ベンチャー企業が資金調達するときの選択肢と注意点について解説

ベンチャー企業を経営している人のなかには、資金調達を検討中の人もいるでしょう。

資金調達方法はいくつかありますが、企業の事業フェーズや入金までの期間などによって、どの資金調達方法を選択するかは変わってきます。また、それぞれの資金調達方法で注意すべきことを理解しておかないと、のちにトラブルが起こる可能性もあります。

当記事では、ベンチャー企業が資金調達するときの選択肢と、それぞれの選択肢の注意点について解説するため、資金調達を検討中の人は参考にしてみてください。

 

ベンチャー企業が活用できる資金調達方法の選択肢

ベンチャー企業が活用できる資金調達方法として、金融機関からの借入、出資をうける、クラウドファンディング、ファクタリング、補助金と助成金の5つが挙げられます。それぞれの特徴を比較した表は以下の通りです。

【資金調達方法の比較】

返済義務 株式の譲渡 資金の使い道
金融機関からの借入 あり なし 制限なし
出資をうける なし あり 制限なし
クラウドファンディング 場合によってはある 場合によってはある 制限なし
ファクタリング なし なし 運転資金が多い
補助金と助成金 なし なし 使途が限定される

上記の条件以外に、事業フェーズや資金調達額、入金までの期間などによって資金調達先を選択できます。

なお、当記事では事業フェーズについては2017年に中小企業庁による「中小企業のライフサイクル」という資料から「安定型成長企業」を当記事でのベンチャー企業と位置づけ、その成長過程を「創業期」「成長期」「安定拡大期」の3フェーズに分類しています。

選択肢1:金融機関からの借入

金融機関からの借入は、金融機関の審査を経て融資してもらい、原則毎月元金と利息を一定の割合で返済していく資金調達方法です。金融機関ごとに活用しやすい事業フェーズなどが異なり、それぞれの比較は以下の通りです。

【金融機関ごとの比較】

事業フェーズ 資金調達期間 資金調達額
日本政策金融公庫(国民生活事業) 創業期~成長期 1か月~2か月 一般貸付の場合4,800万円まで
信用金庫 創業期~成長期 2か月~3か月 数百万円~数千万円
地方銀行 創業期~成長期 2か月~3か月 数百万円~数億円
日本政策金融公庫(中小企業事業) 成長期~安定拡大期 2か月以上 制度によるが7億2千万円程度
商工中金 成長期~安定拡大期 2か月以上 数百万円~数億円
都市銀行 安定拡大期 2か月以上 数千万円~数十億円

金融機関からの借入は、企業の創業期から成長期、そして安定・拡大期まで幅広く活用可能です。事業フェーズを問わず多くの企業が金融機関からの借入によって資金調達をしており、ベンチャー企業においても金融機関からの借入は主要な資金調達方法のひとつといえます。

金融機関ごとの資金調達額の規模感に応じて企業の事業フェーズが異なってきます。ベンチャー企業の創業期から成長期の間は、数百万から数千万円の融資をメインに取り扱う日本政策金融公庫の国民生活事業や、信用金庫と地方銀行が活用しやすいです。

ベンチャー企業が成長期から安定拡大期に入ると必要な資金調達額も増えてくるため、地方銀行に加えて日本政策金融公庫の中小企業事業や商工中金、都市銀行といった金融機関に相談するようになる傾向にあります。

金融機関からの借入を行うときは、自社の事業フェーズと必要な資金調達額に応じて、上記の表を参考に融資相談する金融機関を選択してみましょう。

金融機関から借入するときは融資限度額に注意する

金融機関から借入するときは、金融機関の融資限度額に注意するようにしましょう。金融機関側は融資限度額以上の金額の融資をできないため、1つの金融機関から融資を受けようとしても希望額を借入できない可能性があるためです。

たとえば、日本政策金融公庫の一般貸付を利用した場合の融資上限額は4,800万円ですが、トータルでの借入上限額のため、すでに借入残高が2,000万円あるとすると追加の融資可能額は2,800万円までとなります。

創業期から成長期へ移行するときなど、追加融資を受けて事業投資を増やしたいときに、1つの金融機関としか取引がない場合は融資可能額以上の借入は難しいです。資金が必要になってから新しい金融機関に申し込むと、新規取引となり審査に時間がかかります。

金融機関から借入するときは、あらかじめ融資上限額を知ったうえでいくつかの金融機関と取引をしておき返済実績を積んでおくと、資金が必要になった際に相談しやすくなります。ベンチャー企業として成長するにつれ、1つの金融機関では対応できないケースがでてくるため、創業期からいくつかアプローチすることを検討してみましょう。

選択肢2:出資をうける

出資とは、投資家へ自社事業のプレゼンを行い魅力的だと感じてもらえたら、自社の株式を一部譲渡する代わりに返済不要の資金を出資してもらう資金調達方法です。投資家は将来的に企業の価値が向上し上場などのタイミングで株式の売却益を得ることを期待しています。

事業フェーズ 資金調達期間 資金調達額
エンジェル投資家 創業期 1週間~2か月程度 数百万単位が多い
ベンチャーキャピタル(VC) 成長期~安定拡大期 2か月以上 数百万円~数億円
CVC 創業期~安定拡大期 2か月以上 数百万円~数億円

エンジェル投資家は個人投資家のため、企業による出資と比べて出資額は少額です。しかし、意思決定が早くベンチャー企業の創業期であっても経営者や事業内容に魅力を感じると出資してくれるケースもあります。

ベンチャーキャピタル(VC)は基本的に10年間で投資回収を行っているため、10年以上の長期的な計画で会社を運営していくベンチャー企業に対する出資には積極的でありません。そのため、上場などのイグジットを意識する成長期から安定拡大期の資金調達であれば活用できる可能性があります。

CVCは事業会社が行う投資活動のことで、ベンチャー企業が事業会社にとってメリットやシナジー効果の感じられる点をアピールできれば、創業期から安定拡大期まで幅広く出資をしてくれる傾向にあります。

出資による資金調達を検討するときは、必要な資金調達額と相手が求めているリターンを提供できるかどうか考慮したうえでアプローチ先を決めるようにしましょう。

出資による資金調達は投資契約内容に注意する

出資による資金調達は投資契約内容に注意するようにしましょう。出資を受ける際は投資契約書を作成し双方で合意のうえ実行されますが、内容の確認不足があると、相手に有利な条件で契約してしまうおそれがあるからです。

たとえば、投資契約書に追加出資が受けられないよう制限される、期限内にIPOできない場合は創業者が株式を買い取るよう条件が付けられるなどのトラブルが想定されます。投資契約書は作成者に有利なよう作られていることが多いため、事前に自社でも内容を精査する必要があります。

また、資金調達時に株式を投資家に渡しすぎてしまうと、経営の意思決定時に投資家(株主)と意見が合わず調整に時間がかかるといったトラブルも考えられます。出資による資金調達を複数行うことを検討している場合は、経営権を守るために1回の資金調達でどれくらい株式を放出するか考慮して実施すべきでしょう。

出資を受けると、投資家が株を手放さない限り株主として関係が続いていきます。出資による資金調達を行う際は、のちのトラブルを防ぐためにも投資契約書の内容の確認や交渉を行い、双方が納得したうえで投資契約を締結するようにしましょう。

選択肢3:クラウドファンディング

クラウドファンディングは、インターネット上で投資家や一般の人から幅広く少額ずつの資金調達を行える方法です。クラウドファンディングにはいくつか種類がありますが、ベンチャー企業が活用できるクラウドファンディングの種類は以下の通りです。

【ベンチャー企業が活用できるクラウドファンディングの種類を比較】

種類 フェーズ 資金調達期間 資金調達額
購入型 創業期 3か月~4か月 数百万円~1,000万円程度
株式型 創業~成長期 3か月~4か月 1億円まで
投資型 創業~成長期 3か月~4か月 数百万円~数千万円程度
融資型 創業~成長期 3か月~4か月 数百万円~数千万円

購入型クラウドファンディングは、支援者から集めた資金で商品やサービスを開発し、完成後にリターンとしてその商品やサービスに関するものを提供する仕組みで、資金調達額は数百万円から1,000万円程度になるので、購入型クラウドファンディングは創業期の開発費を調達する時に活用しやすい手段です。

株式型クラウドファンディングは、出資と同じく投資家に対し自社株式の一部を譲渡する代わりに資金調達する方法です。企業は1人の投資家から50万円まで、合計で1億円までの資金調達が可能です。資金調達額の規模から考えると、創業期から成長期に活用しやすい手法といえます。

投資型クラウドファンディングと融資型クラウドファンディングは、クラウドファンディング業者をファンドとして投資や融資をしてもらう資金調達方法です。投資型の場合は配当金や株主優待のような特典を、融資型の場合は元本と利息をそれぞれリターンとして支援者に提供します。創業期から成長期のベンチャー企業やスタートアップが活用する傾向にあります。

クラウドファンディングでの資金調達を行うときは、今回の資金調達で何を行うのか、どんなリターンを提供できるのかを検討したうえで、各クラウドファンディングのサイトで成功事例を参考にする、手数料を確認するなどして自社にマッチしたクラウドファンディングの種類を選ぶようにしましょう。

クラウドファンディングでの資金調達は手数料などのコストに注意する

クラウドファンディングでの資金調達は、クラウドファンディング業者に支払う手数料や商品や配当金などのリターンにかかるコストに注意しましょう。支払うコストを事前に確認しておかないと、思わぬ出費が発生し資金繰りがうまく回らない可能性があるからです。

クラウドファンディング業者への手数料の相場は、クラウドファンディングによって集めた資金の10%から20%で、さらに購入型クラウドファンディングの場合は支援者に対しリターンを用意するコストもかかります。株式型、投資型、融資型クラウドファンディングの場合は、クラウドファンディングを実施する前に業者の審査を通過する必要があり、審査料を支払うケースが多いです。

クラウドファンディングは、クラウドファンディング業者に支払う手数料や支援者に対してリターンを提供するコストが発生するため、事前にどれくらいの費用と手間がかかるのかを確認したうえで他の資金調達方法と比較し活用するようにしましょう。

選択肢4:ファクタリング

ファクタリングは、売掛債権を期日より前に現金化できるサービスのことです。請求書等をファクタリング業者へ提出し、業者での審査を通過すると請求書等にある売掛金から手数料を引いた分を現金化してくれる資金調達方法となっています。

事業フェーズ 資金調達期間 資金調達額
ファクタリング 創業期~安定拡大期 最短即日~3週間 売掛債権によるが数十万円~数百万円での取引が多い

ファクタリングは入金スピードが他の資金調達方法と比べて早く、急な事業資金が必要になった際に活用しやすい手法です。売掛債権をファクタリング業者へ売却することで資金を得ているため、返済不要で株式の譲渡もありません。

ファクタリングは売掛先にファクタリングの利用を通知しない2者間ファクタリングと、売掛先にファクタリングの利用を通知する3者間ファクタリングに分類されます。2者間ファクタリングの手数料は売掛債権の10%から20%に対し、3者間ファクタリングの手数料は1%から10%です。

ファクタリングの資金調達額の上限は明記されていませんが、個人事業主から中小企業がメインターゲットのサービスであるため、売掛債権が数千万円規模のベンチャー企業にとっては、ファクタリング業者の資金力次第では対応が難しい場合があります。売掛債権が1,000万円以上の規模になる場合は、事前に現金化したい売掛債権についてファクタリング業者に確認をとったうえで申込を行うようにしましょう。

ファクタリングでの資金調達は常態化しないよう注意する

ファクタリングでの資金調達は、利用が常態化しないよう注意が必要です。期日まで待てば満額もらえる売掛金を、手数料を支払って早期現金化しているため、利用が常態化すると資金繰りの悪化につながるからです。

取引先への通知が不要な2者間ファクタリングは、多くのファクタリング業者が採用しており便利な資金調達方法ですが、手数料は10%から20%と高いため毎月などの高頻度で利用すると次第に資金繰りが悪化してしまう要因となります。

急な出費が重なったときの資金繰りとしては、ファクタリングは有効な資金調達方法といえます。ただし、手数料のコストを考えると頻繁に利用することで財務の不健全化を招くおそれがある点に注意し、あくまで一時的な補てんとしての利用にとどめるか、他の方法で資金調達できないか検討するようにしましょう。

選択肢5:補助金と助成金

補助金と助成金は、国や自治体が管轄している企業への支援事業です。返済不要で株式の譲渡も必要なく、申請し採択されれば支給されます。ベンチャー企業が活用できる補助金と助成金については以下の通りです。

【ベンチャー企業が活用できる補助金と助成金の一例】

補助金、助成金の種類 資金の使い道 補助金額 補助率
ものづくり補助金 生産性向上のための設備投資が対象。 100万円~1,000万 補助率は中小企業1/2、小規模事業者2/3
IT導入補助金 生産性向上のためのITツール導入費が対象。 補助金額通常枠はA類型が5万円~149万、B類型が150万~450万 補助率は1/2以内
人材確保支援等助成金 従業員の確保や離職防止を目的に9つの目標が設けられている テレワークコースの場合は、1企業あたり100万円または労働者1人あたり20万円まで 1企業あたり、支給対象となる経費の30%
キャリアアップ助成金 正社員化や処遇改善が目的 1人あたり正社員化したら28.5万円から57万円を支給

処遇改善はコースによるが1人あたり3万円から40万円を支給

正社員化コースは1年度1事業者あたり20名までが申請上限。

補助金と助成金の違いは、補助金は採択できる事業者数に限りがあるため、条件をクリアしていても申請が通らない可能性があるのに対し、助成金は条件をクリアしていれば原則申請が承認される点です。

年度ごとに補助金、助成金は更新され、募集期間は限られています。中小企業庁による検索ポータルミラサポPlusなどで補助金や助成金の情報を検索できます。申請書類の作成などに手間がかかるため、補助金と助成金での資金調達を行う際は期限に余裕を持って準備するようにしましょう。

補助金と助成金による資金調達はスケジュール管理に注意する

補助金と助成金による資金調達を行う際は、事前にスケジュールを確認する必要があります。スケジュールを確認しておかないと、資金繰りに余裕がなくなったり最悪の場合支給されなかったりするおそれがあるからです。

補助金と助成金どちらも、原則あと払いで支給されます。申請から実際に支給されるまで数か月から1年以上かかるものもあるため、補助金と助成金での資金調達を検討する際は、事前に入金時期を確認して資金繰りに問題のないよう対策しておくことが必要になります。

また、申請が通ったあとの申請事業を実施する期間も指定されているケースもあります。せっかく補助金が採択されて設備の発注も行ったけれど、決められた期間内に補助事業が実施できなければ、補助金が承認されず支給されないといった可能性もでてきます。

補助金と助成金での資金調達を検討する際は、入金時期と合わせて申請した事業を実施する期間についても指定されているかなど全体のスケジュールを確認し、資金繰り対策や設備導入の準備などを行うようにしましょう。

まとめ

ベンチャー企業は資金力が十分でないなかで企業の成長を目指し、人材の投入や商品・サービスの拡充などの資金投入が必要とされるため、資金調達は大きな課題といえるでしょう。

ベンチャー企業が資金調達する方法はいくつかあり、なかにはクラウドファンディングなど近年取り扱いが増えてきた方法があるように、今後も新たな資金調達方法となる金融商品が生まれる可能性はあり、資金調達は選択肢が増え複雑化していくかもしれません。

定期的に資金調達の情報収集を行い、自社の事業フェーズに合うかどうか、どれくらいのコストや手間がかかるのかなど理解したうえで選択していくことが、これから経営者が資金調達するなかで求められていくでしょう。

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