法人を立ち上げて創業する人の中には、創業融資を考えている人もいるかもしれません。個人事業主とおなじく、法人も創業融資は利用できるため、選択肢における融資制度の仕組みを理解しながら検討することになります。
当記事では、法人が創業融資を利用するときの選択肢を解説します。選択肢を押さえることにより、自社の希望条件に合った借入先が見つかる可能性があるため、法人を立ち上げて創業融資を検討している人は参考にしてみてください。
主要な創業融資の選択肢を確認する
法人として創業融資の利用を考えている場合は、まず創業融資の主要な選択肢を確認してみましょう。創業融資の選択肢として主要な2つの方法が挙げられるため、まずは主要な創業融資の選択肢を押さえてみましょう。
【主要な創業融資の選択肢】
- 日本政策金融公庫から借入する
- 信用保証協会を利用して民間の金融機関から借入する
主要な創業融資の選択肢として「日本政策金融公庫から借入する方法」「信用保証協会を利用して民間の金融機関から借入する方法」が挙げられます。法人を立ち上げて創業融資を検討している人は、それぞれの選択肢の概要を確認してみましょう。
日本政策金融公庫から借入する
創業融資の選択肢のひとつは「日本政策金融公庫から借入する方法」です。日本政策金融公庫は創業者向けの融資制度を取り扱っているため、法人として創業融資を検討している人は日本政策金融公庫の概要を確認してみましょう。
【日本政策金融公庫の概要】
項目 | 概要 |
---|---|
事業内容 | 民間の金融機関の補完を目的とし、小規模事業者、中小企業者、農林水産事業者に対して資金調達の支援を行う |
支店数 | 全国152支店 |
融資までの流れ | 1.創業予定地を管轄する国民生活事業の支店に申込する 2.融資の審査を受ける 3.審査を通過したら融資の契約を行う 4. 融資が実行される |
創業融資の特徴 | ・原則として無担保・無保証人 ・原則として金利を0.65%優遇 ※創業前もしくは創業後2期以内の事業者に限る |
日本政策金融公庫は「小規模事業者」「中小企業者」「農林水産事業者」向けの融資を専門的に取り扱う政府系金融機関です。全国に支店があり、営業担当地域が割り振られているため、日本政策金融公庫から借入するときは創業場所を管轄する支店に融資相談することになります。
日本政策金融公庫から融資を受けるまでの流れは4工程に大別できます。「申込」「審査」「契約」「実行」の4つの手続きを経ることにより、日本政策金融公庫から融資金を受け取ることができます。
なお、日本政策金融公庫の創業融資の特徴として「原則として無担保・無保証人」「原則として金利を0.65%優遇する」の2点が挙げられます。創業前もしくは創業後2期以内の事業者に限り、一般の事業融資よりも優遇条件での借入ができることを念頭に置いておきましょう。
法人や代表者の状況により優遇措置を受けられる場合がある
日本政策金融公庫は法人や代表者の状況により、創業時に優遇措置を受けられる場合があります。日本政策金融公庫の創業融資は「新規開業資金」を主軸としていますが、条件を満たしている事業者は新規開業資金の条件よりも有利な条件で借入できる可能性があります。
【日本政策金融公庫の創業融資】
制度名 | 概要 |
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新規開業資金 | <融資限度額> 7,200万円(うち運転資金は4,800万円) <金利> 基準金利(2.35~3.45%) <返済期間> 設備資金は20年以内 運転資金は10年以内 <対象者> 開業前もしくは開業後おおむね7年以内の事業者 |
新規開業資金(女性、若者/シニア起業家支援関連) | 「女性」「35歳以下」「55歳以上」のいずれかに該当する場合、特別金利A(1.95~3.05%) が適用される |
新規開業資金(中小企業経営力強化関連) | 以下のすべての条件に該当する場合、特別金利A(1.95~3.05%)が適用される ・「中小企業の会計に関する基本要領」「中小企業の会計に関する指針」を適用予定もしくは適用している ・自ら事業計画書の策定を行い、認定経営革新等支援機関による指導および助言を受けている |
創業支援貸付利率特例制度 | 創業予定もしくは創業後2期以内の場合、0.65%金利を引き下げる |
参考:日本政策金融公庫の公式サイト(2024年9月2日時点での金利情報)
日本政策金融公庫の創業融資は「新規開業資金」を主軸としています。「融資限度額は最大7,200万円」「返済期間は最長20年以内」などの融資条件の制度に、開業前と開業後7年以内の事業者は申し込むことができます。
日本政策金融公庫の新規開業資金には優遇措置があります。「女性、若者/シニア起業家支援関連」「中小企業経営力強化関連」など、法人やその代表者が特定の条件に該当する場合は、基準金利よりも有利な特別金利での借入ができます。
なお、創業前もしくは創業後2期以内の事業者は「創業支援貸付利率特例制度」が適用されます。適用予定の金利からさらに0.65%低減されるため、日本政策金融公庫の創業融資を検討している人は、自身が適用される利率を確認しておきましょう。
信用保証協会を利用して民間の金融機関から借入する
創業融資の選択肢のひとつは「信用保証協会を利用して民間の金融機関から借入する方法」です。信用保証協会は民間の金融機関と提携しており、創業者向けの保証制度を用意しているため、法人として創業融資を検討している人は信用保証協会の概要を確認してみましょう。
【信用保証協会の概要】
項目 | 概要 |
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事業内容 | 小規模事業者や中小企業の資金調達を円滑化させるため、民間の金融機関の債権を保証している。事業者が返済できない場合、事業者に代わって金融機関へ借入金の弁済を行う。 |
信用保証協会の場所 | 全国47都道府県と横浜市、川崎市、名古屋市、岐阜市に設置されている |
融資までの流れ | 1. 「金融機関へ融資の申込」「信用保証協会へ保証の申込」を行う 2. 「金融機関の融資審査」「信用保証協会の保証審査」を行う 3. 「融資審査」「保証審査」をどちらも通過したら、契約手続きを行う 4. 融資が実行される |
保証料率 | 各信用保証協会により異なる |
信用保証協会は民間の金融機関の債権を保証する公的機関です。信用保証協会は直接融資せず、民間の金融機関の融資を保証する立ち位置のため、民間の金融機関を経由して信用保証協会を利用することになります。
信用保証協会を利用するときは、金融機関を通じて保証の申込を行います。金融機関と信用保証協会それぞれの審査を通過すると、信用保証協会の保証承諾書をもって金融機関からの融資が実行されます。
信用保証協会を利用して民間の金融機関から融資を受けるまでの流れは4工程に大別できます。信用保証協会と民間の金融機関のそれぞれにおいて「申込」「審査」の工程を経たのち、民間の金融機関と「契約」「実行」の工程を行うことにより、融資金を受け取ることができます。
なお、信用保証協会を利用するときは保証料を支払います。信用保証協会が金融機関の債権を保証する保証料は、借入する事業者が支払うため、信用保証協会を利用して民間の金融機関の創業融資を検討している人は管轄の信用保証協会の保証料率を確認しておくようにしましょう。
自治体と信用保証協会が連携した制度融資もある
自治体と信用保証協会と民間の金融機関の3者が連携して取り扱う制度融資もあります。自治体が創業者支援の一環として融資制度を用意している場合があるため、実際の自治体の制度融資を参考に、制度融資の概要を確認してみましょう。
【自治体の制度融資】
創業向けの制度融資 | 融資条件 |
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東京都の創業融資(略称:創業) | <融資限度額> 3,500万円 <返済期間> 設備資金は10年以内 運転資金は7年以内 <金利> 2.2%以内 <保証料率> 保証協会が定めるが、東京都が保証料の3分の2を補助する |
横浜市の創業融資(創業おうえん資金) | <融資限度額> 3,500万円 <返済期間> 10年以内 <金利> 1.9%以内 <保証料率> 0.3%(0.1%は市が助成する) |
たとえば、東京都は創業者向けの制度融資を用意しています。創業予定もしくは創業後間もない事業者に対し、保証協会へ支払う保証料の3分の2を補助することにより、「東京都で創業する」「保証協会を利用して借入する」事業者を支援しています。
また、横浜市も創業者向けの制度融資を用意しています。創業予定もしくは創業後間もない事業者に対し、保証協会へ支払う保証料の0.1%を助成することにより、「横浜市で創業する」「保証協会を利用して借入する」事業者を支援しています。
なお、自治体の制度融資は「都道府県」に加え、「市区町村」が用意している場合もあります。すべての市区町村で取り扱いがあるとは限りませんが、法人として創業融資の利用を検討している人は創業場所の市区町村で制度融資の取り扱いがあるかどうかを確認してみましょう。
状況によっては協調融資を利用する方法もある
法人を立ち上げたときの創業計画や資金計画の状況によっては、協調融資を利用する方法も検討できます。日本政策金融公庫「2023年度新規開業実態調査」によると開業費用の平均額は1,027万円ですが、法人の場合は平均よりも高額な資金調達が必要な場合も想定されるため、協調融資の選択肢も押さえておきましょう。
【協調融資の例】
創業に必要な資金額 | 調達方法 |
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設備資金1,000万円 | 自己資金 500万円 ○○信用金庫 500万円 |
運転資金1,000万円 | 日本政策金融公庫 1,000万円 |
総額 2,000万円 | 調達金額 2,000万円 |
協調融資は、2つ以上の金融機関が協力して同一の事業者に貸付を実行することです。1つの金融機関だけでは希望の金額を借入できない場合に、複数の金融機関から創業融資を受けることにより、希望の金額を借入できる可能性があります。
たとえば、1,500万円が融資希望額の場合、2つの金融機関との協調融資を検討する余地があります。「日本政策金融公庫から1,000万円」「信用金庫から500万円」をそれぞれ借入するとなると、希望の融資額に達することができます。
なお、金融機関によっては協調融資を前提とした融資商品を用意している場合があります。信用金庫や地方銀行など、金融機関同士が連携し協調融資の商品を用意している場合があるため、協調融資が気になる人は金融機関への相談から始めることも検討してみてください。
協調融資のメリットとデメリットを押さえておく
協調融資を検討するときは、メリットとデメリットを押さえておきましょう。協調融資は一長一短の側面があるため、法人として創業融資の利用を検討している人は協調融資のメリットとデメリットも押さえてみてください。
【協調融資のメリットとデメリット】
メリット | デメリット |
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・融資希望額を満たせる可能性がある ・金融機関との取引実績がつくれる |
・融資決定まで時間がかかる ・どちらの融資も実行されない可能性がある |
協調融資のメリットは「融資希望額を満たせる可能性がある」「金融機関との取引実績がつくれる」点が挙げられます。複数の金融機関と一度に取引ができるため、希望の借入額を引き出せる可能性や、取引実績がつくれる点をメリットとする考え方があります。
協調融資のデメリットは「融資決定まで時間がかかる」「どちらの融資も実行されない可能性がある」点が挙げられます。それぞれの金融機関での審査があるため、時間がかかる点や、1つの金融機関の審査が通らなければ、すべての融資が取り消しとなる可能性がある点をデメリットとする考え方があります。
協調融資には一長一短の側面があります。代表者の考え方や法人の状況にもよりますが、協調融資を検討するときは「希望の融資額」「希望の融資日」などの条件と照らし合わせながら決めることを検討してみましょう。
法人成りした場合は創業融資が受けられない可能性がある
法人成りした場合は創業融資が受けられない可能性があります。個人事業主から法人に事業形態を変更した場合は、創業融資の対象者に該当しない可能性があるため、法人化して創業融資を受けたい人は確認しておきましょう。
【創業融資の対象者の例】
対象者 | 概要 |
---|---|
日本政策金融公庫「新規開業資金」の対象者 | 新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方 |
信用保証協会「創業関連保証」の対象者 | 事業を営んでいない個人が開始した事業を法人化し、個人創業時から5年未満である |
日本政策金融公庫「新規開業資金」の場合、創業前もしくは事業開始後おおむね7年以内の事業者が対象者です。法人成りをした場合、個人事業主として事業開始したときから7年以内であれば、新規開業資金の対象者になる可能性があります。
信用保証協会「創業関連保証」の場合、個人の創業から5年未満の法人が対象者です。法人成りをした場合、個人事業主として事業開始したときから5年未満であれば、創業関連保証の対象者になる可能性があります。
原則として、法人成りをした場合は、個人事業主からの事業年数をもとに創業融資の対象有無が決まります。年数によっては創業融資の対象とならない場合があるため、法人成りした事業者は留意するようにしましょう。
まとめ
法人として創業融資の利用を考えている場合は、まず創業融資の主要な選択肢を確認してみましょう。主要な創業融資の選択肢として「日本政策金融公庫から借入する」「信用保証協会を利用して民間の金融機関から借入する」方法が挙げられるため、それぞれの選択肢の概要を押さえてみてください。
法人を立ち上げたときの創業計画や資金計画の状況によっては、協調融資を利用する方法も検討できます。法人の場合は平均よりも高額な資金調達が必要な場合も想定されるため、協調融資の選択肢も押さえておきましょう。
法人成りした場合は創業融資が受けられない可能性があります。原則として、法人成りをした場合、個人事業主からの事業年数を基準に創業融資の対象有無が決まるため、年数によっては創業融資の対象とならない可能性がある点を留意しておきましょう。