事業承継という言葉を最近よく目にしますよね。事業承継とは事業を次の代へスムーズにバトンタッチするという意味の言葉で、これまでも日本では普通に事業承継は行われてきました。
しかし、現在では経済産業省・中小企業庁を中心に事業承継の説明会やセミナー、補助金などを進めています。今なぜ日本では事業承継が深刻に議論されているのでしょうか?
なお、事業承継をすることでもらえる補助金については当サイトの以下既存記事も是非ご覧ください。
経営者高齢化で本格化!H30年の事業承継補助金に向け準備しよう
目次
1.事業承継はなぜ必要?
①日本政府側の3つの理由
(1)【理由1】中小企業経営者の高齢化が進んでいるから
日本の経営者の高齢化が進んでいます。1980年代には30~40代の経営者が多くいましたが、2012年に最も多い経営者の年齢層は60~64歳となりました。この理由として、医療の発展による日本人の長寿命化や長期化する景気の悪さが挙げられます。
(2)【理由2】事業承継をしないと日本の競争力が落ちて国民の生活に影響するから
日本の経済を支えるのは中小企業と言って過言ではありません。しかし、中小企業の数はここ数年ずっと減少し続けています。中小企業者は現在400万者ありますが、2009年から2014年の5年間でその25%に近い113万事業所が廃業または小規模化しています。
このまま中小企業が衰退していくと、将来的にはどうなるのでしょうか。みなさんの予想する通り、私たちの生活は変化します。元々、資源の少ない日本ではサラリーマンなどの活躍によって国際的競争力が維持されてきました。しかし、事業承継が失敗し経済が落ち込むと、日本の国際的立場や私たちの生活レベルが低くなると予想されます。
(3)【理由3】日本人はゼロから何かを産み出すよりマイナーチェンジが得意だから
「廃業率も高いけど、近頃起業が盛んに行われているから大丈夫じゃない?」というような考え方もあるかもしれません。ここ最近日本では事業承継と同様に起業についても盛んに推奨されています。
けれども、起業の成功率と事業承継の成功率を比べれば、事業承継の方が高くなっています。何もないところから生み出すよりも、既にあるものに手を加えるのが得意な日本人ならではの習性があるからではないでしょうか。
②中小企業側の3つの理由
(1)【理由1】これまで築いた取引先との信頼関係を継続できる
事業承継をするということは、これまでのビジネスで培った人材や取引先をそのまま引き継げるということになります。新規で人材を発掘するより、時間もお金もかかりません。
(2)【理由2】事業を発展させることができる
事業を起こしてずっと高成長・高収入を継続することは非常に難しいことです。元ライブドアの堀江氏や現ソフトバンクの堀江社長も1社目で成功しているわけではなく、2~3社目での大ブレイクを果たしています。
そのため、ビジネスでは経験値が非常に重要です。新しく何かを始めるよりも、事業承継することでその事業の経験値を踏まえながら発展させる方が、成功する可能性は高くなります。
(3)【理由3】家族や従業員が路頭に迷うことがない
あなたが一代で事業を成功させた経営者だとしましょう。あなた自身には資産は十分にあれば「廃業でもいいか」と廃業することも可能ですが、その周りへの影響は多大です。
事業を続けてきたということは社会の中での義務や責任も果たしてきたということです。また、同時に社会からの恩恵も受けてきたのです。あなたが人手不足を理由に廃業することは非常に簡単ですが、その爪痕は想像以上に深いものにあります。
2.事業承継対策で「今すぐ」できることとは?
事業承継で大切なのは、ヒト・モノ・カネそして知的資産を後継者にバトンタッチすることです。通常、事業承継を正しく行うには5~10年ほど時間がかかると言われています。
①まずは現状を把握する~事業承継の準備
自分の経営は頭に入っているから、わざわざ書面に落とさなくても大丈夫。もしあなたが現役経営者であり続けるのであれば、この考えでもOKです。
しかし、事業を後に引き継ぐのであれば、以下の事項をきちんと書面化して事業承継の準備する必要があります。
区分 | 書類名 | 内容 |
カネ | 貸借対照表 | 会社の資産と負債 |
カネ | 損益計算書 | 会社の収入と費用 |
カネ | 株主構成表 | 株主と所有株の 内訳 |
カネ | 借入状況把握表 | 会社の借り入れと経営者個人の 借り入れ状況と連帯保証人の有無 |
カネ | 不動産契約書 | 会社名義と経営個人名義の 土地・建物の現状 |
知的資産 | 会社概要 | 会社の事業内容や沿革 |
知的資産 | 営業秘密 | 他者には知られたくない 事業機密 |
知的資産 | 顧客情報 | これまでの経営で培った お客様情報 |
知的資産 | 得意先担当者の人脈 | 得意先担当者の氏名や 特徴など |
知的資産 | 経営理念・ノウハウ | なぜ事業を始めたのか、 自社ならではの特徴 |
事業承継で後の代に文書化して引き継ぐことができるものは、上記のように資産(カネ)についてと知的資産(コト)の2つに分けられます。これらを後継者(ヒト)へ引き継ぐくことで事業承継は実施されます。
②後継者選び
事業承継で最も難しいのは後継者選びだと言われています。事業承継に積極的ではない事業者のアンケート結果をみると、「後継者を探したが適当な人が見当たらなかったから」と答えています。
後継者は通常、親族内から選ぶ場合と親族外から選ぶ場合の2パターンに分かれます。
親族内で承継する場合は経営者の息子や娘といった直系親族が候補になります。単に血縁関係にあるだけでなく、次期代表としての事業のノウハウや実績があることが大前提です。それがない場合は、事業承継計画を立てて対象親族にノウハウを伝える期間を設けなくてはいけません。
最近多いのは親族外承継のパターンです。親族内承継が48.5%なのに対し、親族外承継は51.5%という数字から分かるように、現在では徐々に親族外承継が増加傾向にあります。
親の事業を引き継がない若者も増えており、適性のある外部の人間に承継してもらった方が早いと考える経営者が多くなっています。
③自社株や事業資産の譲渡~相続税や贈与税負担免除
事業承継において自社株や資産を後継者に譲渡する際、特別な税制「事業承継税制」を利用することができます。事業承継税制とは、後継者である相続人や受贈者が円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式を贈与または相続する場合に、一定要件のもとに納税が猶予または免除される制度です。
円滑化法とは正式名称は「経営承継円滑化法」と言います。事業承継時の納税がネックで事業承継に二の足を踏んでいる事業主は免除制度を利用することでスムーズな事業承継が可能です。
※上記URLをクリックすると、中小企業庁の公式ページにリンクします
まとめ
日本政府からの意図と経営者自体の周りの生活のために盛んに事業承継は進められています。
株式や不動産譲渡は法的手続きを含むため、事業承継は思った以上に時間がかかります。事業承継説明会やセミナーなども情報収集のツールとして活用できます。