日本政策金融公庫はさまざまな事業に融資を行っている公的金融機関です。日本政策金融公庫では単にお金を貸すだけではなく、事業に関するさまざまなアンケートを定期的に行っています。
今回の記事では、先日公開されたホテル・旅館の事業承継についてのアンケート結果について触れていきたいと思います。
目次
1.ホテル・旅館の約半数は後継者が決まっている
①「事業承継をしたい」の9割は子供が後継者候補
2018年7月~9月に実施された日本政策金融公庫の「生活衛生営業の景気動向等調査」の特別調査が2019年1月に同公庫のサイト上で公開されました。この調査ではホテルなどの宿泊業を始めとする生活衛生営業の事業承継に関する興味深い実態をみることができます。
生活衛生営業とは飲食業・理美容業・クリーニング業・ホテル/旅館業などの全18種の生活に密接した事業のことで、日本政策金融公庫でも積極的にこれらの事業へ融資を実行しています。この中で、「事業承継をしたい」と前向きな回答をしたのは宿泊業が最も多く55%。次いで、食肉・食鶏肉販売業が51.0%、氷雪販売業(かき氷販売など)が44.2%、その次が公衆浴場業で43.1%でした。

この調査では175名の宿泊業の事業主が回答。約半数の55%が事業承継に前向きで、そのほとんどが後継者に子供を選択しています。これに反して、13%の事業主は事業承継させるつもりはないと回答。残りの3割は「現時点では事業承継は考えていない」「わからない」と回答しています。
参照元:日本政策金融公庫|生活衛生関係営業の景気動向調査・特別調査
※上記URLをクリックすると、日本政策金融公庫公式ページ内のPDFへリンクします
②事業承継はしたいのに後継者不足の宿泊業
約半数以上が事業承継を希望している宿泊業の事業主ですが、その反面、「後継者がいますか?」の問いに「後継者がいる」と答えたのは全体の51%でクリーニング業75.8%、食肉・食鳥肉販売業68.8%を大きく下回ります。クリーニング業などと比べ、宿泊業を引き継ぐ重みを後継者が感じるということなのでしょうか。
2.「事業承継しない」の真の理由とは?

上記の調査結果を参考にすると、ホテル・旅館業の約1割が廃業するという予想ができます。他の業種でもそうですが、宿泊業でも深刻な後継者不足は同じです。例えば、滋賀県彦根市にある料理に定評のある老舗旅館は130年もの歴史があるにも関わらず、2016年に後継者不足が原因で廃業しています。
①適当な後継者が見つからない、後継者候補がいるけどまだ若い
京都市産業観光局の調べた調査結果では、後継者が決まらない理由について次のような興味深い回答が得られています。
<後継者が決まらない理由とは?>
- 適当な後継者候補が見つからない
- 後継者候補はいるがまだ若い
- 複数の後継者候補がいて絞り込めない
- 後継者候補はいるが本人が承諾しない
②事業の先行きに不安がある
上記の他には、「事業の先行きに不安がある」「事業成績が悪いから」事業内容が思わしくないという現況も事業承継をしない理由になっています。現状で納得いかない事業成績なので、自分の子供に苦しい思いをさせたくないという親心なのかもしれません。
3.ホテル・旅館業が生き残るための地域的な取り組みとは?
事業承継をせず廃業する宿泊業もあれば、事業承継をして好況に転じる宿泊業もあります。その差は一体どこから来るのでしょうか?
現在好調な宿泊業は、地域的な特色を上手に生かしているところが多いように見受けられます。宿泊業は観光と密接に関連している業種です。例えば、青森県で宿泊業を営む事業主は「スポーツ大会やツアーの開催などの内需により事業は好調だ」と答えています。また、三重県の事業主は「三重県でのインターハイ開催と大型ショッピングセンターの建築による作業員の宿泊などがあり、事業が好調に転じた」としています。
宿泊業は台風や暑さなど天候の影響も受けますが、近隣の大型施設建設や催事などにより新規客が急増することもあります。また、そうした要素に無縁の事業者は「電子マネーを取り入れ利便性を図り客数が伸びた」「ネットを活用した集客を始めた」「バーベキューを取り入れ人手不足でも回せる体制を目指している」と工夫をしています。
4.ホテル・旅館のM&A・事業承継支援サイトもある
ホテル・旅館の買収や事業承継ビジネスも活発化しています。事業承継はせず、適切な金額で自分の事業を売りたいというオーナーの希望を満たす宿泊業専門のM&A・事業承継支援サイトも複数ネットで見つけられます。
BatonZ(バトンズ)は宿泊業を含む事業をお手軽に売り買いできるマッチングサービスです。この中で「売りたい」に掲載されているホテル・旅館は売上1億円を超える事業も珍しくありません。
※上記URLをクリックすると、BatonZサイトへリンクします
売上が十分にあるのに、後継者がいなくて廃業する。または、現事業者に事業承継の意思がなくて廃業する、というケースが意外にも多いのです。
まとめ
宿泊業の事業承継は他の事業と同様に後継者不足が叫ばれています。一部の事業者はIT技術を取り入れ、電子マネーの採用や事業承継のマッチングサイトの利用などで上手に状況を好転させています。