「A社がシリーズBで10億円の資金調達を達成しました」のようなニュースを目にしたことはありませんか。ラウンドやシリーズなど、資金調達に関する専門用語に馴染みのない人もいるでしょう。
ラウンドとは事業のフェーズを指す言葉で、シリーズは具体的な事業フェーズの一つを指す言葉です。ラウンドは5つ以上のフェーズに分かれており、それぞれで活用できる資金調達額と方法が異なります。
当記事では資金調達ラウンドについて、ラウンドごとの特徴や資金調達方法についても解説していきます。
資金調達ラウンドとは企業が成長する過程を資金調達の側面から段階ごとに分けたもの
資金調達ラウンドとは、主にスタートアップ企業が資金調達し成長していく過程を段階ごとに分けたものを指します。ラウンドは企業の成長過程に応じてエンジェルラウンド、シード、シリーズA、シリーズB、シリーズCの5段階に分けられています。
投資家側からしても企業の成長段階は重要な投資指標になるため、投資ラウンドとも呼ばれています。
【5つの資金調達ラウンド】
資金調達ラウンド | 事業フェーズ |
エンジェルラウンド | アイデアのみ~テスト版開発 |
シード | テスト版リリース~本格リリース準備 |
シリーズA | 本格リリース~顧客獲得し売上拡大 |
シリーズB | 収益性確保~経営基盤の安定化 |
シリーズC | IPO、M&A、海外展開等に向けた準備 |
事業フェーズの成長に伴い、資金調達ラウンドを進めていきます。資金が足りないと立てた戦略が実行できないおそれがありますが、逆に資金調達しすぎると油断して不必要なコストをかけてしまうかもしれません。段階ごとに適切な資金調達をすることが、事業の成否に密接に関わってくるのです。
資金調達ラウンドは企業と投資家双方の合意によって決められる
資金調達ラウンドは明確な基準で分けられるものではなく、企業と投資家双方の合意を踏まえたうえで決定されます。企業が必要な資金と、投資家がとれるリスクのバランスを調整する必要があるからです。
たとえば、企業側は設備や人員を大幅に増やして売上拡大を狙うべく、多額の資金調達をしたいと考えているとき、資金調達ラウンドを進めることでより投資家からの支援を受けようとします。
一方で投資家側は、企業が現在のラウンドにおける課題をクリアしているのか、将来どれほど企業価値があがり自分たちにリターンがあるのかを厳しく見極めなければなりません。とくに後期のラウンドからの出資は投資家側としてリターンも低くなる傾向があるため、本当に投資リスクに見合ったラウンドであるかも検討します。
また、資金調達ラウンドを進めるには手続きも多く時間がかかるため、すぐに資金がほしい場合には適しません。企業は調達にかかる期間、必要な金額、発行する株式数などを考慮し、事業計画を練ったうえで必要な調達金額を提示し、投資家と十分な時間をかけて検討し資金調達ラウンドは決定されます。
資金調達ラウンドごとの特徴と資金調達方法
資金調達ラウンドが進むにつれて、資金調達額も増えていきます。業界や企業の規模によって異なりますが、目安の資金調達額はとしては以下の通りです。
資金調達ラウンド | 資金調達額 |
エンジェルラウンド | 100~1,000万 |
シードラウンド | 500~5,000万 |
シリーズA | 5,000~数億 |
シリーズB | 数億~十数億 |
シリーズC | 数十億~数百億 |
資金調達額はバリュエーション(企業価値)をもとに投資家と企業の交渉により決定されます。バリュエーションとは、企業の将来の収益力、市場での競争力、独自性などのさまざまな観点から検討し企業の価値を金額で表すことです。企業はバリュエーションにより決定した評価額をもとに株式を発行し、資金を集めます。
ただし、実際企業が資金調達する際は株式の発行だけでなく、金融機関からの借入や国や自治体の補助金・助成金、不動産等資産の売却など、さまざまな方法で資金を集めるケースがほとんどです。
エンジェルラウンドの特徴と資金調達方法
エンジェルラウンドとは、創業前後のまだ製品・サービスがアイデア段階での最初の資金調達です。シードラウンドの前段階であることからプレシードラウンドとも呼ばれています。
資金調達方法は、この段階では実績がないため難しく、創業者個人の出資や家族からの借入がメインとなることもしばしばあります。しかし、優れたアイデアや創業者の能力が評価されている場合は、エンジェル投資家が投資をするケースもあります。エンジェル投資家は個人の責任で資金を提供する投資家のことで、経営について有益なアドバイスをしてくれる投資家もいます。
他にもエンジェルラウンドでは、日本政策金融公庫などの創業融資制度を活用する方法が考えられます。いずれにしてもまだスタート期であるため、調達金額は他のラウンドと比べると少額になります。調達した資金は、製品の開発やサービスをつくるための優秀な人材確保などに充てられます。
エンジェルラウンドで動く金額は他の事業フェーズと比べて少額ですが、今後の事業の成功を決める重要な第一歩といえるでしょう。
シードラウンドの特徴と資金調達方法
シードラウンドとは、製品・サービスが形になり始める段階です。
資金調達方法は、クラウドファンディングやベンチャーキャピタルからの出資が考えられます。他に不足している分は日本政策金融公庫や信用金庫、地方銀行などの民間金融機関からの融資や、助成金・補助金でまかないながら事業を進めます。
調達した資金は製品・サービスのテスト版のリリースや仮設検証などに使われます。また、継続的な出資を受けるためにも株主の入れ替えは容易にできないため、シード期に信頼できる出資者を見つけることも大切です。そのため調達期間は3か月~半年程度かかる場合が多いです。
次のラウンドに進むためにも、シードラウンドでは事業の将来の収益性や独自性、チームメンバーの能力の高さなど、投資家にアピールできるだけの材料をつくらなければならないといえるでしょう。
シリーズAラウンドの特徴と資金調達方法
シリーズAラウンドとは、製品・サービスが正式にリリースされ、事業が本格化してくる段階です。製品・サービスが市場で認知され受け入れられ始めて売上が伸びてくる時期ですが、経営上の課題はまだ残っている段階です。
資金調達方法は、ベンチャーキャピタルからの出資のほか、これまでの金融機関からの追加融資などが考えられます。調達した資金は、製品・サービスの拡大と改良、またブランディングの強化やさらなる人材投入といった経営課題を改善するためなどに用いられます。調達金額が数億にのぼることもあり、調達期間も半年程度と長くなってきます。
シリーズAからシリーズBに進むためには、経営課題を解決し継続的に努力していくことを投資家にアピールする必要があるといえます。
シリーズBラウンドの特徴と資金調達方法
シリーズBラウンドとは、事業が軌道にのり収益が確保されこれからの成長も十分見込める段階です。
資金調達方法はベンチャーキャピタルやCVC(企業が設立運営するベンチャーキャピタル)、日本政策投資銀行などの出資のほか、メガバンク含む民間金融機関からの融資など選択肢が増えてきます。調達した資金は、さらなる事業基盤の安定化や売上拡大に向けての事業戦略の達成などに使われます。株主も増え事業計画もより長期的な展望を求められるため、調達期間は一般的には半年以上といわれています。
シリーズBラウンドのあと、シリーズCを経ずにIPO(上場)する企業もあります。事業性が確立された時期として考えていいでしょう。
シリーズCラウンドの特徴と資金調達方法
シリーズCラウンドとは、経営基盤が安定しIPOやM&AなどのEXIT(出口戦略)を見据えた戦略を立て始める段階です。シリーズD、Eと続いていくケースもありますが、シリーズCはスタートアップ企業の最終資金調達ラウンドであることが多いです。
シリーズCラウンドで活用する資金調達方法は、シリーズBと同じくベンチャーキャピタルやCVC、日本政策投資銀行などの出資のほか、メガバンク含む民間金融機関からの融資などが挙げられます。調達した資金は、IPOに向けた準備やコーポレート整備に使われたり、新製品開発や海外展開するなどの積極的な資金投入をしたりする場合があります。
調達期間はシリーズBと同じく半年以上かかることが多いです。
一般的にはIPOを目指す企業が多いですが、近年ではM&Aを行う企業も増えています。
2023年4月1日施工されたオープンイノベーション促進税制によると、CVCや大企業がスタートアップの株式を一定以上取得する際の優遇措置をとるとしており、スタートアップのM&Aが今後活性化するのではと予想されます。
まとめ
企業にとって資金の確保は事業の成否に直結します。かといって過度な資金調達はかえってマイナスとなり、戦略的に資金調達することが何よりも重要だといえます。
資金調達ラウンドを理解することで、自社の立ち位置が俯瞰で見れるようになり、また取引先や同じ業界の企業にとって今回の資金調達は何を意味するのか、IPOに向けてどれだけ進んでいるのかが見えてくるでしょう。