社債を使った資金調達とはどのようなものでしょうか。大企業が数百億円の社債を発行したニュースを目にするなど、大手企業が活用する資金調達方法だと思う人も多いかもしれません。
実際は大手企業だけでなく、中小企業でも社債を使った資金調達は可能です。中小企業では社債購入者を限定した私募債を活用するケースが多く、近年では社債を活用している中小企業も徐々に増加傾向にあります。
当記事では、社債を使った資金調達とはどのようなものなのか、私募債のメリットとデメリットについても解説していきます。
社債を使った資金調達とは投資家から借入をすること
社債を使った資金調達とは、投資家から借入をすることです。企業が社債を投資家等に購入してもらい、期日が来ると社債券等に記載された金額を一括で償還します。期日までの間、企業は社債発行時に決めた利息を定期的に社債引受人(購入者)へ支払います。
資金調達というと、金融機関からの融資や投資家からの出資を想定することが多いですが、社債は投資家等へ向けて返済が必要な債権を発行するため、融資と出資両方の性質をもつ第三の資金調達方法と考えられています。
なお、社債は法人のみが発行でき、個人事業主は利用できません。個人事業主が資金調達をする場合は融資の検討をしてみてください。
融資や出資との比較
社債は融資と出資、両方の性質をもつ資金調達方法であるといえますが、具体的に社債、融資、出資の特徴を比較した表が以下の通りです。
社債 | 融資 | 出資 | |
返済義務 | 返済要・元金一括償還 | 返済要・元金毎月払 | 返済不要 |
金利(年率) | 企業で設定 | 1~5%程度 | なし |
返済期間 | 企業で設定 | 5年~7年程度 | なし |
株式発行 | なし | なし | 出資額に応じて株式を譲渡する |
債権者の数 | 複数いる | 1契約につき1つの金融機関 | 複数いる |
社債の特徴は、融資と比較すると「元金を一括で償還する」「金利と返済期日は企業で設定できる」「債権者が複数いる」点が異なります。融資と異なり企業が主体となって債権の条件を決定し、条件に納得してもらった投資家等に社債を購入してもらいます。
ただし、購入者側からすると社債の購入はリスクが高く、金利のメリットがないと購入してもらうことは難しい傾向にあります。そのため社債発行時の金利は2%から5%程度と金融機関からの融資よりも高めの金利設定となるケースが多いです。
出資と比較した社債の特徴は「返済義務がある」「株式譲渡する必要がない」点が異なります。社債では株式を投資家へ譲渡する必要がないため、経営権を握られるおそれがなく、配当金の支払いもありません。
返済義務があり複数の投資家から資金調達をするという特徴から、社債は融資と出資両方の性質を併せ持つ資金調達方法といえます。ただし、一口に社債といってもさまざまな種類があり、企業の規模や目的によって使い分けが必要なため、社債の種類についても理解することが大切です。
社債は公募債と私募債に大別される
社債の種類は「公募債」と「私募債」に大別できます。
公募債は一般の投資家に広く募集をかけて多額の借入を行う資金調達方法です。公募債で資金調達をする場合、有価証券の開示や社債管理者の設置が義務付けられる等の厳しい発行基準をクリアする必要があります。行政手続きにコストがかかるため、公募債は上場企業が発行するケースが多く、金額も数百億円から数千億円の規模に及びます。
一方、私募債は市場に社債の情報を公開せずに、個別に対象者に社債購入を依頼する資金調達方法です。有価証券の開示や社債管理者の設置が義務付けられていないため、公募債と比べると発行に手間がかかりません。中小企業でも利用でき、資金調達額も数百万円から数億円と幅広く活用できます。
公募債と私募債は、募集するときに一般公開するかどうかで分けられます。自社の規模や資金調達金額、手続きの手間なども考慮し、公募債か私募債のどちらで発行するかを決めましょう。
私募債は3種類に分類される
私募債は社債情報を公開せず、個別に社債の募集を行います。私募債はそのなかでも購入対象者によって「少人数私募債」「銀行引受私募債」「プロ私募債」の3種類に分けられます。
少人数私募債 | 銀行引受私募債 | プロ私募債 | |
購入対象者 | 少人数に限定して募集を行う | 銀行 | 適格機関投資家のみ |
発行人数 | 50名未満 | 制限なし | 制限なし |
発行金額 | 1億円未満 | 制限なし | 制限なし |
一口あたりの最低発行額 | 50分の1以上 | 制限なし | 制限なし |
有価証券の開示
社債管理者の設置 |
不要 | 不要 | 不要 |
手数料 | なし | あり | あり |
社債発行が想定される企業 | 中小企業 | 中小企業~大手企業 | 中堅企業~大手企業 |
社債発行総額の目安 | 数百万円から1億円 | 5,000万円から数十億円 | 数億円~数十億円 |
少人数私募債は発行人数が50名未満という制限があり、知人や従業員、取引先などの縁故者へ社債購入を依頼するケースが多いです。社債発行金額は1億円未満と制限がありますが、発行の際に届出などの行政手続きが不要なため、中小企業でも活用しやすいです。
銀行引受私募債は、私募債にかかる手続きを企業ではなく銀行が一括して代行する私募債です。銀行は、社債の購入者になるだけでなく、事務手続きを代行し、社債の信用補完として保証機関の役割も果たします。銀行は信用力の高い企業に銀行引受私募債を提案するケースが多く、金額は5,000万円以上から数億円となる傾向にあります。
プロ私募債は、社債購入者を証券会社や銀行などの適格機関投資家のみに限定して行う私募債を指します。発行人数や金額に制限がないため、公募債ほど手続きの手間をかけたくないけれど数億円から数十億円と多額の資金調達をしたい中堅企業から大手企業が活用するケースが多いです。
どの私募債を利用するか悩む場合は、希望する資金調達額や自社の事業規模から判断してみてください。
少人数私募債のメリット
少人数私募債のメリットとして以下が挙げられます。
少人数私募債のメリット |
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少人数私募債は金融機関からの融資のような審査手続きが不要で、社長自ら縁故者へ社債購入を依頼するケースが多いです。縁故者は、会社との日頃の付き合いや事業内容への理解、経営者への信用や取引関係のシナジー効果なども含めて購入を決断するため、融資審査のように会社の業績や決算内容だけで判断されないことも多いです。
また、公募債のように発行にあたり義務付けられている項目が少なく、自身で手続きすれば社債発行に費用は原則発生しません。もし行政書士に少人数私募債の手続きを依頼すると、15万円から50万円程度かかりますが、経営者の事務負担を軽くすることもできます。
最後のメリットとして経営意識の向上が挙げられます。社債を購入してもらうにあたり、事業計画書を作成し、購入者への説明が求められます。企業が主体となって発行することで、償還期日に無理はないか、事業計画は実現可能かをより真剣に検討する効果が期待できます。
全国商工会連合会による「中小企業の直接金融による資金調達事例集」では、少人数私募債の活用事例が記載されています。上記に挙げた以外にも、企業によってはメリットと感じる部分が事例として載っているため、少人数私募債の活用を検討している人は参考にしてみてください。
少人数私募債のデメリット
少人数私募債のデメリットとして以下が挙げられます。
少人数私募債のデメリット |
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少人数私募債では毎月の元金返済がない代わりに期日に一括での元金償還が必要になるため、返済時の資金負担が大きいです。償還期日に元金が用意できない状況を避けるべく、企業は資金繰り計画を立てて財務内容を管理することや、自社で計画的に償還金を積み立てておくことが望ましいです。
また、少人数私募債は発行手続きに時間と手間がかかります。手続きにかかる時間はおおむね40日間から50日間程度といわれていますが、社債引受人が見つからない場合はそれ以上に期間がかかる場合もあります。
社債引受人が見つからない場合は、希望の資金調達額に満たない可能性があります。とくに中小企業が少人数私募債を利用する場合、上場企業と比較して信用力に劣るので、社債引受人が集まりにくい傾向にあります。発行企業は、募集要項を厳格に決定したり財務内容を開示したりするなどして、社債引受人の信頼を得る努力が必要です。
少人数私募債は審査がない代わりに企業が主体となって引受人の信用を得ていかなければなりません。事前に事業計画書を練り、縁故者といえども誠実に少人数私募債の説明を行って、引受人に十分に納得してもらったうえで社債を購入してもらい、のちにトラブルとならないよう注意しましょう。
銀行引受私募債のメリット
銀行引受私募債のメリットは以下が挙げられます。
銀行引受私募債のメリット |
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銀行引受私募債のメリットとして、社債発行手続きの負担が少ない点が挙げられます。ひとつの銀行で社債発行の事務手続き代行、社債購入者としての役割、社債の保証機関としての役割を全て担ってくれるため、企業の発行負担は他の私募債と比較して少なく済みます。
また、私募債の発行を対外的にアピールできるメリットもあります。償還期日まで元金の支払いが不要な銀行引受私募債を発行できる企業は、銀行からの信頼が厚い企業ともいえるからです。銀行引受私募債を発行すると地元紙などに掲載されることもあり、地域に根差した中小企業や中堅企業にとっては企業の信用度を高める効果が期待できます。
銀行引受私募債では銀行融資と比較して「社債発行の手続き負担が少ない」「対外的なアピールになる」点がメリットといえます。企業にとって上記2点のメリットが有益な状況であれば、銀行引受私募債での資金調達も検討してみましょう。
銀行引受私募債のデメリット
銀行引受私募債のデメリットは以下が挙げられます。
銀行引受私募債のデメリット |
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銀行引受私募債は、償還時のリスケジュールができません。償還時に元金を一括で返済する必要があるため、もし急な業況の変化で元金が用意できない場合、銀行からの信用を失ってしまうおそれがあります。
実際に元金が償還できないときは、銀行が企業に手形貸付を行って社債分を借換えするといった対応をする傾向にありますが、手形貸付時の金利は通常の融資のときより高く設定されてしまう可能性が高いです。
もうひとつのデメリットは、社債発行時に手数料がかかることです。銀行引受私募債では社債発行にかかる手続きを代行する際に「財務代理人手数料」や「引受手数料」、「元利金支払手数料」などのコストが発生します。発行する社債の金額によっては数百万以上の初期費用がかかるケースもあります。
銀行引受私募債は、銀行側にとっては手数料と金利の両方を得られるためメリットがあり、銀行から営業されることもあるでしょう。銀行引受私募債を検討する際は、事前に初期手数料がいくらかかるのか確認し、場合によっては通常の融資とも比較して判断すると良いでしょう。
プロ私募債のメリット
プロ私募債のメリットは以下の通りです。
プロ私募債のメリット |
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プロ私募債は少人数私募債と比べると発行人数や1億円までといった発行金額の制限がなく、縁故者のような個人単位ではなく証券会社等の適格機関投資家に社債購入を依頼することから、より多額の資金調達が可能です。
また、私募債発行した際の手数料の一部を社会貢献団体等に寄付するCSR活動(企業の社会貢献活動)も兼ねている私募債もあります。企業は社債を発行すると同時にCSR活動も行えることから、企業のイメージアップを図る効果が期待できます。
プロ私募債は、1億円以上の資金調達を自社が主体となって行う場合に有効な方法です。CSR活動も兼ねることができれば社債発行手数料なども広告宣伝費のようなものと考えることもできるため、企業のイメージ戦略を考えているならば検討しても良いでしょう。
プロ私募債のデメリット
プロ私募債のデメリットは以下の通りです。
プロ私募債のデメリット |
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プロ私募債のデメリットの一つは、中小企業では利用しづらい点です。複数の適格機関投資家から資金を調達するには、中堅企業や大手企業など、普段からその銀行や証券会社と取引があるなどの信頼関係がないと社債を引き受けてもらえる可能性は低いため、中小企業では社債引受人が見つかりにくいです。
また、少人数私募債と比較して手続きが多い点もデメリットです。プロ私募債を利用し1億円以上の社債発行を行う場合は、金融商品取引法に基づきさまざまな手続きが必要となります。プロ私募債を活用する際は手続きが煩雑になるため、自社だけでなく懇意にしている行政書士等の専門家を頼ることも検討すると良いでしょう。
まとめ
社債とは、企業が主体となって資金調達する手法であり、とくに融資に依存しがちな中小企業にとっては新たな資金調達の選択肢として考えられる方法です。
設備投資で大型の資金調達が必要なケースや、金融機関からの借入をこれ以上増やしたくないときなどは、社債の発行を検討しても良いかもしれません。
調達金額が1億円未満であれば少人数私募債を検討し、1億円以上であれば銀行引受私募債やプロ私募債を検討してみましょう。また、それぞれの方法で手数料がどれくらい必要になるかも事前に確認することが大切です。
企業の資金調達方法も多様化してきています。それぞれの特徴を理解し、自社にとってのメリットとデメリットを把握しながら活用していくことが、健全な財務状況をつくるために必要になってくるでしょう。