日本政策金融公庫の貸付を受けるには、まず自分の状況に合った融資制度を選ぶことが重要です。
例えるなら、レストランで食事をするときにメニューを選んで、注文するようなイメージです。
このメニューは人や状況によって利用できる融資制度が異なります。
それはちょうど、お子さまランチが小学生以下でないと頼めなかったり、雨が降ったときだけ注文できるスペシャルメニューがあったりするのと似て、
利用するときに利用者の属性や状況などの条件を満たす必要があります。
では「普通貸付」とは、どんな融資制度なのか?見ていきましょう。
1.利用条件
金融業、投機的事業、一部の遊興娯楽業などの業種の方を除く、ほとんどの業種や事業の中小企業の方が利用できる融資制度です。
他の融資制度では利用者の属性や状況が具体的に設定されている一方、間口が広くとられています。
他の融資制度の中でも最も標準的な貸付が「普通貸付」だということです。
2.資金の使途
この融資制度は、次のように資金の使い道によって、条件が大きく3つに分かれています。
資金の使途 | 運転資金 | 設備資金 | 特定設備資金 |
融資限度額 | 4,800万円 | 7,200万円 | |
返済期間
(据置期間) |
5年以内
(1年以内) |
10年以内
(2年以内) |
20年以内
(2年以内) |
利率 | 使途、返済期間または担保の有無によって異なる | ||
担保・保証人 | 要相談 |
*日本政策金融公庫の公開情報「国民生活事業」の融資制度の概要を参考に2018年10月に作成
普通貸付で利用できる資金の使いみちは3つ、「運転資金」と「設備資金」と「特定設備資金」があります。
言葉の定義を確認しておきましょう。特に「運転資金」と「設備資金」は他の融資制度でも説明に使われる頻出単語です。
また、借りた時と異なる使いみちで資金を流用すると、資金使途違反となり、一括返済を求められる他、日本政策金融公庫からの借り入れは二度とできなくなりますので、注意しましょう。
(1)運転資金
「運転資金」は、事業経営に必要な資金のことを指します。
「運転」というと、機械や自動車を動かすイメージが強いかもしれませんが、組織や団体を動かすことにも使われます。
「ランニングコスト」とも呼ばれます。
事業をスムーズに回すために必要なお金で、具体的には人件費や仕入れ費用はもちろん、文房具や印刷用紙代などの雑費も、運転資金に含まれます。
運転資金は、次の式で算出できます。
運転資金=売上債権+棚卸資産−買入債務
ざっくり身近な言葉で表現すると、次のようになります。
運転資金=売上+在庫-仕入れ
算出式を見てわかる通り、売上が黒字であっても、運転資金が充分とは限りません。
例えば、月に100万円の仕入れをして、売上が150万円の事業を経営しているとします。
会計上は50万円の黒字です。
しかし、通常、現金払いを徹底でもしない限り、仕入れの支払い時期と、売上が懐に入ってくる時期が同じになることはありません。
仕入れの支払いは当月、売上金の回収は翌月という事業サイクルの場合、50万円あっても次の仕入れの代金としては不足で商売が成立しません。
仕入れをして、売り上げて、またその次の仕入れをして、と事業を回していくのに必要なこのお金が運転資金に当たります。
(2)設備資金
「設備資金」は、設備に必要な資金のことを指します。
設備とは、建物、車、機械設備などの、長期に渡って利用し、事業基盤(インフラ)となる有形固定資産のことです。
事業拡大で多額の初期投資が必要になった場合、その多くは設備資金として扱われるため「イニシャルコスト」と同義です。
注意したいのは、この融資の使途が「土地」の購入資金になる場合について、です。
普通貸付以外の他の融資制度では「設備資金(土地に係る資金を除く)」という表現が多く、融資対象外であることを明確にしています。
普通貸付の「設備資金」も、あくまでも事業運営の基盤に対しての資金であることを覚えておく必要があるでしょう。
また、設備資金の融資は金額が大きい上、雑費を含む運転資金よりは使いみちの是非を判断しやすいため、追跡調査されることが多々あります。
設備資金の利用時はできるだけ領収書などを保管し、後からいつでも証明できるようにしておくことも重要です。
「特定設備資金」は、取り扱う商品や業種の変更などを行う事業者を対象とした設備資金です。
「設備資金」が利益向上、事業拡大といったポジティブな状況で使われる一方、外部要因によって必要に迫られているようなネガティブな状況で使われるのが「特定設備資金」といってよいでしょう。
具体的には、次のような使途が挙げられます。
|
3.融資限度額
融資限度額は「条件を満たせば、この額まで融資できますよ」という日本政策公庫の設定金額を指します。
あくまで最大の金額なので「運転資金なら4,800万円も貸してもらえる!」という勘違いはしないようにしましょう。
当然、状況によって融資希望額が下回ることもあります。
普通貸付の場合、運転資金、設備資金の融資限度額は4,800万円に対し、特定設備資金は7,200万円です。
特定設備資金の融資限度額が倍に設定されているのは、政府出資100%の金融機関である日本政策金融公庫が、社会的弱者に対して優遇措置を取っているためです。
外部要因、つまり社会環境の変化によって立ちいかなくなる事業者を救済する目的があります。
4.返済期間(据置期間)
返済期間は「日本政策金融公庫が、お金を返し終わるのを待ってくれる期間」のことで、据置期間」は「日本政策金融公庫が、利子の支払いだけで、本格的に返済を始めるのを待ってくれる期間」のことを指します。
返済期間の中に据置期間が含まれるので、注意が必要です。
例えば、返済期間3年で、据置期間が1年だった場合、最初の1年だけ利子だけ支払って、後の2年で返済することになります。
融資を受けた後、据置期間を設定する、といったことはできないので、それも注意しましょう。
具体的な年数は、日本政策金融公庫の担当者との融資面談を通して、利子を決める「利率」とセットで決まります。
普通貸付では、運転資金は5年以内、設備資金10年以内、特定設備資金は20年以内の返済期間を設定されます。
なお、運転資金はまれに最大で7年以内に設定されることもあるようです。
据置期間は、運転資金が1年以内、設備資金、特定設備資金は2年以内を設定されます。
これらの年数はどれも最大の期間を示しているので、これより短くなる想定をしておくと安全です。
5.利率
融資を受けたときに融資金に上乗せして支払う利子、金利を算出する率のことを「利率」と呼びます。
なお、日本政策金融公庫の場合、年間で算出する年利です。
普通貸付では、日本政策金融公庫が設定する「基準利率」と呼ばれる一般的な利率が採用されます。
この場合、利率が変わる要素は「担保」と「保証人」です。具体的な数字は、日本政策金融公庫の担当者との融資面談を通して、返済期間とセットで決まります。
利率は次の通りです。
2018年10月時点での金利情報です。最新の金利情報は、日本政策金融公庫のウェブサイトでご確認ください。
担保あり・保証人あり | 1.16~2.35(年利%) |
担保なし・保証人あり | 2.06~2.65(年利%) |
担保あり・保証人なし、担保なし・保証人なしの場合、別の融資制度に変わる可能性が高いため、ここでは割愛します。
6.担保・保証人
「担保」はお金を返せなかったときに没収される財産で、「保証人」は返せなかったときに支払い義務が生じる連帯保証人のことです。それらを用意することで確実に返済する意思を示すことになり、利息が安くなります。
普通貸付の枠組みで融資に臨む場合、基本的には「保証人あり」で担保の有無が
選べる部分だと言えるでしょう。「保証人なし」になると別の融資制度になる可能性が高いです。制度が違えば当然、融資限度額や返済期間などの条件面も違ってくるので、注意が必要です。
まとめ
普通貸付は、最も一般的な貸付です。他の融資制度と比べたとき、物差しになるようなスタンダードな条件を備えています。
日本政策金融公庫の金利そのものが低金利ではあるものの、基準利率よりも低い利率の「特利」がある融資制度もあります。
社会的に弱い立場とされ、他の銀行から貸してもらいにくい若者や女性、シニア向け、被災した事業者向けなど様々です。
属性や状況によって困っている人がいるパターンの分だけ、融資制度の数があるといっても過言ではありません。
そのため「前回は特利で融資してもらったけど、今回はどの融資制度も条件に合わないので、普通貸付で!」というケースはあっても、日本政策金融公庫に初めて融資を申し込むときに普通貸付から入るのは珍しいケースと言えるでしょう。
他の融資制度に当てはまらないということは、日本政策金融公庫の主要な顧客層からずれている可能性が高いのです。
その場合、融資面談で「あなたなら、もっと良い条件で貸し付けたいという金融機関もあるでしょうに、どうして日本政策金融公庫の融資を望むのですか?」といった勘ぐりをされないよう、気をつける必要があるかもしれません。
「普通貸付」を利用する前に一度、条件のあった融資制度がないか、確認するようにしましょう。