起業するために必要な開業費用は、店舗を開業するのか、自宅で働ける個人事業主になるかなど、事業内容によっても異なります。
具体的に「何に」「どれぐらい」「いつ」開業資金が必要なのかを把握しなくては、お金を借りる事はできません。
今回の記事では、起業に必要な資金の目安と、経営者が平均でどの程度金融機関からの融資を受けているのか解説します。
目次
1.事業に必要な初期費用の例
日本政策金融公庫が発表した「2019年度新規開業実態調査」によれば、開業費用の平均値は1,055万円でした。
とはいえ、事業内容によって必要な資金は異なるので、開業にはいくら資金が必要かという明確な基準はありません。たとえば、自宅を事務所にして仕事道具が揃っていれば0円からでも独立できます。
しかし、開業直後は売上が出ないことも想定して、3か月から半年は自己資金で生活することも多いです。そのため、個人の独立開業でも300万円程度の資金は準備しておいた方が良いでしょう。

また、店舗を構える場合には機材の設備投資や内装、従業員の賃金、材料の仕入れなどの費用がかかりますので、1,300万~2,000万円程度の資金が必要になることも稀ではありません。
以下では、事業をはじめるのに必要な初期費用を事業内容別にご紹介します。提示している費用はあくまで相場になりますので、参考値としてご参照ください。
① 独立開業の場合(起業)
- 名刺や印鑑などの購入費:3.000~20,000円程度
- 打合せのための交通費:月に5,000~50,000円程度
- 打合せの飲食費:月に5,000~20,000円程度
- 文房具やソフトウェアの購入費:5,000円程度
- チラシ印刷代、Webサイト作成費:(チラシ)30,000円~20,000円、(Web)250,000~1,000,000円程度
- オフィスの契約関連費用:(不動産屋)200万円程度、(オフィスなしの場合)0円
計:298,000円~
それまで勤めていた会社から独立し起業する場合、文房具やソフトウェアといった備品の購入費や打ち合わせの経費、事業を知ってもらうための宣伝費などがかかります。
また、自宅で仕事をするのではなくオフィスを構える場合は、賃料も発生するため、初期費用として敷金礼金や管理費もかかるでしょう。
② 個人事業主の場合(自営業主)
【ラーメン屋の場合】
- 設備資金:934万円(保証金84万円、厨房機器・食器・調理機器・製麺設備費:450万円、内外装費・電気ガス・水道等の設備工事費:400万円)
- 運転資金:465万円(初月のみ発生の礼金・仲介手数料・前払い家賃42万円を含む)
計:1,399万円程度
【カフェの場合】
- 設備資金:770万円(居抜き物件取得費300万円、内装設備工事費200万円、備品・消耗品代270万円)
- 運転資金:100万円(初月のみ発生の礼金・仲介手数料・前払い家賃15万円を含む)計:870万円
計:870万円程度
③ 会社を設立する場合(5~15名程度の小規模の場合)
【会社登録関連】
- 登録免許税:15万円
- 定款認証料:5万円
- (※会社設立代行を頼む場合:設立代行手数料 1万円)
- 会社印鑑作成料:2万円
計:23万円程度
【不動産関連】
事務所を作る場合(内装費は含まない)
(1)不動産屋で物件のレンタル契約をする※東京・新宿区×30坪の場合
- ひと月の家賃平均:35万円程度
- 仲介手数料:35万円程度
- 敷金・保証金:50万円程度
- 礼金:50万円程度
- 家賃前払い:35万円程度
計:205万円程度
(2)共用のレンタルオフィスで1部屋を借りる※東京・品川区の個室プランで電話番号ありの場合
- 入会金:1万円~15万円程度
- 保証金:5~15万円程度(1か月の利用料相当)
- 月額利用料:5~15万円程度
計:11~45万円程度
④ バーチャルオフィスで住所だけ借りる※東京・住所を法人登記して電話番号ありの場合
- 月額利用料:3,000~30,000円程度
- 専用ロッカー:3,000円程度
- 郵便受取・転送サービス:1,000~3,000円程度
- Fax回線:3,000~5,000円程度
- 電話代行・秘書サービス:月額1,5000円、または1コール従量制
計:25,000~56,000円程度
【事務用品 / 通信費関連】
- パソコン3台の場合:15~30万円(Excel等込み)
- 必要なソフト:1~3万円(Photoshop、弥生会計など)
- プリンター:(リース)5,000円(購入)5~10万円程度
- シュレッダー:1~3万円程度
- 電話機:1万円程度
- 文房具/コピー用紙:1~5万円程度
- 通信費:(固定電話番号)500円~、インターネット料金(ひかり)3,0000~4,000円程度
計:198,500円~524,500円程度
2.事業のはじめ方は大きく分けて2種類
「事業をはじめる」とは、会社員のようにどこかの会社に属してお給料をもらうのではなく、自分でお金を稼ぐこと全般を指します。
もちろん、会社が許せば働きながら自分で事業もしているサラリーマンも世の中にはいるでしょう。
事業をはじめ方を大別すると下記の2種類に分けられます。
① 個人事業主として独立開業する(飲食店を経営する、アナウンサーや弁護士として独立する等)
【例】
- テレビ局でアナウンサーをしていたけど、フリーのアナウンサーにする
- 板前として寿司屋で修行をしていたが、自分の店を持つことにする
- 法律事務所に所属していた弁護士だが、自宅に事務所を開くことにする
- エステの大手チェーンで店長をしていたが、資金が貯まったので自分の店を持ちたい
- 留学経験を生かし、さらに子育て中でも時間の融通が利く英会話教室を自宅で開きたい
②会社を設立する(法人/企業を作る)
【例】
- 今まで大手IT企業で10年以上開発を担当。こども用のオンライン教材の会社を作る
- 旅行会社で長年勤めていたが海外に移住したい。海外で旅行者を案内する会社を作りたい
- 親の不動産を引き継ぐ予定。設立のための資産管理会社を設立したい
このように一口に事業を始めると言っても、実にさまざまな種類がある事がわかります。起業を志すなら、まず事業の種類や、個人事業主としてスタートするのか、会社設立するのか決めましょう。それにより、起業に必要な資金は異なるからです。
3.開業資金が必要になるタイミング
事業を始めるのに必要なお金の目安がわかったところで、次は「いつ」開業資金が必要なのかを解説します。
(1)会社設立する場合
会社設立する場合、資本金が必要です。
しかし、資本金は1円でも会社設立は可能です。さらに、資本金はあとから増資できますので、まずは最低100万円程度を最初に用意しておく、と考えましょう。
会社設立をするための必須条件としては、管轄の法務局で登記申請という手続きをする必要があります。
この申請の際には、会社登録関連費用として23万円必要です。まず一番に必要な金額ですので、登記申請する前は必ず23万円を用意しておきましょう。
(2)事務所や実店舗が必要な場合
事務所や店舗の不動産を借りる場合にお金がいつ必要になるかを把握しておきましょう。
店舗経営をされる事業主の場合は、一度に1,000万円もの資金を用意するのは非常に難しいでしょう。そこで、日本政策金融公庫のような公的金融機関の事業融資を利用して資金を調達する方法があります。
日本政策金融公庫でお金を借りる場合、事業をする場所(お店を開く場所や店自体)を既に契約できている前提で話が進められます。そのため、日本政策金融公庫への申し込み前に不動産の仮契約に必要な頭金程度は用意しておく必要があります。
4.事業を始めるために必要な開業資金を借りる方法
開業費用をすべて自己資金でまかないたいという方が多いですが、資金はすべて自分で用意するのではなく、金融機関から融資を受けて開業資金に充てれば、資金繰りに余裕をもった経営ができます。
起業で融資を受ける場合、銀行など一般的な金融機関は実績のない事業主に対する融資を避ける傾向にあります。
しかし、日本政策金融公庫や信用保証協会などの公的な金融機関を利用することで、起業時にも比較的低金利で融資を受けられるので、まずはご検討をおすすめします。
以下では、開業資金の調達方法を種類別にご紹介します。
(1)日本政策金融公庫から借りる
日本政策金融公庫とは、国が株式100%出資する政府金融機関で、個人事業主や中小企業へ低金利での融資を行っています。
公庫を利用するメリットは、創業したばかりで経験・実績が不足している事業者でも審査に通りやすい点です。また、「新創業融資制度」は無担保・無保証人ため経営者の負うリスクを低く抑えられます。
日本政策金融公庫の「新創業融資制度」
「新創業融資制度」は創業前か、創業直後の経営者が利用できる、無担保・無保証人の融資制度です。原則無保証人のため、経営者の負うリスクを低く抑えられるメリットがあります。
■新創業融資制度の概要
対象 | 創業前または創業後、税務申告を2期終えていない個人事業主・法人 |
融資限度額 | 3,000万円(うち運転資金として使えるのは1,500万円) |
標準利率 | 2.41~2.90%程度(令和3年2月1日時点) |
担保・保証人 | 原則不要(創業者が希望すれば代表者を連帯保証人に設定することが可能。その場合、利率が0.1%低減) |
※条件を満たすことで特別利率を適用できる場合があります。詳しくは、国民生活事業(主要利率一覧表)参照。
申し込みにあたっては、自己資金(預金口座の貯蓄)の金額が、事業計画で必要な資金総額の10分の1以上必要になります。
自己資金なしで日本政策金融公庫を利用するのは難しいですが、50万円~100万円ほどご自身で貯められる見込みがあれば、融資の専門家にサポートを依頼することで審査に通ることもあります。
当社株式会社SoLaboでは、公庫の融資審査に通過するかどうか無料診断も実施しております。ぜひこちらの診断フォームからお気軽にお問い合わせください。
(2)信用保証協会を経由して金融機関からお金を借りる
信用保証協会とは、銀行などの金融機関と事業主を仲介する公的機関です。信用保証協会を利用すると返済能力を保証してくれるので、金融機関から融資を受けられるようになります。
事業主が金融機関に返済できなくなった際には、信用保証協会が金融機関に代位弁済してくれます。事業主はその後、弁済された分を信用保証協会に返済していくことになります。
(3)地方自治体の起業支援制度を利用する
日本国内の各地方自治体でも、起業を支援するさまざまな制度を設けています。
なかでも、地方自治体の認定を受けたうえで、信用保証協会からの保証を受ける「制度融資」は、創業直後の事業者が融資を受けやすい制度です。
制度融資に関しては、自治体ごとに案内できる内容が異なりますので、まずは一度起業する場所が該当する自治体へ問い合わせてみましょう。
(4)ベンチャーキャピタルから出資を受ける
ベンチャーキャピタル(略称:VC)とは、将来性のあるベンチャー企業(スタートアップ企業)に投資し、投資先企業が上場後、株式売却で利益を出すことを目的としている投資会社です。
VCからの出資は、金融機関の融資とは異なり、投資してもらったお金を返済する必要が無いという大きなメリットがあります。
一方で、VCが経営に口を出してくることで、経営者の自由度が制限される恐れもあるため、出資を受ける際は慎重に検討する必要があります。
(5)クラウドファンディングを利用する
クラウドファンディングとは、不特定多数の支援者から、資金の提供を受ける事でプロジェクト・事業に必要な資金を集める手法のことです。
資金が提供される形態によって金融型・購入型・寄付型に分けられます。
金融型は「投資型」ともよばれ、支援者が分配金や株式などの金銭的リターンを受け取る仕組みになっています。
一方、購入型は支援者に金銭以外の何らかのリターンを提供します。例えば、商品開発のプロジェクトであれば、集まった資金でその商品現物を開発し、支援者には完成品が届けられる、という内容です。
寄付型は、資金提供による見返りを求めず、単純に資金を募る形式です。
いずれの場合も、インターネット上のクラウドファンディングサイト等を通じて支援者を募集するのが一般的なやり方です。
5.金融機関とのやり取りは融資の専門家に依頼するのがおすすめ
日本政策金融公庫や信用保証協会を利用する際には、国から「事業者の経営相談ができる」と認められた「認定支援機関」にサポートを依頼するのがおすすめです。

認定支援機関は事業計画のサポートや金融機関とのやり取りを経営者の代わりにサポートしてくれるので、信用力が増し、金融機関から融資を受けやすくなる傾向があります。
当サイトを運営する株式会社SoLaboも認定支援機関です。これまでに3,700件以上の融資をサポートしてきた実績があるため、これから創業を考えている方の業種に応じたサポートが可能です。
日本政策金融公庫や信用保証協会がどんな機関なのか、または希望する業種ではどの程度の開業資金が必要かなど、疑問点はお気軽にお問い合わせください(相談無料)。
まとめ
起業時はなかなか経営に関する知識が十分でない方も多いですが、資金や税金などお金についてある程度の知識は必要です。今回は、開業資金の目安と、その調達方法を中心にご紹介しました。
創業前後は想定以上に出費がかさみ、「開業資金にもっと余裕を持つべきだった」という経営者の声も少なくありません。事業をスタートしてから資金不足で困らないように、資金準備は早めにスタートしましょう。