事業場の投資や資金不足を解消するのに、法人が銀行から融資を受けるのはポピュラーな資金調達方法です。銀行融資と言うとプロパー融資や信用保証付き融資などの借入をイメージされることも多いかと思います。
銀行が提供する融資方法はいくつか種類があり、短期向けの借入や資産の早期現金化など様々な手段を利用できます。とくに法人は経営において取り扱う金額も大きい為、いくつかの融資方法を併用するのが一般的です。
当記事では、法人が銀行融資を受ける方法について解説します。融資を申し込む銀行の選び方や融資を受けるまでの流れについても説明していますので、参考にしてみてください。
法人が銀行から融資を受ける方法の比較
法人が銀行から融資を受ける方法には、証書貸付、手形貸付、手形割引、当座貸越、ABLの5つの方法があります。次の表にそれぞれの融資の種類、融資額、資金使途の比較をまとめました。
【法人が使える銀行の融資方法】
融資方法 | 融資の種類 | 融資額 | 資金使途 |
証書貸付 | 長期借入 | 100万円~数億円 | 設備資金
運転資金 |
手形貸付 | 短期借入 | 手形の額面未満 | 運転資金 |
手形割引 | 現金化 | 手形金額の範囲内 | 運転資金 |
当座貸越 | 短期借入 | 契約した限度額まで | 運転資金 |
ABL | 長期借入
短期借入 |
担保資産の評価額による | 設備資金
運転資金 |
融資の種類には借入と資産の現金化があります。借入の場合には金利に応じた利息を、現金化の場合には所定の手数料を支払う必要があるため、融資を利用するのに支払う金額を一律の基準で比較することはできません。
また、借入にも1年以上の返済期間が設定される長期借入と1年未満の短期借入があります。長期借入の方が取り扱う金額が大きくなりますが、借入の手続きが煩雑になり入金までのスピードが遅くなるので、利用シーンに合わせた融資方法を選ぶ必要があります。
法人の場合は複数の融資方法を併用するのが一般的です。法人は個人事業主と比較して事業において取り扱う金額も大きく、キャッシュフローを維持するのには単一の融資では賄えない可能性があるためです。
基本的には金利や手数料が低い方が利用負担は少ないですが、長期借入と短期借入を併用し短期の借入額は抑える、資産は一部のみを現金化するなど、それぞれの融資方法を併用することで総合の負担を抑えていくことは可能になります。そのため、それぞれの特徴を把握し、必要なシーンに応じて適切な融資方法を使い分けていくのが良いでしょう。
証書貸付の特徴
証書貸付とは、証書に記した契約内容に従って行われる融資です。融資は借入の形で行われるため返済が必要になり、証書には融資額の他にも金利や返済期間など融資条件に関する契約がなされます。
プロパー融資や信用保証付き融資など、事業者が銀行から融資を受ける主要な制度は証書貸付に分類されます。金利は年率2%前後ほどで、数百万円から億円単位の比較的大きな借入を長期返済していくのが特徴です。
法人が証書貸付を利用する主なシーンとして、高額の設備投資をするタイミングがあげられます。他の融資方法と比較して証書貸付は返済期間が1年以上と長めに設定されることが多いため、月々の返済負担を抑えつつ大きめの融資を受けられるためです。
また、証書貸付は担保設定が必須ではなく、無担保、無保証人で融資を受けられるケースが多いです。審査は難しいものの資産を持っていない創業期にも利用可能であり、証書貸付で返済実績をつくっていくことで信用を得られ、他の融資を活用しやすくなるという側面もあります。
そのため、銀行から融資を受ける時には証書貸付の利用から検討してみると良いでしょう。
手形貸付の特徴
手形貸付とは、作成した約束手形の内容に従って行われる融資です。書類を元に借入が行われる点では証書貸付と性質は近いですが、証書は主に銀行側が作成するのに対し、約束手形は主に法人側が作成するという点に違いがあります。
借主である法人側は融資希望額と返済期日を記載した約束手形を銀行に振り出すことで借入が実行されます。返済は原則期日に一括であり、利用日数分の利息支払いが必要になるという特徴があります。
法人が手形貸付を利用する主なシーンとして、短期的な運転資金を補填するタイミングがあげられます。借入は短期ほど金利が低くなるため、1年以内の返済が必要になる手形貸付は2%から3%程度の比較的低金利で融資を受けられるため、返済負担を抑えながら運転資金の不足を解消できるメリットがあります。
一方で、手形貸付は利用する難易度が高いというデメリットがあります。手形貸付は融資額と返済期日を借入側が決めるという融資方法であるため、銀行の他のサービスを利用して取引実績を重ね、企業として信頼を得ていかないと利用が難しいためです。
手形貸付を利用したい場合は、取引実績のある銀行に利用の相談をしてみたください。一度断られたとしても取引を続けていく中で利用できるようになることもあるので、ひとまず他の融資方法を通じて銀行との取引実績を重ねていくことをおすすめします。
手形割引の特徴
手形割引とは、取引先の手形を銀行に売却して行われる融資です。主に取引先から受け取った手形に記載されている金額から、手数料を差し引いた金額を受け取ることになります。
法人が手形割引を利用する主なシーンとして、キャッシュフローの早期改善があげられます。借入でなく現金化であるという特性上、手形割引は借入と比較して審査期間が短いため、不足しているキャッシュを早めに受け取ることができるためです。
一方で、手形割引を利用するには約束手形が必要であり、売掛債権は利用できない点には注意が必要です。事業の取引では常に約束手形を受け取る訳ではないため、手形割引が利用できないケースも想定されます。
また、手形割引を乱発していると長期的な資金繰りが悪化する可能性がある点も留意しておく必要があります。銀行の手形割引の手数料は金額に対して3%前後程度にはなりますが、それでも事業の利益を圧迫していくことに違いはありません。
そのため、手形割引の乱発は控えるべきです。もし恒常的にキャッシュが不足しているようなら融資を受けるのではなく、キャッシュフロー上で課題がある場所を分析し、原因の改善をしてみてください。
当座貸越の特徴
当座貸越とは、普通預金の残高を超えた引き落としが行われる時に、銀行に預けている預金を担保にすることで不足分が自動的に補填される融資です。
当座貸越で担保に出来る預金は、銀行に預けている定期預金や国債などの普通預金以外の貯蓄です。当座貸越の融資限度額や適用金利、担保設定できる貯蓄は銀行ごとに異なるので、利用前に条件を確認しておくことをおすすめします。
法人が当座貸越を利用する主なシーンとして、予期しない支出への対応が挙げられます。とくに急な引き落とし時に対応できるようになるため、とくに口座からの引き落としの頻度が高く、残高不足で入金できないことが多い場合は、残高不足に備えて当座貸越を契約しておくと良いでしょう。
ABLの特徴
ABL(Asset Based Lending)とは、流動性資産を譲渡担保として行う融資です。担保に設定できる資産は動産や在庫、売掛債権であり、資産の所有権を銀行に譲渡登記することで資金の借り入れを行います。
資産の譲渡登記を行っても、動産の利用や在庫の販売は通常通りに行うことが可能です。複数の資産を担保として融資を受ける場合には根保証、個別の資産を担保として融資を受ける場合には個別保証が行われます。どちらも原則契約期間は1年ですが、根保証は更新が可能であり、長期的な設備資金の融資にも短期的な運転資金の融資にも活用できます。
法人がABLを活用する主なシーンとして、主に他の融資との併用が考えられます。流動性資産を担保にするという特性上、融資額や融資の可否の判定は担保の価値で行われるため、通常の与信と別枠での融資を受けられるためです。
一方で、債権の譲渡登記が必要なほか、担保とした資産の状況を適宜報告する必要があるため、ABLを活用するには手間が掛かるというデメリットがあるため、融資を受けるのに第一の選択肢としては不向きと言えます。
また、資産を担保にするという特性上、ABLは創業期には活用しにくいという特徴もあります。そのため、法人運営を続けて資産が蓄積されており、他の融資と併用して更なる融資を受けたい時に、ABLの活用を検討してみると良いでしょう。
法人が融資を申込するべき銀行
銀行融資を申込する場合には、取引実績のある銀行から相談するのが良いでしょう。すでに取引のある銀行であれば自社の信用情報や取引履歴を把握しているので、スムーズな審査や融資を期待できるためです。
取引実績については、法人用口座や法人格として融資を受けて返済実績があることが望ましいです。個人事業主から法人成りした場合も以前の取引実績が加味されるので、法人格としての実績がない場合には個人として活用していた銀行に相談してみてください。
取引実績のある銀行が無い、または取引先を増やしたい場合には、希望に合致する融資サービスを提供している銀行に相談しましょう。とくにこだわりが無い場合には、地域経済の活性化を目的としている地方銀行や信用金庫から利用を検討してみてください。
取引実績のない都市銀行から融資を受けることも不可能ではありませんが、これらの銀行は大口の融資に向いており、審査の難易度はかなり高いと言えます。
以上のことから、融資の相談は取引実績のある銀行から始めて、その後は融資条件にあった融資をしてくれる地方銀行や信用金庫に取引を広げていくと良いでしょう。その後に事業を更に大きくするために大きな融資が必要になる時に、都市銀行やネット銀行という順番で取引を増やしていくことをおすすめします。
法人が銀行融資を受けるまでの流れ
法人が銀行融資を申し込んでから実行されるまでの流れは次のようになります。
【融資を受けるまでの流れ】
- 申込みと必要書類の提出
- 審査・面談
- 審査結果の通達
- 融資の実行
必要になる提出書類は融資方法と利用する銀行によって異なります。どんな書類が必要になるか気になる場合は、利用する融資方法と申込する銀行を決定したのち、銀行の公式サイトか窓口で必要書類を確認すると良いでしょう。
必要書類を提出した後は所定の審査が行われ、利用する融資方法によっては面談も行われます。提出した書類と面談の内容によって、融資の可否と実際の融資額とが決定されます。
審査の結果によっては希望額の融資を受けられない可能性もあるので、申し込む際にはしっかりとした事前準備をしていくことをおすすめします。
なお、法人が銀行融資を受けるのに必要な書類の傾向を知りたい場合は、「法人が銀行融資を受けるための必要書類とは?」の記事を参考にしてみてください。
銀行融資の審査項目
法人が銀行融資を受ける場合の審査項目は、借入と現金化で異なります。いずれの場合も銀行側は融資をするリスクについて総合的な審査をしており、債権の回収が難しいと判断された場合には減額か審査落ちになります。
【銀行融資の審査項目】
借入の審査項目 | 現金化の審査項目 |
・財務状況
・事業計画 |
・資産の価値
・資産の情報 ・取引先の信用力 |
借入の審査項目は、主に法人としての返済能力が審査対象です。現在の財務状況が良好でかつ事業の成長性が見込まれることが審査に通るための条件となり、それらは提出する決算書と事業計画、ならびに面談から判断されます。
現金化の審査項目は、主に資産に関する内容が審査対象です。主には担保設定する資産の価値が審査の対象になりますが、手形割引や売掛債権を現金化する場合には入金の期日や取引先の信用力も融資の可否に関わります。
そのほか、申込した銀行との取引実績や法人代表者の経歴も審査の際に参考にされます。とくに創業融資を受けたい時は事業実績がないため、代表者の経歴や信用情報、自己資金から融資の可否が決定されるケースもあります。
審査の内容は利用する融資方法や事業のフェーズによって異なってくるため、その難易度を一律で測ることは難しいです。審査に不安がある場合は銀行の窓口や融資の専門家に自社の状況を相談してみるとよいでしょう。
まとめ
法人が銀行から融資を受ける方法には、大まかには長期借入と短期借入、現金化の3つの方法があります。法人は取り扱う金額が個人事業主と比べて大きいため、それぞれの融資方法の特徴を把握して併用していくことが一般的です。
融資を申し込む銀行に関しては、まず取引実績がある銀行から相談をすると良いでしょう。他行との取引実績を積んでいきたいケースには、自社のニーズに合った融資を行ってくれる銀行を探して問合せしてみるのをおすすめします。
融資を受けるまでには必要書類と面談から審査が行われ、融資の可否が決定されます。審査項目は融資方法や事業フェーズによって異なるため、自社がどのような内容で評価されるのかを事前に確認しておき、準備を進めたうえで手続きを進めると良いでしょう。