訪問介護やデイケアサービス会社の職員として長く介護業界で経験を積んだ方のなかには、介護事業で独立を考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで壁として立ちはだかるのが資金準備です。
訪問介護であれば、移動のための自転車や車いすや事業所用の自動車など各種備品が必要です。店舗を構える場合はさらにテナントの敷金や改装料が発生するため、ある程度まとまった設備資金を準備しなければなりません。
そこで、おすすめの資金調達方法が日本政策金融公庫からの融資です。
他の金融機関の場合、実績のない創業時に融資を受けることは困難ですが、公庫からの融資の場合、介護業界での勤続年数や、ケアマネージャーとの人脈をしっかり築いているかといった経験値を重視しており、しっかり時間をかけて準備してきたことがアピールできれば融資を受けやすくなっています。
それは、公庫が地域社会の課題解決に取り組む介護事業の取組を積極的に支援しているという背景が関係しています。
実際に公庫の平成28年10月のニュースリリースでは、平成 28 年度上半期のソーシャルビジネス※関連融資実績が5,051 件(前年同期比 132.6%)、351 億円(同 117.8%)と、件数・金額ともに過去最高となったという発表がされています。
※ソーシャルビジネス:高齢者や障がい者の介護・福祉、子育て支援、環境保護、地域活性化など、地域や社会が抱える課題の解決に取り組む事業を指す
本記事では、実際に創業融資を受けることができた介護事業の創業計画書を見本として、融資担当者に伝えるべきポイント・創業計画書の作成時に意識すべきことを解説します。
1.創業計画書の入手方法
日本政策金融公庫の融資申込に必要な創業計画書は、日本政策金融公庫のホームページからダウンロードできます。次のリンクにアクセスし、創業計画書のテンプレートをダウンロードしてください。
日本政策金融公庫のホームページには業界業態別の創業計画書記入例が公開されていますが、そのまま参考にしても融資を受けることは困難といわれています。
融資を受けるためには、業界業態ごとに融資担当者の評価を得やすいポイントを把握し、創業者の強み・売上の立て方・返済計画などをより具体的に記述する必要があるためです。
2.融資担当者に評価されやすい創業計画書のポイント
創業計画書を作成するうえで大切なことは、日本政策金融公庫の融資担当者から評価されやすいポイントを理解し、創業計画書に反映させることです。なぜなら、日本政策金融公庫の融資審査は減点方式ではなく加点方式で行われるからです。
融資担当者に評価されるポイントを押さえた創業計画書を作成しないと加点されず、融資審査を通ることは難しくなります。介護事業の創業融資を受けたい場合に融資担当者から評価されやすいポイントは、次の4点です。
(1)介護業界での勤続経験 |
(2)自己資金 |
(3)介護業界内の人脈 |
(4)様々な介護サービスに対応するための人材を確保していること |
(1)介護業界での勤続経験
これから立ち上げる事業についてどの程度の経験を積んできたかは重要な評価のポイントのひとつです。その事業の経験が浅ければ、売上の見通しを立てることも難しく、事業が成功する確率も低いためです。具体的には、新規創業の場合6年以上の経験が求められます。
介護の創業融資を受ける場合は、介護業界での勤続経験があるかどうかが重要になります。また、そこでマネジメントや人材管理などの経験があれば、経営マネジメントの経験があるとみなされ、融資を受けやすくなります。
逆に、経験年数が浅いのであれば、それ以外の部分で評価してもらえるよう、積極的に伝える事が融資成功の鍵となります。
(2)自己資金
公庫の創業時の融資「新創業融資制度」では、創業資金の10分の1以上の自己資金があることが融資を受けるための要件となっていますので、自己資金を準備していることは重要なポイントです。
公庫に限らず金融機関から融資を受けたい場合、少なくとも50万円~100万円程度の自己資金が必要になります。総投資額によっても借りられる額は異なりますが、自己資金を200万円以上用意していると、希望に近しい金額が借りられる可能性が高まります。
自己資金が少ないと、計画性をもって準備してこなかった人であると判断されてしまいます。現時点でどの程度自己資金が用意できているかも審査の重要な判断基準になるのです。
(3)介護業界内の人脈
介護の創業融資を受ける場合、ケアマネージャーなど介護業界内に活用できる人脈を持っていると融資担当者に評価されやすいです。なぜなら、人脈が豊富にあれば事業を円滑化でき、成功に結び付くからです。
開業直後は介護利用者の確保が会社の死活問題になりますが、前職場やケアマネージャーと関係性が築けていれば、介護利用者を紹介してもらうことができますので、独立後の見込み顧客が期待できます。
(4)様々な介護サービスに対応するための人材を確保していること
介護の創業融資を受ける場合、様々な介護サービスに対応するための人材を確保できていると融資担当者に評価されやすいです。例としては、看護師・理学療法士・社会福祉士などの医療系資格保有者が挙げられます。
また、介護や医療に直接関係はありませんが、税理士、社労士、行政書士といったビジネスに役立ちそうな資格や、難易度の高い資格は記載すると評価に加点される可能性があります。
3.介護開業における創業計画書の書き方
実際に当社が創業融資支援を行い、日本政策金融公庫の融資に成功した訪問介護の創業計画書をもとに、訪問介護の開業に特化した書き方が必要になる「創業の動機」「経営者の略歴等」「取扱商品・サービス」の3項目について書き方を解説します。
創業計画書サンプルは訪問介護事業のものですが、通所介護事業でも考え方は同じです。

創業計画書の作成において、すべての業界共通で意識すべきポイント・注意点は次のリンクでまとめています。ぜひこちらも参考にしてください。
関連リンク:https://jfc-guide.com/financing-guide/93/
(1)創業の動機・経営者の略歴等
創業の動機・経営者の略歴等では、これまでに培ってきた経験・経歴を通じて自身の能力をアピールしてください。能力を通じて、事業が成功するイメージを融資担当者に訴求します。
実際に融資実績がある創業計画書をもとに、融資担当者に評価されたポイントを解説します。
▼融資実績のある訪問介護の創業計画書から抜粋

①介護業界での勤続経験がある
上記の例の申込者の方は、前職が介護業界だったため、独立後も勤務時代の経験を活かせることがわかります。開業する事業と同じ業界経験があることは、事業に必要なスキルを自身が有していることを融資担当者に訴求しやすくなるため、事業の成功イメージを伝えるうえで重要です。
また、もし介護業界以外で勤務していたとしても、専門学校・大学等を卒業後の勤務経験はすべて記載します。これについては求人の履歴書と同様です。もし著名な学校や、創業する業界に関連する学校を卒業していれば、学校名も詳しく書いてください。
②介護業界内の人脈がある
上記の例の申込者の方は、「前職の事業を引き継ぎ独立」という記載から、開業直後から既存利用者からの売上見込みがあり、その後も前職場との人脈を活かして、売上拡大するポテンシャルがあることが予想できます。
日本政策金融公庫としては、融資したお金が返済されることが一番重要であり、その返済は事業利益で賄われるため、開業直後から売上見込みがあることを訴求することは、日本政策金融公庫に安心して融資を実行してもらうために重要な評価ポイントになります。
しかし、前職の事業を引き継いで独立するというのは比較的稀なケースです。
介護事業における一般的な独立開業の場合は、ケアマネージャーや提携している医療機関のリストがあるかどうかが売上拡大のための人脈を判断するポイントになります。提携しているケアマネージャーや医療機関との契約書があると信用力が増すので、可能であれば用意するほうが望ましいです。
③取得難易度の高い資格を保有している
介護系の資格は保有していないが、宅地建物取引士という難関資格を保有していることはポイントです。融資担当者としては、宅地建物取引士を取得しているのであれば介護の資格も取れるだろうと創業者のポテンシャルを評価してくれる可能性があります。
また、簿記2級については会計に関わる資格なので、加点要素にはなり得ます。
(2)取扱商品・サービス
「3.取扱商品・サービス」は、事業そのもののセールスポイントや戦略をアピールする項目です。事業戦略を通じて、創業する事業が成功するイメージを融資担当者に訴求します。
実際に融資実績がある創業計画書をもとに、融資担当者に評価されたポイントを解説します。
▼融資実績のある訪問介護の創業計画書から抜粋

①様々な介護サービスに対応するための人材を確保していること
「新会社は専門性を有した仲間で構成されており、どのような重度な障害者支援にも対応できる」という記載から、様々な介護サービスに対応できることがわかります。
様々な介護サービスに対応できることは、売上増大に直結するため、融資担当者には評価されるポイントです。
なお、介護開業において競合との差別化は意識する必要はありません。それよりも、ケアマネージャーとの人脈や地域との繋がりがあることが強みになります。
今回の例の開業者の場合、以前勤めていた会社を引き継いでの独立になるため、それまで地域で付き合いのあったケアマネージャーや入居者の家族とのつながりなど、人脈があることが予想でき、その点が評価の重要ポイントになります。
②開業する立地に介護需要があること
「介護認定者に対する介護サービスの供給が追いついていない」という記載から、開業直後から介護需要があり売上が見込めることがわかります。
訪問介護は距離的な問題で限定されたエリア内でしかサービス提供できないため、開業する立地の介護需要が高いということは売上見込みがあることを訴求するポイントになります。
4.介護事業の創業計画書を作成する際の注意点
介護事業の開業直後は資金繰りが厳しいと思いますが、事業の見通しの項目を記載する際は、見栄を張って虚偽の記載をしないようにしてください。
介護事業では人件費の支出が非常に多く、介護報酬の支払いも遅いため、運転資金の運用が難しいことを融資担当者は知っています。
開業当初の事業見通しが赤字だとしても融資審査で即刻落とされることはありません。重要なことは、いつ黒字転換するのかをきちんと試算し、正直に記載することです。
創業計画書サンプルでも開業直後は赤字試算ですが、今後の経営を具体的な数字に落とし込んだ計数計画が緻密だったため融資を受けることができました。
まとめ
日本政策金融公庫の新創業融資制度では、最高で自己資金の9倍までの融資を受けられます。
資金面では、開業後すぐには軌道にのらないため最低3か月分の運転資金が必要です。
仮に家賃・光熱費・人件費で毎月100万かかるとしても、運転資金は最低300万円で、さらにそこに設備資金も必要になってくるため、800-1,000万円程度の資金が必要になるでしょう。
借入希望額については、創業計画書の「7.必要な資金と調達方法」に具体的な数字を記載し、根拠ある金額に設定してください。
今回解説してきたように、融資審査では事業に関する資料を綿密に準備する必要があり、日本政策金融公庫の融資を初めて受けようとする方にとって、難易度が低いとは言えません。
創業計画書の作成に不安があるという方は、作成をプロに代行してもらうという手段もあります。
「創業融資ガイド」を運営している私たち株式会社SoLaboも国の認定支援機関として日本政策金融公庫の資料作成代行や、面談へのアドバイスなどを承ります。
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