日本政策金融公庫総合研究所が2020年に発表した調査によれば、新規開業時の業種として飲食店(および宿泊業)を開業する人は、「サービス業」(26.4%)、「医療・福祉」(16.7%)に次いで、14.3%と、新規開業者全体の1割以上を占めています。
一方で、同じく日本政策金融公庫総合研究所が2016年に発表した調査では、2011年末に存続していた「飲食店、宿泊業」のうち、18.9%は2015年末で廃業していたことが分かっており、飲食店経営の厳しさが垣間見えます。
参考リンク:「2019年度新規開業実態調査」~アンケート結果の概要~|日本政策金融公庫総合研究所
「「新規開業パネル調査」~アンケート結果の概要~」~アンケート結果の概要~|日本政策金融公庫総合研究所
経営に失敗して廃業という結果を招かないために、飲食店を開業する前は具体的な計画や準備を怠らないように心得ておきたいものです。そこで今回は、飲食店を開業するまでのステップを解説します。
目次
1.資金の準備
飲食店を開業するにあたり、必要な資金を用意しないとスタートできません。もし自己資金で足りない場合には、資金調達を検討する場面も出てくるでしょう。目安としては、予測した年商の50%の金額を開業資金として準備しておくと計画が立てやすいです。
たとえば、年商2,000万円が見込めるなら、1,000万円が開業資金の目安。資金の使い道は物件取得費や運転資金など、開業する前に正しく算出しておきましょう。
物件取得費なら店舗の家賃や保証金(敷金)がメインで、内外装の工事費や厨房の設備など購入資金も考えないといけません。さらに、仕入れや人件費といった運転資金も大切です。
一般的に店舗物件の保証金は家賃の10ヶ月分が相場ですが、運転資金については仕入れや人件費、光熱費など店舗の運営に必要な経費を3ヶ月分ほど準備しておくとリスク回避できます。
※家賃相場は、場所によって異なりますので、場所によっては、保証金が3ヵ月程度の場所もあります。
2.店舗のコンセプト決定
飲食店をはじめる上で、お店のコンセプトを決めておくことは重要です。
なぜなら、コンセプト次第で店舗の立地、内装・インテリアの雰囲気、求人の際の求める人物像、事業計画の組み立てなど、店舗全体の方向性に関わる要素が左右されるからです。大まかなイメージではなく、具体的に文章に落とし込むのがよいでしょう。
- 出店エリア(店舗の場所)
- 業態(どんな商品やサービスを提供するのか)
- ターゲット(どのような客層がターゲットなのか)
- 営業時間や定休日(ランチの時間、ディナーのラストオーダーなど)
- 一人あたりの客単価
- なぜ、そのサービスを始めようと思ったのか
- どのようにサービス・商品を提供するのか
3.競合店のリサーチ
出店予定エリアに繁盛店や競合店がある場合には、必ずリサーチを進めましょう。「その場所に出店して本当にお客様が来店するかどうか」の集客面の確認など、そのエリアに出店して問題ないかをチェックするためです。
まずは出店予定エリアの繁盛店や競合店を客として利用し、以下の観点から、「これなら勝負できる」もしくは「勝負するには厳しすぎる」と客観的に判断するのがよいでしょう。
- 看板の位置、店名
- 入口の印象
- 外観
- 内装やインテリア
- トイレや洗面所の清潔さ
- テーブルやカウンターの客席配置
- 照明の明るさやカラー
- どのようなBGMが流れているか
- 食器やグラスなどの品質
- 店内、店外の清掃状況
- メニューのカテゴリや種類
- もっとも高い単価と低い単価
- 平均の客単価を予想
- 店内の雰囲気や客層
- 定員の接客態度や身だしなみ
- 注文してテーブルに運ばれてくるまでの時間
- 料理のクオリティや味
- 駅からの距離 など
4.店舗・エリアのリサーチ
独立して飲食店を開業するにあたり、出店するエリアや店舗のリサーチは必須です。
好立地なエリアや面積が広い物件は賃料が高くなりますし、かといって賃料が安い物件は立地や面積の問題があります。
また、1階の店舗は2階よりも賃料が2倍ほど高く、人気のエリアでは空いている店舗がないという問題も出てくるでしょう。
重要なポイントは、「家賃を払い続けていく」ことを考慮しながら物件を探すこと。見込める売上に対して賃料が高すぎると、家賃の負担が大きくなり、その後のキャッシュフローが悪化する恐れもあります。
物件を実際に目で確かめながら、キャッシュフローも視野に入れて繁盛店になるための店舗をリサーチしましょう。
5.仕入先の決定とスタッフの募集
まず、安定した食材や食品を供給してくれて、価格や支払い方法に無理がない仕入先と取引するのが好ましいです。
たとえば、開店して間もないからと足元を見て質の悪い食材を高値で売りつけたりする業者もいるので、注意が必要でしょう。店舗物件と同じように、いろんな業者をリサーチして仕入先を決めましょう。
また、飲食店を運営していくためにはスタッフの協力も必要です。キッチンとホールに何人くらい必要なのか明確にし、そのうえで人件費に充てられる具体的な費用を計算します。
時給や交通費だけではなく、雇用保険料の負担も確認します。個人事業主なら社会保険の加入は任意ですが、お店として社会保険に加入するのかどうかも決めなければなりません。
スタッフの募集と同じくらい重要なのが、採用した人材の教育です。場面に応じた具体的なマニュアルを作成し、開業前にスタッフ育成の準備を整えておきましょう。
6.事業計画の組み立て
コンセプトが明確になり、物件に目処がついたら、開業に必要な資金も具体的に把握できるはずです。また、事業計画は資金調達で融資を申し込む際、必ず提出を求められます。
「なぜ、その事業を始めようと思ったのか」から「いくら儲かるのか」など、ひとつひとつの確認項目に対して、根拠を提示することが重要です。
とくに売上や利益は、具体的な数字に基づく根拠が求められます。仮に予測だとしても、事実に近い予測を立てる必要があるのです。
売上を予測する方法は「席数×満席率×回転率×客単価」で算出するのが一般的ですが、時間帯別での計算を忘れずに行いましょう。
なお融資を受けない人も、事業計画は必要です。事業計画をつくりながら店舗の運営をリアルに予測しておけば、今後の経営に大きく役立つからです。
7.物件の契約と店舗の内外装
早く契約したいと思っても、物件の判断を誤ると後で苦労することになります。物件が決まれば店舗のレイアウトを決めて、業者に内外装を相談するでしょう。
なかでも厨房の導線や設計は重要です。使いやすいことと効率よく作業できる環境を確保するためには、やはりレイアウトと内外装がポイントになります。
そうした点を踏まえながら、慎重に検討してから契約しましょう。また、できる限り低コストで抑えられるように業者との価格交渉もシミュレーションしておくと良いでしょう。
9.各所への届け出
飲食店を開業するなら、保健所や消防署など各所への届け出が必要です。主に「保健所」や「消防署」へ必要書類を提出し、許可が下りれば飲食店を開始できます。
なお、飲食店の開業に調理師免許は必要ありません。飲食店の開業に必要な資格は「食品衛生責任者」と「防火管理者」です。
いずれも指定の場所で開かれる講習を受ければ取得できます。ほかにも、業態によって必要な許可が出てくるため、見落としがないようにチェックしておきましょう。
たとえば「食品営業許可」や「防火管理者選任届」、「深夜における酒類提供飲食営業開始届出書」など、許可なしで始めると厄介なことになるので要注意です。
失敗しないためには準備が重要
「仕事の8割は段取りで決まる」という言葉があるように、飲食店も事業計画やリサーチなど開業前の準備が重要になります。
飲食店を開業する人は非常に多いですが、その一方で廃業する飲食店が多いことも事実。失敗して後悔しないためにも、飲食店を開業する前は具体的な計画や準備を怠らないように心得ておきたいですね。