開業を検討している人の中には、創業融資を受けることを検討している人もいるでしょう。その際、創業融資を受ける条件として担保や保証人の有無が気になる人もいるのではないでしょうか。
当記事では、創業融資における無担保無保証人の借入制度を解説します。無担保無保証人での創業融資を希望している人は参考にしてみてください。
目次
無担保無保証人による創業融資は創業者を支援する制度
無担保無保証人による創業融資は、創業者を支援する制度です。創業にチャレンジする人を増やしたい政策上の目的があるため、創業者にとって有利な条件での借入ができる制度内容となっています。
【無担保無保証人による創業融資の特長】
- 株式や不動産などの担保提供が不要
- 代表者や第三者の連帯保証が不要
無担保無保証人での融資を受ける場合、担保提供が不要となります。「自宅」「株式」などの所有物を担保に提供する必要がないため、創業者はリスクを抑えて創業できます。
無担保無保証人での融資を受ける場合、連帯保証人の用意が不要となります。「代表者」「第三者」などの個人の連帯保証人を用意する必要がないため、創業者はリスクを抑えて創業できます。
なお、無担保無保証人による融資を利用できるかどうかは審査次第となります。「事業内容」「借入希望額」など、総合的な観点から保証を徴求するかどうか判断されるため、無担保無保証人の条件で創業融資を利用をしたい人は、その前提を踏まえておきましょう。
無担保無保証人の定義は事業形態によって異なる
無担保無保証人の条件で借入する場合、事業形態によってその解釈が異なる可能性があります。「個人事業主が無担保無保証人で借入する場合」「法人が無担保無保証人で借入する場合」とでは、言葉の解釈が異なる可能性があるため確認しておきましょう。
【事業形態ごとによる無担保無保証人の解釈の違い】
事業形態 | 無担保無保証人の意味 |
---|---|
個人事業主 | ・担保を提供しない ・第三者の連帯保証人を用意しない |
法人 | ・担保を提供しない ・代表者が連帯保証人にならない |
個人事業主の場合、無担保無保証人での借入とは「個人の連帯保証人は徴求されない借入」を指します。個人事業主が無担保無保証人での融資を利用するときは、家族や親戚など、事業と関係のない第三者の個人を連帯保証人として用意せずとも創業融資を受けられます。
法人の場合、無担保無保証人での借入とは「代表者個人が連帯保証人にならない借入」を指します。法人が無担保無保証人での融資を利用するときは、法人の借入に対し、代表者が連帯保証人にならずとも創業融資を受けられます。
なお、法人が無保証人での借入をすることを「経営者の保証が免除された融資」と呼ぶこともあります。法人の代表者が連帯保証人にならないことを、経営者の保証が免除されていると表現する場合があるため、法人での借入を検討している人は留意しておきましょう。
無担保無保証人によるメリットとデメリットを押さえておく
無担保無保証人での創業融資を検討している人は、メリットとデメリットを押さえておきましょう。無担保無保証人での借入は創業者にとって有利な条件ですが、状況によってはデメリットも考えられるため、メリットとデメリットをそれぞれ確認してみましょう。
【無担保無保証人による借入のメリットとデメリット】
- メリットは返済における責任の範囲が限定されること
- デメリットは金利が高くなる傾向にあること
無担保無保証での借入のメリットは「返済における責任の範囲が限定されること」が挙げられ、デメリットは「金利が高くなる傾向にあること」が挙げられます。無担保無保証人での創業融資を考えている人は、メリットとデメリットを確認した上で借入を検討してみてください。
メリットは返済における責任の範囲が限定されること
無担保無保証人での借入のメリットは「返済における責任の範囲が限定されること」です。返済できない状況に陥ったとき、無担保無保証人での借入の場合は、返済の責任が借入人のみに限定される点がメリットとなります。
たとえば、法人の代表者が連帯保証人となって借入した場合、金融機関は代表者個人に対して返済を請求できます。法人が借入金を返済できない場合、連帯保証人は返済義務があるため、代表者は個人の資産から返済しなければなりません。
一方、法人が無担保無保証人での借入を行った場合、金融機関は法人に対してのみ返済を請求できます。法人が借入金を返済できない場合であっても、法人の代表者である個人には返済の義務はありません。
返済における責任の範囲が代表者個人に及ばない点は、創業する人にとってのメリットです。ただし、あくまでも創業する人を支援する目的により設立された制度であるため、無担保無保証による借入は踏み倒しを推奨する制度ではないことを理解しておきましょう。
デメリットは金利が高くなる傾向にあること
無担保無保証人での借入のデメリットは「金利が高くなる傾向にあること」です。無担保無保証人による融資は、金融機関にとって貸付金を回収できないリスクが高くなるため、担保や保証人を付けた融資と比較して金利が高くなる傾向にあります。
【創業融資の金利の例】
金融機関名 | 金利 |
---|---|
日本政策金融公庫 | 【無担保で融資を利用する場合】 基準利率2.60%~3.70%【有担保で融資を利用する場合】 基準利率1.50%~3.20% 【代表者が連帯保証人にならない場合】 ※令和6年12月2日時点での情報 |
※日本政策金融公庫「主要利率一覧表」をもとに株式会社SoLaboが作成
創業融資を取り扱っている日本政策金融公庫の場合、無担保で融資を利用するときの基準利率は2.60%~3.70%です。有担保で融資を利用するときの基準金利は1.50%~3.20%のため、無担保で融資を利用する場合の方が有担保で利用する場合と比較すると金利が高いです。
創業融資を取り扱っている日本政策金融公庫の場合、代表者が連帯保証人にならない借入は、適用される利率に0.2%金利が上乗せされます。つまり、法人が無担保無保証人で創業融資を利用する場合の基準金利は2.80%~5.70%となります。
原則として、保証が少ないほど借入するときの金利は高くなります。金利の負担が増えることをデメリットに感じる場合は、担保の提供や連帯保証人になることを検討することを留意しておきましょう。
無担保無保証人での借入を取り扱っている創業融資の検討先
無担保無保証人での創業融資を取り扱っているところは2つ挙げられます。地域によっては地元の金融機関や自治体が無担保無保証人による創業融資を取り扱っている可能性はありますが、まずは主要な検討先を確認してみましょう。
【無担保無保証人による創業融資を取り扱っている検討先】
検討先 | 概要 |
---|---|
日本政策金融公庫 | 創業者や小規模事業者、中小企業へ融資を行う政府系金融機関。 新たに事業を始める人もしくは事業開始後税務申告を2期分終えていない人は、原則として無担保無保証人の条件で創業融資を受けられる。 |
信用保証協会 | 金融機関の融資を活性化させる目的により、金融機関の債権を保証する公的機関。 新たに事業を始める人もしくは事業開始後5年未満の法人に対し、経営者の保証が不要となる保証制度を取り扱っている。 |
無担保無保証人による創業融資を取り扱っているところとして、「日本政策金融公庫」「信用保証協会」が挙げられます。無担保無保証人による創業融資を検討している人は、それぞれの制度内容を確認してみましょう。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫の場合、創業前もしくは創業2期以内であれば原則として無担保無保証人での借入が可能です。利用する制度にかかわらず適用されるため、創業前もしくは創業2期以内の人は日本政策金融公庫から無担保無保証人の条件で融資を受けられる可能性があります。
日本政策金融公庫から無担保無保証人による創業融資を受ける場合、融資制度の候補として挙げられるのは「新規開業資金」です。新規開業資金を利用できるのは「新たに事業を始める人」や「事業開始後おおむね7年以内の人」ですが、「女性」「若者」「シニア」「廃業歴のある人」といった幅広い層を支援している点が特徴です。
また、新規開業資金は担保や保証人が原則不要の融資制度です。担保や保証人を用意せずとも創業融資を受けられる可能性があるため、無担保無保証人による創業融資を検討している人ならば、日本政策金融公庫の新規開業資金が選択肢のひとつとして挙げられます。
ただし、保証人や担保の有無は担当者との相談により決まります。新規開業資金は担保や保証人が原則不要の融資制度ですが、まずは担当者に希望条件を伝えることになるため、日本政策金融公庫から創業融資を受けたい人はその点を留意しておきましょう。
信用保証協会
信用保証協会の場合、「スタートアップ創出促進保証制度」が無担保無保証人の融資制度として選択肢に挙げられます。スタートアップ創出促進保証制度は、保証料率を上乗せする代わりに、担保と保証人を用意せずとも融資を受けられる保証制度です。
スタートアップ創出促進保証制度の対象者は「これから法人として起業する人」「起業後5年未満の法人」です。スタートアップを立ち上げる事業者を支援する目的として、「担保不要」「連帯保証人不要」で金融機関から借入できる融資制度です。
スタートアップ創出促進保証制度を利用するときは、信用保証協会へ保証料を支払います。信用保証協会へ保証料を支払うことにより、もし法人が返済不能になった場合は信用保証協会が法人に代わって金融機関へ弁済してくれる役割を果たします。
ただし、スタートアップ創出促進保証制度が利用できるかどうかは審査次第です。審査の結果、無担保無保証人での借入はできない可能性もあるため、信用保証協会のスタートアップ創出促進保証制度を利用したい人はその点を留意しておきましょう。
創業時以外に無担保無保証人での融資を受けるには条件を満たさなければならない
創業融資でなくとも、無担保無保証人での借入は可能です。ただし、所定の条件を満たす必要があるため、無担保無保証人での借入を検討している人は予備知識として押さえておきましょう。
【創業時以外に無担保無保証人での借入を希望する場合の条件例】
制度名 | 条件例 |
---|---|
日本政策金融公庫 「経営者保証免除特例制度」 |
(1)から(3)までの全ての要件を満たす方 (1)法人と代表者の方の一体性の解消が一定程度図られていることについて、公庫において確認ができること。 (2)税務申告を2期以上実施していること。また、公庫からの普通貸付または生活衛生貸付の借入がある場合は、取引状況に問題がないこと。 (3)次のいずれかの要件を満たす方 ア.最近2期の決算期において、減価償却前経常利益が2期連続して赤字でないこと。 イ.直近の決算期において債務超過となっていないこと。 |
信用保証協会 「事業者選択型経営者保証非提供制度」 |
次の要件のいずれにも該当すること 1. 過去2年間において決算書等を申込金融機関の求めに応じて提出していること。 2. 直近の決算において代表者への貸付金等がなく、かつ、代表者への役員報酬、賞与、配当等が社会通念上相当と認められる額を超えていないこと。 3. 直近の決算において債務超過でない(純資産の額がゼロ以上である)ことまたは直近2期の決算において減価償却前経常利益が連続して赤字でないこと。 4. 上記①及び②については継続的に充足することを誓約する書面を提出していること。 5. 中小企業者が、保証料率の上乗せにより保証人の保証を提供しないことを希望していること。 |
※日本政策金融公庫「経営者保証免除特例制度の概要」と信用保証協会「事業者選択型経営者保証非提供制度の概要」より一部抜粋し、株式会社SoLaboが作成
日本政策金融公庫の場合、「経営者保証免除特例制度」があります。「決算状況」「取引状況」などの所定の条件を満たした場合、法人の代表者が連帯保証人にならずとも融資を受けられる可能性があります。
信用保証協会の場合、「事業者選択型経営者保証非提供制度」があります。「代表者への貸付がないこと」「債務超過でないこと」などの所定の条件を満たした場合、法人の代表者が連帯保証人にならずとも融資を受けられる可能性があります。
創業時以外に無担保無保証人の融資を利用するときは、決算内容や返済状況などに対し、所定の条件が設定される傾向にあります。創業融資と比較すると条件が多いため、無担保無保証人での融資を希望する場合は創業時に利用することを検討してみてください。
まとめ
無担保無保証人による創業融資は、創業者を支援する制度です。創業にチャレンジする人を増やしたい政策上の目的があるため、創業者にとって有利な条件での借入ができる制度内容となっています。
無担保無保証人での創業融資を検討している人は、メリットとデメリットを押さえておきましょう。無担保無保証人での借入のメリットは「返済における責任の範囲が限定されること」が挙げられ、デメリットは「金利が高くなる傾向にあること」が挙げられます。
無担保無保証人による創業融資を取り扱っているところとして、「日本政策金融公庫」「信用保証協会」が挙げられます。無担保無保証人による創業融資を検討している人は、それぞれの制度内容を確認してみましょう。