「銀行は雨の日に傘を取り上げ、晴れの日に傘を貸す」という言葉は有名ですが、これは実は「銀行融資」を表現することばです。実際、この言葉どおりに銀行はいつでも私たちにお金を貸してくれるわけではありません。状況や条件により、貸すか貸さないかを決めています。
では、その貸すか貸さないかの判断ですが、いったい何を基準にして決めているのでしょうか。
銀行により多少の差はありますが、融資の審査は多くの場合に「格付(かくづけ)」といわれる企業のランク付けをもとに行っています。融資の審査に落ちてしまう企業の中には、格付について知識がなく、対策をしていなかった企業も少なくありません。
そこで今回は、①融資を受けるわたしたちが銀行からどのように格付けされているのか、また、②銀行の格付ランクを少しでもあげる方法はあるのか、という2つのテーマを中心にわかりやすく解説していきたいと思います。
目次
1.銀行の格付とは
①企業の信用力を数値で評価したもの
銀行が会社を評価するのが「銀行の格付」です。かいつまんで言うと、銀行の格付は「学校の成績表」のようなものと言えるでしょう。学校の成績表が5段階や10段階で評価されるように、銀行が融資審査をする際も融資先の企業などの信用力を点数化して評価しています。
【銀行の格付と学校の成績表は似ている】
学校の成績表が個人情報でオープンにされていないように、銀行が企業をどのように格付けしているのかもオープンにされていません。しかし、学校の成績表がテストの点数や生徒の行動などをベースに記載されているように、銀行の格付についてもある程度のルールがあります。
②銀行が格付けを行う理由
格付される側の立場としては、あまり格付は好ましいものとは言えません。では、銀行が企業に対して格付をするのはなぜでしょうか。
(1)融資の可否、金利、貸出条件を決めるため
銀行融資という事業はアパレルに例えるとオーダーメイドドレスのようなものです。誰もが着られるS、M、LサイズのTシャツの販売ではなく、その企業と十分に話し合いをし、希望や不安も聞き、その企業のためだけのための融資プランを作成します。
融資の審査では、銀行は企業が提出する事業計画書や財務諸表をみて、主に以下の内容を決めていきます。
- そもそもお金を貸せるか貸せないか(融資の可否)
- いくら貸すか(融資実行額)
- 金利が何%にするか(最終金利)
(2)銀行のリスク回避とスピーディーな審査のため
もうひとつの理由としては、銀行が破綻するのを防ぐためです。実際にあることですが、多額のお金を貸したにも関わらず返済しない事業者が多い銀行は、「あんな事業者にお金を貸すなんて」と世間からのクレームを受けることになります。また、金融庁からもお叱りを受けることになります。
銀行がお金を貸すかどうかは、貸す相手(企業)の信用力が高いかどうかで判断できます。信用力とは、普通は目に見えないものです。しかし、信用力が点数化されると、銀行側は「これ以下の企業には融資をしない」というボーダーラインを設定しやすくなります。他の企業や案件との比較もしやすくなり、結果的にスピーディーな融資の審査が可能になります。
2.銀行格付と債務者区分の関係を知ろう
借金が多いと、銀行の格付も下がってしまいます
では、ここからは具体的に銀行が企業を格付する方法についてご説明しましょう。まず、銀行は主に企業を①企業の財務内容②延滞や借金がどれぐらいあるのか、の2点で格付していきます。格付はだいたい以下のように5段階ほどあります。
※金融庁の文書である『金融検査マニュアル』では債務者区分を5段階に分けています
- 財務内容に問題なし(第一区分)
- 延滞や貸し出し条件に問題あり(第二区分)
- 事実上債務超過の状態となっており、6カ月以上の延滞などがある(第三区分)
- 長期間の債務超過状態となっており、実質的に経営破綻した状態(第四区分)
- 経営破綻状態にある(第五区分)
そして、格付けの区分によりさらに「債務者区分」を決めていきます。
(債務者区分とは?)
「正常先」から「破綻先」まで5段階ほどある区分のことで、債務者区分が下のランクに下がれば下がるほど、銀行が融資で支払わなければいけないコストは上がります。
【参照:https://www.nikkei.com/article/DGXKZO35754880W8A920C1EA2000/】
債務者区分が「正常」な場合、多くの場合は銀行から融資を受けられることでしょう。しかし、「要注意先」などのその他の区分場合は融資を申し込んでも審査に落ちる可能性があります。
このように、企業は銀行から上記のいずれかの債務者区分をつけられていて、この債務者区分がどこに位置するかが銀行から融資を受けやすいかどうかの大きなポイントとなります。債務者区分の分け方は全金融機関で一律ではなく、金融機関により若干の差があります。
3.格付は「信用格付会社」によりAAなどで表記される
銀行による企業の格付は5段階ほどに分けられるとお伝えしましたが、格付が記録される際はAAなどの簡単なアルファベットや数字が使われます。
「例)AA(読み方:ダブルエー)
AAは上から数えて3番目の格付けで、財務力が非常に強く、債務履行の確実性が高いと評価される」
銀行が企業をAAなどに格付することを「信用格付(しんようかくづけ)」と言います。信用格付は銀行自体が行うのではなく、国内では株式会社日本格付研究所(JCR)、海外ではS&P(スタンダード・アンド・プアーズ)などの「信用格付会社」が行っています。
4.信用格付=「定量分析」+「定性分析」
信用格付の内容は定量分析と定性分析という2種類の分析結果をもとに総合的に判断されています。
定量評価とは? | 数値化できるもの。決算書の数値を使って行う 例)売上高経常利益率、総資産経常利益率(ROA)など |
定性評価とは? | 数値化できないもの 例)事業者の資質、独自の営業ルートなど |
そのため、財務内容が非常によくても定性評価がかなり低いと融資の審査に落ちる可能性もありますし、定性評価が低くても財務内容が非常によい場合では融資の審査に通る可能性もあります。
「定量分析」と「定性分析」のウェイトは「定量分析(80%~90%)」+「定性分析(10%~20%)」で、定量分析の方が重視されます。数値であればだれが見ても公正に評価ができますが、定性分析は人によって評価の仕方がまちまちになってしまうため「定量分析」の方が重視される傾向が強いです。
①定量分析は収益性・安全性・成長性・債務返済能力の4つで判断
定量分析の良い点は数値化できることです。通常、銀行では定量分析をする際に企業の2期分・3期分の決算書を基に銀行ごとの基準に則して決定します。
具体的に、定量分析では以下の4つの能力を計算して格付します。ちなみに、銀行ごとにどの分析を重視するのかという決算数値のウェイトは異なります。(そのため、同じ企業でも融資をしてくれる銀行としてくれない銀行があるのです)
(1)収益性
収益性とは、企業がどれぐらい稼げるのかという指標です。収益性は売上高経常利益率、総資産経常利益率など判断します。
売上高経常利益率とは財務活動なども含めた企業の事業活動全体における利益率を表すもので、数値が高いほど業績の良さを表します。一方、総資産経常利益率は会社の総資産を利用してどれだけの利益を上げられたかを示す数値です。
(計算式)
- 売上高経常利益率 = 経常利益 / 売上高
- 総資産経常利益率 = 経常利益 / 総資産
(2)安全性
格付における安全性とは、企業の資産と負債のバランスが適当であるかをみる指標です。当然、負債が大きく資産が少ない企業の安全性は低いとみられ、その逆の場合は安全性が高いと判断されます。
(計算式)
聞きなれないことばがたくさん出てきましたので、以下で簡単に用語解説をします。
・当座比率
流動負債に対して当座資産がどの程度保有されているかを示す指標。現金化されやすい当座資産にだけ着目して、短期の支払い能力を判断することができる。当座比率が100%以上あれば、短期債務返済能力は十分あるものと判断することができる。
・流動比率
1年以内に現金化できる資産が、1年以内に返済すべき負債をどれだけ上回っているかを表す指標。会社の短期的な支払能力(短期安全性)が分かる。一般的には200%、業界によっては120%程度あればよいと言われている。
・固定比率
固定資産と自己資本とを比較したもので、固定資産に投資した資金が返済義務のない自己資本でどれだけまかなわれているかを見るための指標。固定比率が100%を切っていれば、すべての固定資産を自己資本でまかなっているということなので、財務状況は比較的健全といえる。
・固定長期適合率
固定資産を自己資本と固定負債の合計で割ったものであり、長期的な視点で支払い能力の安全性を分析する指標。100%以上だと支払い能力が危険である可能性が高いといえる。
・自己資本比率
負債および純資産の合計額(総資本)に占める純資産の割合。自己資本比率が高ければ、自己資本が多い、つまり返済義務のないお金を潤沢に持っているということになる。
・ギアリング比率
企業の自己資本に対する他人資本(有利子負債等)の割合。通常、100%(1倍)を下回ると財務が安定しているとされ、また数値が低いほど「借金の少ない会社」ということになる。
(3)成長性
イメージです。
格付における成長性では、企業の活動期間ごとにどれだけ経常利益率が上昇しているのかを判断しています。経常利益増加率がプラス(高い)ということは、企業の力が高まっていることの現れと考えることができます。
【成長性を判断する3つのデータ】
- ①経常利益増加率
(計算式)経常利益増加率 = ( 当期経常利益 - 前期経常利益 )/ 前期経常利益
- ②自己資本額
- ③売上高
(4)債務返済能力
債務返済能力とは、その名の通り、融資などの借金を返済する能力がどれぐらいあるのかを測る指標です。具体的には。営業利益と減価償却費に対して融資の返済額がどれぐらいの割合であるのかがポイントになります。
(計算式)
- 債務償還年数 = 有利子負債 / (税引後利益 + 減価償却費)
- インタレスト・カバレッジ・レシオ = 営業利益+受取利息配当金 / 支払利息
聞きなれない用語がまた出てきましたので、用語を確認していきましょう。
・債務償還年数
現在のキャッシュフローで借入金を何年で完済できるかを計算できる。
・インタレスト・カバレッジ・レシオ
会社が通常の活動から生み出すことのできる利益、つまり営業利益と金融収益(受取利息と受取配当金を含めることが多い)が、支払利息をどの程度上回っているかを示す指標。比率が高いほど、財務的に余裕があることを意味している。
②定性分析は8つの指標で評価する
定量分析のように数値化できない分析が定性分析です。一般的に、定性分析では以下8つの指標をもとに評価を行います。
経営者の資質 | 事業経験・経歴、経営方針、過去の実績はどうか。 |
営業力 | 営業基盤(営業するための商品・サービスの完成度や認知度、仕入れ先の確保、独自の営業ノウハウがある、など)のレベルはどうか。 |
販売力 | 独自の営業ルート(販売先の確保)があるかどうか。 |
技術力 | 商品開発力、特許権などの知的財産権。はどうか。 |
成長性 | 販売する商品・サービスの市場の動向はどうか。 |
経営改善計画 | 今後の資産売却予定はあるか、役員報酬や諸経費の削減予定はあるか、新商品等の開発計画や収支改善計画等はどうか、計画を下回った場合はその要因はなにか。 |
競合優位性 | シェア、業歴の長さや販売の実績、マスコミで掲載された記事、同業者との比較に基づく販売条件や仕入条件の優位性はどうか。 |
従業員の能力 | 従業員のモラルのレベルや接客態度などはどうか。 |
5.(注意)未回収の売掛金があると、定量分析は修正して計算される
売掛金とは、ある商品やサービスを取引先に販売をした代金のうち、まだ未回収の代金のことをいいます。例えば、あるひとがA社に500万円分の商品を卸しましたがその内300万円分の代金が未回収であれば「売掛金が300万円」あることになります。
銀行が企業を格付する際に「売上高」をみますが、売上高の中にある回収できていない売掛金も洗い出します。そして、売掛金の中で長期に現金となっていないものに関しては「不良債権」と判断して、売上高を減額修正します。
その他にも、以下のようなものがあると銀行は格付を決める際のデータを修正します。
- 有価証券・不動産の修正
審査前の時価ではなく、審査時点での時価の価値に修正します
- 不良在庫の有無
長期で棚卸資産となっている在庫は不良在庫ありとして判断します
- 関連会社の資産余力
グループ会社などの資産状況が悪い場合も定量分析の評価は修正されます
6.自分の会社の格付けを上げたい!格付を上げるメリット
銀行の格付の存在を知れば、できる限り格付を上げたいと考えるのは自然な考えです。会社としての格付があがれば自然に銀行が融資をしてくれることでしょう。
さらに言えば、格付があがれば融資に通るだけではなく、以下のようなメリットもあります。
- ①金利が下がる
金利は金融機関によって異なりますが、格付けが良いほうが金利も良い条件で借りられる
- ②融資可能額が増える
格付が現状のままだと700万円借りられ企業が格付の上昇により2,000万円借りられる、といったケースの可能性が考えられます
- ④担保が不要になる
- ⑤保証人が不要になる
格付が上がるということは信用力がUPされるということなので、担保や保証人がなしで契約できる可能性が上がります。
「銀行は雨の日に傘を取り上げ、晴れの日に傘を貸す」という言葉から分かるように、銀行は会社の状態がよい時に融資をしてくれます。では、できるだけ会社の状態を良くするにはどうすればいいのでしょうか?
7.銀行格付けを引き上げる方法は、「定量分析」と「定性分析」の向上しかない
銀行の格付は数値というデータにできる「定量分析」とそれ以外の「定性分析」の2つがあるとお伝えしました。あなたの会社の格付を上げるコツですが、何かをすることで劇的に格付が上昇するということではありません。
これまでお話しした「定量分析」と「定性分析」の内容を以下の方法で地道にコツコツ改善していくしかありません。
①定量分析の向上とは
収益性・安全性・成長性・債務返済能力の4つで判断されますが、この中で成長性を即座にあげることはなかなか難しいことでしょう。けれども成長性以外の「収益性」「安全性」「債務返済能力」であれば事業主の努力で改善することができます。
(1)収益性の向上→利益率の改善をしましょう
意外なポイントですが、収益性の向上には「過度な節税しない」ことが効果的です。税金は利益に対してかかるため、節税のために利益を圧縮する事業主が少なくありません。けれども、節税のしすぎた決算書は銀行との融資という面においてはマイナスの効果をもたらします。
次に、収益性を上げるための施策としては「高利益率商品、高利益率体制への変更」が挙げられます。事業で販売している商品の中でも特に高利益のものを中心に販売する体制へ変更することで、収益性はアップします。
また、無駄な経費削減をすることも収益性の向上には役立ちます。
(2)安全性の向上→負債を減らし、資産を増やしましょう
流動負債を減らすことで「当座比率」「流動比率」の数値は挙げられます。また、資産を増やすためには資産(現金、預金、受取手形、売掛金、有価証券)を増やすことで「当座比率」「流動比率」「固定比率」「固定長期適合率」を上昇させることができます。
資産を増やすのに手っ取り早いのは増資することです。経営者個人が出資するのも良いですし、またはベンチャーキャピタルや共同経営者、取引先、投資家からの出資を受ける方法も資産を増やします。
また、バランスシート全体をスリムにすることも安全性の向上には有効です。資産がバランスシート上で大きい場合には資産を保有せずにリースなどを活用するのもひとつの方法です。
(3)債務返済能力→利益を出してアピールしよう
最後は債務返済能力の向上です。借金を返せると銀行から思われるためには①稼ぐちからをつける(営業利益の増加)と②コストをカットする、の2つの方法があります。
②定性分析の向上とは
次に、定性分析の向上のための方法をいくつかご紹介します。
- (1)経営者個人の資産や収入をアピールする
代表者等の預金や有価証券等の流動資産及び不動産(処分可能見込額)等の固定資産があれば提出しましょう。
- (2)企業の技術力、販売力や成長性を示す
企業の技術力、販売力を示すデータや資格を提出しましょう。商標や特許があれば提出することで加点されることもあります。
- (3)経営者の資質を示す
経営者の資質は以下の内容で示すことができます。
- 過去の約定返済履歴等の取引実績
- 経営者の経営改善に対する取組み姿勢
- 財務諸表など計算書類の質の向上への取組み状況
- ISO等の資格取得状況
- 人材育成への取組み姿勢
- 後継者の存在等
- (4)経営改善の具体策を示す
これは「ウチの業績悪いよね~!でも、悪いのはわかってる。改善策も考えてるんだ~!」と。経営状態が悪いことを活かして、逆に提案していく方法です。
たとえば、法律等に基づき技術力や販売力を勘案して承認された計画等(例えば、中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律の「経営革新計画」「異分野連携新事業分野開拓計画」等)があれば、それを提出しましょう。
経営革新計画についての詳細は、当サイトの以下記事でもご説明しています。
- (5)経営改善計画が未達であれば問題点と対策を示す
計画を下回った要因について分析するとともに、今後の経営改善の見通し等を検討した資料を提出しましょう。
8.銀行の「信用格付」の有効期間は1年間!
実は、銀行の格付も一生同じものが使われるわけではありません。1年ごとに決算のタイミングで更新されています。そのため、1期だけ利益・赤字が大幅に出ていても、「信用格付」が急激に上下するわけではありません。
「いろいろ見てきたけど、銀行の格付を上げるのってなんだか大変そう」と思う方もいらっしゃるかもしれません。確かに、銀行の格付はデータ的なところが大部分で評価されるため、数字に強くない経営者の方はしり込みしてしまうかもしれません。
しかし、そんな経営者のために国(経済産業省)は「認定支援機関制度」という制度をもうけています。
(認定支援機関とは?)
一定の知識・経験をもつ税理士や公認会計士などの中で経済産業省により許認可を与えられた民間の税理士事務所などの企業のこと
融資の成功確率を上げたいなら、認定支援機関に依頼するのもひとつの方法です。銀行の融資はじぶん一人で申し込むことももちろんできますが、認定支援機関を経由することで以下4点のメリットがあります。
- ①融資審査の進行管理や対応への助言が受けられる
- ②提出書類の作成サポートが受けられる
- ③金利優遇が効く場合がある
- ④融資額が増え、融資までの期間が短縮される
認定支援機関について興味があれば、ぜひ以下の人気記事もあわせてご参照ください。
また、当サイトを運営する㈱SoLaboは過去に3,700件以上もの日本政策金融公庫や民間の金融機関への融資サポートを行っている認定支援機関です。銀行融資に申込みたいけれど不安がある方は、メールまたは電話での無料相談をぜひご活用ください!
まとめ
銀行の格付には「定量分析」と「定性分析」の2種類があり、8割以上は定量分析の結果をベースに格付されています。
銀行の格付は銀行から融資を受けられるかの重要なポイントであり、定量分析と定性分析の内容を向上することで格付のランクを上げることは可能です。