中小企業経営強化法に基づいた中小企業支援の制度「経営力向上計画」は、現在106,921件(令和2年6月30日時点)認定を受けている事業者がいます。
利用者数の多さはメリットの多さや申込みの手軽さにあるようです。
そこで今回は経営力向上計画の認定で受けられるメリットや、デメリットについて解説します。
経営力向上計画の概要を知りたい方はこちらの記事をご参照ください。
目次
1.経営力向上計画の認定で受けられるメリット早見表
「経営力向上計画」の認定で受けられるメリットは、大きく分けると3つあります。
税負担の軽減ができる等の税制措置、融資が受けやすくなる等の金融支援、法律の緩和等の法的支援です。それぞれ細かく分けると、実は11種類ものメリットが存在します。
ただし、資本規模や従業員人数、業種等によって利用できる支援・利用できない支援がありますので、まずは自分がどのようなメリットが得られるか、下記の表で確認してみてください。
メリット | 資本規模・従業員数 | 業種 | 法人形態 | |
税制措置 | メリット1:新しく設備を買うときに税金が控除される | 資本金が1億円以下の法人
または 従業員数が1000人以下の法人・個人 |
以下に記載した以外の企業が対象
電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、娯楽業(映画業を除く)及び、生活衛生同業組合の組合員が営んでいない料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブ、その他これらに類する事業、風俗営業の許可を受けていないホテル業 |
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メリット2:不動産の権利移転が生じる際の税金が控除される |
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金融支援 | メリット3:低金利で融資を受けられる | ■中小企業者
【製造業・その他】資本金:3億以下 従業員数:300人以下 【小売業】資本金:5千以下 従業員数:50人以下 【サービス業】資本金:5千以下 従業員数:100人以下 ■政令指定業種 【ゴム製品製造業】資本金:3億以下 従業員数:900人以下 【ソフトウェアまたは情報処理サービス業】資本金:3億以下 従業員数:300人以下 【旅館業】資本金:5千以下 従業員数:200人以下
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メリット4:新規事業・海外投資に対する信用保証額が拡大する | ||||
メリット5:資本が3億以上でも中小企業投資育成株式会社から投資を受けることができる | ||||
メリット6:海外支店・子会社が現地通貨建ての融資を海外金融機関から受けるとき債務保証を4.5億受けられる | ||||
メリット7:最大25億の債務保証を受けられる | 資本金が10億円以下の中小企業(上記)を除く中堅企業等
または 従業員数が2000人以下の中小企業(上記)を除く中堅企業等 |
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メリット8:信用保証が使えない場合も食品流通構造改善促進機構による債務保証が受けられる |
資本金が10億円以下 または 従業員が2000人以下 |
食品製造業者等 | ||
法的支援 | メリット9:事業承継の際に当該許認可に係る地位をそのまま引き継ぐことができる | 旅館業/建設業/火薬類製造業・火薬類販売業/一般旅客自動車運送事業/一般貨物自動車運送事業/一般ガス導管事業 | ・合併/会社分割
・事業譲渡
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メリット10:最低3人から組合を組成できる |
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・事業協同組合等の設立 | ||
メリット11:事業譲渡の際より簡略な手続きにより債務を移転することができる |
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・事業譲渡 |
2.経営力向上計画のメリット①税制措置
税制措置とは、税負担の軽減ができる等の税金に関する特別な取り計らいです。具体的にみていきましょう。
メリット1:設備の取得に係る税制措置(法人税・所得税の控除)
令和3年3月31日までの期間で新しく設備を買う際、規定の事業・設備に当てはまれば即時償却又は取得価額の10%(資本金3000万円超1億円以下の法人は7%)の税額控除を選択適用することができます。
即時償却とは、設備投資を行った初年度に「すべて」経費として計上することができる制度です。
長年かけて分割して経費として換算する減価償却ではなく、即時償却にすることによって、その年の利益が減るため節税効果を早い段階で得ることができます。そのため、現在多く利益が出ている事業者の方にはチャンスかもしれません。
一方で、税額控除とは所得金額に税率を掛けて計算した税額から直接差し引くことができる控除のことをいいます。
どちらがご自身にとってメリットが大きくなるか気になる方は税理士にご相談ください。
①支援概要
対象者 | 中小企業者
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事業 | 中小企業投資促進税制及び商業・サービス業・農林水産業活性化税制のそれぞれの対象事業に該当する全ての事業※ |
類型 | 生産性向上設備(A類型)
生産性が旧モデル比平均1%以上向上する設備 収益強化設備(B類型) 投資収益率が5%以上の投資計画に係る設備 デジタル化設備(C類型) 投資収益率が5%以上の投資計画に係る設備 |
対象設備 |
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※風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条第5項に規定する性風俗関連特殊営業に該当するものを除きます。
ご注意いただきたいのは設備の取得時期です。設備の取得は、原則、経営力向上計画の認定後とされています。
もしもう購入してしまった方も、場合によっては申請できる場合がありますので一度認定支援機関に相談することも考えてみましょう。
弊社SoLaboは認定支援機関として、経営力向上計画の申請書作成サポートを実施しております。「申請書の書き方がわからない」「自分で書類作成できるか不安」という方は専門の担当が対応しますので、まずは一度ご相談ください。
お問合わせの際は「経営力向上計画の件」とお伝えいただくとスムーズです。
②設備の類型はどれに当てはまる?
設備の類型が3種類ありますが、どれかに当てはまればOKです。生産性向上設備(A類型)にも収益強化設備(B類型)にも当てはまる場合も当然あります。その際は申請しやすい類型で申請することができます。
メリット2:認定計画に基づき行った事業承継等に係る登録免許税・不動産取得税の特例
令和4年3月31日までの期間で合併、会社分割又は事業譲渡を通じて他の中小企業者等から不動産を含む事業用資産等を取得する場合、不動産の権利移転について生じる登録免許税、不動産取得税の軽減を受けることができます。
登録免許税とは不動産・船舶・会社など所有権の「登記」に対して課税される税金のことです。
不動産取得税とは不動産を有償または無償で取得した場合や改築等により不動産の価値を高めた場合に、その取得者等に課税される地方税のことです。
①支援概要
対象者 | 中小企業者
※設備の取得に係る税制措置(法人税・所得税の控除)と同様 |
軽減措置①
登録免許税
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事業譲渡による移転の登記
通常:2.0% → 認定時:1.6% 合併による移転の登記 通常:0.4% → 認定時:0.2% 分割による移転の登記 通常:2.0% → 認定時:0.4% |
軽減措置②
不動産取得税(事業譲渡の場合のみ※合併・会社分割は非課税)
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土地・住宅
通常:不動産価格×3% →認定時:不動産の価格の1/6相当額を課税標準から控除 住宅以外の家屋 通常:不動産価格×4% →認定時:不動産の価格の1/6相当額を課税標準から控除 |
3.経営力向上計画のメリット②金融支援
金融支援とは、融資の保証枠の金額が増えるなど、融資や投資などの資金調達に関する特別な取り計らいです。具体的にみていきましょう。
メリット3:日本政策金融公庫による低利融資
日本政策金融公庫による低利融資を受けることができます。貸付金利は設備資金について、基準利率から0.9%引き下げ(運転資金は標準利率)になります。
メリット4:中小企業信用保険法の特例
民間金融機関から融資を受ける際、信用保証協会による信用保証のうち、普通保険等とは別枠での追加保証や保証枠の拡大が受けられます。特に、自社にとって新しい取り組みである新事業や海外投資関係の保険の保証枠が、2億円から3億円に拡大します。
メリット5:中小企業投資育成株式会社法の特例
経営力向上計画の認定を受けた場合、通常の投資対象(資本金3億円以下の株式会社)に加えて、資本金額が3億円を超える株式会社(中小企業者)も中小企業投資育成株式会社からの投資を受けることが可能になります。
中小企業投資育成株式会社とは中小企業投資育成株式会社法(昭和38年6月10日法律101号)に基づいて設立された国の政策実施機関です。中堅・中小企業に対して投資・育成を通して支援します。
メリット6:日本政策金融公庫によるスタンドバイ・クレジット
経営力向上計画の認定を受けた中小企業者(国内親会社)の海外支店又は海外子会社が、日本公庫の提携する海外金融機関から現地通貨建ての融資を受ける場合に、日本公庫による債務の保証を1法人あたり最大4億5000万円受けることができます。
メリット7:中小企業基盤整備機構による債務保証
資本金10億円以下又は従業員数2千人以下の中堅企業等が、保証額最大25億円(保証割合50%、最大50億円の借入に対応)の債務の保証を受けられます。
※各業界の中小企業者(メリット早見表に記載)よりも大きな企業を中堅企業としています。
メリット8:食品等流通合理化促進機構による債務保証
食品製造業者等は、経営力向上計画の実行にあたり、民間金融機関から融資を受ける際に信用保証を使えない場合や巨額の資金調達が必要となる場合に、食品流通構造改善促進機構による債務の保証を受けられます。
4.経営力向上計画のメリット③法的支援
法的支援とは、事業継承の法律緩和など、法律に関する特別な取り計らいです。具体的にみていきましょう。
メリット9:許認可承継の特例
事業承継等を行うことを記載内容に含む経営力向上計画の認定を受けた上で、その内容に従い、以下のいずれかの許認可事業を承継する場合には、承継される側の事業者から、当該許認可に係る地位をそのまま引き継ぐことができます。
メリット10:組合発起人数の特例
組合の組成を記載内容に含む経営力向上計画の認定を受けた上で、その内容に従い、事業協同組合、企業組合又は協業組合を設立する場合には、通常、最低4人必要とされている発起人の人数が、3人でも可となります。
メリット11:事業譲渡の際の免責的債務引受けの特例
通常、企業が事業譲渡により債務を移転するには、債権者から個別に同意を得る必要があり、この同意がない場合には、事業譲渡をした企業は債務を免れないです。事業譲渡を行って他者から取得する経営資源を活用する取組みについて計画認定を受けた場合、企業が債権者に対して通知(催告)し、1ヵ月以内に返事がなければ債権者の同意があったものとみなすことができ、より簡略な手続きにより債務を移転することができます。
5. 経営力向上計画のデメリット
経営力向上計画のデメリットは、資料作成などの手続き時間があげられます。
「メリットが多いからとりあえず申請しよう」と申請して、実は特に利用できなかった場合は時間だけ浪費することになります。
自分の事業に必要かどうか検討してから申し込みましょう。経営力向上計画の手続きや制度の内容は中小企業庁ホームページから確認できます。
まとめ
支援ごとに対象者が変わったり、細かく類型が分かれていたりとややこしいこともあるかもしれませんが、経営力向上計画の認定を受けることで得られるメリットも多いです。
設備の導入や金融機関からの資金調達を検討している事業者の方は、利用可能な支援があるかもしれませんので、まずは自社に合う制度は何か確認してみてください。
実際確認していくと、「自分の事業は当てはまるの?」「申請方法はこれであっているの?」と疑問も出てくるかと思います。
そんなときは認定支援機関などの専門家に相談するのもよいでしょう。
当社SoLaboでもご相談・申請書の作成サポートを行っていますので、経営力向上計画を検討中の方は一度お問い合わせください。