建設業は経費の支払いと入金のタイミングが大きくずれる業種なので、資金繰りに困る事業者も少なくありません。取引先からの支払いが遅れ、次の仕入れに必要な現金が用意できないこともあるでしょう。
当記事では、金融機関から融資を受けたい建設業者に向けて融資を受けるための条件を解説します。融資に申し込む際に必要な書類も紹介しますので、資金調達を考えている建設業の人は参考にしてみてください。
建設業が融資を受けられる金融機関
建設業者が融資を受けられる金融機関は主に、日本政策金融公庫、信用金庫、地方銀行です。大手メガバンクから融資を受けられる建設業者もいますが、大型工事の経験や資金力をもつ大規模な事業者に限られます。
【建設業が融資を受けられる金融機関】
日本政策金融公庫 | 信用金庫 | 地方銀行 | |
---|---|---|---|
概要 | 国民のために貸付を専門で行う政策金融機関。事業者向けの融資を幅広く取り扱う | 地域の反映と相互扶助を目的とした共同組織の金融機関。融資は原則、会員のみが利用できる | 地域を営業基盤とする銀行。全国地方銀行協会に属している |
金利 | <無担保> ・税務申告2期を終えた人 基準利率:2.60%~3.90% ・税務申告を2期終えていない人 基準利率:2.70%~4.00% |
<一般融資> 概ね2%前後 <制度融資> ※自治体と協力して貸し付ける 1%前後 <保証協会付融資> ※保証協会と協力して貸し付ける 0.45%~1.9%前後 |
3.0%~15%程度 ※担保の有無や返済能力により決定される |
融資限度額 | <新規開業・スタートアップ支援資金> 7,200万円(うち運転資金4,800万円) <一般貸付> 4,800万円(特定設備資金は7,200万円) |
2,000万円(うち運転資金は1,000万円) | 5,000万円~1億円 |
融資額の目安 | 平均800万円程度 | 500万円前後 | 300万円~2,000万円 |
それぞれの金融機関には特徴があります。日本政策金融公庫は、新規開業やスタートアップ支援など、幅広い事業規模に対応した融資制度を設けています。信用金庫は地域密着型で、特定の地域に根ざした事業展開を行う建設業者にとって相談しやすい存在です。地方銀行は、比較的大きな融資限度額を設定している場合が多く、企業の成長段階に応じた資金調達に対応できます。
その他、カードローンなどのキャッシングも選択肢になりますが、多くの場合は金利は15.0%から18.0%であり、日本政策金融公庫や銀行からの借り入れより高金利になります。とくに建設業で高級な機材を購入する際には、高金利のサービスを利用すると返済負担が大きくなるので注意が必要です。
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金融機関から融資を受けるための条件
金融機関から融資を受けるには、次のような条件を満たしている必要があります。
【金融機関から融資を受けるための条件】
- 財務状況が健全である
- 信用情報に問題がない
- 事業計画が明確である
金融機関は、これらの条件を基に融資の審査を行います。たとえば、財務状況が健全であれば返済能力が高いと判断され、信用情報に問題がなければ、過去の取引において信頼性が高いと評価されるでしょう。また、明確な事業計画があれば、融資された資金が有効に活用され、事業の成長に繋がると見込まれます。
また、これらの条件は開業の前と後で見られるポイントが変わります。審査に落ちてしまうと半年は同じ金融機関からの借り入れが難しくなるため、事業のフェーズによって見られるポイントを把握し、申し込み前に自分が融資の条件を満たしているか確認しておきましょう。
財務状況が健全である
金融機関から融資を受けるには、財務状況が健全である必要があります。財務状況によって企業が安定した経営を続けており、融資された資金を返済できる能力があることを示せるためです。
開業前は事業実態が無いため、財務状況の健全性は融資を受けるまでに貯めた自己資金によって評価されます。自己資金は融資希望額の3分の1あるのが望ましく、全くない状態では融資を受けるのが難しくなります。
一方、開業後では損益計算書や貸借対照表といった財務諸表の内容が重要になります。具体的には、安定した利益を計上していること、過度な負債がなく自己資本比率が十分であること、そして資金繰りに余裕があることなどが評価されます。
開業前、開業後を問わず、企業が自身の返済能力を客観的に示すことが財務状況の健全性における共通のポイントです。自己資金の蓄積も、実際の事業実績も、金融機関が融資判断をする上での信頼性を示す重要な材料となります。日頃から適切な会計処理を行い、常に正確な財務状況を把握しておくことが、融資を受けるために必要となるでしょう。
信用情報に問題がない
金融機関から融資を受けるには、信用情報に問題がないという条件が必要になります。信用情報は、過去の金融取引における返済履歴や債務状況を示すものであり、これに問題がある場合は返済能力が低いと見なされてしまうためです。
開業前の場合、事業としての実績がないため、主に経営者個人の信用情報が審査対象です。クレジットカードの支払いや住宅ローン、自動車ローンなどの返済履歴に延滞がないか、債務整理の経験がないかなどが確認されます。
一方、開業後になると、事業者としての信用情報が重視されます。とくに法人であれば、その法人格としての信用情報が重視されます。過去の借入の返済状況はもちろん、税金や社会保険料の支払い状況、手形や小切手の不渡りなど、企業活動における金融取引の全般が審査の対象になります。
開業前、開業後にかかわらず、金融機関からの信頼を得るためには、支払いを期日通りに行い、信用情報に傷をつけないことが重要です。個人の信用情報も法人の信用情報も、それぞれの段階で金融機関が返済能力を評価する上で欠かせない要素となります。
事業計画が明確である
金融機関から融資を受けるには、事業計画が明確である必要があります。事業計画は融資された資金をどのように活用するのかを具体的に示すためのものであり、これが曖昧だと、金融機関は資金の具体的な使途や返済の確実性を判断できず、融資を受けることが難しくなるためです。
開業前の場合、事業の実績がないため、主に事業の実現可能性と市場性が評価されます。具体的には、どのような商品やサービスを提供し、ターゲット顧客は誰か、競合との差別化ポイントは何か、どれくらいの売上を見込めるのかといった点が重要になります。
一方、開業後になると、事業の成長戦略と収益性がより重視されます。これまでの実績を基に、どのような設備投資を行い、どのように販路を拡大し、最終的にどれくらいの利益を出すのかが問われます。
開業前、開業後にかかわらず、金融機関は事業計画を通じて、融資された資金が企業の成長に貢献し、確実に返済されるかどうかを見極めます。そのため、綿密な調査に基づいた具体的な計画を策定し、それを具体的に説明できる準備が必要になるでしょう。
ポイントは書類で自社の信頼性や返済能力の根拠をアピールすること
建設業が融資を受けるうえで特に重要なポイントは、提出する書類の内容です。建設業の中には資金繰りが常に綱渡りのような状態になっている企業もあることから、金融機関は返済能力を判断する目的で建設業者の提出書類を詳細に確認します。
【建設業で審査を通しやすくするための書類例】
書類名 | 目的 |
---|---|
工事経歴書 | 過去の施工実績を示し、受注力を説明 |
資金繰り表(3か月〜1年分) | キャッシュフローの安定性を証明 |
建設業許可証/経審結果通知書 | 法的・信用面の担保 |
受注契約書・注文書 | 将来の売上確保があることを示す |
原価管理表・損益管理表 | 利益管理ができていることをアピール |
建設業が融資を有利に進めるための書類はさまざまな種類があります。建設業で融資を受ける予定の人は、資金繰り表や事業計画の必要書類とともに工事経歴書や受注契約書などもできるだけ準備して融資に臨みましょう。
事業計画書で計画性と実現可能性
事業計画書は、創業融資の際に日本政策金融公庫へ提出が求められる書類ですが、創業以外の融資でも作成しておくと良いでしょう。提出することで、金融機関に対して計画性や実現可能性を具体的に示すことができるため、審査で有利になる可能性が高まります。
【事業計画書の項目例】
- 事業の動機・目的
- 経営者の職歴・プロフィール
- 会社概要(事業所概要)
- 事業内容(取扱工事、売上シェア)
- 自社の強みと弱み
- 販路開拓計画・マーケティング戦略
- 損益計画
- 借入状況
- 収支計画
事業計画書は幅広い情報が盛り込まれているので、自社の強みやマーケティング戦略もアピールできる書類です。作成には時間がかかりますが、融資を検討中の建設業者は事業計画書の作成についても検討してみてください。
工事経歴書で実績と取引先
工事経歴書は過去の工事名や請負金額などが記載されている書類で、建設業許可を受ける際や決算を変更する際に提出します。融資の審査では工事経歴書を提出すると、工事実績や請負規模、取引先の幅広さなどを金融機関にアピールできます。
【工事経歴書に記載する項目例】
項目 | 例 |
---|---|
建設工事の種類 | 解体工事 |
注文者 | 株式会社鈴木設備工事 |
元請又は下請の別 | 下請け |
工事名 | A邸解体工事 |
工事現場の都道府県及び市区町村名 | 千葉県市川市 |
請負代金の額 | 2,000 千円 |
工期 | 令和7年3月~令和7年4月 |
工事経歴書の添付として請求書と契約書の控えがあると、さらに信頼性が増します。建設業許可をもたない事業者の場合は、工事経歴書の代わりにエクセルで過去の工事実績をまとめておきましょう。
資金繰り表でキャッシュフローの安定性
資金繰り表は現金収支をまとめた書類で「キャッシュフロー表」とも呼ばれます。融資の審査でもキャッシュフローの安定性も見られるので、資金繰り表は提出を求められることが多い重要な書類です。
通常、資金繰り表には3か月から1年程度の期間中の現金収入と支出のすべてを記載します。
【資金繰り表の記入例】
4月 | 5月 | 6月 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
予算 | 実績 | 予算 | 実績 | 予算 | 実績 | ||
前月繰越 | 1,500 | 1,350 | 1,400 | 1,500 | 1,400 | 1,500 | |
収入 | 現金売上 | 1,100 | 1,100 | 1,200 | 1,300 | 1,200 | 1,100 |
売掛金の回収 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | |
受取手形期日入金 | 150 | 150 | 50 | 50 | 100 | 200 | |
前受金の入金 | 150 | 0 | 50 | 50 | 100 | 100 | |
収入合計 | 1.500 | 1,350 | 1,400 | 1500 | 1500 | 1500 | |
支出 | 現金仕入 | 1,000 | 1,200 | 1,200 | 1,100 | 1,100 | 1,000 |
買掛金の支払い | 200 | 200 | 0 | 200 | 0 | 200 | |
支払い手形決済 | 100 | 100 | 0 | 100 | 100 | 150 | |
未払い金の支出 | 0 | 0 | 0 | 100 | 0 | 50 | |
人件費の支出 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | |
支出合計 | 1,500 | 1,600 | 1,300 | 1,600 | 1,300 | 1,500 | |
差引過不足 | 0 | -250 | 100 | -100 | 200 | 0 |
資金繰り表の「収入」の欄をみると、収入の内訳が記載されているので、現金収入と手形取引のどちらが多いのか一目で分かります。たとえば、上記の4月の収入は現金売上は1,100、現金売上以外の収入は400となっているため、現金売上の多い建設業者であると判断できます。
資金繰り表を金融機関に見せることで、どの時期に収入と支出が多かったのかという具体的な根拠を金融機関に伝えられます。現金仕入が多く資金繰りがうまくいっていない場合は、将来的な入金が見込めると判断される可能性があるので、忘れずに資金繰り表を作成しましょう。
建設業許可証や経審結果通知書で法的信用度
建設業許可証や経審結果通知書は、融資審査で法的信用度を示すうえで重要な資料です。これらは国や都道府県の厳正な基準をクリアした証明であり、金融機関からの信頼につながります。
たとえば建設業許可があると、500万円以上の工事や元請けとしての業務が可能であるため、事業規模や実績の裏付けとなります。また、経審結果通知書では売上や財務内容、社会性などが数値化されており、安定した経営をアピールできます。
たとえ小規模業者で建設業許可証や経審結果通知書がない場合でも、金融機関は姿勢や提出資料の工夫も評価しています。小規模事業者で建設業許可のない場合は、税務署提出の確定申告書や社歴、施工実績一覧を提示するなどの工夫を検討してみましょう。
受注契約書で将来の売上確保
建設業者と取引先で交わす受注契約書は、将来の売上確保を証明できる書類です。現在支出が多く資金繰りが厳しい建設業者でも、将来の受注が見込める受注契約書を提示できれば、融資の審査で良い評価を得やすくなります。
融資の際、金融機関は返済能力があるかを審査します。いま資金が不足している事業者でも、将来の売上見込みの根拠があるなら融資の可能性が高まります。
【受注契約書を提示する際の注意点】
- 契約日が過去の日付ではなく、将来の日付であることを確認する
- 口頭契約の場合は、可能な限り書面化しておくことが望ましい
たとえば、融資の申込日が2025年7月1日の場合、2024年の受注契約書を提示しても過去の契約なので将来の売上確保の根拠になりません。また、口約束で工事を請け負った場合でも、契約者名や工事の種類、工事期間や金額が明記されている契約書でないと提出できません。
融資を検討している段階であっても、今後の受注内容はできるだけ書面にして残しておくと、資金調達の場面で強力な武器になります。信頼性を示す材料として、積極的に活用しましょう。
原価管理表で利益管理の実践
原価管理表は、工事ごとの採算を把握し、利益を確保するために欠かせない管理台帳です。材料費・労務費・外注費・経費などの原価を記録し、利益の見える化に役立つため、融資の審査では利益管理をきちんとしている建設業者であるという評価につながります。
これまで原価管理表を作成していなかった建設業者の場合は、これから原価管理表を導入するという熱意をみせると良いでしょう。
【建設業の原価管理表を作成する方法の例】
Excelを使用する | 手軽だが、項目設計や自動計算の工夫が必要 |
一般的な原価管理ソフトを使用する | 製造業やサービス業にも対応しているが、建設業向けの項目にカスタマイズが必要 |
建設業に特化した原価管理ソフトを使用する | 工事単位の原価集計や発注管理に強く、実務と直結しやすい |
工事ごとの原価を正確に把握できれば、予算と実績の差異を把握しやすくなり、工事利益の管理や改善につなげられます。原価管理の意識があることは、安定経営への取り組みとして高く評価されるため、融資を受ける際にも、利益管理の取り組みをしっかり伝えましょう。
建設業が審査で不利になる点を事前に把握しておく
建設業は、事業規模の大きさや景気変動の影響を受けやすい構造から、他業種と比べて融資審査が慎重になる傾向があります。たとえ個人や法人に問題がなくても、社会情勢や資金の使途によっては審査が厳しくなることもあるため、事前にリスク要因を把握しておきましょう。
【建設業が審査で不利になる点】
ゼロゼロ融資後の倒産件数が多かった | 過去のデータから、建設業は政府系融資(ゼロゼロ融資)利用後の倒産割合が高かったため、金融機関は同業界に慎重な見方をすることがあります。 |
資金使途の説明が求められる場面が多い | 建設業では多額の現金取引や外注費の発生が一般的であるため、資金の流れが不透明に見えることがあり、用途説明の明確さが重視されます。 |
建設業で不利になる点は、最近の業界における倒産の件数と、使途不明金が多いとみられる傾向です。しかしながら、これらは利益に関する書類と損益計算書を提出することで融資への影響を最小限に抑えることが可能です。
まとめ
建設業が融資を受けられる金融機関は、日本政策金融公庫、信用金庫、地方銀行です。各金融機関で融資限度額や融資額は異なるので、希望融資額や工事受注実績などをもとに適した金融機関を選ぶと良いでしょう。
また、建設業が融資を受ける際は、資金繰り表や事業計画書とともに工事経歴書や建設業許可証などの建設業に特化した書類が有効です。提出書類の充実度と内容の信頼性は審査結果に大きく影響するので、書類の準備や事業計画書の作成は、当社SoLaboまでお気軽にお問合せください。