銀行融資における担保とは、債務者が返済不能に陥った場合に備えて銀行へ差し出す資産のことです。担保は銀行の貸し倒れリスクを軽減するために設定されるものであり、万が一債務者が融資を返済できなくなった場合でも、銀行は担保を用いて債権を回収することができます。
当記事では、銀行融資における担保について解説します。「担保なしでも銀行融資は受けられるの?」「銀行融資の担保に設定できるものは何?」など、銀行融資を受ける際の担保に関して気になることがある人は当記事を参考にしてみてください。
担保なしでも銀行融資を受けることはできる
担保なしでも銀行融資を受けることは可能です。担保の有無は銀行融資における審査基準のひとつとなりますが、担保がなければ融資を受けられないとは限らず、担保を提供せずに融資を受ける「無担保融資」が認められる場合もあります。
銀行融資の審査では、利用者の財務状況や事業計画、信用力などに基づく総合的な判断により利用可否が決定されます。担保として提供できる資産がない場合でも、書類や面談を通して十分な返済能力を証明することができれば銀行融資を利用できる可能性があります。
かつては銀行融資を利用するためには担保の提供が原則とされていましたが、近年では担保なしでも利用できる融資制度が増えています。担保として提供できる資産がない場合も、返済の確実性や財務状況の健全性を明確に示せる場合には銀行融資を資金調達の選択肢とすることが可能です。
ただし、信用力が不十分であると判断された場合や高額な融資を申請する場合などは、相談や審査の過程で銀行側から担保の提供を求められることがあります。銀行から要請があったにもかかわらず担保を提供できなければ、審査に通過できない可能性が高まることを念頭に置いておきましょう。
担保なしで利用できる銀行融資の具体例
担保なしで融資を受けることを検討している人は、担保なしでも利用できる銀行融資にはどのようなものがあるのかを確認してみましょう。ここでは、銀行各社が「担保不要」として提供している融資商品の具体例を紹介します。
【担保なしで利用できる銀行融資の具体例】
融資商品 | 担保(物的担保) | 保証人(人的担保) |
---|---|---|
ビジネスセレクトローン(三井住友銀行) | 借入期間3年以内の場合は不要 | 代表取締役全員の連帯保証が必要 |
Biz LENDING(三菱UFJ銀行) | 不要 | 不要 |
スタークイックビジネスローン(東京スター銀行) | 不要 | 不要 ※保証会社との契約が必要 |
活動力(りそな銀行) | 不要 | 法人:代表者の連帯保証が必要、 個人事業主:不要 |
銀行各社においても「無担保ローン」として、担保なしで利用できるさまざまな融資制度が提供されています。融資商品によって利用条件は異なりますが、担保として提供できる資産がない場合も銀行からの融資を受けられる可能性は十分にあるため、まずは日頃から取引のある銀行へ相談をしてみましょう。
なお、保証人は万が一返済が不可能となった場合に債務者に代わって返済の義務を負う人のことであり、「人的担保」とも呼ばれます。担保不要としている融資商品でも保証人の契約を求められることがあるため、担保不要の銀行融資を検討する際は保証人の必要性もあわせて確認しておきましょう。
担保付き融資のメリット
担保なしでも銀行融資を受けられる可能性はありますが、担保を提供して融資を受けることにはさまざまなメリットがあります。銀行融資の利用にあたって担保を提供するかどうか悩んでいる人は、担保付き融資を利用することのメリットを確認しておきましょう。
【担保付き融資のメリット】
- 融資の審査に通過しやすくなる
- 融資の条件が優遇される可能性がある
担保を提供することにより、万が一返済が滞った場合でも、銀行は担保を用いて資金を回収できます。貸し倒れリスクの低減により、無担保融資に比べて融資を受けやすくなることや、より有利な条件で融資を受けられる可能性があることが、担保付き融資のメリットです。
なお、これらのメリットは提供する担保の価値に左右されます。担保の価値が低ければリスクの軽減に値しないと判断され、融資審査や融資条件の優遇につながらない可能性もあるため、提供する担保が融資希望額に見合う価値のある資産であるかを確認しておきましょう。
融資の審査に通過しやすくなる
担保付き融資のメリットのひとつとして「融資の審査に通過しやすくなること」が挙げられます。担保を提供することにより、融資の審査において重要視される事業者の信用力を補うことができるため、無担保融資よりも審査に通過できる可能性が高くなります。
無担保融資の場合、銀行は主に事業者の財務状況や事業の将来性から信用力を判断します。財務状況が不安定な場合や創業間もない事業者の場合、貸し倒れのリスクが高く見積もられることから、審査が厳しくなる傾向にあります。
一方で、担保付き融資の場合、万が一返済が滞っても銀行は差し入れられた担保を用いて資金を回収できるという保証があります。担保の提供によって銀行は貸し倒れのリスクを大幅に低減できることから、無担保融資よりも審査に通過しやすくなる傾向にあります。
信用力に問題がなくても、融資額が高額である場合や事業実績が少ない段階である場合は、銀行融資の審査はより厳しくなります。銀行融資の審査に通過できる可能性を高めたい人は、担保付き融資を利用することを検討してみましょう。
融資の条件が優遇される可能性がある
担保付き融資のメリットのひとつとして「融資の条件が優遇される可能性があること」が挙げられます。担保を提供することにより、融資の審査において重要視される事業者の信用力を補うことができるため、無担保融資よりも有利な条件で融資を受けられる可能性があります。
無担保融資の場合、銀行は貸し倒れによる損失を最小限にするために「金利を高く設定する」「返済期間を短く設定する」「融資額を低く設定する」などの措置を取ることがあります。これにより、事業者の返済負担が大きくなることや、希望の金額を借り入れできない可能性があります。
一方で、担保付き融資の場合、万が一貸し倒れが発生しても銀行は担保を売却した資金によって損失を補填することができます。そのため、金利や返済期間、融資可能額の設定を厳しくしてリスクに備える必要性が低いことから、無担保融資よりも好条件で融資を受けられる可能性があります。
担保付き融資では「低金利」「長期」「高額」など、無担保融資では難しい好条件での借入を実現できる可能性があります。好条件で融資を受けられることにより、事業のキャッシュフローが安定し、より戦略的な資金運用が可能となるでしょう。
担保付き融資のデメリット
担保付き融資は、無担保融資よりも有利な条件で融資を受けやすいというメリットがある一方で、いくつかのデメリットもあります。デメリットを把握しておかなければ、思わぬ損失を被ることや資金調達が計画通りに進まなくなることも考えられるため、利用を検討する際にはデメリットも押さえておきましょう。
【担保付き融資のデメリット】
- 担保設定した資産を失う恐れがある
- 手続きのコストがかかる
これらのデメリットにより、資金調達の計画や今後の事業活動に支障をきたす恐れもあります。担保付き融資を検討する際には、資産を失うリスクと担保設定の手続きにかかるコストも考慮した上で慎重に判断しましょう。
担保設定した資産を失う恐れがある
担保付き融資のデメリットのひとつとして「担保を失う恐れがあること」が挙げられます。万が一融資の返済が不可能となった場合、銀行は提供された担保を売却し、その利益を貸し倒れによる損失の補填に充てることができます。
たとえば、不動産を担保に設定する場合、債務者が返済不能となった場合にその不動産を競売にかけられる可能性があります。銀行は資金の回収ができなくなった際に、担保として提供された不動産を差し押さえて競売にかけ、売却代金から優先的に返済を受けられる権利があるためです。
融資の返済が不可能となり、銀行によって抵当権が実行されると、担保に設定した不動産を明け渡さなければなりません。オフィスや工場など、企業の活動拠点としている不動産を担保に設定していた場合、その後の使用ができなくなるため事業経営が困難となる可能性があります。
担保付き融資は、返済が不可能になった場合に担保として提供した資産を失う恐れがあることに留意する必要があります。スケジュール通りに返済できていれば、担保設定している資産は引き続き利用することができるため、無理のない返済計画を立て確実に完済できる見込みがあるかを確認しておきましょう。
担保設定のコストがかかる
担保付き融資のデメリットのひとつとして「担保設定のコストがかかること」が挙げられます。担保付き融資では、担保を設定する工程が発生するため、無担保融資と比較して時間的コストや金銭的コストが多くなります。
たとえば、担保設定の手続きには、担保価値の審査や抵当権設定の登記手続きといった時間的コストが発生します。担保設定の手続きには、担保に対する審査も含めておおむね2週間程度を要するため、担保付き融資は無担保融資と比較して融資実行までの期間が長引く傾向にあります。
また、担保の設定および解除にあたって、担保評価費用や登録免許税、司法書士への報酬といった金銭的コストも発生します。融資の金額や担保の内容によって金額は異なりますが、総額で数十万円単位になる可能性もあるため、どれくらいのコストが掛かるのかを事前に見積もっておくことが大切です。
担保付き融資は好条件での融資につながる可能性がある反面、担保の諸手続きにさまざまなコストがかかることを念頭に置いておく必要があります。できるだけ早く融資を受けたい場合や自己資金が少ない場合には、担保設定にかかる時間や費用をシミュレーションした上で利用を検討しましょう。
銀行融資の担保に設定できる資産
メリットとデメリットを押さえた上で、担保付き融資の利用を検討する人は銀行融資の担保として設定できる資産を確認してみましょう。銀行融資の担保として設定できるのは事業者が所有する財産や権利であり、主に「不動産」と「流動資産」の2種類に大別されます。
【銀行融資の担保に設定できる資産】
担保の種類 | 具体例 |
---|---|
不動産 | 土地、建物 など |
流動資産 | 機械設備、在庫、売掛金 など |
銀行融資の担保にできる不動産には、事業者が所有する土地や建物などが該当します。不動産を担保にする融資は創業時の信用保証付き融資や事業拡大期のプロパー融資など幅広く利用でき、その価値の高さから他の担保と比較して低金利かつ高額な融資を受けやすい傾向にあります。
また、銀行融資の担保にできる流動資産には、企業が所有する機械設備や在庫、売掛金などが該当します。流動資産を担保にする融資はABL(Asset Based Lending)と呼ばれ、動産や債権を担保として提供することにより、不動産を所有していなくても担保付き融資を受けられる可能性があります。
なお、株や保険金などの資産は、原則として事業性の銀行融資における担保に設定することはできません。ノンバンクや証券会社の中にはこれらの資産を担保として認めている融資サービスもありますが、それらは銀行が提供している担保付き融資よりも高金利となる傾向にある点に留意しておきましょう。
不動産
銀行融資の担保にできる資産として「不動産」が挙げられます。不動産は流動資産と比較して価値が高く急激な価格変動が起こりにくいことから、担保に設定することにより「低金利」「長期」「高額」といった好条件での融資につながりやすくなります。
不動産を担保にする場合、銀行は担保不動産に「抵当権」を設定します。万が一、債務者が返済不能となった場合に銀行は抵当権を実行し、担保資産の売却代金から優先的に弁済を受けることができます。
抵当権が設定されても、資産の所有権は債務者にあります。スケジュール通りに返済ができていれば担保不動産は引き続き利用することが可能であるほか、融資を完済すれば抵当権は不要となるため、完済後には抵当権の抹消手続きを行い担保設定を解除しましょう。
なお、「築年数が古く法定耐用年数を超えている」「すでに抵当権が設定されている」「物件の建て替えが規制されている」などの条件に該当する不動産は、価値が低いと評価される傾向にあります。不動産の価値によっては融資を断られたり、希望融資額を調達できなかったりする可能性がある点に留意しておきましょう。
流動資産
銀行融資の担保にできる資産として「流動資産」が挙げられます。機械設備や在庫、売掛金などの流動資産を担保として設定できる融資制度であるABL(動産・債権担保融)を利用すれば、所有する不動産がない場合でも担保付き融資を利用できる可能性があります。
ABLで融資を受ける際には、動産や売掛金の所有権が貸し手である銀行に移ったことを証明するため、担保とする資産の登記が必要です。動産の場合は「動産譲渡登記」債権の場合は「債権譲渡登記」を行うことにより、資産が担保になることを第三者に対して主張することができます。
不動産を担保にする場合と同様に、ABLにおいて担保として設定した流動資産は引き続き利用できます。融資期間中は銀行へ資産の状況を定期的に報告する必要がありますが、担保に設定している原材料を加工することや在庫を販売することも可能です。
ABL融資は事業に関する流動資産が担保になることから、創業時の資金調達としては利用できませんが、不動産を所有していない事業者も融資の可能性を広げることができます。ABLについては経済産業省による資料「ABLのご案内 在庫や売掛金を活用しよう!在庫や売掛金を活用した新たな資金調達の方法」で詳しく紹介されているため、流動資産を担保に融資を受けたいと考えている人は参考にしてみてください。
銀行以外にも無担保融資を提供している金融機関がある
銀行以外にも、無担保で利用できる融資を提供している金融機関があります。銀行融資の利用が困難な場合には、銀行以外の機関が提供する融資を検討することも選択肢のひとつです。
【無担保融資を提供している銀行以外の金融機関】
金融機関 | 概要 |
---|---|
日本政策金融公庫 | 一般の金融機関を補完する目的で設立された、政府が100%出資する政策金融機関。銀行と比較して支店数は少ないが、銀行が融資をしにくい中小企業や創業間もない企業などを支援している |
信用保証協会 | 中小企業等が金融機関から融資を受ける際に保証人となり、融資を受けやすくする目的で設立された公的機関。保証料を支払う必要があるが、担保や保証人を自身で用意できない場合でも公的な保証によって信用力を補完できる |
ノンバンク | 銀行以外の金融機関。銀行と比較して金利は高く設定されているが、融資までの期間が短く、担保や保証人不要で利用できる融資商品が多い傾向にある |
銀行の無担保融資は、審査が比較的厳しい傾向にあります。銀行融資は顧客の預金を原資としていることから、貸し倒れを避けるためにほかの金融機関よりも厳格な基準で審査が実施されており、貸し倒れのリスクがより高くなる無担保融資においては審査もさらに厳しく行われるためです。
一方で、銀行以外の無担保融資は、銀行と比較して審査基準が緩やかで幅広い事業者が利用しやすい傾向にあります。銀行の無担保融資を断られてしまった事業者でも、状況によっては銀行以外の機関を利用して無担保での融資を受けられる可能性があります。
ただし、銀行以外の金融機関の融資には銀行と比較して「支店数が少ない」「保証料がかかる」「金利が高い」など、金融機関によってそれぞれデメリットとなる点もあります。無担保融資を検討する際は、それぞれの金融機関の特徴と自身の事業状況を照らし合わせ、適切な資金調達先を選択しましょう。
なお、当サイトを運営する株式会社SoLabo(ソラボ)では、融資サポートを実施しています。8,000件以上の融資支援実績をもとに、資金調達方法や経営改善に関するアドバイスを実施しているため、株式会社SoLabo(ソラボ)に相談することを検討してみてください。
まとめ
銀行融資における担保とは、債務者が返済不能に陥った場合に備えて銀行へ差し出す資産のことです。担保の有無は銀行融資における審査基準のひとつとなりますが、担保がなければ融資を受けられないとは限らず、担保なしで融資を受けることも可能です。
担保付き融資のメリットには「融資の審査に通過しやすくなること」「融資の条件が優遇される可能性があること」が挙げられます。一方で、「担保設定した資産を失う恐れがあること」「手続きのコストがかかること」がデメリットとなる恐れもあるため、メリットとデメリットの両方を考慮して担保を設定すべきか検討する必要があります。
事業性の銀行融資において、担保として設定できる主な資産は「不動産」と「流動資産」です。動産・債権担保融(ABL)を利用すれば、在庫や売掛金などの流動資産も銀行融資の担保として認められる場合があるため、不動産を所有していない事業者も担保付き融資を利用できる可能性があります。
なお、銀行以外にも無担保で利用できる融資を提供している機関があります。銀行の無担保融資は信用情報や財務状況をより厳しく審査される傾向にあるため、銀行での無担保融資の利用が困難な場合は「日本政策金融公庫」「信用保証協会」「ノンバンク」など銀行以外の融資も検討してみましょう。