「無借金経営」という言葉があります。ことば通りに解釈すると、「借金を全くしていない経営」という意味になりますね。
企業は扱うお金の桁が家庭とは違いますので、無借金で経営しているというと多くの人は「経営状態が安定している」と評価することでしょう。
しかし、実際には無借金経営にはメリットだけでなく企業の倒産につながるデメリットもあります。
今回の記事では、経営者が無借金にこだわるメリットとデメリットを解説します。
目次
「無借金」の定義とは
無借金とは読んで字のごとく「借金をしていない」状態を言います。ここでは、言葉の意味だけでなくバランスシート上の意味も同時に考えていきます。
言葉の意味
無借金とは、一般的に「金融機関から借り入れをしていない」「融資を受けていない」状態を指します。そのため、例えば株主やベンチャーキャピタルなどから出資を受けている場合は、出資金が返済不要なのであればそれも「無借金」に該当します。
ただし、通常であれば出資を受ける条件として「株価の上昇」などが契約書に書かれている場合が多いと思います。その場合は、出資を受けている場合も純粋な意味で「無借金」とは言えません。
バランスシート上の意味
バランスシートとは別名「貸借対照表」と呼び、企業の経営状態を表す総データ「決算書」(=財務諸表)を構成するうちのひとつです。資産を向かって左側・負債・純資産を向かって右側に分けて記入します。
無借金経営をしている企業のバランスシートを見ると、向かって右側の「負債」の部分に有利子、つまり融資や借入による借金の額がゼロとなっています。借金がゼロの状態なので、必然的に純資産のバランスは多めになります。
日本には無借金経営を目指す経営者が多い
事業を進めるには資金が必要です。開業時に用意した資金は途中でなくなるため、経営者は事業の途中で幾度も資金調達をします。
しかし、中には「無借金経営」といって一切他の金融機関などから資金調達をしたがらない経営者がいます。例えば、有名なところでは世界を股にかけるゲーム企業「任天堂」も無借金経営にこだわる企業のひとつです。経営者であれば、「無借金経営」という言葉のもつクリーンさに誰もが憧れと尊敬の念を抱くことでしょう。
ただし、借金を全くしない経営者は実は国内では経営者4人に1人の割合です。東京商工リサーチが実施した2018年度以降の約34万社のデータによると、無借金企業は全国で8万3,978社、また、無借金率は全国平均は24.4%となっています。つまり、全国の企業およそ4社に1社は無借金経営という計算になります。
しかも、無借金経営をする企業には超大手や大手企業は少なく、その多くが年間売上1~5億円未満の中小企業となっています。
参照:東京商工リサーチ|全国の「無借金企業」8万4,000社調査
また、地区別でみていくと、最も無借金企業が多いのは九州、都道府県別でみると東京都が最多で1万82社無借金経営企業です。
一方で、「無借金経営は理想的な経営スタイルではない」という見方をする専門家もいます。理想的な経営には果たして「無借金経営がベスト」なのでしょうか。ここからは、そのメリットとデメリットについて考えてみたいと思います。
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無借金経営の6つのメリットとは~金融機関からの融資・借入の場合
では、まず無借金経営で銀行などから借金をしない場合のメリットを見ていきましょう。
利息を支払わなくていい
借入をしないということは返済に伴う利息を支払わなくてよいということです。借入額が大きければ大きいほど、支払うべき利息は大きくなります。
例えば。
例1)年利2.5%で1,000万円を借入した場合(7年返済毎月払い)利息=910,896 円 ⇒約91万円の支払いが発生!
利息=4,554,475 円 ⇒約455万円の支払が発生!
しかし、借金をしなければこれらの利息は支払わなくてよいのです。
返済の義務がない
借金をしていないので、返済のプレッシャーに悩まされることはありません。
売上が順調な時は返済もしやすいですが、事業の調子が悪いときは借金の存在が経営者の負担になるかもしれません。企業が借入をしていないということは、万が一事業がうまくいかないときも、代表者は企業の借金を肩代わりする必要がなくなるということです。
決算書の見栄えが良くなり、健全な経営をしているように見える
売上に対して借金が多い企業は決算書の成績も悪くなります。特に、「自己資本比率」が低くなります。自己資本比率はよく銀行融資の審査でも重要なキーワードとなる言葉なので、覚えておきましょう。
<計算式>
自己資本÷総資本(自己資本+他人資本)
例えば、総資本が1億円の企業で自己資本が1,000万円、他人資本(借入)が9,000万円の場合の自己資本比率を計算してみましょう。
1,000万円÷1億円=0.1 ⇒自己資本比率は10%!!
無借金経営だと決算書上の負債額がゼロです。そのため、決算書の見栄えが良くなり、必然的に金融機関や外部の取引先からの信用度も上がりやすくなります。
意思決定の自由度が高くなる
お金を貸す側の金融機関と借りる側の企業。本来であれば100%対等な関係であるべきですが、実際問題として次のように対等ではない場合もあります。
- (ケース1)企業の決算状況があまりよくないが、銀行はいつも企業の代表の人柄などを熟知しているため、少し多めにみて資金を貸してくれた
- (ケース2)本当は銀行から3,000万円を借りようとしたが、銀行から「いまは金利が低いからもっと借りた方がいい」と言われ、6,000万円を借りてしまった
会社経営者と銀行の融資担当者との間に密度の濃い関係があればあるほど、経営者は銀行の影響を受けやすくなります。
自分の意志をはっきりと表示できる経営者であれば別ですが、中には銀行の言うことをうのみにして意思決定がしづらくなってしまう経営者もいます。
資金の管理がラクになる
複数の返済を抱えている場合は、〇日までに○○万円を○○口座に入れないと、などと、事業主のやることが増えてしまいます。しかし、無借金であればそのような管理が不要になります。
また、管理の面でいうと「事業承継」がしやすくなるというメリットもあります。事業承継とは、いま行っている事業を後継者に引き継ぐ一連の事業を言います。
日本は少子高齢化で事業承継が本格的に必要な時代となったため、財務状況がシンプルであればそれだけ手続きも少なくなるため、事業承継もしやすいと言えるでしょう。
会社の売却をしやすくなる
借金が少ないということは、それだけ高く会社を売ることができます。借金が多いと、その借金分を差し引いて売却されるので、手元に残る売却益が少なくなります。
そのため、万が一の際に無借金経営をしているとM&Aなどで会社合併・吸収をされる場合にも有利でしょう。
無借金経営のデメリット~金融機関からの融資・借入の場合
いざというときにお金が借りられない
(1)新規の融資希望者は優先されない
新型コロナの融資でおわかりになった方も多いと思いますが、金融機関は普段つきあいのない方よりも付き合いのある方の方を優先して融資をします。なぜかというと、その方が貸し倒れのリスクが低く、審査の時間も短いというメリットがあるからです。
(2)自己資本(=現金)が少ない人は融資を受けづらい
銀行の融資の判断材料の中には、「自己資本がいくらあるか」というものがあります。もちろん、借金が多すぎるのも融資の審査ではマイナスですが、借金がある=悪いこと、というわけでもありません。肝心なのは、利益と経費自己資本のバランスです。
飲食業や宿泊業などの業種、またその他の業種でもコロナ前と比べてビジネスの状況が読めないことが多いのではないでしょうか。 無借金経営には多くのメリットがありますが、デメリットとしてはコロナ禍のときのように「急にお金を借りづらい」という点が挙げられます。
資金繰りの悪化につながる
安定した経営には資金繰りの安定が必要です。借金をしない経営スタイルはメリットが豊富ですが、無借金経営にこだわりすぎると以下のように資金繰りの悪化につながる可能性があります。
(1)繰上返済にこだわり資金繰りが悪くなるケース
「利息はとにかく払いたくない!」いう欲求にかられ、手元に少しでも現金があるとこまめに繰上返済を繰り返してきたAさん。手元に常に現金がないため、急に資金が必要になった時には対応できず、金利の高いカードローンに手をだしてしまい、かえって資金繰りは悪化してしまいました。
(2)手元に現金がないため不渡りをだしてしまうケース
商品を販売しても相手先の支払いが遅れるなどで未入金が続くことがあります。未入金が続くと、今度は経営者が取引先に支払う現金がなくなるため、相手先から「銀行から引き落としができない」とクレームを言われて不渡りとなってしまいます。
(不渡りとは?)
銀行残高不足などで手形や小切手が決済できないことをいいます。不渡りを出すと取引企業からの信用力が大きく下がるだけでなく、銀行融資などの資金調達にも悪影響が出る可能性があります
また、決算書上は無借金なのに、ある日突然倒産してしまう企業があります。そんな企業の倒産理由の多くは「資金繰りの悪化」です。無借金なのに倒産してしまう企業のことを「黒字倒産」と呼びます。
(黒字倒産とは)
売掛金の回収ができず、現金が手元からなくなり取引先への返済ができず倒産してしまう企業のこと。売掛金とは、商品やサービスをこちらが提供してまだ相手先から代金の支払いをうけていない金額を言います
金融機関からの信用度が低くなる
メリットと相反するようですが、銀行からの借入をしていないと金融機関からの信用度が下がることがあります。金融機関とコミュニケーションを取らないと、業界や地域に根差した情報を得られず、信頼関係を築くのが難しいです。
どういうことかというと、金融機関側のスタンスとして「借入を全くしない人」よりも「借入をしてきちんと返済した人」の方を高く評価する傾向があるからです。
そのため、少額でも金融機関から定期的に借入と返済をしている方は、金融機関と信頼関係が築けているため、比較的いつでもお金を借りやすい状況にあると考えられます。
あらかじめ金利が1%前後の事業性融資を受けておき、通帳から引き出さずに借りた資金をそのまま返済に充てれば、利息の支払いを抑えつつ金融機関からの信用を得ることができます。融資を受けておけば資金がショートしたときの保険になるケースもあるので、使う気が無くても金融機関を利用しておくのも一つの経営判断になります。
企業の成長スピードが遅くなる
いまは昔より時代の変化スピードが速く、常に時代に合った商品やサービスを提供しないと生き残れない時代です。いつでも使える資金が手元にあると、どんなビジネスチャンスがあってもフットワーク軽く対応できます。
逆に、手元にいつもお金がない状況だと「これだ!」と思う商品開発や取引があったときにも「お金がないから」とチャンスをみすみす逃してしまうことも多くなります。また、設備投資・商品開発などができなくなります。企業として別会社などに投資する余裕もなくなります。
手元に現金がないため、人を雇えなくなる
少子高齢化のいま、コンビニの従業員に外国人が増えてきたように今はどの業界でも慢性的な人手不足です。調理器具や車の購入にはリースやローンを使えますが、人を雇うにはどうしても現金が必要です。
現金がないために雇い控えをしすぎると、結果的に売上も大幅にのびることはなく、利益率は低いままとなってしまいます。
無借金経営のメリットとデメリットを比べてみよう
結局、無借金経営はトクなのでしょうか。それとも損なのでしょうか。これまで挙げたメリットとデメリットをまとめて表にしてみました。
無借金経営のメリット | 無借金経営のデメリット | |
金融機関からの借入・融資の場合 |
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ちなみに、無借金経営のメリットに含まれる、利息の有無を気にする方が多いと思いますが、もしあなたの事業所が「企業」なのであれば、融資の利息は帳簿上「損金」として計上することが可能です。
(損金とは?)
大まかに言うと「費用」「経費」のことです。ただし、出資など大きなお金を直接やり取りする資本取引は損金には含まれません。また、損金には税務上で損金に含むことができないものがいくつかあります。
金融機関から受けた融資の利息は「損金」として計上することができ、計上するとその分法人税がやすくなります。
一般的には「無借金経営=素晴らしい」というイメージがありますが、無借金経営にはデメリットもあるため、安易にイメージだけで無借金経営を目指さないようにしたいものです。
貴社の事業規模や内容から無借金経営と融資借入どちらがよいかの相談を受けております。融資支援実績が6,000件以上ある株式会社SoLaboだからこその知見で、無借金経営のままか融資借入をすべきかをお伝えします。
無借金経営・借金経営の違いとは
無借金経営にこだわりすぎると無借金経営のデメリットに受けることになってしまいます。かといって、借金をするのはどうしてもイヤという気持ちもあることでしょう。
そこで今新しい考え方として「借金経営のすすめ」があります。借金経営と無借金経営はことばが似ていますが経営のスタイルはまるで違います。
借金経営とは、手元にいつでも返済できる現金を保持しながら適度に融資を受ける経営スタイルをいいます。借りたお金を最低限しか使わなければ負債も増えますが、その分資産も増加します。
借金経営をすることで、無借金経営で受けるデメリットを減らしつつ、企業も投資や開発などで成長する基盤を作ることにつながるでしょう。
まとめ
無借金経営にはメリットもデメリットもたくさんあるのがお分かり頂けたでしょうか。メリットはやはり利息の支払いがない、精神的に追い詰められない、などの面があります。デメリットとしては主なものとして融資で金融機関とつながっていないため「企業や事業を発展させづらい」という点が挙げられます。