観光産業等生産性向上資金(企業活力強化貸付)

日本政策金融公庫の貸付を受けるには、まず自分の状況に合った融資制度を選ぶことが重要です。

例えるなら、レストランで食事をするときにメニューを選んで、注文するようなイメージです。

このメニューは人や状況によって利用できる融資制度が異なります。

それはちょうど、お子さまランチが小学生以下でないと頼めなかったり、雨が降ったときだけ注文できるスペシャルメニューがあったりするのと似て、利用するときに利用者の属性や状況などの条件を満たす必要があります。

では「観光産業等生産性向上資金(企業活力強化貸付)」とは、どんな融資制度なのか?見ていきましょう。

利用条件

ホテル、レストランなどのサービス業や国内観光事業をもっと盛り上げたい方が利用できる融資制度です。具体的には、経済産業省創設のサービス品質規格認証制度である「おもてなし規格認証」を取得した方や、訪日外国人旅行者の消費需要の取り込みを図る方です。

この融資制度は、次の条件のいずれかに当てはまれば利用できます。

観光産業等生産性向上資金(企業活力強化貸付)の利用条件

1・小売業、飲食サービス業およびサービス業のいずれ科の事業を営む方であって「おもてなし規格認証」の紫認証、紺認証または金認証を取得した方で、次のいずれかに該当し、合理化、生産および販売能力の拡大を望む方

  1. 金認証を取得した方
  2. 紫認証または紺認証を取得した方であって、財務にかかる自己評価を実施した方(注1)または「中小企業の会計」を適用する方のいずれかに該当する方(注2)
  3. 上記2つの項目に該当しない方

2・訪日外国人旅行者の消費需要の取り込みを図る方であって、次のいずれかに該当する方

  1. 消費税法第8条6項に基づき税務署長の許可を受けた輸出物品販売売場を経営する方
  2. 消費税法施行令第18条の2第7項に基づき税務署長の承認を受けた承認免税手続事業者
  3. 一定の要件を満たす補助金(注)の交付を受けた商店街振興組合等(交付を受けた商店街振興組合等の地区において事業を営む方を含む)
  4. 免税手続きカウンターが設置された特定商業施設内において事業を営む方

(注1)財務にかかる自己評価についての詳細は、日本政策金融公庫に問い合わせのこと。

(注2)「中小企業の会計」は「中小企業の会計に関する指針」および「中小企業の会計に関する基本要領」を指す。

資金の使途

この融資制度は、次のように資金の使い道によって、条件が大きく2つに分かれています。

資金の使途 運転資金 設備資金
融資限度額 4,800万円 7,200万円
返済期間

(据置期間)

7年以内

(2年以内)

20年以内

(2年以内)

利率 ①利用条件1のアに該当する方[特利A]

②利用条件1のイに該当する方[特利B]

③利用条件1のウに該当する方[基準利率]

②利用条件2に該当する方[特利B]

※その他、返済期間または担保の有無によって異なる

担保・保証人 要相談

*日本政策金融公庫の公開情報「国民生活事業」の融資制度の概要を参考に2018年11月に作成

観光産業等生産性向上資金(企業活力強化貸付)で利用できる資金の使いみちは2つ、「運転資金」と「設備資金」があります。

言葉の定義を確認しておきましょう。借りた時と異なる使いみちで資金を流用すると、資金使途違反となり、一括返済を求められる他、日本政策金融公庫からの借り入れは二度とできなくなりますので、注意しましょう。

「運転資金」は、事業経営に必要な資金のことを指します。「運転」というと、機械や自動車を動かすイメージが強いかもしれませんが、組織や団体を動かすことにも使われます。

「ランニングコスト」とも呼ばれます。

事業をスムーズに回すために必要なお金で、具体的には人件費や仕入れ費用はもちろん、文房具や印刷用紙代などの雑費も、運転資金に含まれます。

運転資金は、次の式で算出できます。

運転資金=売上債権+棚卸資産−買入債務

ざっくり身近な言葉で表現すると、次のようになります。

運転資金=売上+在庫-仕入れ

算出式を見てわかる通り、売上が黒字であっても、運転資金が充分とは限りません。例えば、月に100万円の仕入れをして、売上が150万円の事業を経営しているとします。

会計上は50万円の黒字です。

しかし、通常、現金払いを徹底でもしない限り、仕入れの支払い時期と、売上が懐に入ってくる時期が同じになることはありません。

仕入れの支払いは当月、売上金の回収は翌月という事業サイクルの場合、50万円あっても次の仕入れの代金としては不足で商売が成立しません。

仕入れをして、売り上げて、またその次の仕入れをして、と事業を回していくのに必要なこのお金が運転資金に当たります。

「設備資金」は、設備に必要な資金のことを指します。

設備とは、建物、車、機械設備などの、長期に渡って利用し、事業基盤(インフラ)となる有形固定資産のことです。事業拡大で多額の初期投資が必要になった場合、その多くは設備資金として扱われるため「イニシャルコスト」と同義です。

設備資金の融資は金額が大きい上、雑費を含む運転資金よりは使いみちの是非を判断しやすいため、追跡調査されることが多々あります。

設備資金の利用時はできるだけ領収書などを保管し、後からいつでも証明できるようにしておくことも重要です。

融資限度額

融資限度額は「条件を満たせば、この額まで融資できますよ」という日本政策公庫の設定金額を指します。

あくまで最大の金額なので「運転資金だから4,800万円も貸してもらえる!」という勘違いはしないようにしましょう。

当然、状況によって融資希望額が下回ることもあります。

観光産業等生産性向上資金(企業活力強化貸付)の場合、運転資金は4,800万円、設備資金は7,200万円の融資限度額が設定されています。

返済期間(据置期間)

返済期間は「日本政策金融公庫が、お金を返し終わるのを待ってくれる期間」のことで、据置期間」は「日本政策金融公庫が、利子の支払いだけで、本格的に返済を始めるのを待ってくれる期間」のことを指します。

返済期間の中に据置期間が含まれるので、注意が必要です。

例えば、返済期間が3年で、据置期間が1年だった場合、最初の1年は利子だけ支払って、後の2年で返済することになります。

融資を受けた後、据置期間を設定する、といったことはできないので、それも注意しましょう。

具体的な年数は、日本政策金融公庫の担当者との融資面談を通して、利子を決める「利率」とセットで決まります。

観光産業等生産性向上資金(企業活力強化貸付)では、運転資金は7年以内、設備資金20年以内の返済期間を設定されます。

据置期間は、運転資金も設備資金も2年以内を設定されます。

これらの年数はどれも最大の期間を示しているので、これより短くなる想定をしておくと安全です。

利率

融資を受けたときに融資金に上乗せして支払う利子、金利を算出する率のことを「利率」と呼びます。

なお、日本政策金融公庫の場合、年間で算出する年利です。

観光産業等生産性向上資金(企業活力強化貸付)では、利用条件の組み合わせ次第で、利率が大きく3パターンに分かれます。

まず1つ、基準利率のケースです。利用条件1に当てはまるものの、優遇条件を満たさない場合、日本政策金融公庫が設定する「基準利率」と呼ばれる一般的な利率が採用されます。

この場合、利率が変わる要素は「担保」と「保証人」です。具体的な数字は、日本政策金融公庫の担当者との融資面談を通して、返済期間とセットで決まります。

2つ、特利Aのケースです。利用条件1で融資を受ける方で、一定のサービス品質が認められる「金認証」を取得しているのであれば、基準利率よりも低い利率「特利」の「特利A」という利率が採用されます。

3つ、特利Bのケースです。利用条件1で融資を受ける方で、高品質のサービス品質が認められる「紫認証」または「紺認証」を取得し、一定の会計基準を満たしている場合、あるいは、利用条件2で融資を受ける方については、特利Aよりも更に低金利の「特利B」が採用されます。

具体的な利率は次の通りです。

2018年11月時点での金利情報です。最新の金利情報は、日本政策金融公庫のウェブサイトでご確認ください。

基準利率
担保あり・保証人あり 1.16~2.35(年利%)
担保なし・保証人あり 2.06~2.65(年利%)

 

特利A
担保あり・保証人あり 0.76~1.95(年利%)
担保なし・保証人あり 1.66~2.25(年利%)

 

特利B
担保なし・保証人あり 0.51~1.70(年利%)
担保なし・保証人あり 1.41~2.00(年利%)

担保・保証人

「担保」はお金を返せなかったときに没収される財産で、「保証人」は返せなかったときに支払い義務が生じる連帯保証人のことです。

それらを用意することで確実に返済する意思を示すことになり、利息が安くなります。

観光産業等生産性向上資金(企業活力強化貸付)の枠組みで融資に臨む場合、基本的には、特利の他は「保証人あり」で担保の有無が選べる部分だと言えるでしょう。

まとめ

観光産業等生産性向上資金(企業活力強化貸付)は、サービス業または観光事業向けの融資制度です。

特利になる条件を見ると、観光産業の振興はもちろん、中小企業のサービス業全体のサービス品質向上や妥当な会計基準の適用による経営強化を目指す意思が感じられます。

そもそも、一言にサービス業といっても広く、多岐に渡ります。病院、税理士事務所や法律事務所などの専門技術を提供するもの、美容院や旅行、冠婚葬祭の生活に関連するもの、スポーツや映画、美術館、遊園地などの娯楽を提供するもの、チラシ広告、雑誌など情報を提供するものと、多種多様です。

玉石混淆なサービス事業者を、政府100%出資の日本政策金融公庫の融資の条件にすることで、「おもてなし認証」という公的な物差しで測ってふるい分け、登録管理し、サービス業全体の底上げを図っていきたいという国の狙いも読み取れます。

観光業の方にとってはもちろん、おもてなし認証を取得した方にとっても適した融資制度と言えるでしょう。

「おもてなし認証」は、きちんと経営するサービス事業者であれば、さほど難しいものではありません。

登録後、チェックリストの回答と第三者認証を経て登録料を支払うだけなので、特利条件を満たすために認証登録を検討してみるのもよいかもしれません。

ただ、属性や状況によって困っている人がいるパターンの分だけ、融資制度の数があるといっても過言ではありません。

「観光産業等生産性向上資金(企業活力強化貸付)」を利用する前に一度、他にも条件のあった融資制度がないか、確認するようにしましょう。

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