イランなど中東情勢の緊迫化に伴い、原油や石油製品の価格高騰が多くの事業者の資金繰りに影響を及ぼしています。とくに直近では、プラスチックなどの基礎原料となるナフサの供給不足や価格高騰が深刻化しており、事業継続に支障をきたすケースも発生しています。
予測困難な外的要因によって業績が悪化した場合、早急な資金手当てが今後の事業展開を左右します。
本記事では、急な資金難に直面した事業者が検討できる融資や資金調達制度について解説します。国や自治体、民間金融機関が提供する支援策から、体質改善に使える補助金までを網羅的にまとめました。自社の状況に合った対応を選択し、資金ショートを防ぐための情報としてご活用ください。
目次
イラン・中東情勢で利用できる資金調達制度
イラン・中東情勢の緊迫化に伴う資金繰り対策として、「日本政策金融公庫」「都道府県の制度融資」「民間の金融機関」「補助金・助成金」の4つの手段があります。
【イラン・中東情勢で利用できる資金調達制度】
| 資金調達制度 | 特徴・メリット | 融資スピードの目安 |
| 日本政策金融公庫 | 低金利かつ長期の借入が可能。セーフティネット枠が充実している。 | 通常(1ヶ月程度〜) |
| 都道府県の制度融資 | 自治体による利子補給や保証料補助が受けられるケースがある。 | 通常(1ヶ月程度〜) |
| 民間金融機関 | 既存の取引がある場合、独自の特別枠等で迅速な対応が期待できる。 | 早い(2週間程度〜) |
| 補助金・助成金 | 原則として返済不要。IT導入や省力化投資による体質改善に有効。 | 遅い(半年以上) |
燃料費高騰で利益が圧迫されている場合は金利負担の少ない公庫や制度融資が適していますが、急ぎで資金を手当てしたい場合は民間融資が選択肢に挙がるなど、自社の状況によって最適な方法は異なります。
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日本政策金融公庫のセーフティネット貸付
日本政策金融公庫の「セーフティネット貸付」は、社会的・経済的環境の変化に起因して、一時的な資金繰りの悪化に直面している事業者を対象とした融資制度です。中東情勢を背景とした原油高や物価高騰の影響を受けている事業者も対象となります。
この制度は、外的要因によって売上や利益が減少している中小企業・小規模事業者の経営基盤を支える目的で設けられています。一定の要件を満たすことで、通常の融資制度よりも柔軟な限度額や金利の枠組みで資金調達の相談が可能です。
【セーフティネット貸付の概要】
| 項目 | 概要 |
| 対象者 | 中東情勢等の影響で一時的に業績が悪化し、中長期的に回復が見込まれる方
(※最近の売上高や利益率が前年比等で減少していること) |
| 資金の使い道 | 経営基盤の強化に必要な設備資金および運転資金 |
| 融資限度額 | 中小企業事業:7億2,000万円
国民生活事業:4,800万円 |
| 利率 | 基準利率(※要件を満たせば特別利率の適用あり) |
たとえば、燃料費の高騰により利益率が低下している運送業や、原材料の仕入れコストが増加している製造業などの資金繰り対策として活用されることが考えられます。申請にあたっては、売上減少を客観的に証明する書類や今後の事業計画の提出が求められます。
公的な融資制度であるため、申し込みから着金までには一定の審査期間を要します。資金状況に懸念が生じた段階で、日本政策金融公庫の各支店や、中小企業庁が設置する特別相談窓口へ相談を進めることが適切な対応です。
都道府県の「制度融資」(中東情勢・原油高の特別枠)
各都道府県では、中東情勢の緊迫化や原油高の影響を受ける事業者に対し、独自の制度融資による資金繰り支援を行っています。国の支援策に加えて、地域ごとの実情に応じた特別枠の設置や、融資要件の緩和が順次始まっています。
制度融資は自治体、金融機関、信用保証協会が連携して提供しており、要件を満たすことで金利や保証料の優遇を受けられる点が特徴です。事態の長期化を見据え、現在以下のような自治体で具体的な支援策が公表されています(※情報は随時更新しています)。
【各都道府県で利用できる制度融資】
| 都道府県 | 制度名 | 対象・概要 |
| 埼玉県 | イラン情勢の影響を受ける中小企業向けの資金繰り支援 | 中東情勢の影響等で最近3か月の売上高や利益率が減少している企業が対象。商工会議所等で受付。 |
| 宮城県 | 緊急経済変動対策資金(地域経済対策枠) | 「令和8年3月原油価格上昇等による経済変動」の指定を受け、最近3か月の売上が前年比5%以上減少した企業等が対象。 |
| 山梨県 | 経済変動対策融資(経営環境変動対策関係【中東情勢対応枠】) | 最近3ヶ月間の売上高等が前年同期比15%以上減少、または原材料高騰等により売上原価等の割合が5%以上増加している企業が対象。県が信用保証料の全額を補助して支援。5月1日より受付開始。 |
| 静岡県 | 経済変動対策貸付(中東情勢の変化の影響) | 中東情勢に伴う原油・原材料価格の高騰により、最近1か月の売上高に占める仕入価格の割合が前年同期を上回り、かつ粗利益が前年同期比5%以上減少している中小企業が対象。 |
| 愛知県 | 愛知県経済環境適応資金 サポート資金【経済対策特別】 | 原油や原材料価格の上昇等により、直近の売上高総利益額が前年同期比で一定以上減少している企業が対象。 |
| 福井県 | 中東情勢の悪化による原油価格の高騰などで影響を受ける県内企業等が対象。融資限度額8,000万円(運転・設備)で、元金据置期間を最大3年以内と手厚く設定し資金繰りを支援。 | |
| 大阪府 | 中東情勢や原油価格上昇の影響を受ける府内中小企業を広く支援するため、制度融資の対象枠を拡充。直近1カ月の売上高や利益率が前年同月比で減少している企業が対象。 | |
| 兵庫県 | 経営円滑化貸付(原油価格高騰) |
※5月18日付で制度拡充。 原油に加え、原材料高騰の影響を受ける企業へも対象を拡大。最近1か月の原油等仕入額が売上原価の20%以上等の要件を満たす企業が対象。既存の県制度融資等からの借り換えにも対応。 |
| 岡山県 | 経済変動対策資金(中東情勢緊急対応) | 中東情勢の影響を受ける中小企業者の資金繰りを支援するため、県の融資制度内に新たなメニューを創設。5月1日から取扱いをスタート。 |
| 鹿児島県 | 中東情勢の変化により経営に影響を受けている中小企業者等への支援 | 中東情勢の変化や物価高騰の影響を受ける企業が対象。特別相談窓口を設置し、セーフティネット保証等の県融資制度の案内や、既往債務の返済条件緩和を実施。 |
具体的な制度が始まっている地域がある一方で、現段階では資金繰りに関する「特別相談窓口」の設置にとどまる自治体も存在します。中小企業庁の発表に基づき、全国の日本政策金融公庫や商工会議所、よろず支援拠点などに相談窓口が開設され、事業者の実情に応じた対応を行っています。
まずは「〇〇県 制度融資 中東情勢(または原油高)」などで検索し、事業所がある地域の支援状況を確認してください。該当する制度が見当たらない場合は、中小企業庁が公表している特別相談窓口一覧などを参考に最寄りの窓口へ問い合わせ、利用可能な融資制度の案内を受けましょう。
民間金融機関の融資・特別ローン
民間金融機関においても、中東情勢の緊迫化や物価高騰に対応した独自の融資制度の取り扱いが始まっています。公的機関のセーフティネット貸付や自治体の制度融資といった枠組みに加えて、地域金融機関が独自に設ける特別ローンを活用することが可能です。
民間の独自融資は要件が各金融機関で異なりますが、単独での審査となるので制度融資と比較するとスピーディに手続きが進む傾向にあります。事態の急変によって早期の資金手当てが必要な事業者にとって、状況を打開するための有効な選択肢となります。
【民間金融機関の専用ローンの例(西武信用金庫)】
- 制度名:中東情勢等対策サポート資金
- 対象者:中東情勢等の影響により、最近1か月の売上高または利益率が前年同期比等で減少している事業者
- 資金使途:運転資金および設備資金
新たな融資制度を探すにあたっては、ゼロから金融機関を開拓するよりも、まずは日頃から取引のあるメインバンクへ相談することが適切な手順です。自社の事業内容やこれまでの財務状況をすでに把握している金融機関であれば、現状の実情に即した融資の提案をスムーズに受けやすくなります。
補助金・助成金・支援金の現状と対策
中東情勢や原油高を直接の理由とした新たな補助金について、国レベルでの全国的な制度は現時点では公表されていません。しかし、地方自治体レベルでは、エネルギー・物価高騰の影響を受ける企業に向けた独自の設備投資補助金などの公募が一部の地域で始まっています。
たとえば宮崎県では、「ものづくり企業物価高騰対策設備等改修支援事業補助金」という省コスト化の設備改修に対して最大1,500万円を補助する特化型の支援策が公表されています。ただし、こうした自治体独自の補助金は募集期間が短いケースがあり、常にアンテナを張っていないと申請に間に合わないという注意点があります。
そのため、全国どの地域でも継続的に活用できる対策としては、依然として以下の「既存の補助金」を活用し、業務効率化や生産性の向上によって高騰したコストを吸収できる事業体制を構築することが基本路線となります。
【既存の補助金】
| 補助金名 | 目的・概要 | 対策への活用例 |
| IT導入補助金 | 業務効率化や売上アップを目的としたITツールの導入費用を支援する制度。 | 受発注システムや在庫管理ソフトを導入し、事務作業にかかるコストを削減する。 |
| 中小企業省力化投資補助金 | IoTやロボットなどの省力化設備の導入費用を支援し、労働力不足の解消を図る制度。 | 自動化機器の導入によって作業工程を効率化し、高騰する原材料費の影響を緩和する。 |
突発的に発表される自治体の支援策を見逃さないよう、自社の事業所がある都道府県や市区町村のホームページをこまめにチェックしましょう。それと並行して、まずは自社で今すぐ申請できる既存の補助金がないか、商工会議所や専門機関へ相談を進めておくことが重要です。
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金融機関の融資では、次のような審査基準によって融資の可否が判断されます。
- 開業業種に関する経験
- 融資希望額に対する自己資金
- 返済や支払いに関する信用情報
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まとめ
イランなど中東情勢の緊迫化や原油高による急な資金繰りの悪化に対しては、本記事で解説した以下の資金調達方法や支援制度を状況に合わせて検討してください。
- 日本政策金融公庫: 「セーフティネット貸付」による公的な資金支援
- 都道府県の制度融資: 地域ごとの特別枠や融資要件の緩和
- 民間金融機関: メインバンク等が独自に設ける特別ローン
- 補助金・助成金: 既存制度を活用した生産性向上とコスト削減
どの資金調達方法を選択する場合でも、申し込みから審査を経て実際の着金に至るまでには一定の期間を要します。手元の資金が完全に枯渇してからでは、選択できる手段が大きく限られてしまう可能性があります。
資金繰りに少しでも懸念が生じた段階で、日本政策金融公庫やメインバンク、または自治体の特別相談窓口へ相談を進めることが重要です。自社の実情に適した制度を早期に活用し、事業継続に向けた対応を図りましょう。