日本政策金融公庫には「資本性劣後ローン」と呼ばれる融資制度があります。
この「資本性劣後ローン」は通常の融資とは大きな違いのある特殊な融資制度です。
そこで今回は日本政策金融公庫の「資本性劣後ローン」について解説します。
目次
1.資本性劣後ローンとは?
(1)資本性劣後ローンとは?
資本性劣後ローンとは、「資本性ローン」の性質と「劣後ローン」の性質を併せ持つローンのことです。
①資本性ローンとは?
資本性ローンとは金融機関が債務者を判定する際に、借り入れた資金でありながら自己資金扱いとすることができる借り入れのことです。
日本政策金融公庫には「挑戦支援資本強化特例制度」という名前の資本性ローン制度があり、こちらは無利子無担保での利用が可能となっています。
②劣後ローンとは?
劣後ローンとは一般の債務よりも支払い順位が劣後するローンのことで、会社に万が一のことがあった場合には他の債務の返済が優先されるため、返済を後回しにすることができるローンです。
金融機関側からすると回収できる確率が低いため、利子が高くなる傾向があります。
(2)通常の融資との違い
資本性劣後ローンには、他の融資制度にはない特徴があります。
①借り入れなのに資本扱いにできる
資本性ローンとしての性質を持つため、金融機関が融資を行う際にある審査において、本来借入金である資本性劣後ローンを自己資本として扱うことができます。
ーなぜこのようなことが可能なのかー 資本性劣後ローンは「劣後ローン」、つまり支払いの優先順位が低いというのがポイントです。 資本性劣後ローンは会社が倒産した場合などに回収できる可能性が非常に低い資金であるため、通常の融資よりも株式投資に似た運用がなされます。 資本性劣後ローンは回収を前提としていない運用になるので、貸借対照表上では資本として扱われるのです。 |
②返済は一括のみ
通常の融資は毎月ごとに決まった額の元金の返済を行いますが、資本性劣後ローンは分割返済することができず、元本は一括返済のみとなります。ただし、利息のみは継続して返済する必要があります。
令和2年度第2次補正予算を受けて設定された「中⼩企業向け資本性資⾦供給・資本増強⽀援事業」における資本性劣後ローンは、「貸付期間:5年1ヶ⽉、10年、20年(期限⼀括償還)」とされています。こちらの制度は新型コロナ対策で設定された制度になります。
(3)利息の利率は?
資本性劣後ローンの元金は一括償還のみなので分割で返済することができません。
そこで気になるのがその利率。
資本性劣後ローンは回収できる確率が低い、つまりは金融機関にとってリスクの高い融資なので、利息は高く設定される傾向が強くなります。
とはいえ支払いの利息は赤字ならば低く、黒字ならば高くなるように設定されているため、返済計画が安定しやすくなっています。
2.資本性劣後ローンのメリットとデメリット
(1)資本性劣後ローンのメリット
①他の融資が受けやすくなる
資本性劣後ローンは融資審査時に負債ではなく自己資本として見られるため、融資を受けるハードルが下がり、他の融資を併用して受けやすくなります。
②無担保無保証人なので融資のハードルが低い
日本政策金融公庫の資本性劣後ローンは無担保無保証人で受けることができるので、融資のハードルは低めとなっています。
とはいえ、事業計画がしっかりしていないと資本性劣後ローンの審査に落ちてしまう可能性はあるので事業計画はしっかり立てておきましょう。
③一括返済なので他の返済と返済期間が被りにくい
資本性劣後ローンは貸付期間が5年以上と長く、他の融資と併用しても返済期間が被りにくいという利点があります。
利息の支払いは同時に行うことになりますが、事業が安定するまでは利息も安いため圧迫しにくいため併用しやすいです。
④資本性劣後ローンは黒字でなければ金利が安くなる。
資本性劣後ローンは事業の成績によって利率が変動します。
事業が軌道に乗るまでの間は利率が低いので、利子の返済によって経営状況を大きく圧迫することはほとんどありません。
⑤既存株主の持ち株比率に影響しない。
好調時に利率が高くなり、倒産時に回収されないという点で株式と運用が似ていますが、株式ではないため既存株主の持ち株比率に影響せず、会社経営に口を出されることもない点はメリットとなります。
(2)資本性劣後ローンのデメリット
①資本性劣後ローンは貸す側のリスクが高いので利子が高くつきやすい
資本性劣後ローンはその劣後性によって倒産時に回収できない可能性が非常に高く、金融機関にとってはリスクが高い融資制度です。
そのため、金融機関は利子によって継続的に回収することになります。
利子のみの返済となるため1回1回の負担こそ小さくなりますが、長期間返済し続けることで総合的な返済額は大きく膨らみ、最終的には高くつくことになってしまいます。
②元金は一括返済なので計画的に資金運用しないと返せない
資本性劣後ローンの元金は分割での返済を行うことができず、終了時に一括で返済しなければなりません。
そのため、利息や他の債権の返済を行いながら、資本性劣後ローンで借り入れた元金もしっかり返済できるように計画的に資金運用を行っていく必要があります。
また、元金が分割返済できないということは利息も常に元金全額にかかり続けるということになるので、利息の額が膨らみやすいという点も大きなデメリットです。
③金利は継続的に返済しないといけない
元金は途中で返済する必要はありませんが、金利は継続して返済していく必要があります。
そのため、負担は少なめではあるもののなくなるわけではない、ということには留意する必要があります。
④黒字が出ると金利が高くなる
業績が低い間は利率が低いですが、業績が上がって黒字が出ると金利も高くなります。
長期の借り入れになると最大で1年に5~6%もの利率になることもあり、返済が大変になってしまう可能性もあります。
⑤実質無利子化の対象外で恩恵は受けられない
新型コロナウイルス感染症の経済対策の一環で実質無利子化ができる「特別利子補給制度」の対象にはならないので、利子の負担を軽減することができません。
3.コロナウイルス感染症資本性劣後ローンと現行の資本性ローンの違い
(1)コロナウイルス感染症対策資本性劣後ローンの詳細
①新型コロナ対策資本性劣後ローンの創設について
新型コロナウイルス感染症特別貸付の拡充を盛り込んだ令和2年度第2次補正予算が令和2年6月12日に成立したことを受け、「新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン)」という名称の資本性劣後ローン制度が創設されました。
日本政策金融公庫(国民生活事業・中小企業事業)及び商工組合中央金庫(危機対応融資)において、7月1日から事前相談と事前審査を開始し、8月3日から制度の適用、融資を開始する予定です。
②新型コロナ対策資本性劣後ローンの内容
通常の新型コロナウイルス感染症特別貸付とは別枠となるため、既に新型コロナウイルス感染症特別貸し付けを限度額まで利用していても新型コロナ対策資本性劣後ローンを利用可能となっています。
返済期間は3種類で5年1か月、10年、20年の3種類。
融資限度額は7億2千万円、利率は最初の3年間は0.5%、4年目以降は業績に応じて最大年ごとに2.95%の利率となります。
また、申請時の提出書類として、通常の融資に必要な書類に加えて新型コロナ対策資本性劣後ローン専用の事業計画書が必要です。
(2)コロナウイルス感染症資本性劣後ローンと現行の資本性ローンの違い
コロナウイルス対応政策の一環である令和2年度第2次補正予算を受けて発表された日本政策金融公庫の資本性劣後ローンには、以前の日本政策金融公庫で利用できた資本性劣後ローンとは異なる点が多くあります。
①利用条件
現行の資本性ローン制度では、以下に該当する方が対象です。
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新型コロナ対策資本性劣後ローン制度では、以下に該当する方が対象となります。
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通常の資本性ローン制度と比較して、新型コロナ対策資本性劣後ローンを利用する場合は少しハードルの高い条件もあるため、基本的には「認定経営革新等支援機関」通称「認定支援機関」を利用するのがいいでしょう。
「認定支援機関」では事業計画書の作成なども手伝ってくれるので、非常におすすめです。
②利率
現行の資本性ローン制度では企業したばかりの企業や新事業展開、事業再生等に取り組んでいる企業がベンチャーキャピタルや民間金融機関からの資金調達力を強化する「国民生活事業」と新規事業や企業再建に取り組んでいる中小企業の財務体質強化を行うための「中小企業事業」の2種類が存在します。
「国民生活事業」では1年ごとに決算内容に応じ総資本経常利益率5%以上の高、総資本経常利益率0%以上5%未満の中、総資本経常利益率0%未満の低の三種類の区分に分かれます。
低の場合は1.05%で固定ですが、高・中は「5年1ヵ月以上7年以内」「7年超9年以内」「9年超12年以内」「12年超15年以内」の4種類に分かれ、期間が長いほど利率が上がることになります。
売上高減価償却前経常利益率 | 貸付期間 | |||
5年1ヵ月以上 7年以内 | 7年超 9年以内 | 9年超 12年以内 | 12年超 15年以内 | |
高 | 5.30% | 5.60% | 5.95% | 6.20% |
中 | 3.20% | 3.35% | 3.50% | 3.65% |
低 | 1.05% | 1.05% | 1.05% | 1.05% |
「中小企業事業」を利用する場合は一年ごとに決算内容に応じて分類されるのは同様で、更に適用した貸付制度により利率が変わります。
新企業育成貸付又は企業活力強化貸付 | 貸付期間 | |||
5年1ヵ月 | 7年 | 10年 | 15年 | |
高 | 4.00% | 4.65% | 5.00% | 5.45% |
中 | 2.70% | 3.15% | 3.40% | 3.75% |
低 | 0.45% | 0.45% | 0.45% | 0.45% |
企業再生貸付を適用した場合 | 貸付期間 | |||
5年1ヵ月以上 7年以内 | 7年超 9年以内 | 9年超 12年以内 | 12年超 15年以内 | |
高 | 5.30% | 5.40% | 5.45% | 5.50% |
中 | 3.15% | 3.25% | 3.30% | 3.35% |
低 | 0.45% | 0.45% | 0.45% | 0.45% |
新型コロナ対応資本性劣後ローンは少々特殊で、最初の3年間は業績に関わらず1.05%の利率で固定されます。
その後、4年目以降は直近の行政期に応じて利益が0円以上と未満の2種類に分類、利率が決定されるのです。
新型コロナ対応資本性劣後ローン | 貸付期間 | ||
5年1ヵ月 | 10年 | 20年 | |
0円以上 | 3.40% | 3.40% | 4.80% |
0円未満 | 1.05% | 1.05% | 1.05% |
③融資限度額
現行の資本性ローン制度では国民生活事業で上限4000万円、中小企業事業では3億円となっています。
また、事業承継・集約・活性化支援資金(企業活力強化貸付)制度を利用している場合は通常の3億円とは別枠で3億円が上限に追加されます。
新型コロナ対策資本性劣後ローンでは上限7,200万円で、通常の資本性ローン制度とは別枠なので、併用することが可能となっています。
④返済期間
現行の資本性ローンでは「国民生活事業」の場合5年1か月以上15年以下で、相談に応じて期間を決めていきますが、「国民生活事業」の場合は5年1か月、7年、10年、15年の4種類から選ぶ形となります。
新型コロナ対策資本性劣後ローンでは、5年 1ヵ月、10年、20年の3種類のいずれかを選択して返済します。
4.日本政策金融公庫の資本性劣後ローンを使うには?
(1)挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)の使い方
①自分の会社が条件を満たしているかを調べる
まずは自分の会社が制度の対象に含まれているかを調べます。
日本政策金融公庫に相談を行うことで対象になっているかを調べることができますので、気になる場合は窓口に問い合わせをしてみましょう。
②基本的には他の融資相談と同じ
基本的には通常の融資相談と同じ書類が必要となります。
それに加えて挑戦支援資本強化特例制度用の事業計画書が必要です。
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③書類を持って公庫の窓口に行く
電話相談などでアポを取り、必要書類を持って公庫の窓口に相談、審査を受けに行きます。
信用できる人=返済能力のある人だということをアピールするためにも、必ず時間は守るようにしましょう。
④振り込みが完了する
審査を無事通過すると連絡の後、資金が振り込まれます。
元本の返済は期日まで不要とは言え、利子は継続的にしっかりと返していきましょう。
(2)新型コロナ対策資本性劣後ローンの使い方
新型コロナ対策資本性劣後ローンを受けるための流れは上記「挑戦支援資本強化特例制度」とほぼ変わりません。
ここでは通常の資本性ローンとの違うポイントについて解説します。
①融資開始は8月3日から
日本政策金融公庫では新型コロナ対策資本性劣後ローンについて7月1日から事前相談、事前審査を開始しており、実際に融資が開始されるのは8月3日からを予定しています。
事前に審査を受けておくことはできるので、早めに相談をしておきましょう。
②必要書類
必要書類にも若干の違いがあります。
新型コロナ対策資本性劣後ローンの申請に必要な書類は以下の通りです。
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通常の融資に必要な書類に加えて、新型コロナ対策資本性劣後ローン専用の事業計画書が必要となります。
この新型コロナ対策資本性劣後ローン専用の事業計画書のフォーマットは日本政策金融公庫のホームページで公開されており、ダウンロードで手に入れることができます。
書類のフォーマットは52番で記入例は53番、認定支援機関が関連する場合は54番となっているので、必要なものをダウンロードして使用しましょう。
5.他のコロナ対策制度との併用
(1)持続化給付金
法人200万円個人事業主100万円が上限となる新型コロナウイルス対策の給付金です。
融資制度に比べると少額ですが、その分振り込みまでの速度が速く返済の必要がないので、目先の危機をなんとか乗り切るには有用な制度です。
もちろん新型コロナ対策資本性劣後ローンとの併用も可能で、申請に関してデメリットも特にないので並行して申請しておきましょう。
(2)新型コロナウイルス感染症特別貸付
新型コロナウイルス対策の一つである特別貸付制度です。
前年、または前々年同期比で売上高が5%以上減少していれば受けることができ、国民生活事業で8千万円、中小企業事業で6億円が限度額となっています。
継続して元本を返済する必要がありますが実質無利子化と呼ばれる「利子補給制度」を併用することで利子の支払い額を大きく減らすことが可能です。
利用できる額が多く利子も補給されるので、戦略的に長期間見据えての資金運用を考えられるのが大きな利点と言えます。
それぞれ別枠となるため、新型コロナ対策資本性劣後ローンとは併用が可能です。
(3)特別利子補給制度
3年間4,000万円を限度に利子を補給することで、融資制度に適用される利率から0.9%低減した利率が適用されるため、新型コロナウイルス関連の融資制度が実質無利子になる制度です。
この利子補給制度は新型コロナ対策資本性劣後ローンに適用することができず、併用はできません。
しかしながら、資本性劣後ローン自体に適用ができないだけで、新型コロナウイルス感染症特別貸付を併用し、そちらに適用することは可能となっています。
直接新型コロナ対策資本性劣後ローンに適用することはできませんが、併用することで月々の利子支払いによる負担は緩和されるため非常に有用な制度です。
まとめ
日本政策金融公庫の資本性劣後ローンは多くの資金が必要な企業や事業再生のために資金繰りを改善したい企業にとって非常に有用な制度です。
特に新型コロナ対策資本性劣後ローンは新型コロナウイルスによる打撃を受けた企業にとって非常に有用な制度となりますので、是非検討するといいでしょう。
創業融資ガイドを運営する株式会社SoLaboは、新型コロナ対策資本性劣後ローンを受ける条件でもあり、事業計画や申請書の作成、融資審査の対策を手伝う「認定支援機関」です。
新型コロナ対策資本性劣後ローンを利用される際は、是非一度ご相談ください。