事業経営を考えている方にとって、開業・起業する時期は気にかかる要素の1つでしょう。いつのタイミングで起業・開業するのが良いかは、時世や事業の内容によっても異なってきますが、タイミングを決めるための検討材料は存在します。
今回の記事では、起業するタイミングはいつが適しているのかを解説していきます。
開業するのによい時期はある?
開業するのによい時期はあるのでしょうか。それを知るためにはまずはほかの人たちがいつ開業しているのかを調べてみましょう。
みんなの開業時期はいつ?国の統計で年ごとの推移をチェック
多くの経営者がいつ開業しているかは開業率(*)から判断できます。2019年までの中小企業庁白書の統計から、最も多くの人が開業していたのは1988年とわかります。
その後開業率は減少傾向に転じていますが、2006年の会社法改正の施行以後、ゆるやかに上昇傾向にありました。
1つ注目したいのは、2018年には開業率が急激な下降に転じていることです。これには2017年のGDP(国内総生産)成長率の減少が関係していると考えられます。GDP成長率が高いときは国内の景気がよく、消費行動も活発に行われるので、開業しやすい環境が揃っていることを表します。GDP成長率と開業率には正の相関があるのです。GDP成長率が上がれば開業率も上がる一方で、GDP成長率が減少すると消費行動も消極的になっていると考えられ、開業には不向きとされます。
開業時期に迷っているならGDP成長率をヒントにしてみてもいいでしょう。
(*)開業率:中小企業庁が公開している中小企業庁白書などで確認できます。白書にまとめられる項目は年度によって異なります。
開業するのにベストと言える時期は限定できない
年度推移では開業の波が来ているのかどうかはわかっても、実際に開業するのに適した月日まではわかりません。月ごとの開業数を見たい場合は「雇用保険事業月報・年報」を参照しましょう。
雇用保険事業月報・年報は中小企業庁白書の統計結果のもとになっているデータで、月ごとの開業数も公開されています。
雇用保険事業月報・年報によると4月は少し割合が高くなっていますが、これは単純に新年度であるためです。そのことを考慮すると、1月から12月までおおよそまんべんなく一定数の開業数を維持しています。開業するのにベストな時期があれば、数が増えているのが確認できるはずですので、開業にベストな時期というものはないと言ってよいでしょう。
コロナ禍で開業しても大丈夫?
コロナ禍にある今、そしてwithコロナ時代として今の生活様式が当たり前になるとしても、現在の状況で開業する決断は、勇気のいることでしょう。中には「コロナが落ち着くまで開業を待つべきだ」と考える方もいるはずです。
しかし実は、今開業することが追い風になるケースもあるのです。業種別に状況を解説しましょう。
オンライン上でやり取りできる業種
現在、多くの企業がリモートワークに導入していますが、多くの企業は今後もリスク分散の観点でリモートワークを続けるでしょう。
オンライン上でのやり取りで完結できる業種では、現状は開業のリスクは高くない傾向です。例えば、フリーのシステムエンジニア(SE)やネットショップ、クリエイターなどが代表的な業種ですが、扱う商材やクライアントがコロナ禍の影響を受けている場合を除けば、起業のタイミングを待つ必要はないと考えられます。
飲食店や美容室など接客業
一方、飲食店や美容室のような接客業など、人と人との接触が前提の非対面型ビジネスモデルにするのが難しい業態は、コロナ禍での起業はよく検討する必要があります。
なぜなら、事業継続のためには、できるだけ多くのリピート客を確保しなければいけませんが、密になる状況を避けるコロナ禍では、対面でのビジネスは難しくなっているからです。
地域によっては、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の実施の影響を受けて、店舗への集客が重いように伸び悩むことも考えられます。
起業のタイミングを決めるには?
法律の施行や時勢によって、多くの人が一斉に起業したり、しなかったりする時期はあっても、起業にベストな時期というものはありません。結局のところ、自分自身のタイミングで起業するのが一番です。
起業のタイミングを決めるには、次の5つのステップを通して、ご自身の状況をチェックしてみるのがおすすめです。
ステップ1:「いついつまでに起業する」と期限を設ける
「いまでに起業するのか」の期限を定めましょう。
具体的な期限を定めることで、実現に向けて具体的な行動を起こせます。定めた期限までにビジネスプランを考えたり、必要な知識やノウハウを見つけたり計画的に準備できます。
ステップ2:資金繰りの計画を立てる
会社に現金や預金、有価証券などの資金が無くなれば、それは倒産の危機をもたらします。そうならないために、会社の支出と収入のバランスをコントロールし、資金がゼロにならないようにすることを「資金繰り」と言います。
資金繰りの計画を立てるためにはまず、手元にある資金を確認しましょう。そして商品の仕入れや設備投資にいくらくらいの支出が発生し、どの時点でどのくらいの収入があるのか、未来の事業の流れを想像します。その過程で資金がゼロになってしまう可能性があると感じたなら、無駄な経費がないかを考え、できるだけ支出を抑えるようにし、資産を資金化したり、資金調達の計画を立てるようにしましょう。
ステップ3:時流を見極める
起業して事業拡大を考えているなら、時流に乗っているサービスを提供できるか、という観点は大切です。社会で流行している価値観やニーズを、SNSやテレビなどの情報をこまめにチェックし、自社の製品・サービスにマッチしているのかを確認しましょう。
もしマッチしていないと感じるのであれば、ビジネスプランからもう一度考え直す必要があります。
起業タイミングをはかるコツ:副業で事業を運営してみよう
副業で事業を運営してみましょう。副業で事業を展開してしばらくすると、ひと月にどれくらいの売上がどのくらいで、起業後の見込み客がどの程度いるのかなどが見えてくるはずです。専業でもやっていける目処が立ったら、起業に踏み切るのもタイミングをはかる1つのやり方です。
ステップ4:協力を依頼する専門家の繁忙期を確認する
起業するとき、多くの方は自分ですべてを解決しようと考えがちです。
経営者の多くは一定の分野には詳しくても会社設立に必要な手続きには明るくありません。登記申請の手続きの中には煩雑なものもあり、すべてを1人で解決しようとすれば本来、専念すべきことに専念できなくなります。
例えば、会社設立であれば行政書士や弁護士、税金対策などの相談は税理士に、といったように専門家に頼みましょう。
ステップ5:起業の最終決断をする
ステップ1~ステップ4を振り返って問題がないかを確認しましょう。もし問題があればなぜ問題なのかを考えたうえで、改めて計画を立て直すようにしてください。
起業のタイミングを逃しやすい方へのアドバイス
起業を考えている方の中には、起業のタイミングを逃しやすい人もいます。そんな方に向けてここでは3つ、アドバイスします。
心配性な人
心配性な人は資金や顧客が揃ってきても「まだ足りない」「リスクがある」と起業に踏み切れないことがあります。起業にノーリスクはあり得ません。思い切って一歩を踏み出しましょう。
期限を定めない人
人間、期限がなければ「いつかやる」レベルの考えに収まってしまうものです。まず創業の期限を定め、それまでに必要な細々とした期限を確認しましょう。小さく期限を区切ることで、目標に向かって一歩一歩、行動に移せるようになるでしょう。
元手となるお金が足りない人
起業には、起業までの準備や事業開始後の運転資金など、さまざまなお金がかかります。そのため、まとまった資金を用意する必要があるでしょう。事業に必要なまとまった資金を、日本政策金融公庫や銀行など金融機関からの融資で調達したい場合、元手となる自己資金を用意していることが求められます。まずは最低限の自己資金をため、それから融資にチャレンジするようにしてみましょう!
まとめ
その業種・業態にも共通する、開業に適した時期はありませんので、ご自身に適したタイミングでの起業を行うのが良いでしょう。
とはいえ、起業するタイミングを決めるのには様々な要素があります。時流を見ながら慎重に判断しましょう。