賃貸業や仲介業などの不動産業を開業予定の人の中には、創業融資を検討している人もいるでしょう。不動産業が創業融資を受けるためのポイントが気になる人もいるかもしれません。
当記事では、不動産業を開業する人が創業融資を受けるためのポイントを解説します。物件の購入資金や事務所の開設資金など、創業融資を受けて不動産業を始めようと考えている人は参考にしてみてください。
ポイントは開業する不動産業の種類によって異なる
創業融資を受けるためのポイントは、開業する不動産業の種類によって異なります。「不動産業賃貸業」「不動産仲介業」など、不動産を取り扱っている事業者はいくつかの種類に分けられ、収益構造もそれぞれ異なるからです。
【不動産業の種類の例】
- 不動産賃貸業
- 不動産仲介業
- 不動産売買業
- 不動産管理業
不動産業は「賃貸業」「仲介業」「売買業」「管理業」に大別されます。それぞれの収益構造が異なる関係上、金融機関が創業融資の審査時に確認するポイントも異なる部分があるため、創業融資を検討している人は自身が開業する種類に応じたポイントを押さえてみましょう。
不動産賃貸業の場合
不動産賃貸業が創業融資を受けるためのポイントは「収益性」です。「マンションの一室」「テナント物件」など、不動産賃貸業は自身が所有する不動産を人に賃借し、その賃借料を収益とする事業のため、所有する不動産の収益性を審査時に確認される傾向があります。
【収益性を確認するための項目例】
項目 | 具体例 |
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物件の立地 | ・ターゲット層は? ・利便性は? |
家賃設定 | ・相場との比較は? ・過去数年間の家賃上昇率は? |
空室率 | ・過去の実績は? ・想定されるリスクは? |
賃貸契約の内容 | ・契約期間は? ・賃料回収の確実性は? |
修繕・維持管理費 | ・修繕積立金は? ・物件管理料は? |
返済額とのバランス | ・返済できるだけの収益が見込めるか? ・空室期間を想定した返済計画を立てられているか? |
収益性を確認するための項目のひとつは「物件の立地」です。「ターゲット層に需要がある」「利便性が良い」など、物件の立地に関する情報を賃貸業の経営者として把握しているかどうかを確認される可能性があります。
収益性を確認するための項目のひとつは「融資額とのバランス」です。創業融資の返済期間は10年程度に設定される傾向にあるため、返済期間から算出される返済負担額に対し、毎月の収益が上回る見込みであるかどうかを確認される可能性があります。
なお、不動産投資にかかる資金は創業融資の対象外となる可能性があります。創業融資は新たに事業を始める人の事業資金が対象となるため、事業性がない投機目的の不動産購入であると判断された場合は、創業融資を受けられない可能性がある点を留意しておきましょう。
不動産仲介業の場合
不動産仲介業が創業融資を受けるためのポイントは「集客力」です。仲介業は物件の売主と買主、貸し手と借り手を仲介した手数料から収益を得るビジネスモデルのため、仲介案件数を確保できるかどうかを金融機関は確認する傾向にあります。
【集客力を確認するための項目例】
項目 | 具体例 |
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集客手法 | ・ポータルサイトやSNSを活用できているか? ・チラシ配布や看板設置などのオフライン施策を実施するか? |
営業ルート | ・不動産業者やオーナーとの関係を構築しているか? ・法人契約や紹介ルートを確保しているか? |
市場分析 | ・競合と差別化できる強みはあるか? ・ターゲットエリアの需要や動向を把握しているか? |
契約実績 | ・不動産業界での営業経験はあるか? ・個人や法人の仲介実績はあるか? |
反響対応 | ・問い合わせ対応できる体制は整っているか? ・顧客フォローの仕組み化はできているか? |
広告運用 | ・集客に必要な広告予算を把握しているか? ・費用対効果を考慮した広告運用ができているか? |
集客力を確認するための項目のひとつは「集客手法」です。「ポータルサイトやSNSを更新する」「チラシ配布や看板設置などのオフライン施策」など、どのような手法により物件の買い手や借主にアプローチするかを確認される可能性があります。
集客力を確認するための項目のひとつは「営業ルート」です。「不動産業者やオーナーとの関係が構築できている」「法人契約や紹介ルートを確保している」など、物件の売主や貸主にどのようにアプローチするかを確認される可能性があります。
なお、仲介案件の見込み先がある場合は事業計画書に記載することを検討しましょう。得意先や営業先からすでに仲介案件を紹介されている場合は、開業初期の売上見込みとなるため、案件数や仲介料などを売上見込みに計上することを検討してみてください。
不動産売買業の場合
不動産売買業が創業融資を受けるためのポイントは「安定性」です。不動産売買業は高額な取引が発生する関係上、売上の変動が激しいビジネスモデルのため、事業の安定性が確保できるかどうかを金融機関から確認される傾向があります。
【事業の安定性を確認するための項目例】
項目 | 具体例 |
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物件の選定基準 | ・「中古」「区分所有」など、どの物件を中心に扱うか? ・市場ニーズや収益性を考慮した選定基準があるか? |
仕入れルート | ・「不動産業者」「競売」など、どのルートから仕入れるか? ・複数の仕入れルートを確保しているか? |
販売チャネル | ・仲介業者と連携できているか? ・ポータルサイトやSNSを活用できているか? |
資金繰り | ・売却までの資金繰りは? ・仕入れ資金だけではなく、運転資金も確保しているか? |
年間の収益計画 | ・1件あたりの利益目標は設定しているか? ・年間の取引件数は設定しているか? |
事業の安定性を確認するための項目のひとつは「物件の選定基準」です。「どの物件を中心に扱うか」「市場ニーズや収益性は考慮しているか」など、どのような戦略をもって購入する物件を選定しているのかを金融機関から確認される可能性があります。
事業の安定性を確認するための項目のひとつは「資金繰り」です。物件の仕入れから販売まで相応の時間を要するため、その間の運転資金を含めた資金繰りが計画できているかどうかを金融機関から確認される可能性があります。
不動産売買業の場合は、借入に依存した計画にならないよう注意しましょう。物件購入資金を全額融資でまかなう場合、借入に依存し事業の安定性がないと判断される可能性があるため、相応の自己資金を投入する計画を立てることを検討してみてください。
不動産管理業の場合
不動産管理業が創業融資を受けるためのポイントは「契約の獲得力」です。不動産管理業は賃貸物件の管理を代行し、管理手数料を収益とするビジネスモデルのため、管理物件が確保できているかどうかを金融機関から確認される傾向にあります。
【契約の獲得力を確認するための項目例】
項目 | 具体例 |
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獲得状況 | ・契約見込み先は何件あるか? ・契約獲得に向けた営業戦略は? |
管理契約の内容 | ・長期的に契約を継続できる内容になっているか? ・途中解約のリスクを減らせる工夫はあるか? |
オーナーとの関係構築 | ・オーナー向けのサービス提供はあるか? ・オーナーとの継続的な関係を築けているか? |
管理手数料 | ・管理手数料は相場に適した価格が設定されているか? ・売上を伸ばす施策は立てられているか? |
管理業務の体制 | ・管理業務を安定的に提供できる体制が整っているか? ・外部委託する場合、業者との関係は構築できているか? |
資格の有無 | ・管理業務主任者の資格は保有しているか? ・賃貸住宅管理業者登録はしているか? |
契約の獲得力を確認するための項目のひとつは「獲得状況」です。「管理物件の契約数や契約見込み数」「契約獲得に向けた営業戦略」など、創業融資に申し込んだ時点での契約獲得状況を金融機関から確認される可能性があります。
契約の獲得力を確認するための項目のひとつは「管理業務の体制」です。「入居者対応」「設備点検」などの管理業務を安定的に提供できる体制が整っているかどうかを金融機関から確認される可能性があります。
なお、管理戸数200戸以上の賃貸住宅管理業者は「賃貸住宅管理業者登録」が必要です。賃貸住宅管理業法に基づき、管理戸数が200戸以上の管理業者は国土交通大臣の登録を受ける義務があるため、該当する場合は登録証明書類を金融機関に提出しましょう。
不動産業全般に共通するポイントもある
創業融資を受けるためのポイントとして、不動産業全般に共通するポイントもあります。不動産業にかかわらず、創業融資の審査全般に共通するポイントとも言えるため、不動産業を開業したい人はこれらのポイントを押さえておきましょう。
【不動産業全般に共通するポイント】
項目 | ポイント |
---|---|
業種経験 | ・不動産を取り扱う業種での勤務経験の有無 |
自己資金 | ・開業にかかる費用総額の3割程度が目安 |
許認可関連 | ・「宅地建物取引業」の免許 ・「宅地建物取引士」の資格者 ※宅地建物取引業を行う場合は必要 |
不動産業全般に共通するポイントのひとつは「業種経験」です。とくに不動産業は専門知識や営業経験が重要な業種のため、不動産業界での「勤続年数」「業務内容」「職位」などの情報が審査の可否を決める判断材料となる可能性があります。
不動産業全般に共通するポイントのひとつは「自己資金」です。借入負担を考慮し、開業にかかる費用総額の3割程度の自己資金を用意することが目安のひとつになるため、自己資金額の情報が審査の可否を決める判断材料となる可能性があります。
なお、不動産業の中には、免許や資格者の取得が必須な場合があります。「不動産仲介業」「不動産売買業」は宅地建物取引業に該当するため、宅地建物取引業の免許と、宅地建物取引士の資格者がいることを金融機関に示さなければならないことを留意しておきましょう。
副業の場合は勤務先による許可が必要
創業融資を利用して副業に充てる資金を調達する場合は、本業の勤務先による「副業許可の証明」が必要となる可能性があります。副業として不動産業を始めようとしている人は注意しましょう。
副業を許可しているかどうかは勤務先によって異なります。「労務提供上の支障がある場合は禁止」「人事部の承認があれば許可される」など、副業の許可範囲や承認フローは会社の就業規則によって異なるため、副業の許可を得ているかどうかを金融機関は確認する傾向にあります。
副業の許可を確認する方法は金融機関によって異なります。「就業規則のコピーを提出する」「人事部へ電話確認する」など、金融機関によって確認する方法は異なるため、創業融資の審査担当者の指示に従います。
なお、副業であることを隠して創業融資を受けることは止めましょう。副業であることを隠して創業融資を受けた場合、虚偽の申告をしたと金融機関から一括返済を求められるおそれもあるため、副業として不動産業を開業する場合はその旨を金融機関に伝えるようにしましょう。
創業融資を利用して物件を購入する場合は慎重な審査となる傾向がある
創業融資を利用して物件を購入する場合は、慎重な審査となる傾向があります。物件の購入費用は創業時における融資額の目安と比較して高額になりやすいため、金融機関は貸し倒れのリスクを懸念するからです。
日本政策金融公庫総合研究所の「新規開業実態調査」によると、金融機関等から借入した場合の平均額は約800万円でした。業種や事業規模によって差が出る可能性はありますが、創業時における借入額として約800万円は目安のひとつと考えられます。
一方、公益財団法人東日本不動産流通機構の「首都圏不動産流通市場の動向」によると、2024年の首都圏における中古マンション成約物件価格は4,890万円でした。地域や物件によって差はありますが、物件の購入費用は創業時における借入の目安額よりも高額になる可能性が高いです。
そのため、物件購入費用として創業融資を受けたい場合は事前準備が必要です。「収益をシミュレートする」「返済計画を立てる」「自己資金を増やす」など、金融機関の懸念点への対応策を準備することを検討してみてください。
まとめ
創業融資を受けるためのポイントは、開業する不動産業の種類によって異なります。それぞれの収益構造が異なる関係上、金融機関が創業融資の審査時に確認するポイントも異なる部分があるため、創業融資を検討している人は自身が開業する種類に応じたポイントを押さえてみましょう。
創業融資を受けるためのポイントとして、不動産業全般に共通するポイントもあります。「業種経験」「自己資金」「許認可関連」などのポイントは、不動産業にかかわらず、創業融資の審査全般に共通するポイントとも言えるため、不動産業を開業したい人はこれらのポイントを押さえておきましょう。
なお、創業融資を利用して物件を購入する場合は、慎重な審査となる傾向があります。物件の購入費用は創業時における融資額の目安と比較して高額になりやすい関係上、金融機関は貸し倒れのリスクを懸念するため、対応策を準備することを検討してみてください。