事業資金の調達に銀行融資を検討しているものの「何から始めたら良いのかわからない」「どんな流れで手続きを進めたら良いのか迷っている」という人もいるのではないでしょうか。銀行融資を受けるには、必要書類の準備や融資担当者との面談などを経て、審査に通過する必要があります。
当記事では、事業者に向けて銀行融資を申し込む際の流れを段階ごとに解説します。あわせて審査に通るために押さえておくべきポイントも紹介するので、これから銀行融資を利用して資金調達を進めたい人は参考にしてみてください。
銀行融資を利用する時の流れを確認する
銀行融資を検討する際は、まず融資を利用する時の流れを確認しておきましょう。流れを理解せずに準備を始めてしまうと、書類や面談の準備に手間取り申し込みに時間がかかるだけでなく、必要事項の不備や見落としなどによって審査に通過できないおそれがあります。
【銀行融資を利用する時の流れ】
手続きの段階 | 内容の概要 |
---|---|
①融資相談 | 融資制度の種類や借入可能額、返済方法などの相談に出向く |
②必要書類の準備 | 各財務書類や証明書など、融資の申し込みに必要な書類を揃える |
③申し込み | 必要書類を提出し、銀行指定の方法で申し込み手続きを行う |
④面談 | 融資担当者と面談し、資金の使い道や返済計画などを説明する |
⑤審査 | 提出書類や面接でのヒアリング内容をもとに融資審査が行われる |
⑥契約手続き | 融資条件に同意し、契約書類を交わす |
⑦返済開始 | 融資実行後、返済スケジュールに沿って返済が始まる |
まずは銀行窓口や公共機関などに出向き、希望額の融資を受けるためのアドバイスを受けておくと、その後の流れがスムーズになります。審査に通るためには、流れに沿って抜け漏れなく必要書類を準備しておくことや、融資面談に向けた対策を講じておくことが大切です。
銀行融資を利用するときの流れを把握しておくことで、次に何をすれば良いかが明確になり、余裕を持って申し込みの準備を進められます。各手続きの段階において必要となる対応や準備するもの、注意点なども踏まえて確認していきましょう。
融資相談
融資を検討し始めた段階では、まず銀行や公的機関などの相談窓口に出向き、希望額の融資を受けるために必要なアドバイスを受けておきましょう。その際、自社の財務状況や資金の使い道などを明確に伝えることで、相談先からより的確な提案を受けることができます。
【銀行融資に関する相談内容の例】
相談項目 | 内容 |
---|---|
融資の可能性 | 現在の業績や返済能力をもとに融資の可否や見込みを確認する |
利用できる融資制度 | 運転資金や設備資金などの用途に応じた融資制度を相談する |
借入可能な金額 | 希望額に対して借り入れ可能な上限や自己資金とのバランス、返済負担を確認する |
返済条件 | 返済期間、金利、据え置き期間など自社に合う条件を確認する |
審査対策 | 過去の否決理由や補足資料の必要性、面談で説明すべき点などを相談する |
相談の場では、手続きの進め方や必要となる書類など、何から始めるべきか分からない点をひとつずつ確認しながら整理できます。あわせて、融資可能額の目安や返済計画の立て方、審査に向けた準備などについても実務的なアドバイスを受けられます。
なお、銀行融資の相談先は銀行窓口に限らず、公的機関や民間のコンサルタントなど複数の選択肢があります。各相談先の違いや対応範囲などを詳しく知りたい人は、別記事「銀行融資における相談内容と相談先を解説」も参考にしてみてください。
必要書類の準備
銀行融資の申し込みには、必要書類の準備が欠かせません。提出書類に抜け漏れがあると申し込みの受理や審査開始が遅れる原因となるため、不備なく準備を進めましょう。
【銀行融資の申請に必要な書類】
書類名 | 内容 | 対象 |
---|---|---|
事業計画表 | 資金の使い道や事業の見通し、返済計画などを示す書類 | 共通 |
資金繰り表 | 一定期間におけるすべての収入と支出をまとめて収支の流れを把握する書類 | 共通 |
納税証明書 | 所得税や法人税などの納税状況を証明する書類 | 共通 |
決算書 | 企業の財政状態を示す貸借対照表や、経営成績を示す損益計算書などで構成される財務書類 | 法人 |
履歴事項全部証明書 | 会社の商号や本店所在地、役員構成などの登記情報を示す公的書類 | 法人 |
確定申告書 | 事業の収益状況や納税履歴を確認できる書類 | 個人事業主 |
本人確認書類 | 運転免許証やマイナンバーカードなど、融資申請者の身元を証明するための書類 | 個人事業主 |
準備する書類には、個人事業主や法人といった事業形態によって異なるものがあるため、必要な書類を正しく取り寄せましょう。申し込み先の銀行や利用する融資商品によっては追加書類を求められる場合もあるため、事前に確認し漏れのないよう準備することが大切です。
また、納税証明書や履歴事項全部証明書などには、発行日から3か月~6か月以内といった有効期限が設けられています。期限が過ぎた書類では受理されないため、申し込み時期にあわせて最新のものを用意しておきましょう。
申し込み
書類の準備が整ったら、各銀行の申し込み方法に従って手続きを進めましょう。申し込み内容に不備や記載ミスがあると審査開始が遅れ、資金が必要な時期に間に合わなくなるおそれがあります。
融資における申し込みの手続きは、主に銀行の融資窓口で行われます。銀行所定の申し込み用紙に必要事項を記入・押印したものと、事前に準備したすべての必要書類をあわせて提出します。
また、申し込みの手続きは、事前に相談していた融資担当者を通じて行われることもあります。相談を受けていた担当者であれば、あらかじめ申請者の事業計画や返済方法などを確認できているため、申し込みの際のやり取りがスムーズに進みます。
なお、一部の銀行やネット銀行では、申し込みの手続きをオンラインで完結できます。オンライン申し込みはメンテナンス時間を除き24時間対応していますが、入力ミスやファイル形式の不備でエラーになることもあるため、慎重に確認して手続きを行いましょう。
面談
申し込み後は、融資担当者との面談を通じて事業内容や資金使途、返済計画などを説明する機会が設けられます。面談では、申請書類の内容をもとに詳細な確認が行われ、融資判断に向けて返済能力の信頼性が評価されることになります。
特に事業の実現性や返済の可能性については、具体的な数字を用いた根拠のある説明が求められます。その際、提出書類だけでは伝わりづらい経営者としての姿勢や客観的な視点による自社の強みも、面談を通じて評価されるポイントになります。
また、信用保証協会の保証付き融資を利用する場合は、銀行での面談に加えて信用保証協会との面談が行われることもあります。銀行では返済能力のような定量情報を重視するのに対し、保証協会では事業の継続性や経営者としての資質や人柄など、定性的な要素も重視される傾向にあります。
面談は、事業者の信頼性や計画性が見られる重要なステップです。融資面談に関する詳しい情報を知りたい人は、別記事「銀行融資の面談におけるポイントを解説」も参考にしてみてください。
審査
提出された書類や面談での内容をもとに、銀行は申し込み者の返済能力や事業の将来性を審査します。事業の実績や資金使途、財務状況などを総合的に判断し、融資の可否や条件が決定されます。
審査では、売上見込みの根拠や資金使途の妥当性が具体的に説明されているかどうかが重視されます。提出書類に矛盾や不明瞭な点があると、追加資料の提出や再説明を求められ、審査期間が延びるおそれがあります。
特に赤字決算が続いた場合は返済能力に対する懸念が強くなるため、事業計画の実現可能性や自己資金の有無などを慎重に見られます。そのため、資金繰り表や売上予測の前提を裏付ける資料を添付しておくと、審査通過の可能性が高まります。
なお、審査には数週間から1ヶ月以上の期間を要するため、余裕を持ってスケジュールを立てておく必要があります。申し込みの準備には審査期間を考慮し、資金が必要な時期から逆算して早めに着手しましょう。
契約手続き
審査に通過すると、銀行との間で融資計画を正式に締結する手続きに進みます。この段階では、融資条件の最終確認や必要書類への署名、押印などを行います。
契約内容には、決定した融資金額や返済期間、金利などが明記されているため、内容をよく確認してから手続きを進めましょう。その際、不明点や認識のズレがある場合はその場で担当者に確認することが大切です。
また、銀行指定の口座が未開設の場合は、契約手続きの前に開設しておく必要があります。この口座は融資の振り込みや返済の引き落としに使用されることになるため、早めに準備しておきましょう。
書類の記入や提出が完了すると、銀行側で融資実行の準備が進み、契約締結から数日以内に資金が指定口座に振り込まれます。入金予定日をあらかじめ確認し、経費の支払い予定日に間に合うようスケジュールを調整しておきましょう。
返済開始
契約手続きが完了して融資が実行されると、返済スケジュールに沿って元金と利息の返済が始まります。返済は原則として毎月決まった日に口座から自動的に引き落とされるため、期日までに返済額分の残高を確保しておく必要があります。
返済の開始時期は融資実行の翌月からとなりますが、制度や契約条件によっては元金の返済が猶予される「据え置き期間」が設けられている場合もあります。据え置き期間中であっても利息の支払いは発生するため、月々の支払額と支払い開始日を確認しておきましょう。
なお、返済中に資金繰りが厳しくなった場合は、早めに銀行へ相談することが大切です。銀行によっては、一定期間の返済額の減額や返済期間の延長といったリスケジュールに応じてくれる可能性があります。
流れを押さえた人は申し込みの準備を進める
銀行融資の流れを把握できたら、次は申し込みに向けた準備に取りかかりましょう。流れに沿って何をすべきかが明確になっているので、あとは申し込み前に準備しておくべき項目を押さえながら準備を進められると審査通過の可能性を高められます。
【申し込みに向けて準備しておくこと】
- 資金の使い道を明確にしておく
- 一定額の自己資金を準備しておく
- 返済の見通しを立てておく
申し込み前の準備では必要書類の整備に加え、資金使途や返済計画の見直し、自己資金の確保など、審査で見られる重点項目を整理しておくことが大切です。準備不足が原因で審査が長引くことや審査の否決に繋がることのないよう、丁寧に進めていきましょう。
資金の使い道を明確にしておく
申し込みに向けた準備項目のひとつに「資金の使い道を明確にしておく」ことが挙げられます。銀行融資に申し込む際には「借り入れた資金をどう使うか」を明確に伝え、資金使途が事業目的に沿った適切な内容であるかどうかを示す必要があるためです。
事業融資における資金使途は、機械装置の購入や内装工事費などが対象となる「設備資金」と、仕入費や人件費などが対象となる「運転資金」の2つに分けられます。正しく区別しないまま申請すると資金使途の不一致と判断され、審査に通らないおそれがあります。
銀行から融資を受けるには、資金の使い道を事前に具体的かつ明確にしておくことが必要です。「内装工事費」「機材導入費」「仕入れ資金」など、金額と内容を紐づけて伝えることで、融資担当者の理解を得やすくなります。
なお、設備資金や運転資金として認められる費目や資金使途に関する注意点などを知りたい人は、当サイトを運営する株式会社SoLaboの別メディアFUTOKOROによる「銀行融資における資金使途とは?違反とみなされる事例と対策も解説」の記事を確認してみてください。
一定額の自己資金を準備しておく
申し込みに向けた準備項目のひとつに「一定額の自己資金を準備しておく」ことが挙げられます。銀行融資に申し込む際は、目安として融資総額の2割から3割程度の自己資金を準備しておくと、審査での評価が高まります。
2割から3割という目安は、金融機関が「申請者の事業への本気度」や「返済能力」を判断する基準とされています。そのため、十分な自己資金が確認できない場合は、資金繰りに余裕がないことを懸念され、融資審査の通過が難しくなります。
銀行融資を申し込むには、一定額の自己資金の準備が求められるため、希望する借入額の2割から3割程度の資金を用意しておきましょう。自己資金が不足している場合は、借入金額や導入する設備の内容を見直すなど、現実的な資金計画に調整することも方法のひとつです。
なお、自己資金額の目安は業種や事業計画の規模によっても変わってきます。業種や目的によって異なる自己資金額の目安についても確認しておきたい人は、別記事「銀行融資を受ける際の自己資金の目安を解説」も参考にしてみてください。
返済の見通しを立てておく
申し込みに向けた準備項目のひとつに「返済の見通しを立てておく」ことが挙げられます。銀行融資の審査では、自己資金の有無に加え、融資を受けた後に無理なく返済を続けられるかどうかを見られるためです。
【返済の見通しの立て方】
項目 | 金額 |
---|---|
月商(売上) | 1,000,000円 |
経費(仕入れ、人件費など) | 700,000円 |
営業利益 | 300,000円 |
毎月の返済可能額(元利合計) | 80,000円 |
返済後の手元資金 | 220,000円 |
事業融資における毎月の返済額の目安は、営業利益の3割以内とされています。たとえば営業利益が月30万円の場合、3割にあたる8万〜9万円を返済に充てても20万円以上が手元に残るため、資金面でのリスクは低いと判断できます。
無理のない返済を続けるには、毎月の収支を正確に把握し、返済に充てられる金額を明確にしておくことが欠かせません。「事業収入に対して毎月の返済額がどれくらいを占めるか」「引き落とし後にどの程度の余裕があるか」を可視化することで、計画性のある経営姿勢を示すことができます。
明確で現実的な返済計画を立てておくことは、銀行融資を申し込む際に必須となる準備項目のひとつです。希望する借入額が事業の収支バランスに見合った金額かどうかを確認するためにも、事前に返済シミュレーションを行っておきましょう。
まとめ
銀行融資を検討する際は、まず融資を利用する時の流れを確認しておきましょう。流れを理解せずに準備を始めると、書類や面談の準備に手間取り申し込みに時間がかかるだけでなく、必要事項の不備や見落としによって審査に通過できないおそれがあるためです。
銀行融資を受ける際は、まず銀行や公的機関の窓口で融資相談を行うことから始まります。相談時に資金の使い道や返済計画、利用制度の方向性を整理しておくと、その後の準備がスムーズになります。
つづいて、必要書類を正しく揃え、各銀行の指定方法に沿って申し込みを行います。提出書類や面談内容をもとに、返済能力や事業の将来性などが総合的に審査されます。
審査を通過したら契約手続きを経て、数日以内に資金が指定口座へ振り込まれます。融資実行の翌月から返済が始まり、据え置き期間がある場合でも利息の支払いが発生するため、支払額と開始時期を確認しておきましょう。