法人と比較すると、個人事業主は銀行から融資を受けるのが難しいと考えている人もいるのではないでしょうか?実際には銀行は個人事業主向けのサービスを展開しているため、融資を受けることは可能です。
ただし、フェーズや目的に合わないサービスや銀行に申し込みをしてしまうと、審査落ちや融資額の不足により事業が立ち行かなくなる可能性も出てきます。そのため、銀行からの融資を検討する際は、事業のフェーズや目的に合ったサービスや銀行を選択するべきです。
当記事では、個人事業主が融資を受ける方法について解説します。サービスごとの比較や申込先、必要書類について解説しますので、銀行から融資を検討している個人事業主の人は参考にしてみてください。
個人事業主が銀行から融資を受ける方法の比較
個人事業主が銀行から融資を受ける方法には、プロパー融資、保証協会付き融資、ビジネスローン、カードローンがあります。それぞれの金利、融資額、融資速度ついて、比較できるように次の表でまとめました。
【個人事業主が銀行から融資を受ける方法】
融資サービス | 金利 | 融資額 | 融資速度 |
保証協会付き融資 | 1.5% – 3.5% | 100万円 – 5000万円 | 1ヶ月 – 2ヶ月 |
プロパー融資 | 2.0% – 5.0% | 100万円 – 1億円 | 2週間 – 1ヶ月 |
ビジネスローン | 3.0% – 9.0% | 50万円 – 1000万円 | 1週間 – 1ヶ月 |
カードローン | 5.0% – 15.0% | 10万円 – 500万円 | 即日 – 1週間 |
※上記の数値は各サービスの商材の平均的な値であり、実際の融資条件は異なる場合があります。
いずれの融資方法を利用するのかは、借入する目的に対して融資条件が合致しているかから判断すると良いでしょう。
たとえば、開業における数百万円単位の設備資金の融資を受けたい場合、低金利で融資額の大きい保証協会付き融資を選択するのが良いでしょう。一方で短期のうちに運転資金の不足を解消しなければならない場合、融資速度に優れるビジネスローンの利用が検討されます。
これらのサービスは原則として担保や保証人なしで活用できますが、あえて設定することでより低金利で高額の融資を受けられるケースもあります。もし保証人や担保を用意できる場合は、利用を検討している銀行のホームページで融資条件を確認してみるほか、申込時に担当者に準備できることを伝えてみましょう。
信用保証付き融資の特徴
信用保証付き融資とは、銀行などの金融機関と信用保証協会が連携して行われる融資方法です。信用力の不足する事業主に対して信用保証協会が返済を保証をすることにより、銀行側は貸し倒れのリスクを負うことがなくなるため、接点のない銀行からも融資を受けやすいという特徴があります。
資金使途についても運転資金と設備資金に活用できるほか、開業時でも数百万円から1,000万円の高額融資を受けやすいメリットがあります。とくに高額な初期費用の必要になる店舗型のビジネスを始める際に信用保証付き融資は向いているサービスです。
比較的低金利での利用が可能なものの、信用保証協会付き融資は銀行への利息支払いに加えて、信用保証協会への保証料の支払いが必要になります。保証料は融資額の1%から2%程度であり、高金利商材で長期的に利息を支払うのと比較すれば支払い総額は抑えられる傾向にあるものの、利息以外にも支払いが必要になる点は注意が必要です。
プロパー融資の特徴
プロパー融資とは、銀行が取引先の事業者に対して独自の責任において融資方法を指し、信用保証保証付き融資以外の融資を指します。資金使途については設備資金、運転資金と幅広く使えるものの、融資条件についてはパッケージ化されていないケースが多く、金利や融資額は審査の結果で決定されます。
プロパー融資は各行がリスクを直接的に背負うため、審査は慎重に行われます。とくに事業実績のない開業直後は事業が軌道に乗る保証もなく、事業者への信用も高くないため、プロパー融資を受けることは難しいです。
そのため、プロパー融資は事業を数年続けており、設備投資して事業拡大を検討している時が利用のタイミングとして考えられます。開業時や2期以内など事業歴が浅い段階では利用が難しいため、他のサービスの利用を検討すると良いでしょう。
ビジネスローンの特徴
ビジネスローンとは、各銀行が融資条件をパッケージ化している事業者向けの融資方法です。自社の責任と基準でもって融資するという点ではプロパー融資と一致するものの、パッケージ化されていることで審査基準が明確であるため、他のサービスと比較して融資速度が優れるという特徴があります。
ビジネスローンは設備資金と運転資金の両方で使うことが可能です。ただし、信用保証付き融資やプロパー融資と比較して金利が高いことが多いほか、融資額の上限も低く設定される傾向にあり、ビジネスローンは高額な設備資金を受けるのには向いていません。
高金利なサービスで高額な融資を受けると返済負担も大きくなるため、ビジネスローンを利用するのは運転資金の補填に向いています。ビジネスローンの利用が常態化してしまうと利息負担が大きくなり、事業における資金繰りの悪化を招くため、利用する際にはできるだけ短期間での完済を目指すようにしてください。
カードローンの特徴
カードローンとは、契約限度内で必要な金額を繰り返し受けられる融資方法です。銀行のカードローンはキャッシュカードにカードローン機能が付帯されるケースが多いものの、近年ではスマートフォンの利用で融資まで完結できるものも増えてきています。
個人事業主がカードローンを利用するのに注意が必要なのは、生活費を補填する形でのみ融資を受けることができるという点です。銀行カードローンは事業性資金の融資が禁止されているため、運転資金や設備資金には利用できません。
カードローンのメリットは、融資を受けるまでの時間が他のサービスと比較して最短である点です。審査は最短1日で完了するため、急な支出に対応する際には適しています。
一方、カードローンは金利が高く、利用が常態化すると返済負担が大きくなります。返済が滞ると信用情報機関に延滞履歴が記載され、他の融資サービスを受けることが難しくなるため、返済可能な金額内で借り入れを行い、利用が常態化しないように注意しましょう。
融資方法別の申込するべき銀行
銀行から融資を受ける際には、利用する方法によって申込する銀行を変えましょう。銀行ごとに個人事業主向けのサービスは異なるため、利用を検討しているサービスごとに申込するべき銀行の種類が異なるためです。
【融資方法別の申込するべき銀行】
融資サービス | 申込みが推奨される銀行 |
信用保証付き融資 | 信用金庫
信用組合 地方銀行 |
プロパー融資 | 事業で取引のある銀行 |
ビジネスローン | 都市銀行
ネット銀行 |
カードローン | 都市銀行
ネット銀行 |
プロパー融資を検討している時には、銀行の種類に関わらず事業上で取引のある銀行に申し込みましょう。すでに融資を受けている銀行の他にも、事業用の口座のある銀行でも問題ありません。プロパー融資では銀行との取引履歴が審査の対象となるため、接点のない銀行から融資を受けることは難しいです。
信用保証付き融資を検討している時には、信用金庫や信用組合、地方銀行など地域に根ざした銀行に申込しましょう。これらの銀行は地域経済の振興を目的としているため、都市銀行やネット銀行などと比較して開業時でも融資に積極的なケースが多いです。
ビジネスローンやカードローンの利用を検討している時には、都市銀行かネット銀行に申し込みをしましょう。ビジネスローンやカードローンなどの比較的高金利なサービスは全国どこからでも申込みから借入までWEBで完結ができるため、店舗に行く手間を省いて融資を受けることができます。
個人事業主が銀行から融資を受けるのに必要になる書類
個人事業主が銀行から融資を受けるのに必要な書類は、申し込みをする銀行や利用するサービス、融資条件毎に異なります。一律でまとめることはことはできませんが、多くの場合提出を求められるのは本人確認書類、収入証明書、事業計画書、財務諸表、担保書類の5種類の書類です。
書類の種類 | 必要になる書類 | 必要になるサービス |
本人確認書類 | 運転免許証
マイナンバーカード パスポート |
信用保証付き融資
プロパー融資 ビジネスローン カードローン |
収入証明書 | 確定申告書の控え
税額通知書 |
信用保証付き融資
プロパー融資 ビジネスローン カードローン |
事業計画書 | 事業計画書
創業計画書 設備計画書 見積書 |
信用保証付き融資
プロパー融資 ビジネスローン |
財務諸表 | 決算書
試算表 資金繰り表 |
信用保証付き融資
プロパー融資 ビジネスローン |
担保書類 | 預金通帳のコピー
保証人の本人確認書類 ※ 不動産登記簿謄本 ※ 車検証 ※ |
信用保証付き融資
プロパー融資 |
※ 無担保、保証人なしの場合は不要。
提出書類の多さは、融資額や金利の低さと比例する傾向にあります。高額な融資を低金利で行うのは銀行側にリスクがあるため、より多くの書類を用いて慎重に審査を行うためです。
収入証明書と財務諸表は創業前には作成できないため、原則として開業前の個人事業主は提出は不要です。また、プロパー融資や信用保証付き融資を受ける場合には自己資金や納税、資金の出納の確認のために預金通帳のコピーを求められます。
ビジネスローンを利用する場合、事業計画書や財務諸表が必要になるかは商材によって異なります。審査システムや融資額によってはより少ない書類で申込できるケースもあるので、利用を検討している銀行のサービス概要を確認してみてください。
カードローンは事業者の生活費に対する融資なので事業に関する書類は不要ですが、収入証明書類の提出は必要になります。1期以上事業を続けているのなら確定申告の控えを、開業一年未満なら税額通知書を提出する必要があります。
上記の他にも、申込者の状況や銀行各社の判断で追加の書類提出が求められるケースが考えられます。そのため、上記の書類は一例としてとらえ、実際に必要な書類は利用するサービスの窓口に問い合わせし、確認を取ってから準備を進めるのをおすすめします。
なお、個人事業主が銀行融資を受けるのに必要になる書類の詳細については「個人事業主が銀行融資を受ける際の必要書類とは?」のページで解説していますので、参考にしてください。
個人事業主が銀行融資で審査される項目
個人事業主が銀行融資を受ける時に審査される項目は、開業から2期目未満かそれ以降かで変化します。
開業から事業1期目が終わるまでの創業時は事業実績がないため、銀行は債務者の返済能力と事業の展望を審査します。対して、開業2期目以降は決算書から事業実績が把握できるようになるので、事業の状況と安定性が審査の対象となります。
審査の項目が異なるため、創業状況によって意識するべき点や準備する書類が変わってきます。そのため、自身の状況に合わせた審査の準備をするようにしてください。
創業期に重視される審査項目
開業2期目未満である創業期に重視される審査項目には、次のようなものがあります。
【創業期に重視される審査項目】
審査項目 | 審査内容 |
信用情報 | カードローンやキャッシングなど履歴が無く遅延が無い状態が望ましく、遅延や債務整理履歴があると不利 |
自己資金 | 融資希望額の1/3以上の預金や資産がある状態が望ましく、それ未満だと不利 |
事業経験 | 長いほどの望ましく、ないと不利 |
事業計画書 | 売上の展望が具体的な数字をともなって記載されていることが望ましく、根拠に乏しい計画だと不利 |
創業期に重視される審査項目は、申込者個人の返済能力と事業への展望です。信用情報によって個人としての返済能力が審査され、それ以外の項目で事業の展望が審査されます。
創業時の審査は総合的な判断を基に行われるので、全ての項目を十全に満たしていないと直ちに審査落ちになる訳ではありません。ただし、不足や欠点が多く見受けられる場合、融資希望額を借入できないか、審査落ちになってしまう可能性が上がります。
たとえば、自己資金が希望額の1/3に満たなくても、十分な業界経験や売上の見込みがたっている事業計画などで返済能力を証明できれば融資の可能性はあります。ただし、銀行側がリスクを想定して希望額より減額される可能性もあります。
創業期に審査される項目に関しては短期間で準備できるものも多くないため、銀行の融資審査に通るには開業を意識した時点から計画的に準備を進めていくようにしましょう。
開業2期目以降で重視される審査項目
開業2期目以降で重視される審査項目は財務状況、事業計画書、信用情報です。
【2期目以降の審査項目】
審査項目 | 審査内容 |
財務状況 | 債務超過、キャッシュフローの悪化などがあると不利 |
信用情報 | 個人の信用情報のほかに事業の取引履歴も確認される |
事業計画書 | 売上の展望が具体的な数字をともなって記載されていることが望ましく、根拠に乏しい計画だと不利 |
これらの審査項目から、銀行は2期目以降の個人事業主の事業の安定性と将来性を審査しています。とくに財務状況と信用情報から事業の安定性を、事業計画書から将来性を判断されます。
財務状況は確定申告書、決算書、試算表、資金繰り表を基に審査がされます。現状が赤字だからといってただちに審査落ちになる訳ではなく、投資の増加や未回収の売掛債権など将来性が見えれば問題ありませんが、借入の増加やキャッシュフローの悪化が見られれば審査では不利になります。
信用情報が審査されるのは創業期と変わりませんが、事業で受けた融資の返済履歴も確認されます。延滞があるのはもちろん不利になりますが、融資希望額に対して残債が大きい場合も減額や審査落ちに繋がる可能性がある点には注意が必要です。
また、2期目以降は個人信用情報機関に保管されている情報の他にも、申込みした銀行との取引履歴も確認されます。メインバンクとして活用しており普段から良好な関係性があればプラスに働きますが、それ以外の場合は個人の信用情報による審査が行われます。
事業計画書の審査も創業期と変わりませんが、2期目以降の個人事業主の場合は財務状況との関連性が重視されます。融資を受けることによって業績がより良くなる見込みがあることを過去のデータから立証する必要がある点には留意が必要です。
とくに財務状況や信用情報は変えることができないので、安定性の部分に不安がある場合には事業計画を綿密に練り、融資を受けることで事業が成長できるという将来性を提示できるように意識してみてください。
まとめ
個人事業主が銀行から融資を受けるのに利用できるサービスは、信用保証付き融資、プロパー融資、ビジネスローン、カードローンの4種類があります。どのサービスを利用するかは借入する目的に対して融資条件が合っているかどうかから判断すると良いでしょう。
どのサービスを利用するかが決まった後は、申込先の銀行を決めましょう。必要書類は利用するサービス、申込する銀行、申込者の状況によって異なるため、何を準備すればよいかは直接窓口に問い合わせしておけば準備をスムーズに行うことができます。
なお、個人事業主が融資を受けるのには、銀行以外の手段も考えられます。とくに日本政策金融公庫は個人事業主も対象にした金融機関であり、銀行から受けにくい創業時の融資にも積極的です。日本政策金融公庫の詳細については「日本政策金融公庫とは?特徴や銀行との違いをわかりやすく解説」を参考にしてください。