融公庫の新創業融資制度)で融資を受けると仮定しましょう。適用される金利は今、だいたい2.06%~2.45%ぐらいです。(平成31年2月14日現在)

日本政策金融公庫の公式ページでは、上記のように返済シミュレーションができます。Aさんは500万円を借りてラーメン屋を開く場合、利子を入れると返済額がどのようになるかというと。

このようになりました。500万円借りて据置期間(利子だけを支払う)を2年にして利子はだいたい70万円です。最初の2年間だけラーメン屋を頑張り、2年たってどうしてもダメだったら廃業する、という方法もあります。作ったラーメン屋は残念ですが売却を考えてもよいでしょう。
この場合、3年目から支払うべき残債は利子含めて毎年684,864円です。ひと月にして57,072円。極論ですが、作ったラーメン屋を500万円でうることができれば残債500万円を一括で支払え、478,876円の利子は支払わずに済みます。また、他の方法としては事業計画を見直して業態変更して再スタートするという方法があります。そもそも論ですが、うまくいかないと思われる事業には融資の審査は通過しません。
2.「融資は必要」派の意見の代表的な意見も見てみよう
①「お金がないと、ちゃんとしたビジネスって始められないじゃん」

ネットでブログ書いてアフェリアイトで稼ぐ、YouTuberになって動画で稼ぐなど、ラクして儲けようという趣旨の記事がネット内にはたくさん溢れています。しかし、それらが流行って数年経過し、実際にはそう甘くないということは既にみなさんご存知のはずです。
元出がゼロで生活できるほど稼げるほど、世の中甘くはありません。ポイントサイトなどを駆使しても結局副業のレベルしか稼げませんよね。会社員やりつつ副業で月3~5万円を稼ぎなら融資は必要ありません。が、本当に生活費を稼ごうとするなら設備資金や運転資金があった方がきちんとした事業が可能です。
②事業をスタートしても、すぐに利益が出るかわからないから
事業をするのに設備資金をかけてWeb広告をして、さあお客さんカモン!という気持ちになっても、すぐにお客様が押し寄せる訳ではありません。試行錯誤して、やっとお客様が安定して入るようになるには半年~1年以上かかると言われています。
お客様がリピートしてくれるまで、資金がないとあなたの生活費が捻出できません。最低半年間の生活費(最低月20万円×6か月=180万円)は手元におきつつ、事業をスタートすべきです。
③予備費がない状態での経営・独立は非常に危険だから

事業でなく一般家庭でもそうですが、貯金ゼロの状態で毎日の生活や経営をすることを「自転車操業」と言います。子供の給食費が払えない→ネットでいらないもの売るからいいや、では、子供も不安になりますよね。事業や会社の場合も同じです。いきあたりばったりの事業では、奥さんも従業員も不安になり、それは事業パフォーマンスに影響します。
毎年必要となる税金の支払いや仕入れに必要な資金・人件費などを計算し、遅延なく支払えるように計画を立てましょう。売掛金の多い業界では、資金繰りで現金がすぐに手に入るわけではないので、融資で予備費をストックしておくと良いでしょう。
3.融資を受けるかは事業の成長段階による?! 融資のもう一つのメリットとは
中小企業庁の資料によると、事業の成熟度によって融資をするかどうかの違いが顕著に表れていることがわかります。

こちらのグラフを参照すると、起業段階の起業よりも成長段階と成熟段階でメインバンクとの面談回数が多くなっています。

また、もう一つのグラフを参照しますと、金融機関から借入のある企業ほど「資金調達の必要がある」と答えています。そして、今まで一度も資金調達を経験したことのない企業ほど「資金調達必要はない」と答えています。
この2つのグラフから考えられることの一つは、金融機関の融資による企業理解です。金融機関は融資を通じて企業の決算書や事業計画書などを提出され、その経営課題や特徴を把握しアドバイスすることが可能になります。
今まで一度も資金調達したことのない企業は「自社の経営課題を十分把握しているか」とのアンケートの答えに「はい」と答えた割合は1割程度しかないという実態は、金融機関からのアドバイスが不足しているからかもしれません。
例えは悪いですが、一度身に着けた自己流メイクを何十年変えず満足している女性が、専門のメイクコンサルタントに出会い、「こんなメイクもいいかも?!」と目からうろこが落ちる。金融機関と適切な関係を築くと、経営に対する課題が明確化されるというメリットも見過ごせません。
まとめ
事業に融資は必要ないと考える意見としては、「とにかく借金をしたくない」、「事業がうまくいかなかった場合に借金だけが残る」というものでした。また逆に、事業に融資は必要と考える意見としては「資金がないと事業ができない」「事業が回るために必要」「資金がないと自転車操業になる」というものでした。
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