神戸で事業を始めようと考える際、もっとも重要な課題の一つが資金調達です。 自己資金だけで賄えれば理想的ですが、多くの場合は融資を利用して事業を軌道に乗せる必要があります。
兵庫県の神戸市は、全国的に見ても創業支援に力を入れている地域です。 特に市が主導する制度融資は、低金利であることに加え、信用保証料の全額補助など、創業者にとって負担の少ない仕組みが整っています。
この記事では、神戸市で利用できる主要な創業融資制度について、その特徴やスペックを詳しく解説します。 日本政策金融公庫や民間金融機関との協調融資も含め、ご自身の事業計画に最適な資金調達方法を見つけるための参考にしてください。
神戸市の創業融資の特徴
神戸市は、行政と金融機関が一体となってスタートアップや起業家を支えるエコシステムの構築を進めており、資金調達環境は充実しています。 他の地域と比較して、とくに自治体が主導する「制度融資」のスペックが高く、初期コストを抑えたい創業者にとって有利な条件が揃っています。
【神戸市の創業融資の特徴】
| 種類 | 主な制度・機関 | 特徴 |
| 制度融資 | 神戸市制度
兵庫県制度 |
【低コスト】
自治体、保証協会、民間銀行が連携。 特に神戸市制度は保証料全額補助があり、金利も固定で低い。 |
| 公的融資 | 日本政策金融公庫 | 【スピード・無保証】
国が出資している金融機関が直接融資を行う。 無担保・無保証人の特例があり、審査から着金までが比較的速い。 |
| 民間融資 | 信用金庫 など | 【地域密着】
将来的な関係構築や販路拡大支援などに強み。 |
特筆すべき点は、神戸市独自の制度融資における「信用保証料」の免除です。 他の地域では、制度融資を利用する際は銀行への支払利息とは別に、信用保証協会へ支払う保証料が発生します。神戸市で創業時に利用できる制度融資では、信用保証料を市が全額負担します。 金利自体も低水準に抑えられており、資金繰りの負担を最小限にできる点は大きなメリットといえるでしょう。
また、国の機関である日本政策金融公庫や、地域に根差した信用金庫から融資を受けるという選択肢もあります。 日本政策金融公庫や信用金庫からの融資は他の地域でも利用できるものですが、制度融資と比較すると融資までの期間が短いという特徴があるため、とくにスピード感を重視する場合には検討する余地があります。
基本的には、コストメリットの大きい「制度融資」か、無担保・無保証で使い勝手の良い「日本政策金融公庫」が検討の軸になります。 さらに、地域金融機関との関係性を重視する場合や、より手厚い支援を求める場合には、信用金庫などが取り扱う融資制度の活用を検討すると良いでしょう。
神戸市で創業時に利用できる制度
創業者が具体的に検討すべき主な融資制度は以下の5つです。 金利や保証料といったコスト面、および融資限度額などの条件を比較し、ご自身の事業規模に合ったものを選択することが大切です。
【神戸市で創業時に利用できる制度】
| 制度名 | 金利・保証料 | 限度額 | 特徴 |
| こうべおうえん
(神戸市) |
年1.65%
保証料:0円 |
1,000万円 | コスト最安。小規模事業者の設備・運転資金に最適。 |
| こうべ創業支援貸付
(神戸市) |
年1.65%
保証料:0円 |
400万円 | 少額融資向け。「こうべおうえん」対象外の場合などに。 |
| 新規開業貸付
(兵庫県) |
年1.25%〜
保証料:必要 |
3,500万円 | 1,000万円超の大型投資に対応。金利は低いが保証料あり。 |
| 新規開業・
スタートアップ支援資金 (日本政策金融公庫) |
2%台半ば〜
(特別利率あり) |
7,200万円 | 無担保・無保証人特例あり。審査スピードが比較的速い。 |
| にっしん創業支援融資
『ミライ』 (日新信用金庫)) |
所定の金利 | 1,000万円 | 神戸西部エリアに強い。地域密着の経営相談が可能。 |
これらの制度は必ずしも一つに絞る必要はなく、状況によっては併用することも可能です。 たとえば、制度融資で創業資金を賄いきれない時に信用金庫の制度を併用すれば、必要な資金を確保しつつ地域の銀行との関係構築も同時に進められます。
まずはメインとなる制度を決め、不足分や将来の展望に合わせて他の手段を組み合わせる戦略を立てるとよいでしょう。
神戸市制度融資「こうべおうえん」
「こうべおうえん」は、神戸市内で開業する小規模事業者を対象とした、返済コストを抑えられる制度融資の一つです。 令和7年度(2025年)の制度拡充により、融資限度額が従来の400万円から1,000万円へと引き上げられ、より実用的な資金調達手段となりました。
特徴としてあげられるのは、金利が低水準の固定金利であることに加え、信用保証料を神戸市が全額負担してくれる点です。 通常、創業時の融資では信用リスクに応じた保証料の支払いが必要になりますが、この制度ではその負担が必要ありません。
【こうべおうえんの特徴】
| 項目 | 内容 |
| 金利 | 年1.65%(固定) |
| 保証料 | 0円(市が全額負担) |
| 融資限度額 | 1,000万円 |
| 要件 | 従業員数が一定以下の小規模企業者
(商業・サービス業は5人以下、製造業等は20人以下など) |
| 特徴 | コスト負担が最も少なく、設備・運転資金を一本でカバー可能 |
| 相談先 | 取扱金融機関(みなと銀行、但馬銀行、地域の信用金庫など) |
こうべおうえんは、金利変動のリスクを避け、返済総額を最小限に抑えたい人にとって第一の選択肢となります。 限度額が1,000万円確保されたことで、カフェの内装工事や厨房機器の購入といった、まとまった初期投資にも十分対応できるようになっています。
なお、利用にあたっては従業員数などの「小規模企業者」としての要件を満たす必要があります。 また、制度融資の仕組み上、自治体や信用保証協会の審査を経るため、申し込みから融資実行までに1ヶ月から2ヶ月程度の期間を要する点にはあらかじめ留意しておきましょう。
神戸市制度融資「こうべ創業支援貸付」
「こうべ創業支援貸付」は、神戸市が創業者をバックアップするために用意している制度融資です。 これから事業を始める人、または開業して間もない人(5年未満)を対象としており、特に少額の資金ニーズに対応する設計となっています。
信用保証料を市が全額負担するため、「こうべおうえん」と同じく利用者のコスト負担は金利のみに抑えられます。 金利水準も固定であり、資金繰りの見通しが立てやすいのが魅力です。
【こうべ創業支援貸付の特徴】
| 項目 | 内容 |
| 金利 | 年1.65%(固定) |
| 保証料 | 0円(市が全額負担) |
| 融資限度額 | 400万円 |
| 要件 | 1ヶ月以内に個人事業開始、2ヶ月以内に会社設立予定、
または事業開始後5年未満の方など |
| 特徴 | 創業初期の運転資金や小規模な設備投資に適している |
| 相談先 | 取扱金融機関(地域の銀行、信用金庫など) |
この制度は、自宅やシェアオフィスでの開業など、初期投資が比較的少額で済むビジネスモデルに適しています。 また、メインの融資とは別に、当面の運転資金を確保しておきたいといったサブ的な用途でも検討の余地があります。
なお、融資限度額が400万円と低めに設定されているため、内装工事などで多額の資金が必要な場合は「こうべおうえん」の方が適していることがあります。 どちらの制度を利用すべきかは、事業計画や申請のタイミングによって判断が分かれることもあるため、事前に金融機関や保証協会の窓口で相談することをおすすめします。
兵庫県制度融資「新規開業貸付」
神戸市での創業融資なら、兵庫県全体で運用されている「新規開業貸付」も利用できます。 この制度の特徴は、融資限度額が3,500万円と高く設定されている点にあります。 神戸市の「こうべおうえん」の上限(1,000万円)では資金が不足するような、比較的大規模な設備投資を計画している場合の選択肢になります。
金利は年1.25%からと非常に低い水準に設定されていますが、神戸市の独自制度とは異なり原則として信用保証料の負担が発生します。 そのため、トータルの資金調達コストは神戸市の制度よりも若干高くなる傾向にありますが、一方で大きな資金枠を確保できることがメリットです。
【新規開業貸付の特徴】
| 項目 | 内容 |
| 金利 | 年1.25%〜(固定・期間等により変動) |
| 保証料 | 原則必要(所定の料率) |
| 融資限度額 | 3,500万円 |
| 要件 | 事業開始前、または事業開始後5年未満の方など
(自己資金要件あり) |
| 特徴 | 融資枠が大きく、工場建設や大型機器導入に対応可能 |
| 相談先 | 取扱金融機関(みなと銀行、但馬銀行、信用金庫など) |
新規開業貸付は、製造業の工場建設や医療クリニックの開業、大型店舗の出店など、初期投資がかさむビジネスでの利用が推奨されます。 まずは神戸市の制度で創業資金をまかなえるか検討し、それでも足りない部分をカバーするための手段として、あるいは最初から規模の大きな事業を行う場合のメイン資金として新規開業貸付の利用を検討するとよいでしょう。
なお、新規開業貸付を利用する際には金利とは別に発生する「信用保証料」のコストに注意が必要です。 融資金額が大きくなればなるほど保証料の負担も重くなるため、申し込み前には必ず金融機関で「保証料を含めた総返済額」のシミュレーションを行い、資金計画に無理がないかを確認するようにしましょう。
日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、創業時には神戸市だけでなくすべての地域で活用される制度です。政府系金融機関が直接融資を行うため、自治体や信用保証協会を挟む制度融資と比較して、審査から融資実行までのスピードが比較的速いのが特徴です。
また、女性、若者(35歳未満)、シニア(55歳以上)の人には特別利率が適用され、基準金利よりも有利な条件で借り入れが可能です。 さらに、一定の要件を満たすことで、法人の代表者であっても連帯保証人を不要とする特例措置を選択できるため、個人のリスクを抑えた起業が可能になります。
【新規開業・スタートアップ支援資金の特徴】
| 項目 | 内容 |
| 金利 | 基準2%台半ば
※女性・若者・シニア等は特別利率適用でさらに低減 |
| 保証料 | 不要(公庫直貸しのため) |
| 融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) |
| 要件 | 新たに事業を始める方、または事業開始後7年以内の方
(原則として創業資金の1/10以上の自己資金が必要) |
| 特徴 | 無担保・無保証人の特例あり。審査スピードが速い |
| 相談先 | 日本政策金融公庫 神戸支店・神戸東支店など |
新規開業・スタートアップ支援資金は、できるだけ早く資金を確保したい人に適しています。 また、個人事業として始める場合には原則として無担保・無保証人での借り入れができるので、万が一の事業失敗時に備えて個人の資産を守りたい場合の選択肢にもなります。
なお、原則として創業資金総額の10分の1以上の自己資金を持っていることが審査の土台となります。 金利面だけで見れば、保証料補助のある神戸市の制度融資の方がトータルコストが低くなるケースもあるため、スピードとコストのどちらを優先するかで使い分けるとよいでしょう。
日新信用金庫「にっしん創業支援融資『ミライ』」
神戸市西部(垂水区・西区・須磨区など)や隣接する明石エリアで事業を始める人にとって選択肢になるのが日新信用金庫の「ミライ」です。 この商品は、これから事業を開始する人、または事業開始後間もない人を対象とした独自の創業支援プランで、地域密着型の金融機関ならではの親身な対応が期待できます。
融資限度額は1,000万円まで設定されており、運転資金であれば5年以内、設備資金であれば7年以内の返済期間を選択できます。 日本政策金融公庫や自治体の制度融資とは異なり、信用金庫独自の判断基準も加味されるため、事業主の熱意や地域への貢献度が評価されやすい側面があります。
【にっしん創業支援融資『ミライ』の特徴】
| 項目 | 内容 |
| 金利 | 金庫所定の金利 |
| 融資限度額 | 1,000万円 |
| 返済期間 | 運転資金:5年以内
設備資金:7年以内 |
| 要件 | 事業に必要な資金の10%以上の自己資金があること等 |
| 特徴 | 神戸市西部・明石エリアに強い。
地域密着の経営相談やビジネスマッチングに期待できる。 |
| 相談先 | 日新信用金庫 各本支店 |
この制度は、とくに神戸市の西側エリアに拠点を構える予定の創業者におすすめです。 信用金庫は融資だけでなく、地元の企業同士をつなぐビジネスマッチングや経営全般の相談にも力を入れているため、孤独になりがちな創業期の心強い味方となってくれるでしょう。
なお、利用には原則として創業資金総額の10%以上の自己資金が確認できることが条件となります。 また、営業エリアが神戸市全域ではない(主に西部が中心)ため、中央区や東部(灘区・東灘区)での創業を予定している場合は、近くに支店があるか事前に確認が必要です。
まとめ
「こうべおうえん」をはじめとする神戸市の制度融資は、金利が低く信用保証料もかからないため、創業初期のコスト負担を大幅に軽減できる有力な手段です。 一方で、スピード感や無担保・無保証の条件を重視する場合には、日本政策金融公庫の活用が適しており、自身の事業計画や優先順位に合わせて使い分けることが重要です。
どの制度を利用する場合でも、スムーズな審査通過のためには、事前の準備と専門家への相談が欠かせません。 神戸市では「特定創業支援等事業」などのサポート体制も整っており、これらを活用することで金利優遇や保証枠拡大といったさらなるメリットも享受できます。 まずは商工会議所や金融機関の窓口に足を運び、自身のプランに最適な資金調達の組み合わせを相談することから始めてみてください。