スタートアップが活用できる資金調達方法と適したラウンドについて解説

多くのスタートアップにとって資金調達は重要な課題です。素晴らしいビジネスアイデアや技術をもった企業であっても、資金不足で事業が頓挫してしまうケースも少なくありません。

スタートアップは短期間で急成長を遂げる革新的なビジネスモデルをもった企業と定義されていますが、急成長の背景には多額の開発費や売上拡大のマーケティング費など、自己資金だけではまかないづらく資金調達が必須といえます。

資金調達といってもさまざまな方法があるため、スタートアップの成長ステージに応じて資金調達の戦略を練る必要があります。当記事ではスタートアップが活用できる資金調達方法と、適した資金調達ラウンドについて解説していきます。

スタートアップが利用できる資金調達方法は3種類

スタートアップが利用できる資金調達方法は「デットファイナンス」「エクイティファイナンス」「公的機関の補助金」の3種類に分けられます。それぞれの特徴と代表的な資金調達方法は以下の通りです。

【特徴と代表的な資金調達方法】

デットファイナンス エクイティファイナンス 公的機関の補助金
【特徴】

返済義務がある

株式の譲渡なし

【特徴】

返済義務なし

株式の譲渡が必要

【特徴】

返済義務なし

株式の譲渡なし

立替え払いが必要

【代表的な資金調達方法】

・金融機関からの借入

・私募債の発行

【代表的な資金調達方法】

・投資家からの出資

・株式型クラウドファンディング

【代表的な資金調達方法】

・IT導入補助金

・ものづくり補助金

特許庁の「我が国におけるスタートアップを取り巻く現状と課題」によると、創業初期であるシードラウンドではベンチャーキャピタルによる出資をうけていない企業が68.2%なのに対し、シリーズAでは28.2%になっており、資金調達ラウンドによって適した資金調達先は変化していきます。

スタートアップにとって資金調達は重要な課題です。さまざまな資金調達方法を自社の成長ステージや資金調達額に応じて使い分け、ときには併用しながら資金調達していきましょう。

スタートアップが活用できるエクイティファイナンス

返済義務のないエクイティファイナンスによる資金調達は、創業期に利益が出にくいスタートアップにとって適した手法と言えます。スタートアップが活用しやすいエクイティファイナンスには「エンジェル投資家」「ベンチャーキャピタル」からの出資と「株式型クラウドファンディング」があります。成長ステージや出資金額などを比較した表が以下の通りです。

エンジェル投資家 株式型クラウドファンディング ベンチャーキャピタル
投資家形態 個人 個人 法人
利用しやすい成長ステージ エンジェル~シード期 シード期~シリーズA シリーズA~シリーズD
出資金額 100万円~1,000万程度 1,000万円~1億円まで 数千万円~数億円
調達期間 即日~数か月 1~3か月 数か月~半年

エクイティファイナンスを活用するといっても、スタートアップの成長ステージに応じてアプローチする投資家が変わってきます。自社の成長ステージや必要な資金額に適した投資家を探しましょう。

また、スタートアップの成長ステージを指す指標として「資金調達ラウンド」という考え方があります。詳しくは、「資金調達のラウンドやシリーズとは?ラウンドごとの特徴を解説」という記事で解説しているため参考にしてみてください。

エンジェル投資家は創業期に適した資金調達先

エンジェル投資家からの出資はスタートアップの創業期に適した資金調達先といえます。エンジェル投資家は創業期の企業をターゲットに少額の出資を行う傾向にあるからです。

エンジェル投資家は個人で活動しているため、調達できる金額は投資会社に比べると少額ですが意思決定が早いことが多いです。事業がまだアイデア段階でも、事業内容と経営者の人柄から出資を決めてくれるエンジェル投資家もいます。

しかし、日本ではエンジェル投資家の存在はあまり一般的ではなく、見つけるのも困難です。エンジェル投資家からの出資を受けたい場合は、エンジェル投資家のSNSを見つけて自らアプローチする、人からの紹介やビジネスコンテストへの出場など、地道な活動を通して探す必要があります。

また、エンジェル投資家から出資を受ける場合、のちのちのトラブルを防ぐためにも投資契約書を交わすなど出資に関する取り決めを行ったうえで出資をうけるようにしましょう。

エンジェル投資家の存在は、資金を調達して事業を早く進めたい創業者にとって有難いものです。企業の最初の外部株主として誠実な対応を心がけ、良好な関係を築くようにしましょう。

株式型クラウドファンディングはシードラウンドに適した資金調達先

株式型クラウドファンディングはスタートアップのシードラウンドに適した資金調達先といえます。クラウドファンディングとはインターネット上で複数の投資家から小口の資金を集める資金調達方法です。テストマーケティングの効果もあるため、商品やサービスのリリース前段階であるシードラウンドでの活用が期待できます。

クラウドファンディング募集期間中、スタートアップ企業は自社のSNS等でプロモーション活動を行います。投資家だけでなく一般人の目に留まる可能性もあり、企業はサービスをリリースする前に市場のニーズや期待値などの反応を見ることが可能です。

株式型クラウドファンディングでは1人の投資家から50万円まで、合計で1億円までの資金調達が可能です。そのため事業アイデアが固まったあとの、商品やサービスの開発段階からテスト版のリリース段階での資金調達として活用しやすい方法といえます。

しかし、目標金額に達しなければ取引不成立となり、集まった資金は出資者へ返金となります。募集をかける際には業者内での審査も必要となるため、クラウドファンディングでの資金調達を行う際は、自社に近い成功事例を参考にする、クラウドファンディングの担当者にあらかじめ相談するなど事前準備を行って臨むようにしましょう。

ベンチャーキャピタルはシリーズA以降に適した資金調達先

ベンチャーキャピタル(VC)はスタートアップのシリーズA以降の企業が利用しやすい資金調達先です。ベンチャーキャピタルは投資専門企業で資金力があるため、出資をうけることができれば数千万円から数億円規模と多額の資金調達が可能になります。

スタートアップがベンチャーキャピタルを活用するのは、創薬ベンチャーなど開発費が億単位でかかる企業や、商品・サービスはリリース済みで、これからさらに市場を伸ばしていくシリーズA以降の事業フェーズが多いです。

ベンチャーキャピタルは投資のプロとしてIPO経験なども豊富なため、スタートアップに経営アドバイスを行い、EXITまで伴走してくれます。財務コンサルや事業マッチングなども行ってくれるVCもおり、事業のパートナーとして信頼できるVCを見つけることが大切です。

ただし、ベンチャーキャピタルからの出資は高額になる分、譲渡する株式割合も大きくなります。 株式を渡しすぎると経営者の経営権が弱くなってしまうため、VCから出資をうける際は何パーセント株式を発行して資金調達するのかも考慮するようにしましょう。

CVCからの出資は事業会社とのシナジー効果が見込めることが大切

出資先を探すときに、CVC(Corporate Venture Capital)という企業型ベンチャーキャピタルも選択肢のひとつです。CVCとは事業会社が行う投資活動のことで、CVCから出資をうけるときには自社とCVCの間にシナジー効果が見込めることが大切です。事業会社はスタートアップの成長ステージに関わらず、金銭的リターン以外にも得られるメリットがあれば出資を決める傾向にあるからです。

たとえば、CVCが欲している新技術の開発を行っているスタートアップがあるとすると、CVCは出資をする代わりに新技術の開発ノウハウを得られるメリットがあります。

スタートアップ側も、CVCから資金を調達することで事業会社と接点がもて、CVCから経営ノウハウや原材料などの物的資源の支援も得られるなど、資金面以外でのサポートが受けられる可能性があります。

一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会ではCVC会員を公開しています。自社の事業内容次第になりますが、マッチするCVCを探してみてもいいでしょう。

スタートアップが活用できるデットファイナンス

日本の中小企業のほとんどが金融機関からの借入により資金調達しているように、デッドファイナンスを利用するスタートアップは多数存在します。スタートアップが活用できるデットファイナンスとして、「金融機関からの借入」と「私募債」の2つがあります。それぞれの比較は以下の通りです。

【金融機関からの借入と私募債の比較】

金融機関からの借入 私募債
返済方法 元金毎月払い 元金一括払い
金利 1~5% 自由に設定
調達期間 1~3か月 ケースバイケース

金融機関からの借入は毎月返済が原則ですが、私募債は元金を償還期限に一括で返します。金利は私募債の場合、私募債を発行する企業側で設定できますが、2%から6%程度になるケースが多いです。

金融機関からの借入の場合、申込から入金までの流れが確立されているため調達期間は1か月から3か月程度になりますが、私募債の場合は発行企業が主体となって投資家を集めるところから行うため、調達期間が2か月から半年ほどとケースによって幅があります。

経済産業省の資金調達調査によると、中小企業が2021年に活用した資金調達先は「金融機関からの借入」が93.6%、「社債の発行」が5.5%となっており、現状デットファイナンスで主に活用されているのは金融機関からの借入となっています。

スタートアップは特に創業初期は資金繰りが難しく、返済負担のあるデットファイナンスは適さないように思われますが、近年は創業融資に積極的な金融機関も増えており、出資よりも間口が広く申込しやすい傾向にあります。返済計画を練ったうえで融資の活用を検討してみましょう。

金融機関からの借入は創業期から活用可能

金融機関からの借入は、スタートアップの創業期から活用可能です。金融機関のなかには創業融資制度を設けて積極的な支援を行っているところもあり、創業前から創業5年前後まで利用可能な制度もあります。

代表的な創業融資は以下の通りです。

創業融資制度 概要
日本政策金融公庫の新創業融資制度 政府100%出資の政府系金融機関による創業融資制度。税務申告2期終えていない事業者に対し3,000万円を上限に無担保無保証での融資が可能。
自治体による制度融資 各都道府県や主要な市町村が資金を一部預託し、地元企業へ融資する制度。

自治体、民間金融機関、信用保証協会の3者が連携して行う。条件は自治体により異なるが、創業5年以内で3,500万円までの融資が一般的。

信用金庫、地方銀行による信用保証協会付き融資 民間金融機関のなかでも信用金庫、地方銀行は地域密着営業しており、創業融資にも積極的な傾向がある。信用保証協会と連携し創業融資を扱うケースが多い。条件は金融機関により異なるが、創業5年以内で3,500万円までの融資が一般的。

金融機関から借入する際の審査では、返済能力が重視される傾向にあります。スタートアップの成長モデル上、創業初期の数年間は利益がでにくいケースが多く、金融機関は毎月の返済が可能かどうかを確認したいからです。

スタートアップが金融機関の審査を受ける際は、資金繰り計画を作成して毎月の返済予定を示したり、経営者の経歴や商品の確実な受注先などの、事業の将来性を担保するような事実情報を説明したりすることが大切です。

また、出資などエクイティファイナンスで資金調達したあとのタイミングであれば、手元資金が厚く返済能力があると金融機関からの評価も高くなる傾向があります。金融機関からの借入を行う際は、申し込むタイミングを考慮することもポイントです。

スタートアップの創業期は事業の実績がなく、出資者を探すこともハードルが高いです。まずは金融機関から借入し事業を始めるスタートアップも少なくありません。出資と並行し金融機関からの借入も検討しながら資金調達するようにしましょう。

私募債はシリーズA以降だと活用しやすい

私募債はスタートアップが成長し後期のステージに入ったときに活用しやすい手法です。私募債とは社債の一種であり、購入者を複数募って資金を集め、満期までは利息のみを支払いつつ償還期限が来たら元金を一括で購入者へ償還するという資金調達方法です。

私募債は金融機関からの借入と違って毎月返済するのではなく、償還期限がきたときに一括で元金を返す仕組みです。創業初期では信用力が足らず私募債購入者を集めにくいため、企業に収益力がついてきたシリーズA以降で活用しやすいといえます。

私募債は購入者が集まれば億単位の資金調達も可能で、毎月の返済や株式を譲渡する必要もありません。高額な設備投資をしたい場合や大型のプロジェクトを受注し資金の先出しが発生するなど、私募債はタイミング次第では適した資金調達方法になりえます。

ただし、金融機関からの借入と違って自社が主体となり私募債の条件を設定し、購入者を募って交渉や発行の手続きを行うなどの手間がかかるため、スタートアップが私募債を活用する際は時間や手間のコストも加味して検討するようにしましょう。

公的機関の補助金でも活用できるものがある

公的機関の補助金はスタートアップでも活用可能です。国や自治体による補助金は、政策目的に沿った使い道をするのであれば対象となるため、スタートアップであっても申込可能な補助金はあります。

【スタートアップが活用可能な補助金の一例】

補助金名 概要
ものづくり補助金 生産性向上のための設備投資が対象。

補助金額は100万~1,000万、補助率は中小企業1/2、小規模事業者2/3

IT導入補助金 生産性向上のためのITツール導入費が対象。

補助金額通常枠はA類型が5万円~149万、B類型が150万~450万、補助率は1/2以内。

補助金は返済不要で株式譲渡もない、政府からの支援金です。募集期間が限られているなかで用意する書類も多く手続きが煩雑ですが、受給できればスタートアップの資金繰りの一助になります。

補助金は国や自治体で採択する数があらかじめ決まっていることが多く、申込件数が多ければ審査に落ちて採択されない可能性もあります。審査に通るためには募集要項をよく読み、自社が抱えている課題や補助金を利用することで改善される理由についてなど、募集要項に沿った資金の使い方をすることを論理的にアピールすることが必要です。

また、補助金は支給されるまでの期間が長く、対象の設備などは先に自社で購入したあとで補助金が入金されるケースがほとんどです。補助金を活用する際は、入金はいつになるのかを確認し、資金繰りに問題がないかも踏まえて申し込むようにしましょう。

スタートアップ向けの補助金もある

2022年11月に政府が「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、スタートアップ向けの支援政策も増えてきています。スタートアップを対象とした補助金の一例は以下の通りです

【スタートアップを対象とした補助金の一例】

補助金名 概要
スタートアップで活用予定の海外出願支援事業 スタートアップで事業化予定のグローバル需要が見込まれる最先端技術について、海外特許出願にかかる費用を、対象経費の2分の1以内、1ファミリーあたり上限150万円で補助する制度。
TOKYO戦略的イノベーション促進事業

 

東京都にあるスタートアップや中小企業のうち、開発支援テーマに合致した技術・製品の研究開発を行う企業に対し、1,500万円から8,000万円までを上限とし3分の2以内の補助率で補助する制度。

補助金は募集期間が限定されているものも多いため、随時情報収集する必要があります。中小機構が運営するJ-Net21というサイトでは、中小企業向けに補助金の募集要項やスタートアップ向けの支援プログラムの公募情報などを掲載しています。

地域によっては自治体が創業者への補助金事業を整えているところもあるため、自社がある都道府県の自治体で活用できる補助金がないかも確認してみましょう。

まとめ

スタートアップは中小企業などのスモールビジネスとは異なり、多額の資金調達を行いながら急成長を目指す成長モデルのため、さまざまな資金調達方法について理解し活用していかなければなりません。特に出資では一度株式を譲渡すると買い戻すことは困難になるため、スタートアップの資本政策は不可逆的だともいわれています。

出資によって経営権を渡しすぎないためにも、自社の事業成長計画を立てるときには資金調達計画もセットで作成し、エクイティファイナンスとデットファイナンスのバランスを考慮しながら資金調達するようにしましょう。

資金調達で悩んだら、先輩起業家や顧問税理士へ相談するほか、政府系機関によるスタートアップ支援策サイトから経営相談などの支援を検索することもできます。こうした支援を活用しながらスタートアップ事業の成功に向けて取り組んでいきましょう。

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