会社を設立したいと考えていても、どんな流れでどんな手続きが必要なのか、疑問を持ってる方も多いのではないでしょうか。
ここでは、会社設立に関する基礎知識から、実際、アクションを起こす場合の具体的な手続きについて紹介いたします。
目次
1.【準備編】会社設立と個人事業主のメリット・デメリット
(1)経費として処理できる範囲
個人事業主の場合、個人で使用したものと事業で使用したものの境界線が曖昧なため、必要経費として認められないケースも少なくありません。
しかし、会社の場合、会社と個人が経理面で明確に分けられるため、個人事業主では認められない経費が認められます。
例えば、自宅兼事務所や生命保険、自動車や退職金など。借入金などの返済や固定資産の購入は除き、原則、支出はすべて会社の経費として認められます。
(2)赤字(欠損金)の繰越期間
欠損金とは、売上よりも費用が多くなったときに計上される損失、つまり赤字のことです。
もし仮にある年度で欠損金が出てしまったとしても、翌年以降に繰り越すことができます。個人事業の場合、3年間しか赤字の繰り越しはできませんが、法人の場合の赤字は、9年間繰り越すことが可能です。
(3)資金調達や融資
資金が必要となり、銀行から融資を受けようとした場合、法人の方が一般的に融資は受けやすいです。
銀行が融資をする際の判断基準として、「返済能力があるかどうか」という点が挙げられます。
会社はお金の流れをすべて帳簿付けして厳格に財産管理しているため、銀行も融資判断がしやすく、融資の可能性が広がります。
(4)節税対策
個人事業主の場合、所得税は累進課税となり、所得が増えれば増えるほど、税率も高くなります。
一方、法人は、一定の税率です。
そのため、年間所得が継続して500万円を超える水準であれば、会社を設立したほうが、節税効果は高くなるでしょう。
また、資本金1,000万円未満で新しく会社を設立した場合には、2年間消費税が免除されます。
(5)相続税
個人事業主の場合、経営者が亡くなるとすべての財産が相続税の対象となります。
しかし、法人の場合は、会社の所有している財産に対して、相続税がかかりません。
(6)信頼度
一般的に個人事業主よりも法人のほうが、信頼度は高いです。
会社を設立する場合には、資本金を用意しなければなりません。
「資本金がある=お金を調達する能力がある」と外部の関係者からは認識されるのです。
もちろん、その人の能力や信頼のほうが重要で、必ずしも会社のほうが信用があるとは限りません。
しかし、大手企業などで、実績があっても個人事業主に対しては仕事を発注しないという会社があるのも事実です。
(7)ランニングコスト
会社を設立するには、様々なコストがかかります。
定款の作成や登記申請など個人事業主に比べて、必要な手続きが多いためです。
また、法人の場合、法人住民税の均等割といって、たとえ赤字の年度であっても最低7万円は支払わなければならない税金もあります。
(8)社会保険への加入
法人は社長ひとりで従業員がいない場合でも、社会保険への加入が義務づけられています。
一方、個人事業主の場合は、従業員が自分ひとりであれば、加入の必要はありません。
(9)事務負担
会社を設立すると、個人事業主に比べ、格段に事務負担が増加します。
厳密な会計ルールに則った会計処理や税金の申告、会社の組織に関する手続きなどが必要となるからです。
さらに経営に関する重要事項は、株主総会・取締役会において決議をしなければなりません。
法人では、こうした営業活動以外の事務負担が大幅に増えます。
2.【準備編】会社設立時の助成金・補助金制度
会社設立を考えているけれど、資金がない。
会社を設立したばかりで、銀行など金融機関からの資金調達が難しい。
こうした場合に利用できる助成金や補助金があります。
助成金や補助金とは、国や地方公共団体、民間団体・企業などからお金をもらうことのできる仕組みのことです。
たとえば、新たに創業した人が受け取ることのできる可能性がある「創業補助金」などがあります。
事業を早く軌道に乗せるためにも、補助金などをうまく活用していきましょう。
3.【準備編】株式会社だけじゃない!会社の種類と選択のポイント
会社を設立するというと「株式会社」を思い浮かべる人が多いかと思います。
実際、会社設立には、「株式会社」「合同会社」「合名会社」「合資会社」など、様々な種類があります。
「合名会社」と「合資会社」は出資した額を超えて責任を負うことがあるなど、重いリスクがあるため、利用数はあまり多くありません。
ここでは、意外と知らない人も多いですが、株式会社と同様のメリットがあったりもする「合同会社」について、紹介します。
合同会社のメリットは以下の3点です。
- 手続きが簡単
- コストが安く済む
- 煩わしい事務作業が少ない
一方で、合同会社のデメリットは以下の2点です。
- 社会的認知度が低い
- 株式公開が出来ない
会社を設立する際は、自分のやろうとしている事業がどの形態に適しているのか比較し、十分吟味の上、選択してみてはいかがでしょうか。
4.【準備編】会社設立は自分でやる?それとも専門家に依頼?
会社を設立するには、様々な手続きが必要です。
すべて自分で行うこともできますが、専門家に依頼することで、スムーズに手続きを済ませることが出来るでしょう。
税理士をはじめ、司法書士、行政書士、社会保険労務士といった士業の先生に依頼する場合のメリット・デメリットを見てみましましょう。
(1)税理士
税理士に依頼する場合、税務関係の届出の作成・提出を代行してもらえるというメリットがあります。
また、税金を抑えたいなどの相談も可能です。
さらに他の士業と比べて、報酬が安いのも特徴です。
ただし、会社設立に関する登記関連業務や事業の許認可については専門家ではありません。
なので、登記関連についても書類作成までの手伝いのみであったり、許認可に詳しくない場合は、許認可申請で時間がかかったりという場合もあります。
(2)社労士(社会保険労務士)
会社を設立すると、社会保険・厚生年金・雇用保険の加入が必要です。
社労士に依頼するメリットは、これらの手続きを会社設立の手続きと一緒にお願いできる点です。
また、起業直後で、少しでも資金がほしいと助成金の申請を考えている方も多いでしょう。
社労士に依頼することで、助成金の申請・受給までの一貫したサポートを受けることができます。
(3)司法書士
法人の登記手続きを代行できるのは司法書士だけです。
一方で、司法書士には税務知識などはありませんので、会社設立に関連する税務処理や会計処理などの具体的な相談はできません。
なので、会社設立の際に必要な手続きだけを依頼するのであれば、司法書士に頼むのはかなりのメリットがあります。
(4)行政書士
一定の認可が必要となる建設業、運送業、飲食業などの業種では、許認可手続きをお願いできる行政書士に依頼するのがベストです。
一方で、司法書士同様税務知識がないこと、また登記の専門家ではないことから、設立登記等に時間がかかる可能性もあります。
5.【実践編】会社設立の具体的な手続き
ここまでは、会社を設立するための基本知識を説明してきましたが、ここからはいよいよ具体的に必要な手続きについて、解説していきます。
(1)会社の名前を決める
まずは、会社の名前(商号)を決めましょう。
基本的には、自分で自由に決めることが可能です。
しかし、使える文字が制限されているので、詳しくは法務省のホームページで確認してください。
他にも注意しなければいけないことは、登記の住所が同じ場合、同一の社名を付けることはできないという点です。
ですので、本店所在地を管轄している法務局で類似商号がないことを事前にチェックしておきましょう。
「商号」を決める際には、「不正競争防止法」等にも注意する必要があります。
代表例として「銀行」が挙げられ、銀行業でないのに「銀行」という文字を使用することは、法律上、禁止されています。
また、実績のある有名企業の名前など、他の会社であると誤認させる恐れのある名前も使うことはできません。
(2)印鑑の作成
会社を設立する際には、印鑑が必要です。
なかでも、最も重要なのが「代表者印」です。
代表者印は、登記手続きの際に登記申請書に捺印し、代表取締役が登記時に申請する印鑑となります。
その他、銀行の口座を開設する際に必要となる「銀行印」や請求書や発注書など、日常の業務で使われる「社印(角印)」を準備しておきましょう。
また、さまざまな書類の署名欄や封筒の差出人欄に使用できる、会社名や本店所在地、代表者名などが彫られたゴム印も用意しておくとよいでしょう。
(3)役員報酬額の決定
毎年、どこの会社の役員が、どのくらい役員報酬をもらっているのか、話題になっていますよね。
役員報酬は、どこの会社も税法と照らし合わせ、非常に綿密に決定されています。
なぜなら、税法上、役員報酬は原則、経費として認められないからです。
つまり、役員報酬を決める際は、節税の効く範囲内にする必要があるのです。
会社を立ち上げた直後の会社にとって、役員報酬は、最も大きな費用と言えるでしょう。
役員報酬をいくらにするかによって、会社が納める法人税が多くなったり、社長にとっては、個人として支払う所得税が多くなったりと、当然会社の資金繰りや役員自体の生活にも大きく影響してきます。
(4)資本金額の決定
現在の法律では、資本金1円からでも会社を設立することができます。
そうした中で、資本金はいくらに設定したらいいのでしょうか。
そもそも「資本金」とは、会社を設立する際に集めた資金、つまり最初の軍資金です。
資本金が多ければ多いほど、「体力のある会社」と見なされ、仕入れ先や営業先との取引で有利になるでしょう。
資本金の額によって、会社の信用力が大きく左右されるのです。
特に会社を設立したばかりの頃は、対外的な評価がないため、その判断基準として資本金が大きな根拠となります。
しかし、例えばBtoCのビジネスを行う場合には、一般の消費者は企業の規模についてそれほど注意を払わないので、資本金を無理に高くする必要は低いと言えます。
しかし、よほど信用力が必要となる事業以外は資本金は1,000万円未満(9,999,999円まで)にしましょう。
前述した通り、資本金が1,000万円未満だと2年間消費税免税事業者となるため、消費税の納付義務がないためかなり有利となります。
6.【実践編】定款を作成する
会社を設立する際、欠かせないのが「定款」の作成です。
「定款」とは、会社の基本規則を記したもので、「会社の憲法」と呼ばれることもあります。
この「定款」には、必ず記載しなければならない事項である「絶対的記載事項」など、規定のルールがありますので、注意して作成する必要があります。
(1)事業の目的
自分の会社がどのような事業を行うのか記載します。
会社は、定款に記載した目的以外の事業を行ってはいけません。
ですので、会社設立時には行わない事業だとしても、あとで定款の事業目的を変更する場合はまた費用がかかるので、将来行う可能性のある場合には、すべて記載しておきましょう。
また、定款の目的の最後に、「前各号に付帯または関連する一切の事業」と記載しておくことがポイントです。
そうすれば、新しい業務を開始する場合でも、目的に関連したものであれば定款を変更する必要はありません。
(2)本店所在地
本店所在地には本社を置く住所を書きます。
定款には、最小行政区画までを記載する方法と番地も含め、すべての住所を記載する方法があります。
例えば、東京23区については区までの記載でOKとなります。この場合、同一区内で会社を移転する際は、定款の変更手続きをする必要がなくなります。
(3)設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
株式会社を設立する場合、出資財産額については、必ずしも確定している額ではなく、「その最低額」を決定すればいいことになっています。
定款作成後、たとえ定款に記載した「発起人の出資額」のうち、一部のみしか出資の履行ができなかったとしても会社を設立できるよう認められた措置です。
ただし、株式登記申請する際には、資本金の額を確定する必要があります。
(4)発起人の氏名または名称(法人の場合)および住所
「発起人」とは、会社を設立する際、資本金の出資や会社の重要事項の決定、定款の作成など、設立手続きを実際に行う人を言います。
発起人の氏名・住所は、定款に必ず記載しなければならない絶対的記載事項です。
また、設立する会社の株式を必ず1株以上引き受けるというルールがあり、定款に発起人の持ち株数の記載も必要になります。
(5)発行可能株式総数
「発行可能株式総数」とは、株式会社が発行することのできる株式総数のことです。
会社は、この発行可能株式総数を超える株式を発行できません。
超える場合には、定款の変更手続きが必要となります。
非公開会社を除き、設立時発行可能株式総数は、発行可能株式総数の4分の1を下回ることができません。
(6)定款の認証
いよいよ定款の作成が完了したら、次はその定款の記載が正しいかどうかを第三者(公証人)に証明してもらうことが必要となります。
定款の認証は、会社の本店所在地を管轄する「公証役場」で行います。
定款は、紙面以外に、PDFで作成した電子定款でも認証を受けられます。
電子定款の認証の場合、収入印紙代4万円分が不要というメリットがあるので、おすすめです。
ただし、事前に用意するものがありますので、あらかじめ確認しておきましょう。
7.【実践編】登記書類を作成する
(1)資本金の払込
登記申請の際、資本金の払込証明書が必要となりますので、下記手順で手続きを進めましょう。
- 発起人個人の銀行口座に資本金を振り込む
- 通帳の表紙と1ページ目(表紙裏)、振り込み内容が記載されているページのコピーを取る
- 振込証明書を作成
- 通帳のコピーと一緒に綴る
(2)各種申請書の作成
会社の形態や定款の内容によって、必要な書類の種類も異なります。自分の会社のタイプに合わせて、書類を準備しましょう。
基本的に必要な書類は以下です。
- 登記申請書
- 定款
- 登録免許税の収入印紙(4万円分)を貼付した台紙
- 登録事項を保存したデータディスク(CD-R、フロッピーディスクなど)
- 発起人の決定書
- 取締役の就任承諾書
- 監査役の就任承諾書
- 取締役全員の印鑑証明書
- 資本金の振込証明書
- 印鑑証明書
8.【実践編】会社設立登記を申請
会社設立登記は、資本金払込後2週間以内に行わなければなりません。
自分の会社の本店所在地を管轄する法務局へ申請します。
原則として、代表取締役が会社設立登記の申請を行います。
申請方法は、法務局の窓口へ直接持参する方法や郵送、オンラインの3種類があります。
ここで1点、注意しなければならないのは、郵送の場合、申請書類が法務局に届き、受付をした日が会社の設立日となります。
会社設立日を特定の日にしたいなど、こだわりのある方は、実際に法務局へ行って、窓口での申請がおすすめです。
9.【実践編】会社設立後、法務局での手続き
会社登記が完了したら、引き続き、法務局で行うその他の申請を終わらせてしまいましょう。
まずは「印鑑カード」の取得です。
「印鑑カード」とは、会社の印鑑証明書の発行請求時に法務局の窓口で必要となるものです。
「印鑑カード交付申請書」を作成して、窓口に持参するだけで、申請は完了です。
申請したその日には受け取りできるので、印鑑カードを受け取ったら、早速そのカードを使って、会社の印鑑証明書の交付をしてみましょう。
印鑑証明書は、会社の設立時では、銀行口座を開設するときなどに求められます。
次に「登記簿謄本(登記事項証明書)」の取得をしましょう。
こちらも会社設立後の手続き、口座開設などに必要となりますので、5通ほど交付を受けておくと、何度も法務局へ足を運ばずに済みます。
10.【実践編】会社設立後の税務署への届出と申告
法務局での手続きが終わったら、次は税務局への届出をします。
税務署への手続きが、会社を設立後、最も重要な位置づけとなっていますので、しっかりと確認しておきましょう。
主に次の6つが届け出に必要なものです。
- 法人設立届
- 青色申告の承認申請書
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 棚卸資産の評価方法の届出書(任意)
- 減価償却資産の償却方法の届出書(任意)
手続きは、会社の本店所在地がある地域を管轄する税務署で行います。
11.【実践編】その他各種届出
(1)地方自治体に地方税の届出
登記から2ヵ月以内に、本店所在地がある都道府県・市区町村へ地方税についての手続きを行います。
申請書類の形式は各自治体によって異なりますので、ホームページでチェックをしてください。
また、申請書のほかに定款のコピーと登記簿謄本も必要ですので、忘れずに準備をしましょう。
(2)社会保険関係の届出
①年金事務所
会社を設立したら、たとえ社長が自分1人の会社だったとしても、「社会保険」に加入しなければなりません。
また、提出期限が登記から5日以内と短いので、注意をしてください。
②労働基準監督署
会社を設立してから従業員を雇った場合には、「労働保険」の加入手続きが必要となります。
③ハローワーク(公共職業安定所)
ハローワークでは、「雇用保険」への加入手続きを行います。
こちらも「労働保険」と同様、従業員がいない場合には加入の必要はありません。
従業員を雇った際、すぐに手続きを行いましょう。
12.【実践編】その他会社設立後に必要になるもの
会社の設立が終わったら、いよいよ営業が始まります。
いざ営業が始まれば、すぐにではなくても必要なものが他にも出てきますので、早めに準備をしておくといいでしょう。
会社設立後に準備すべき事項
- 会社のロゴ
- 名刺
- ホームページ
- 挨拶文
- 会社概要のチラシ
- 営業資料
- 経理管理
- 契約書関係
- カード・口座関係
- オフィス関係
13.まとめ
会社設立までの流れをご説明しました。
たとえ、すべて自分ひとりでできなかったとしても、専門家の力を借りて手続きを進めるのもひとつの手です。
設立をする前にしっかりと準備をして、良いスタートを切りましょう。