会社を設立しようと決めた事業主は、次の段階として「どの種類の」会社を設立しようかと考えるものです。現在、日本では株式会社・合同会社・合名会社・合資会社の4種類の会社形態が認められています。
今回の記事では、これから起業を考えている事業者が自身に合った会社形態を選択することができるように、会社形態ごとの設立費用の違いやメリット・デメリット、合同会社が利用できる資金調達方法について解説していきます。
目次
1.新会社法で決められている会社は4種類
2006年5月から新会社法がスタートしました。新会社法では旧会社法で認められていた有限会社はなく、新たに株式会社とその他3つの会社(総称して持分会社=もちぶんかいしゃ)について規定されています。
【現在の新会社法で定められている計4種類の会社】
①株式会社 |
②合同会社 |
③合名会社 |
④合資会社 |

(1)株式会社は、資金調達の選択肢が幅広いが事務手続きが多い
株式会社は、株式を発行し株式市場へ上場することもできる会社です。代表者が会社設立時にあまり自己資金を持ち合わせていなくても、多くの人から出資を募ることができます。そして、会社経営についても株式を保有する株主へ一部の権利を与えるのが特徴です。
株式会社の場合、会社が何か社会的に損害を与えたなどの不祥事を出した時でも、会社の資産までの責任(有限責任)となります。その代わり、設立に関しても定款認証が必要で、決算広告や登記変更という事務手続きが課せられています。
(2)合同会社は資金調達方法は限定されるが、事務手続きは少ない
合同会社は経営者と出資者が同一かつ、出資者全員が有限責任社員という形式の会社形態です。
社会的認知度が高い株式会社に対し、合同会社は社会的認知度が高くはなく、株式公開をすることもできません。その代わり、会社設立のコストは低く、会社設立費用は株式会社が21~25万円なのに対し、合同会社は6~10万円ほどです。株式会社と比べると事務手続きが簡易な点がメリットです。
また、株主を募らないため「外部から第三者の参入を防ぐことができる」というメリットと「資金調達しづらい」というデメリットを持ちます。合同会社の持つ責任は株式会社と同様で、有限責任のみとなっています。
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(3)合名会社は資本金がない代わりに無限責任である
合名会社は、合同会社と同様に株主ではなく社員の出資によって経営されますが、合同会社と異なるのが、出資した社員が無限責任を負う点です。
株式会社や合同会社の場合は、例えば会社が多額の負債を持ち倒産したとしても、会社代表者の資産を渡してまで責任を負う必要はありません。しかし、合名会社の場合は会社が訴訟を受ける・倒産するなどのトラブルがあった際の責任範囲は出資した社員の資産まで及びます。
(4)合資会社は有限責任と無限責任の社員が各1名ずつ必要
合資会社は、合同会社と同様に株主ではなく社員の出資によって経営されますが、合同会社とは異なり、無限責任社員と有限責任社員の両方によって構成されます。
有限責任と無限責任の社員を各1名ずつ設ける必要があるため、責任という点では株式会社と持分会社のちょうど中間に位置する会社と言えます。
会社設立費用は、合名会社と同様、資本金がないため安価(登録免許税の6万円)で設立が可能です。
合名会社と合資会社の違いは、出資者である社員の責任の有無にあります。合名会社の社員の場合、もし負債を抱えた場合は無限責任を負うことになります。
一方、合資会社の場合、無限責任と有限責任社員の両方が存在しますので、有限責任社員の場合は本人の出資額以上の責任は負わなくてもいいことになります。
2.4つの会社形態の設立費用比較
会社設立で必ず発生する費用は①設立登記の費用、②資本金、③印鑑登録関連の費用、の3つに分けられます。
(1)設立登記の費用は持分会社が安い
会社の設立費用は、株式会社より合同会社のほうが安いです。それぞれの設立費用を比較した下記表を見れば一目瞭然です。株式会社は合同会社のおよそ2倍の設立費用がかかります。
株式会社 | 合同会社 | 合名会社 | 合資会社 | |
定款認証 | 必要 定款認証50,000円 | 不要 | ||
印紙税(電子定款による認証の場合はかからない) 40,000円 | ||||
設立登記 | 登録免許税 150,000円 | 登録免許税 60,000円 | ||
合計 | 240,000円 | 100,000円 |
(2)資本金は合名会社か合資会社が安い
持分会社の中でも、合名会社と合資会社については資本金が必要ありません。そのため、資本金という点で最も会社設立費用が安いのは合名会社と合資会社となります。
(3)印鑑登録関連の費用は株式会社も持分会社も変わりない
株式会社でも持分会社でも、会社設立する際には必ず印鑑の届出が必須です。その際の費用ですが、印鑑購入の実費(1本600~2800円ぐらいを3~4本)と登録料(300円)や証明書の取得費用(300円)と少額です。
3.株式会社か合同会社を選ぶポイント
4つの会社形態の中で、選ばれることが多い形態は、株式会社か合同会社の場合がほとんどです。
その理由として、合名会社では社員全員が、合資会社では一部の社員が無限責任を負わなければならず、背負うリスクが多いというデメリットがあるからです。
以下では、株式会社か合同会社どちらにするか検討する上で知っておきたいポイントをご紹介します。会社形態として安易に合同会社を選択するのはリスクもあるため、各ポイントを押さえた上、適した会社を選びましょう。
(1)会社の社会的信用度
一般に、株式会社は社会的信用度が高く、合同会社は社会的信用度が低いと言われています。
合同会社は近年できた会社形態で、日本国内ではまだ知名度が低いからです。
しかしながら、近年はGoogleやAmazon Japanなど外資系企業の日本法人が合同会社を選ぶ事例もありますので、合同会社だからと言って必ずしも信用度が低いとは言えません。
但し、合同会社は株式会社に比べて設立費用が安く、簡単に設立できるため、その気軽さから「この会社は信用できるのだろうか」という印象を日本国内では抱かれてしまいかねない現状があります。
(2)資金調達の審査難易度
会社形態によって融資の受けやすさに差が出ることは無く、どの金融機関であっても、資金調達の審査難易度は基本的には同じです。当然、株式会社と合同会社の間にも審査難易度に差はありません。
創業融資であれば、会社形態ではなく自己資金と経営者の経験で評価されます。
なお、資金調達を受ける際に、合同会社は珍しいため「なぜ合同会社という会社形態にしているのですか?」と質問を受けることも想定されます。明確な理由があれば審査へのマイナスな影響はありません。
(3)資金調達の規模感
合同会社よりも株式会社の方が資金調達の選択肢が多く、より大規模な資金調達がしやすいです。
その理由として、株式会社は株式を発行できるため、会社外の出資者から広く資金を集めることができるうえ、エンジェル投資家・ベンチャーキャピタル(VC)などの投資家への相談も可能という点が挙げられます。
一方、合同会社は株式を発行できないため、株式が関わる全ての資金調達方法を利用できないデメリットがあります。
※合同会社の資金調達方法については「5.合同会社が利用可能な資金調達方法」で詳しくご紹介します。
(4)設立時の煩雑な事務手続き
株式会社設立時の事務手続きと比べると、合同会社の事務手続きは簡略化されています。
合同会社の場合、定款認証の手続きが必要ないからです。
定款認証とは、会社のルールである「定款」を会社の本店所在地を管轄する公証役場で認証してもらう手続きです。
公証役場での認証には5万円の手数料が発生するため、株式会社の設立は合同会社よりもコストがかかるデメリットもあります。
(5)会社の設立費用
会社の設立費用は、株式会社より合同会社のほうが安いです。それぞれの設立費用を比較した下記表を見れば一目瞭然です。株式会社は合同会社のおよそ2倍の設立費用がかかります。
株式会社の設立費用 | 合同会社の設立費用 |
·定款印紙代:40,000円 ※電子定款の場合は不要 ·定款認証手数料:50,000円 ·定款謄本交付手数料:1ページ250円(おおよそ2,000円前後) ·登録免許税:150,000円 計:242,000円 | 定款印紙代 40,000円 登録免許税 60,000円
計 100,000円 |
※上記はご自身で手続きした場合の費用を想定しています。専門家に手続きの代行を依頼する場合は上記の費用とは異なる金額になる可能性があります。
(6)意思決定の早さ
合同会社は株式会社よりも重要事項などの意思決定が早いです。
なぜなら、合同会社は取締役会や株主総会の設置が不要で社員だけで意思決定できるからです。
株式会社の場合は、会社外の出資者と利害調整して意思決定しなくてはならないならないため、合同会社とくらべてスピード感に劣ります。
(7)利益配分の自由さ
株式会社の場合、出資者への利益配分は出資率によって決まりますが、合同会社の場合は自由に利益を配分することができます。
そのため、合同会社の場合は、出資金額に関わらず一律均等に配分するなど、会社の事情に応じて柔軟に配分を考えることができるメリットがあります。
(8)役員の任期
株式会社の場合、役員の任期は、通常取締役が2年、監査役が4年です※。一方、合同会社の場合、役員の任期はありません。
※非上場会社の場合は、定款で最長10年まで伸ばすことができます。
3.合同会社の設立が多い業界/事業内容
合同会社の設立が多い業界・事業として主に下記の3つが挙げられます。
①飲食店、美容院など会社名より店舗名が重要なBtoCの事業 飲食店や美容院は、会社名より店舗名の方が認知されやすく、重要なため、合同会社の信用力が低いというデメリットの影響を受けにくいです。 |
②人を雇わない個人事業主に近い業種(エンジニア、デザイナーなどIT関連やセミナー業) 個人事業主の場合、雇用が無ければ特に事業を拡大する必要がないため、合同会社を選ぶ場合が多いです。 |
③許認可を得るために法人格が必要な介護事業など 許認可を得たあとは、事業所名(屋号)を名乗って営業するため、合同会社の信用力が低いというデメリットの影響を受けにくいです。 |
全体的な傾向として、合同会社のデメリットの影響を受けない業種が、設立費用の安い合同会社を選択するパターンが見られます。
事業の内容・業界の傾向を照らし合わせて、適切な会社形態を選択しましょう。
5.合同会社が利用可能な資金調達方法
基本的に、合同会社が利用できる資金調達は借入(融資)のみです。
合同会社では株式の発行がないため、株式が関係する出資は受けられません。特に留意すべき点は、合同会社の場合ベンチャーキャピタルは利用できないということです。
ベンチャーキャピタルは、株式公開後の株式の売却で得られる利益を目的として投資を行っているため、そもそも株式発行ができない合同会社には出資できません。
今回は、合同会社が利用可能な資金調達方法5つをピックアップしてご紹介します。
(1)日本政策金融公庫 |
(2)制度融資 |
(3)銀行融資(プロパー融資/信用保証協会付き融資) |
(4)私募債 |
(5)補助金・助成金 |
(1)日本政策金融公庫
日本政策金融公庫とは、政府が100%出資する公的金融機関です。耳馴染みが無い方も多いかもしれませんが、身近なところでは国の教育ローンを取り扱っています。その他に、民間金融機関では支援の手が届かない、創業期の事業のための融資も実施しています。
実績の乏しい創業期でも、今後の売上の見通しに関する根拠を示すことができれば、借りられる可能性が高いのが特徴です。
また、合同会社だからと言って借りにくいということもなく、会社形態が審査の可否に影響することはありません。
メリット:他の金融機関と比べると低金利かつ、無担保・無保証
日本政策金融公庫の融資では、これから事業を始める方には、新創業融資制度が適用になる場合が多く、現在の基準金利は2.46~2.85%(令和2年7月1日現在)です。
他の金融機関の場合、金利3%以上が多いため、数ある金融機関のなかでも低金利であることがわかります。
デメリット:審査から着金までの期間が長い
申込後の審査から着金までに1~2か月程度の時間が掛かるため、申し込んですぐに審査の可否がわかるカードローンやキャッシングに比べるとスピード感はありません。
しかし、カードローンやキャッシングは、最短で申込んだその日の資金調達が可能ですが、金利が高いため、トータルで考えた場合の返済の負担が大きいです。
これから創業を考えている方や、最近創業したばかりで今すぐ手元資金が必要でない方であっても、早めに資金調達を実施しておくことで資金に余裕を持つことができるので、ご検討をおすすめします。

(2)制度融資
制度融資とは、地方自治体の認定を受けた上で信用保証協会からの保証を受ける融資の制度です。信用力の低い創業期でも比較的審査に通りやすくなっているため、公庫と同じく創業前後に利用されることが多いです。
メリット:比較的審査に通りやすく、低金利
制度融資は、信用保証協会からの保証を受けたうえで金融機関から資金調達する仕組みになっているため、実績が少ない方でも比較的審査に通りやすいです。
金利についても、制度によって幅がありますが1.0~3.0%程度と低いものが多く、負担が少なく済むメリットがあります。
デメリット:経営者保証があり、融資実行までに時間がかかる
制度融資は原則として経営者本人が保証人となります。そのため、もし事業が破綻した場合に経営者本人がすべての負債を負うリスクがあります。
また、信用保証協会と金融機関の2ヵ所で審査を行うため、審査から融資実行までに時間がかかります。2~3ヵ月程度は必要になると理解しておきましょう。
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(3)銀行融資(プロパー融資/保証付き融資)
銀行融資には大きく分けて2種類あります。1つ目が銀行から直接お金を借りるプロパー融資です。銀行は事業者に直接融資を行うため、そのリスクを負うのは100%銀行になります。
2つ目は、事業者と銀行の間に信用保証協会が入る、保証付き融資です。信用保証協会が保証人となることで、銀行から直接借りるのが難しい事業者も融資を受けることが可能になります。
保証付き融資では、信用保証協会がリスクを負い、もし事業者が返済できない事態に陥った場合、代わりに信用保証協会が返済を行います(代位弁済)。
プロパー融資は銀行から直接融資を受けるため、審査が厳しく、実績の乏しい事業者の場合は融資を受けることが難しい傾向です。
保証付融資の場合は、金融機関の代わりに保証してくれますので、創業期でも融資を受けやすいのがメリットです。
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(4)私募債
私募債とは50人未満に対して会社が発行する債券の一種です。金融機関からの借入と異なり、投資家から直接資金調達できる方法となります。
主なメリット:発行が簡単で低コスト
私募債は公募の社債と比較すると、必要な手続きが少なく比較的簡単に発行できます。
また、50人未満の投資家との直接的なやり取りになるため、一般的な社債発行と比べて発行のコストが低く済みます。
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(5)補助金・助成金
補助金・助成金は、先に事業者がお金を支払い、その後に遅れて入金される資金調達方法です。原則として返済する必要がない点がメリットですが、資金を受け取るまでに時間がかかる点がデメリットといえます。
助成金は、指定の要件を満たしていれば、必ず受け取ることが出来ます。一方、補助金は要件を満たした上、審査を通過した方のみ受け取れる仕組みです。
詳しくは下記記事をご覧ください。
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6.会社設立後に会社形態を変更することも可能
会社の状況などが変わった場合、会社形態の変更を検討することもあり得ます。事業の拡大やベンチャーキャピタルからの出資を受けたい場合など、さまざまな事情が考えられます。
ここでは、<合同会社→株式会社>、<株式会社→合同会社>というパターンの変更が実施される場合をいくつかご紹介します。
(1)合同会社から株式会社への変更
傾向として、事業を拡大する場合に株式会社への変更を検討する場合が多いです。
①投資家から出資を受ける場合
合同会社は株式会社と違い、出資者=経営者になり、投資家は経営に参画しなければならなくなるので、出資を受けにくいです。そのため、出資を受ける場合は株式会社に変更する必要があります。
②上場する場合
合同会社は上場できないため、株式会社に変更する必要があります。
(2)株式会社から合同会社への変更
経営に関する意思決定を迅速に行いたい場合
事業規模が大きくなるほど株主の影響力が増すため、意思決定に遅れが生じやすくなります。合同会社へ変更することで、株主への配慮が不要になるため意思決定が迅速にできるメリットがあります。
会社形態の変更は、資金があれば、基本的に2カ月程度で実現可能です。
但し、手続きの過程で、債権者の同意を得る、総株主の同意(合同会社→株式会社の場合は、総社員の同意)を得るなどの必要があるため、場合によっては難易度が上がる可能性があります。債権者がいない、株主(社員)が少ない小規模の会社であれば比較的簡単に実現可能です。
まとめ
株式会社ではなく合同会社を選んだからといって、金融機関からの融資が受けにくくなることはありません。金融機関から融資を受ける際に見られるポイントは、会社形態ではなく、事業計画や返済できるだけの売上が見込めるかのビジネスプランにあるからです。
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