「創業後の運転資金が足りない」
「店舗開業のための資金が足りない」
そのような資金に関する悩みを抱えている方は、日本政策金融公庫の創業融資を検討されているのではないでしょうか。
日本政策金融公庫の創業融資は、実績のない事業者も融資を受けやすく、他の金融機関と比較して低金利ということもあり、借入の選択肢の1つとして選ぶ方も多いです。
創業融資を受ける際、必ず提出しなければならない書類の1つが、今回解説する「創業計画書」です。全部で8項目あり、融資審査の結果を左右する重要な書類なので、ポイントを押さえておきましょう。
1.創業融資(新規開業資金)とは
創業融資は、これから事業を新たに始める方や、事業を始めて間もない方が受けられる日本政策金融公庫の融資です。日本政策金融公庫の場合、創業融資の正式名称は「新規開業資金」といい、主に下記3つの特徴があります。
(1)無担保・無保証 |
(2)自己資金要件が比較的厳しくない |
(3)申し込みから着金までにかかる時間が早い |
(1)無担保・無保証
新規開業資金は原則として無担保・無保証で融資を受けられます。代表者保証も不要です。
通常であれば金融機関からの融資を実績のない事業者が無担保・無保証で受ける事は極めて困難です。
しかし、日本政策金融公庫は「一般の金融機関が行う金融を補完する」役割を担い、中小企業の資金調達を支援することを目的としていることから、信用力の乏しい事業者でも借り入れ可能な制度になっています。
(2)自己資金要件が寛容
自己資金とは、事業者が自分で貯めた事業計画のための資金(預金)のことを指します。日本政策金融公庫から創業融資を受ける場合、日本政策金融公庫の担当者に自己資金の有無を確認される傾向があります。
(3)面談から着金までにかかる時間が短い
日本政策金融公庫の場合、面談を経て審査に通過し、実際に着金されるまでにかかる時間は約2週間程度です。当社の事例では、早い方で面談から1週間で着金された事例もあります。
2.創業融資で必要な創業計画書とは
そもそもなぜ創業計画書の提出が必要なのかを押さえておきましょう。
創業期を乗り越えた事業者が金融機関から融資を受ける場合、直近の決算書の提出が求められます。決算書上の数字を見れば、実際の経営状況がわかり、審査を通過させるかどうか判断できるからです。
一方、創業したばかり(もしくはこれから創業する)の事業者の場合、当然実績がありませんので、決算書からお金を貸しても良いかどうか判断することができません。
そこで、創業したばかりの事業者が決算書の代わりに作成する書類が「創業計画書」です。
創業計画書には下記8項目を記載します。
1. 創業の動機 |
2. 経営者の略歴等 |
3. 取扱商品・サービス |
4. 取引先・取引関係等 |
5. 従業員 |
6. お借入の状況 |
7. 必要な資金と調達方法 |
8. 事業の見通し(月平均) |
創業の動機や過去の経験、取引先、事業内容、資金計画の見通しなど、創業に向けて準備していることが分かる項目を記載することで、公庫の担当者に「借りたお金をきちんと返済できます」とアピールできます。
3.審査通過を目指すなら公庫の記入例では不十分
日本政策金融公庫のWebサイトには、業種別の創業計画書の記入例が公開されています。しかし、日本政策金融公庫のWebサイトの記入例を見本として創業計画書を作成しても融資審査に落ちてしまう可能性があります。
その理由は2点考えられます。
1点目は、あくまで”記入例”なので、実際に提出する書類としては具体性に欠けており、事業計画としての内容が乏しいことです。
2点目は、そもそも日本政策金融公庫が配布している創業計画書のテンプレートは記入欄が非常に狭いため、事業計画などを詳細に記載することが難しいためです。
創業計画書だけで収まり切らない情報は、「添付資料」として別途提出することができますので、必要十分な書類にするためには、添付資料も用意するようにしましょう。
4.創業計画書の書き方
(1)創業の動機
創業計画書で創業の動機を聞くのは、事業をはじめたあなたが、どんな状況にあっても事業を継続し続けられるほどの揺るぎない動機を持っているかを確認したいからです。
融資担当者にとっては、あなたが「貸したお金を必ず返せる事業主」かどうか判断をするための大きな材料になります。
動機として記載する内容は、具体的には下記の内容になります。
- 創業の計画性
創業のために具体的にどのような行動をしてきたかという、計画性をアピールしましょう。事業に関連する経験を長年積んできた、将来の顧客となる人脈を築いてきたなど、これまで創業に向けて準備してきたことを伝えてください。
- 創業に対する熱意
事業に対する思いや独立を決意した理由を書きましょう。なんとなくの思いつきで創業を決めたのではなく、あなたの事業内容への熱意があって創業を決意しというストーリーが伝わる書き方を心がけてください。
- 事業内容に活かせる創業者自身の強み(業務経験、受賞歴、顧客数など)
事業内容に関連する、あなた自身の強みを記載しましょう。過去の職歴やそこで出した実績、事業に関する受賞歴や顧客数など、具体的なアピールポイントを伝えてください。強みがアピールできれば、融資担当者から「この人なら売上を上げられる」と判断される可能性も高くなります。
なお、エクセルに記載する際の注意点として、文字を書きすぎると印刷した際に、文字が見切れていることがあります。記了後は必ず印刷して、すべてが写っているかを確認しましょう。
(2)経営者の略歴等
事業内容に関するあなたの経験値を確認するために、どのような仕事をしてきたのかを記載します。責任ある業務についていた場合には、必ずその内容がわかるように記載しましょう。
経験値が高いとわかれば、今までの知識、経験から安定した売上を上げることができ、「お金を貸してもきちんと返せる」という融資担当者からの評価につながります。
略歴に記載するのは、具体的には下記の内容です。
・創業する事業に関連する経験(勤務時代の経歴・勤続歴・役職)
・経営に関する知識/経験(スタッフ管理など組織マネジメント・経理・人事・法務など)
・創業に活かせる創業者の強み(コンテスト受賞歴・表彰歴・特許/商標など)
例えば、飲食店の場合 「料理長として2年勤務」「統括部長として3年勤務」など、役職についていたことで売上や人材管理など、料理だけでなく経営に関する経験も積んでいることがわかります。このように、記載した方がプラスになる経験は必ず記載しましょう。
※面談でも質問されるので、記載を忘れてしまっても口頭で伝えるチャンスはありますが、伝え忘れる可能性もありますので、あらかじめ整理した内容を記載しておきましょう。
(3)取扱商品・サービス
取扱商品もしくは実際に行う予定のサービスを記載していきましょう。
融資担当者が「将来性がありそうだ」「これなら事業が成功し、問題なく返済できそうだ」と判断するための重要な項目です。下記の内容を記載してください。
取扱商品・サービスの内容
販売する商品もしくは提供するサービスの詳細を簡潔に記載します。
セールスポイント
同業他社とは異なる、商品・サービスの具体的な優位性を記載します。このとき、単純に商品名やサービス概要を書くだけではなく、どのようにターゲット層へアプローチするかの集客方法、市況を踏まえてライバルとどう差別化していくかの戦略も織り込んでください。創業計画書内におさまらなければ、別途資料を作成しても構いません。
(4)取引先・取引関係等
販売先・仕入先・外注先を記載します。
①販売先について
業界・業種問わず、下記の内容を記載します
- 事業でターゲットとする顧客層とその割合
ターゲットの性別、年齢層、職業、家族構成、趣味といった情報と、売上に占める割合を記載します。
- 出店予定地の立地
出店予定地の人口統計、人通りが多い/少ないの賑わいの程度、交通量、既にその土地に進出している競合の出店状況を記載します。
例えば飲食店で創業する場合は、以下を意識してまとめてください。
【ポイント】
- 人通りが多いのであれば、人通りの多さ
- 人通りが少ないのであれば、競合の少なさ
- 周りにあるお店の利用顧客層
- 出店予定の街の人口統計
どれくらい一般層の個人が来てくれるかをイメージできるよう別紙資料としてまとめ、創業計画書とあわせて提出してください。
②取引先・仕入先について
一般的にこちらの欄には過去に取引していた会社を記載します。創業後の仕入れに支障がないことをアピールできるので、取引年数が長い会社を記載できるのであれば、記載すべきです。
BtoB(対企業向け)のビジネスを行う場合、取引先・仕入先が大手かつ安定している企業であると、融資担当者からの評価につながるため、仕入先のリストは別紙資料としてまとめましょう。
取引先・仕入先は複数あるのがベストです。1社だけに依存するのではなく、相手先の倒産リスクも踏まえ、複数社を擁しておくことが融資審査にもプラスに働きます。
仮にもし1社しかない場合、その会社が倒産してしまったらビジネスが継続できないのではという見方になってしまいます。
また、取引先・仕入先の会社との取引条件についても「入金が遅く、支払いが早い」関与先ばかりの場合、そのリスクを指摘されることもあります。
その場合は、もし見込みの仕入先・取引先があれば業者名をリスト化し、さらに見積書などを既に提出していれば、あわせて提示しましょう。
なお、面談の際にも仕入先とはどれくらいの付き合いなのかを聞かれますので、状況を整理しておきましょう。
(5)従業員
雇用予定の従業員の数を記入します。
(6)お借入の状況
借入がある場合には、借入残高が記載されている支払明細書(もしくは融資明細書)があるはずです。融資を受ける際には、その表を提出しますので、その表の金額通りに記載しましょう。
信用情報や通帳などから金融機関からの借入は公庫の担当者も把握することができます。
借入を隠しているように思われてしまうと、融資担当者の印象はかなり悪くなってしまいますので、決して嘘は書かず正直な借入状況を記載してください。
(7)必要な資金と調達方法
左列に開業に必要な資金、右列に資金の調達方法をそれぞれ記載します。
左列には、必要な資金である「設備資金」と「運転資金」の具体的な内訳と金額を記載してください。
<設備資金>
創業時の設備投資に必要な資金です。
設備資金として代表的なものは、下記です。
・不動産取得費(敷金、保証金など)
・設備工事費(内装・外装・給排水・空調設備など)
・備品購入費(車両・厨房器具・パソコン・社内システム・製造用機械など)
・Webサイト作成費用
など
<運転資金>
会社・事業を回していく上で継続してかかる、設備資金に該当しない費用です。
運転資金として代表的なものは、下記です。
・人件費(スタッフへの給与)
・事務所費用(家賃・駐車場代・水道光熱費・通信費など)
・広告宣伝費
・仕入れ費用
・消耗品費(事務用品や工場用具など、使っていくうちに消耗する物品にかかる費用)
など
ポイントは、金額欄の右列と、左列の合計金額を必ず一致させることです。
例えば、飲食店の場合には、店舗内外装や厨房機器のように高額のものを購入する予定があるはずです。こちらの金額は、見積書を業者に依頼して、その金額通りの見積書をとりあえず作成しておいてもらう必要があるでしょう。
(8)事業の見通し(月平均)
売上高、売上原価、経費など数値に関して、創業当初および事業が軌道に乗った後の見込み額を記載します。
ポイントは、第三者が見ても納得できる数字とその根拠を記載することです。無理のない現実的な数字の見通しを示すことで、融資担当者に事業の確実性が伝わるようにしましょう。
多くのお金を借りるために、無謀な売上で資料を作成しても融資は通りません。説得力のある売上根拠を提示することが重要です。
特に重要なのが売上高の算出根拠です。
売上高は、商品やサービスの単価(もしくは客単価)に対し、販売数や客数がどれくらいあり、どの程度売上を確保出来るかを具体的な計算式で記載する必要があります。記載するスペースが狭いので、別紙で記載して構いません。
●売上高の算出根拠の代表的な算出例
売上高は業種業態によって算出方法が異なります。
例えば、飲食業・理容美容業などのサービス関係業の場合、一般的に下記の計算式で算出します。
例)日曜定休の飲食店で、昼のランチ帯(ランチセットを¥1,000で提供)の売上高を算出する場合
【客単価:ランチセット¥1,000】×【設備単位数(座席数):30席】×【回転数:0.8回転】×【月の稼働日数:26日】
=¥624,000
なお、季節・曜日・時間帯によって売上変動要素がある場合は、それを考慮した売上計画を立てる必要があります。
●売上変動要素
例えば、飲食店では毎月同じ売上が立つとは限りません。季節や曜日、時間帯はもちろん、出店場所の人通りや提供しているメニューの内容によっても売上が異なります。
このような売上の変動を見越したうえで、事業の見通しを記載する必要があります。
飲食店の場合には、売上の根拠資料を作成するために、「人通りがどれくらいなのかのリサーチ結果」「周りにあるお店の人口統計」「出店予定の街の人口統計」などの補足資料を提出することが重要です。
まとめ
創業融資を受けるためには創業計画書や添付資料など、必要書類にあなたの事業や過去の経験等について分かりやすく記載しなければなりません。
ご自身で書類作成を行い融資の申込みをすることもできますが、融資支援の経験豊富な専門家に依頼することで、よりスムーズに書類作成を行うことができます。
また、面倒な書類作成をプロに任せれば、創業前後の大事な時間を事業の準備に集中できるメリットもあります。
資料作成を依頼したい、公庫融資について相談したいなどお気軽に当社株式会社SoLaboまでご相談ください。