スタートアップが、今までにない製品・サービスの価値を伝え、実現させるのには、事業計画書が役に立ちます。
この記事では、スタートアップの事業計画書の作り方や、必要な時期、事業計画書の重要性を解説します。
スタートアップの事業計画書の作り方
スタートアップとは、今までにない製品・サービスを世の中に提供し、急激に成長する企業です。
革新的なビジネスモデルで理解されにくかったり、短期間で急激な成長によりなかなか黒字化しにくかったりと、スタートアップは他の会社形態よりも資金調達や事業拡大でどうしても悩みがちです。
スタートアップが今までにないものを生み出すには、今後の展望を表現し、協力者をつのる必要があります。
今後の展望をわかりやすく表現するのに使われるのが「事業計画書」です。
事業計画書とは、資金支援や採用など事業に必要な資産獲得を目的として、事業内容や今後の事業展望をまとめた書類です。
ただし、ひとことで「事業計画書」と言っても、目的によって必要な要素や形式が違うため、作り方のポイントをおさえて作りましょう。
スタートアップの事業計画書の作り方の基本は3つです。
- 事業計画書に必要な要素を洗い出す
- 事業計画書のゴールを明確にする
- 事業計画書の形式はプレゼン相手にあわせる
それぞれ、わかりやすく説明していきます。
①事業計画書に必要な要素を洗い出す
まずは事業計画書に必要な要素を洗い出すことから始めましょう。
事業計画書の書式や求められる要素はさまざまありますが、事業概要について必ず聞かれる要素もあるからです。
事業概要を人に伝える前に、自分の中で要素を整理します。
いろいろな整理の方法はありますが、スタートアップの事業計画の要素を整理するなら「リーンキャンバス」を活用するのも選択肢のひとつです。
リーンキャンバス:9つの要素で事業を整理
リーンキャンバス(Lean Canvas)とは、事業の内容を整理するためのテンプレートです。
起業家のエリック・リース氏により発案されたもので、9つの要素で事業を整理できます。
- 顧客
- 問題
- 価値提案
- 解決策
- 販路
- 収益の流れ
- コスト構造
- 主要指標
- 優位性
一つずつ、記入例とともに説明していきます。
*記入例は、創業・融資サポートを得意とする株式会社SoLabo(ソラボ)の要素を挙げていきます。
顧客
顧客の欄では、誰をターゲットとした製品・サービスなのかを記入します。最初に「製品・サービスの顧客となりそうな人はどんな人か」もあわせて考えるとよいでしょう。
「女性」「働いている人」など抽象的すぎると考えにくい場合もあります。より解像度高く考える場合は住んでいる地域、仕事内容、性別、年収など顧客の要素について深堀りしましょう。
記入例:創業者(事業に関するノウハウはあっても経営のノウハウに自信がない人)
問題
問題の欄では、事業が解決する問題を記入します。
記入例:
- 創業者の多くは、最低限必要なお金周りの知識がない。事業をはじめるときに飲食や美容など業務の専門知識は十分にあるが、何からはじめていいか分からない。
- 民間の金融機関から融資されにくい、社会的信用が不足した創業者はサポートできていない。
提供価値
提供価値では、顧客が抱える課題に対してどのような独自の価値を提供するのかを記入します。
「何を顧客に提供するか」を明確にすることはスタートアップにとって大変重要です。
製品・サービスの価値の提供について「顧客が求めるものはドリルではなく穴である」という例え話がよくあげられます。DIYする顧客にとって、欲しいもの穴であって、穴をあけるためのドリルではありません。穴が空いている資材でも、穴をあけてくれる大工さんでもいいのです。
記入例:創業者自身に創業・経営ノウハウがなくても創業できる安心感
解決策
解決策では、課題の解決策を記入します。先程の「独自の提供価値」の例で出てきた穴をあけるための「ドリル」がソリューション(解決策)です。
記入例:
- 創業者の知識不足を解消→創業・融資に特化した情報メディアと無料相談
- 民間の金融機関の審査精度に貢献し、個人事業主・中小企業への融資を促進→民間の金融機関向けにAIで分析された融資審査のスコア提供※
販路
販路では、製品・サービスをどのように顧客に届けるかを記入します。販売方法、マーケティング方法などを記入して「顧客に届けやすい販路」を考えましょう。
記入例:検索→自社メディア→無料診断・無料相談→金融機関への融資申込を含めた経営サポート
収益の流れ
収益の流れでは、どのように売上をたてるかを考えます。「どの時点で製品・サービスを提供してお金をもらうのか」などの儲ける仕組みを考える必要があります。
記入例:成功報酬、融資金額の3%もしくは15万円のどちらか多い方
コスト構造
コスト構造では、どのようなことにコストがかかるかを記入します。事業をするときに必要な経費はなにか整理しましょう。
利益は「売上」―「コスト」で決まります。そのため、コストをどのように抑えるかも重要です。
記入例:メディア運営費、人件費・オフィス賃貸料などの固定費
主要指標
主要指標では、事業をする上で目標にしたほうがいい指標(いわゆるKPI:重要業績評価指標)を記入します。
記入例:メディアの訪問者数、問い合わせ数、融資決定数
優位性
優位性では、競合と比較したときに勝てる点について記入します。今まで書いていた収益の流れやコスト構造、解決策などから見つかるかもしれません。競合と比較して、低価格で提供できたり、顧客が手に入れやすい販路を持っていたり、圧倒的な性能の製品・サービスを持っていれば記入しましょう。
記入例日本政策金融公庫における融資支援実績数や、国に認められた経営サポートの認定支援機関であること
要素ごとに整理することで、あらゆるタイプの事業計画書が書きやすくなります。
②事業計画書を作る目的・ゴールを明確にする
次に、事業計画書を作る目的・ゴールを明確にしましょう。事業計画書を作る主な目的は次の通りです。
- 「資金調達したい(投資、融資、補助金・助成金)」
- 「事業拡大したい(提携・協業・採用)」
*詳しくはこの後の「スタートアップが事業計画書を作るべきタイミング」で説明します。
目的・ゴールによって、事業計画書を見せる相手が異なり、文章表現のし方も変わってきます。
③事業計画書の形式はプレゼン相手にあわせる
事業計画書のゴールを前提に、事業計画書を書いていきましょう。
「事業計画書の形式は相手にあわせる」のが基本です。
事業計画書を作るゴールが「資金調達したい」だったとして「金融機関に提出する事業計画書なのか、投資家に見せる事業計画書なのか」でフォーマットもデザインも内容も変わります。
まずは、事業計画書を見せる相手の重視するもの、指定の書式があるか、好む考え方などの興味関心について調べ、相手に寄せた見せ方にしましょう。
スタートアップが事業計画書を作るべきタイミング
スタートアップが事業計画書を作るべきタイミングは、主に「資金調達をしたいとき」と「事業拡大したいとき(提携・協業・採用)」 です。
スタートアップが資金調達をしたいとき:投資、融資、補助金・助成金
スタートアップは資金調達をしたいときに事業計画書を作成します。方法は主に3つあります。
- 投資|投資家から応援してもらう資金調達
- 融資|金融機関からお金を借りる資金調達
- 補助金・助成金|国や自治体から応援してもらう資金調達
それぞれ紹介します。
投資|投資家から応援してもらう資金調達
資金調達方法の1つ目は投資です。投資は投資家(ベンチャーキャピタル、エンジェル投資家、クラウドファンディングの支援者など)から応援してもらう資金調達です。それぞれの特徴を見ていきましょう。
ベンチャーキャピタルは、ファンドを作り、個人投資家などから資金を集め、そのお金でスタートアップに投資をします。
その後、出口戦略で得た利益を個人投資家に還元する仕組みです。人のお金を預かっているため、ベンチャーキャピタルの判断は厳しいです。
エンジェル投資家は個人の資産で出資します。
個人の裁量で意思決定ができるため、エンジェル投資家からの資金調達を計画する場合、その投資家がこれまでどのような企業に投資をしてきたか予め調べておくことをおすすめします。
投資家の意思決定の傾向を把握して事業計画書やピッチで活かしましょう。
クラウドファンディングの支援者は、比較的小規模な出資をします。
支援者が出資をする動機は、「純粋に応援したい」「コスパのいいリターンが欲しい」などさまざまです。クラウドファンディングで成功すると、POF(プロダクト・マーケット・フィット)が出来ている、つまり製品・サービスが顧客に受け入れられているとも言えるでしょう。
一般的に、投資家は成功する可能性を感じたスタートアップに投資します。投資家が可能性を感じるポイントは「よりよい製品・サービスかどうか」、「市場規模の大きさ」、「チームの仲の良さ」、「課題感への共感」など様々です。投資家の関心事を知りアピールしていきましょう。
融資|金融機関からお金を借りる資金調達
資金調達方法の2つ目は融資です。融資は金融機関からお金を借りる資金調達です。投資との違い、借りたお金であるため融資の場合はお金を返す必要があります。
金融機関は「貸したお金が返ってくるか」を審査するため、投資と違い、決算状況や売上規模などの数字で判断されるケースも多いです。
補助金・助成金|国や自治体から応援してもらう資金調達
資金調達方法の3つ目は補助金・助成金です。
補助金・助成金は国や自治体から応援してもらう資金調達の形であるため、補助金・助成金は投資と同様に基本的には返済する必要はありません。
しかし、補助金・助成金は投資と違い、事業で「使ったお金」に対して補填する形で国や自治体から支援してもらいます。手元に使うお金がない状態では利用できないため、一緒に融資を行うケースがほとんどです。
スタートアップが事業拡大したいとき:提携・協業・採用
スタートアップは、事業拡大したいときにも事業計画書を作成します。
事業を拡大するためには提携・協業・採用を積極的にし、関係者をうまく巻き込んでいく必要があります。
スタートアップは革新的なビジネスモデルのため、他者に理解してもらうのに労力がかかります。また短期間で急激に成長するため、少し先の未来まで目線をあわせるのが、関係者を巻き込むコツです。
事業拡大したいときにも、事業内容や今後の展望について表現する事業計画書が利用できることをおさえておきましょう。
スタートアップの事業計画書の作成例
投資の事業計画書の作成例:投資家向け・ピッチ
投資家向けに説明するケースで、事業計画書を紹介する場合、決まったフォーマットはありません。
一般的にパワーポイントで要点をまとめて発表資料とするケースが多いです。
特にスタートアップの事業計画書を発表する際は「ピッチ」と呼ばれる短い時間でのプレゼンを求められるため、コンパクトに事業を説明できるよう準備しましょう。
一般的にピッチで必要な要素は次の通りで、リーンキャンバスで考えた内容と重なるものが多いのがわかります。
- 顧客と問題
- 解決策
- 市場規模
- ビジネスモデル(収益の流れを図式化したもの)
- 今までの実績
- 優位性
- チーム
- 今後の事業計画
上の要素に加えて、プレゼンする相手の関心が高い情報をもりこみます。一度作成し終わったら、「Why now?(なぜこの問題に今取り組むのか)」「Why this?(なぜこの解決策なのか)」「Why you?(なぜあなたが取り組むのか)」について応えられるような内容になっているかチェックするとよいでしょう。
融資のための事業計画書の作成例:日本政策金融公庫の融資
創業融資で、日本政策金融公庫では、決まったフォーマットで事業計画書を作成します。
状況に合わせて利用する融資制度が異なり、融資制度ごとにフォーマットが存在します。
基本的に、創業の方は「新創業融資制度」、既存事業者の方は「一般貸付」という融資制度の利用が多いですが、状況や条件によって変わるため、融資を予定している方はまずはご相談ください。
各種フォーマットに沿って、「①事業計画書に必要な要素を洗い出す」で洗い出した要素を当てはめていきましょう。
補助金・助成金のための事業計画書の作成例:金額が大きい制度ほど細やかな内容を求められる
補助金・助成金は、国が運営している大規模のものから、市町村などの地域に根ざしたものまで様々です。予め決められたテンプレートのあるものや、フォーマットが自由のものなどあるため制度ごとに確認しましょう。
制度によってもらえる金額も様々ですが、一般的に金額が大きい制度ほど細やかな内容の事業計画書が求められます。補助金額としては比較的少額の上限50万円の「小規模事業者持続化補助金」でも、A4用紙で7枚程度の事業計画書が求められています。
補助金・助成金は返済しなくてよいぶん倍率が高かったり、申込期間が短かったりします。申請をする場合は採択実績のある専門機関を頼るのもよいでしょう。
提携・協業・採用のための事業計画書の作成例:相手のニーズを端的に盛り込む
提携や協業、採用の場合は、テンプレートが指定されることはありません。自分で相手のニーズを端的に盛り込み、事業計画書を作成しましょう。
提携や協業、採用のケースは、双方向の会話で相手のニーズを引き出しながら話すことが求められることもあります。時に補足の資料として準備するのもおすすめです。柔軟に相手とTPOにあわせられるよう、事業計画書の情報は網羅的に記載しておきましょう。
一般的に必要な要素は次の通りで、リーンキャンバスで考えた内容と重なる内容です。
- 顧客と問題
- 解決策
- 市場規模
- ビジネスモデル(収益の流れを図式化したもの)
- 今までの実績
- 優位性
- チーム
- 今後の事業計画
提携・協業・採用のシーンで求められる事業計画書の説明時間は、短時間のピッチと違い、長いものでは1時間以上の説明が求められるケースもあります。より具体的なところまで説明を求められる場面にも対応できるよう、別紙で詳細資料を用意しておくと心強いでしょう。
また、聞き手の質問をおりまぜながら相手のニーズを最初に聞いてからそれに合わせて説明するのも1つのテクニックです。
まとめ
今回はスタートアップの事業計画書の作り方・スタートアップの特徴について解説しました。
自分の製品・サービスについてリーンキャンパスなどで情報を洗い出すことで、投資や融資、補助金や協業、採用など、場面にあわせた事業計画書の応用ができます。
どの場面でも「相手のニーズや関心に沿った内容になっているか」を考え、事業計画書を作成しましょう。
スタートアップ企業は、世の中にないものを生み出し、世界を変えていく力があります。より多くの関係者を巻き込み、事業をすすめるために事業計画書を活用しましょう。