起業する際のポイントは「事業計画」「資金調達」「会社の設立(法人登記)」です。
起業を考える際、素晴らしいアイデアをもっていても、資金がなければ進みにくいものです。また、法人化するためには、定められた手順で法人登記しなければなりません。
そして、起業準備の中でも事業計画は重要です。事業計画の内容は資金調達する際や会社設立(法人登記)の審査や申請書類に用います。ビジネスモデルや利益のシミュレーションなど、「どのようにして儲けるか?」が起業の大前提となるのです。
そこで今回は、起業に関する知識ゼロの方が最初に理解するべき事業計画の作成から会社設立(法人登記)申請を行うまでの流れを7つのポイントに分けて紹介します。
目次
ポイント1:会社のビジョンを明確にして会社形態を決める
起業の前に、なぜ事業を開始しようと思ったのかなど起業のビジョンを明確にしておきましょう。
ビジョンを明確にした後に、起業のタイミングを決め、どの会社形態で起業するかを決めます。
①起業におけるビジョンの具体化
なぜ起業しようと思ったのか、開始したい事業はどのような内容なのか、起業前に明確にしておきましょう。
起業したいと思った理由はそれぞれにあるでしょう。明確化しておくことで事業の目標を立てやすくなります。
具体的な事業のビジョンが見えていなければ、困難や苦労に向き合うことになったとき、会社運営にブレが生じて挫折するケースもあります。
事業内容を具体的に決めて、仕入れや販売の方法、売上の立て方などを考えていきましょう。
また、起業するにあたって、銀行などの金融機関からの融資を受けて資金調達をする場合、事業計画書を作成して提出する必要があります。
起業したい理由や、事業内容などのビジョンは、事業計画書に記載するべき内容の一つです。
②会社を設立するべきタイミング
起業のビジョンを具体的に設定したら、起業して会社を設立するタイミングを決めましょう。
個人事業主として会社を設立せずに事業を開始することももちろん可能です。起業の際に会社を設立して法人として事業を開始したい、という人もいるでしょう。
個人事業主ではなく会社を設立して法人として事業を実施することで、自身の給与を経費として計上することが可能になったり、欠損金の繰越控除が個人事業主と比較して長くなったり、税金の面で優遇さる点もあります。
また、会社を設立して法人登記することで、業種によっては、社会的信用度が高いと評価されるケースもあります。
しかし、タイミングを見計らわずに会社設立をしてしまうと、十分な資本金を準備することができずに資金少ない会社であると判断され、金融機関からの資金調達に悪い影響を与えてしまう可能性もあります。
会社を設立して事業を行いたい場合は、会社設立のメリットやデメリットを知って、損をしないタイミングで会社を設立しましょう。
③会社形態の種類を知って選択する
会社の形態は
- 株式会社
- 合同会社
- 合名会社
- 合資会社
の4つ種類があります。
4つの会社の種類について詳しい説明は下記の記事からご確認ください。
状況に合わせて設立する会社の種類を選択しましょう。
ポイント2:事業計画の全体像を具体的に決める
事業計画を作る上でまず、初年度の収支計画をシミュレーションしてみましょう。
大まかなポイントは「どのくらい稼ぎたいか?」「いくら資金が必要か?」「失敗する前のリスク回避は?」の3点です。
その他にも事業計画には複数のポイントがあります。
1 | なぜその事業を始めようと思ったのか |
2 | 事業やビジネスプランの要点(エグゼクティブサマリー※)
※エグゼクティブサマリーとは 事業計画書の要約として、顧客ニーズや課題・課題解決プラン、競合比較の強みなどが短時間でわかるまとめ |
3 | その事業を立ち上げる根拠と経緯 |
4 | どのような人材が関わるか(マネジメントチーム)
※経営に関わる人材の事業経験、所有している資格などを明記しましょう。 |
5 | 会社概要 |
6 | その事業に対する理念 |
7 | その事業に対する理念 |
8 | 商品やサービスの概要 |
9 | 利益が出る仕組み |
10 | 市場や競合の分析 |
11 | マーケティング戦略
※競合他社と比較して、ご自身の事業の強みは何なのか、潤滑な経営をするために必要な競合と差をつけるための戦略を記載しましょう。 |
12 | ビジネスプランのシミュレーション
※会社設立から事業安定までの期間、どのような計画で事業を進めていくのか、できるだけ詳しく記載しましょう。実現可能なビジネスプランであることが重要です。 |
13 | その事業をイメージできる内容(オペレーション計画)
※事業を行うために実際の現場で必要な要素を記載しましょう。例えば、飲食店であれば接客やシフト、製造業であれば生産している商品の内容などを明記することで、実施する事業の内容を伝えることができます。 |
14 | 財務計画(収支計画) |
15 | 資金調達について |
16 | どのように商品やサービスを売り出していくか |
17 | リスク管理 |
上記の内容が明確に用意できているとよいでしょう。
事業計画書の作成方法について詳しくは下記のURLからご確認ください。
事業計画が明確でないと、資金調達が難しくなり、起業する前から躓いてしまうケースもあります。
例えば、銀行などの金融機関から融資を受ける際、必ず事業計画の提出を求められます。
金融機関の融資担当者は、事業計画に目を通し、失敗するリスクが少ないと判断した事業計画に融資を実行します。
つまり、自分だけでなく、他人が見たときにも納得できる事業計画を立てることが必要です。
ポイント3:起業に必要な資金を把握し調達方法を検討する
起業するにあたり、どのような資金が必要になるのかを把握し、必要な資金の調達方法に関しても検討しておく必要があります。
(1)起業時に必要な3つの資金
起業時には「開業資金」「運転資金」「生活費」を準備しておく必要があります。
なお、融資での資金調達を検討している場合には、必要な資金のうち、一定の金額の「自己資金」も必要です。
開業資金、運転資金、生活費がどのくらいかかるかを把握することで、いくらの資金調達が必要なのかを把握することが出来ます。
〇 開業資金とは
開業資金は、開業のために必要な資金の総称です。事業形態によってかかる費用は異なりますが、開業資金に含まれる項目は以下の通りです。
- 物件取得費
- 内外装費
- 設備資金
- 許認可等各種届出に関する費用 等
店舗や事務所が必要な事業の場合、物件取得にかかる費用(保証金、前払賃料、仲介手数料等)や、内外装費、設備にかかる費用など開業するまでに必要な資金が開業資金です。
許認可が必要な事業を行う場合、許認可を取得するためにかかる費用も準備しておく必要があります。
個人事業主の場合には、開業届が必要ですが開業届には特に費用は発生しません。しかし、法人の場合、登記費用が必要です。(会社形態等によって異なりますが、おおよそ10万円~24万円前後の費用がかかります。)
〇 運転資金とは
運転資金は、事業を行う上で継続して発生する費用の総称です。こちらも事業形態によってかかる費用は異なりますが、運転資金に含まれる項目は以下の通りです。
- 仕入費
- 人件費
- 家賃
- 水道光熱費 等
開業時は、事業をスタートして軌道に乗るまでの間の運転資金を、ある程度準備しておく必要があります。目安としては、最低3ヶ月分の運転資金を見ておくようにしましょう。
〇 生活費とは
生活費は、自分の生活に係る費用です。食費、家賃、水道光熱費、税金等各種支払いが該当します。運転資金同様に、最低でも3ヶ月分は無収入でも生活できるように準備しておく必要があります。
〇 自己資金とは
自己資金とは、事業を始めるための貯蓄のことを言います。起業時に開業資金(設備資金)や運転資金の融資を検討している場合、自己資金は融資審査に影響を与える重要な資金です。
日本政策金融公庫から創業融資を受ける場合、日本政策金融公庫の担当者に自己資金の有無を確認される傾向があります。必要書類のひとつとなる「創業計画書」にも「自己資金」の記入欄があるため、日本政策金融公庫の担当者は融資の可否を決める判断材料のひとつとして自己資金の有無を確認する傾向があります。
-日本政策金融公庫から融資を受ける際の注意点-日本政策金融公庫で融資を受ける場合には、以下の3つに注意してください。 注意1:物件の仮押さえをする 店舗や事務所が必要な事業の場合、融資を申込時には物件を決めておく必要があります。(融資の審査で現地調査があります。) 注意2:許認可や登記費用は借りることは出来ない 許認可が必要な事業や法人を設立するために係る費用などは融資の対象外です。 また、法人で融資を受ける場合には、法人登記を融資前に済ませておく必要があります。 注意3:自己資金は口座で貯金する 日本政策金融公庫の融資審査では、自己資金の確認として直近半年分の通帳を提示します。タンス貯金など、口座に入れていない貯金は自己資金として判断してもらうことが難しいケースもあります。一生懸命貯めているお金は、きちんと口座で管理してください。 |
(2)自己資金が少ない場合に日本政策金融公庫から融資は難しい?
自己資金が少ないからと言って、日本政策金融公庫からの融資が絶対に受けられないという訳ではありません。自己資金が少ない方は、以下の3つを確認してください。
〇 家族や親族から資金援助を受ける
家族や親族からの資金援助は、自己資金としては見てもらえません。しかし、余剰資金として判断してもらうことが出来ます。資金援助を受ける場合は、誰が、いくら援助してくれたのかがわかるように、振込してもらうようにしましょう。
誰からいくら支援を受けたかが明確になっていないと、見せ金と判断されてしまう可能性があります。
〇 みなし自己資金を提示する
みなし自己資金とは、起業のために自己資金からすでに支払っている費用のことを言います。物件の取得や、設備にかかった費用など融資を受ける前に支払っているものは、いつ、何に、いくら支払ったかを提示することで、みなし自己資金として判断してもらうことが出来ます。
〇 担保を提供する
日本政策金融公庫の融資は原則として、無担保・無保証人です。しかし、不動産などを所有している場合には、担保を設定することで、自己資金が少なくても融資が受けやすくなるケースがあります。住宅ローンを利用している不動産の場合には担保にできない場合もありますので、事前に担保にすることができるかどうかの確認をしておきましょう。
(3)自己資金が足りない場合の資金調達方法
自己資金が明らかに少ない、全くないという方など、日本政策金融公庫や銀行からの資金調達が難しいという場合には、以下の3つの方法で資金調達にチャレンジすることも出来ます。
〇 投資家からの出資を募る
エンジェル投資家やベンチャーキャピタルなどからの出資を得るという方法です。事業の将来性をしっかりとアピールすることが出来れば、投資家からの出資の可能性があります。出資なので、返済の必要もありません。ただし、出資者である投資家側から経営に対して介入されることもあります。
自由に経営を行えない可能性があることも覚えておきましょう。
〇 クラウドファンディング
クラウドファンディングは、支援を受けるという形で資金を調達する方法です。形式によっては、支援のお返し(リターン)を準備する必要があります。支援者を多く募ることができるような魅力的なビジネスモデルであれば、チャレンジする価値はあります。
ただし、目標に達成しない場合、資金を調達することができない形式もあります。
-資金調達の方法に絶対はない-
自己資金が少ない、全くないという場合でも、投資家からのサポートやクラウドファンディング、ノンバンクからの借入など資金調達を行う方法はあります。
しかし、どの方法であっても「絶対に資金調達ができる」という保証はありません。
起業して事業をスタートするためには、自己資金を含めしっかりと準備をして、資金調達方法を選択できるようにしておくことが望ましいです。
また、支払い遅延などが続けば、信用情報にも傷がつきます。事業用資金の資金調達は起業後にも繋がるため、慎重に選択するようにしましょう。
ポイント4:法人登記を進める
設立する会社形態の種類の選択をし、会社を設立準備をしたら、法務局に申請をして法人登記をする必要があります。
法人登記は義務付けられているので、法人登記をせずに営業を続けていると罰則の対象となり罰金が発生してしまう可能性があります。忘れずに手続きをするようにしましょう。
法人登記をすることで、会社の所在地や代表者名、事業内容などが登録され、会社が法人として認められたと言えます。
また、法人登記をすることで、会社情報が一般公開され会社の所在地や代表者名、事業内容などを第三者が閲覧することができるので、会社の信用度が高まります。
法人登記の申請は、本店所在地の管轄の法務局で行い、申請をしてから約10日で受理されます。
必要な申請書類に記入漏れがある場合や、提出書類が足りないなどは法務局から連絡があり、書類の修正のために管轄の法務局に行って修正をすることになります。
修正をするために手間がかかるだけでなく法人登記をしたかった日に登記ができない、ということにもなり得るので、法人登記の申請をする際には書類の不備がないかをきちんと確認しておくようにしましょう。
なお、登記の手続きには、実際に法務局へ出向いて申請する以外にも郵送やオンラインの2通りあります。
法人登記の流れは下記の通りです。
①法人登記を管轄の法務局で申請する
法務局のHPで本店所在地の管轄の法務局を調べましょう。
管轄の法務局を確認したら、登記申請に必要な書類を準備して申請を行います。
②法人登記を郵送でする場合
http://www.moj.go.jp/MINJI/MINJI90/minji90.html
申請書類の準備が終了したら、管轄の法務局に郵送をして申請を実施します。
郵送で登記申請をする場合には、ご自身の連絡先の記載を忘れないようにしましょう。
③法人登記をオンラインでする場合
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji60.html
オンラインで法人登記をする場合は、上記URLから申請をすることが可能です。
オンライン申請は月曜から金曜の8:30~17:15の間にする必要があるので注意が必要です。
詳しい法人登記の流れは下記の記事でご確認ください。
ポイント5:法人登記に必要な書類を準備する
法人登記をする際には、原則として定款が完成してから2週間以内に法務局で登記申請をしなければなりません。
そして、法人登記で必要となる書類も、定められた決まりに基づいて作成します。不備がある場合は作り直しや修正をする必要があるので、見落としがないようにチェックしましょう。
法人登記の申請に必要な書類は下記の通りです。
- 登記申請書
- 定款
- 取締役の就任承諾書
- 払込証明書(資本金の振込を証明する銀行口座のコピーなど)
- 印鑑届出書
- 代表者の印鑑証明書
登記申請書は法務局の㏋でダウンロードすることができます。
ポイント6:法人登記で必要になる「定款」とは?
定款は貸家の在り方や事業の内容などを記した書面で、いくつかの項目に分かれており「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」があります。
定款は会社法で定められた基準に沿って作成しましょう。
また、「絶対的記載事項」の記載は必ず必要で、該当する事項は下記の通りです。
- 事業の目的
- 商号
- 本店所在地
- 資本金の額
- 発起人の氏名と住所
起業時に細かい事業計画書を作成しておくことで、事業の目的の項目を作成する際に参考にすることが可能です。
定款が完成したら、公証人(公証人役場)に提出し、承認を得ることで正式な定款として認められますが、作成した定款が会社法の内容に沿っていない場合、定款として認められないので注意しましょう。
公証人が認めた文書は法的効力を持つため、承認を得た定款は法的効力を持つことになります。
公証人に定款を承認してもらうためには、
- 発起人すべての印鑑証明書
- 収入印紙代4万円
- 公証人手数料5万円
が必要です。
また、定款申請には社員の登録が必要になります。
法人登記を行う際には必ず印鑑が必要になるため、準備しておく必要があるでしょう。
ポイント7:法人登記後の各所への事業開始の届出
法人登記が完了したあと、各所への必要書類の届出が必要です。
(1)税務署への届出
- 法人設立届出書(法人登記した日から2か月以内に届出)
- 給与支払事務所等の開設届出書(法人登記した日から1か月以内)
- 青色申告承認申請書(法人登記した日から3か月以内)など
(2)市区町村役場への届出
- 一事業開始等申告書(法人設立届出書)
(3)会社保険事務所への提出書類
- 健康保険、厚生年金保険の新規適用届
- 健康保険、厚生年金保険の新規適用事業所現況書
- 被保険者資格取得届
- 被扶養者届
(4)労働基準監督署への届出
- 労災保険関係成立届(法人登記した日から10日以内に届出)
- 適用事業報告(法人登記した日から10日以内に届出)
- 就業規則届(従業員が10人以上の場合)
その他にも、職業安定所への効用保険の適用の届出、被保険者資格取得の届出も必要です。
また、飲食店や美容室を開業する場合には保健所への届出も必要になる業種もあるので、開業時に法務局に問合せをして確認しておきましょう。
まとめ
こうして7つのポイントを順に見ていくと、事業計画で具体的にした内容が法人登記でも軸になることが分かります。
法人登記の定款でも、資金調達で必要になるツールとしても、実際に事業を運営する指針としても、事業計画は重要です。
資金調達の専門家は事業計画をチェックするプロでもあり、事業計画書の修正・作成のノウハウを持っています。
何千人という単位で事業計画をチェックしてきた経験があるため、事業計画を判断する知見が蓄積されています。
事業計画は法人登記や資金調達など起業に必要なステップを進める上で基盤となるものです。
事業計画の段階でつまづいて起業が失敗しないように、資金調達の専門家にチェックしてもらうのも有効的な手段と言えるでしょう。