シード期とは主にスタートアップ企業の成長段階におけるシード(種)の期間を指し、事業が本格化する前の構想・準備段階のことです。まだ本格化する前とはいえ、製品・サービスの開発には資金が必要なため、資金調達を行う創業者も多いでしょう。
ここでは、シード期にはどれくらいの資金が必要なのか、どのような資金調達方法があるのかについて解説していきます。
シード期に調達する金額は1年半から2年分が相場
シード期に資金調達する金額の目安として、1年半から2年分の運転資金が必要といわれています。1年半から2年の間にシード期から次のラウンドであるシリーズAに進み、新たな資金調達をそのタイミングで行うことを目標とする企業が多いからです。
シード期に調達する金額の相場は500万から5,000万円といわれています。企業はそれを元手に、自分たちのビジネスアイデアの市場調査、製品・サービスのプロト版(試作品)を開発し検証する過程を繰り返して本格的なリリースを目指します。調達した資金はその間の開発費や人件費などに充てられます。
どんな事業かによって調達金額もシード期の期間も異なります。たとえば、医療ロボット開発のスタートアップなら億単位の資金調達や2年を超える開発期間が必要になるかもしれません。
そのため、自社サービスが次のラウンドに進むためにどれくらいの開発費と期間が必要になるのかを逆算し、事業計画を練って資金調達先を検討する必要が大切になります。
シード期は仮説の検証を繰り返してPMFの達成を目指す時期
シード期の重要な課題としてPMF(プロダクトマーケットフィット)の達成が挙げられます。PMFとは「顧客が満足する商品を、最適な市場で提供できている状態」のことです。
顧客にとって需要のある商品を、顧客(潜在的な顧客も含む)の多い市場で提供することが売上につながるため、シード期にしっかりと調査する必要があります。
シード期ではプロト版を製作し、製品・サービスが顧客の課題を解決し満足させられるものなのか、どの市場を選べばたくさんの顧客に受け入れられるのかを分析します。企業は仮説をたててプロト版をリリースし、PDCAサイクルを回していきます。仮説検証を繰り返しPMFを達成できたら、シリーズAで量産体制に入り一気に売上拡大を目指します。
シード期はまだ事業の準備段階ではあるものの、この時期にどれだけ精緻な仮説検証ができたかが今後の事業成否に関わってきます。売上があがらず資金繰りが厳しい時期でもあるため、資金調達することで金銭的にも時間的にも余裕が生まれます。
資金調達先にはさまざまな選択肢を検討すべき
資金調達方法はさまざまありますが、複数の調達先を組み合わせながら資金を集める企業が多いです。まだ売上実績がないため、1か所だけで希望の金額を集めることは難しいからです。またそれぞれ調達方法ごとに特徴があるため、調達時期も考えながら行います。
一般的なシード期の資金調達先は以下の通りです。
資金調達方法 | 特徴 |
エンジェル投資家 | 返済不要・調達期間1日から1か月 |
ベンチャーキャピタル(VC) | 返済不要・調達期間1か月から3か月 |
日本政策金融公庫 | 返済要・調達期間1か月から2か月 |
補助金・助成金 | 返済不要・調達期間はさまざま |
日本政策金融公庫のように返済が必要な調達をデッド調達、投資家からの出資による調達をエクイティ調達と呼びます。エクイティ調達は返済義務がない代わりに自社の株式を発行します。シード期に返済しなくていいからとエクイティ調達で株式を発行しすぎてしまうと、自分たちの株主比率が低くなり、経営の自由度が下がってしまうため注意が必要です。
それぞれの資金調達方法の特徴を理解し、資金調達計画をたてながら事業を進めることが大切です。
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エンジェル投資家の特徴は調達期間の早さ
エンジェル投資家の特徴は資金調達までの早さです。エンジェル投資家は個人投資家なので、社内の稟議を通す必要がありません。魅力的な事業に対して個人の権限で出資できるため、エンジェル投資家本人を説得すればすぐ資金が手に入る可能性もあります。
シード期は事業の模索段階であるため、エンジェル投資家に具体的な事業計画や事業実績を評価してもらうのが難しいケースもあります。とはいえ、事業実態よりも経営者の人柄を重視し出資を決めてくれるエンジェル投資家も少なくありません。また、かつて自身も経営者だった人や大手企業の役員などがエンジェル投資家になっているケースも多く、事業に有益なアドバイスをしてくれるエンジェル投資家もいます。
個人で出資できる範囲の額のため、他の資金調達方法と比較するとエンジェル投資家からの出資は他の資金調達方法と比べると少額であることが多いです。そのため、事業に必要な資金が多額の場合は融資など他の資金調達方法との併用を検討してみてください。
VC(ベンチャーキャピタル)の特徴は出資額の大きさと経営サポート
VCの特徴は出資額の大きさと経営サポートが手厚い点です。VCは未上場のベンチャー企業に出資する投資会社や投資ファンドであり、資金力があるため多額の資金調達が可能になるからです。
VCから出資を受ける代わりに企業は株式を発行します。VCは将来的に企業が上場などを果たした際に株価が値上がりすることによって利益を得ます。そのため、企業が成功するように経営サポートも積極的に行うことが多いです。
事業に将来性があることをVCに認めてもらうため、経営者は綿密な事業計画の作成やプレゼンテーション力が求められます。VCのなかでもシード期に特化したVCや、特定の事業領域に強いVCなどさまざま存在するため、自社に合ったVCを探すことも大切です。出資が決まり株主になると手厚いサポートをしてくれますが、利益を追求するため企業と意見が対立する場面がでてくるかもしれません。
また、VCからの出資を受けるには投資契約書の締結など複雑な手続きや交渉が必要なため、通常1か月から3か月ほどかかります。
日本政策金融公庫の特徴は創業に特化した借入制度
日本政策金融公庫には創業に特化した借入制度があり、シード期の資金調達先として利用できます。日本政策金融公庫は小規模事業者・中小企業に特化して事業資金の融資を行う政府系金融機関であり、創業者向けの借入制度も他の金融機関と比べると充実しています。
日本政策金融公庫の「新規開業資金」は創業前から事業開始後おおむね7年以内の事業者が利用できる制度であり、最大7,200万円(うち運転資金4,800万円)の借入が可能です。出資ではなく借入のため、利息をつけた返済が必要になります。
事業計画書や財務内容が分かる書類などをもとに面談し、審査が通れば借入できます。VCは将来企業が大きく成長したときのハイリターンを収益としているのに対し、日本政策金融公庫は企業が毎月返済するときの利息が収益となっています。そのため、審査のポイントとして返済能力を確認される点がVCとの違いです。
日本政策金融公庫の調達期間は申込から融資実行まで1か月から1か月半ほどかかります。
全国に支店があることからも利用しやすく、スタートアップ企業であっても最初の資金調達で日本政策金融公庫を利用する人は少なくありません。
補助金の特徴は申請が通れば返済不要で資金調達できる
補助金は返済不要で株式の発行など不要です。補助金は国や自治体が管轄しており、政策にあった目的で使えば経費の一部もしくは全額が支給される制度だからです。ただし、補助金の目的と合致しなければ採択されないため、資金使途は限定されます。
シード期でも申請しやすい補助金として、小規模事業者持続化補助金とIT導入補助金があります。
小規模事業者持続化補助金は、対象となる経費の3分の2を補助金として支給する制度で、通常50万円、特別枠では200万円を上限として支給されます。販路開拓のため展示会に行く旅費など対象経費になる項目も多いため、シード期でも比較的申請しやすい補助金です。
IT導入補助金は、業務効率化や売上拡大のためにITツールを導入した際に、かかった費用の2分の1、特別枠では4分の3をIT導入補助金として支給する制度で、最大450万円を上限として支給されます。対象のツールが決められていて、ソフトの導入で業務の自動化を図りたい場合などに申請しやすい補助金です。
補助金の調達期間は種類によって異なりますが、基本的に補助対象の費用を先に払ってから申請し後払いで支給されます。長いものであれば1年後に支給される補助金もあるため、その間の資金繰りには注意が必要です。
シード期の資金調達を成功させるには事業計画と過去の実績が重要
シード期の資金調達を成功させるには事業計画と過去の実績を説明できるようにすることが重要です。出資を受けるにしても借入するにしても、審査担当者を納得させるためには、事業計画を練り計画を実行できるだけの実績をアピールすると説得力が増すからです。
たとえば、何十年も研究し知見のある分野に関連する事業であったり、大口の顧客になりそうな人脈があったりする場合は実績として伝えられるでしょう。事業計画に関しては事業を始めるにあたってどのような検証課題があり、クリアするために何を行うのか、そのための資金や検証期間はどれくらいかなど隅々まで練っておき、どんな質問でも答えられるようにするべきです。
どの方法を利用するにせよ、資金調達をするには担当者を納得させなければなりません。自身の事業の将来性をアピールするだけでなく、実現に向けた具体的で現実味のある計画をたてること、計画を達成できるだけの実力があることを論理的に伝えることが大切です。
まとめ
シード期から次のラウンドに進むためには、多くの場合は1.5年から2年程度の資金調達をする必要があります。実際にいくらくらいの資金が必要になるか事業計画を練り、調達額や過去の実績を踏まえて資金調達先を選んでいきましょう。
シード期は素晴らしいアイデアがあっても実績がなければなかなか資金を集めるのは難しいです。余剰資金がなく希望の調達金額を用意できないと事業が立ち行かなくなってしまうかもしれません。事業計画を立てる際は、さまざまな資金調達方法をどのように活用するのか、資金調達計画についてもしっかりと検討しておくことが大切です。