「法人とはどんな形態か?」と問われた際、説明することはできるでしょうか?何気なく使っているものの、いざ説明となると自信がないという方も少なくないでしょう。今回の記事では、法人の定義、個人事業主との違いを解説し、法人を「手続き」「税金」「経営」の観点からみていきます。
「節税できるって聞くけど、そもそも法人って?個人事業主と何が違う?」「手続きが面倒そうだけど、法人化するメリットって?」とお悩みの方はぜひご一読ください。
法人とは
法人とは、個人が人格を持つように、法律によって「人格」を持つことを認められた集団・組織のことです。法人格とも呼びます。
法人格を持つことで、個人と同じように買い物をするときの契約や、建物などの所有が、組織としてできるようになります。
法人・会社・企業の違い
普段似たような文脈で使う、「法人」と「会社」と「企業」の違いを解説します。
先程説明したように、法人とは、個人以外に人格を持った集団・組織のことです。
会社とは、法人として人格を持った、営利目的で企業活動をする組織・集団です。会社法で「会社は、法人とする。(第三条)」と定められています。
企業とは、営利行為を継続的かつ計画的に行う独立した存在です。会社も個人事業主(個人企業)も、「企業」と呼ぶことができます。
企業は、大きく2つ、行政が経営する公企業と、当事者が経営する私企業に分かれます。
私企業は更に個人企業(個人事業主)と共同企業に分かれます。
共同企業は、営利を目的としないNPO法人などの非営利企業、営利を目的とする営利企業に分かれます。
今まで非営利企業・営利企業の他に、一般社団法人・一般社団法人・中間法人などの中間企業がありました。現在中間企業は、2008年に廃止され非営利企業に統合されました。
営利企業の中に、株式会社・合同会社・合資会社・合名会社などの会社が存在します。
株式会社・合同会社・合名会社・合資会社とは
株式会社・合同会社・合名会社・合資会社はどれも会社の種類です。法人格を持ち、営利を目的として存在していることが共通点です。
違いをそれぞれ、おさえましょう。
株式会社は、株主を出資者とし、取締役が経営する企業のことです。出資者は出資した分だけ責任を負います(間接有限責任)。
合同会社・合名会社・合資会社をあわせて「持分会社」といいます。持分会社とは、自らを出資者とし、自ら経営も行う企業のことです。
合同会社では、出資者全員が出資した分だけ責任を負い、債権者から直接、責任を追求されます(直接有限責任)。
合名会社とは、個人事業主が複数人で事業を行う企業のことです。複数人の個人事業主が、全ての責任を追います(直接無限責任)。
合資会社とは、事業を行う社員(無限責任)と、資本金を提供する社員(有限責任)で運営される企業です。
次の表は主な項目の比較です。
株式会社 | 合同会社 | 合名会社 | 合資会社 | |
経営の主体 | 取締役 | 業務執行社員 | ||
出資者 | 株主 | 社員 | ||
出資者の責任範囲 | 間接有限責任 | 直接無限責任 | 直接無限責任と 直接有限責任 |
|
最高意思決定機関 | 株主総会 | 社員総会 | ||
決算報告 | 必要 | 不要 | ||
利益配分 | 原則出資比率 | 定款で定めた分配比率により配分 |
個人事業主から法人にもなれる
個人事業主は、個人事業主から法人になることもできます。個人事業主から法人になることを「法人成り(法人化)」と呼びます。
気になる方はこちらの記事も参考にしてみてください。
法人と個人事業主は両立できる
「個人事業主と、法人って両立できないの?」という質問がよくありますが、
結論、個人事業主と法人は両立できます。
ただし、個人事業と法人で事業を明確に分ける必要があります。例えば、個人事業ではアパレル物販、法人では人材紹介など業種を分けたり、飲食店で2店舗経営し、片方は個人、片方は法人で分けたりする必要があります。
個人事業主と法人を両立させるメリットは、主に節税∗です。
ただ、ある程度売上が立っていなければ、両立することで得られる節税のメリットはほとんどありません。
(*後の税金の項目で解説します:個人事業主の青色申告控除最大65万円と、
法人から支払われる役員報酬への給与所得控除(55万円以上)の両方を受けることができる)
法人のメリット
個人事業主と比較したときの法人のメリットは5つあります。
- 経費・控除で使える項目が多い
- 赤字のとき9年間繰り越せる
- 法人は融資の準備がしやすい
- 法人は商売をする上での信用がある
- 法人は事業承継しやすい
それぞれ説明します。
法人のメリット①法人は経費・控除で使える項目が多い
法人のメリットの1つめは、経費・控除で使える項目が多いことです。
法人は、個人事業主に比べ、経費として使える項目が増えます。そもそもなぜ経費として使える項目が多いほうがいいのか解説します。
利益の算出式「売上-経費=利益(所得)」はご存知かと思いますが、税金がかかるのは「利益(所得)」から控除を差し引いた額(課税所得)に対してです。
そのため、経費として使える項目が多ければ多いほど、課税所得が小さくなり、結果的に節税につながると言えます。
経費とは、事業を行う際に必要な費用です。使った費用が経費となるかどうかは、売上につながるかどうかで判断されます。法人の方が個人事業主と比べて、売上につながるとみなされる項目が多いため、節税しやすいです。
法人で経費として計上できる項目を見ていきましょう。
- 自身・家族への給与
法人の場合、自身・家族への給与を経費として考えることができます。個人事業主の場合でも家族を雇う場合は経費として考えられますが、あらかじめ税務署に申告する必要があります。
また、法人の場合は家族への給料を経費とした上で、配偶者控除・扶養控除を受けられます。
- 退職金の支給
個人事業主の場合は払えませんが、法人では退職金を支払うことができます。退職金は税務上非常に優遇されています。
- 社宅
法人の場合、家賃の一定割合を法人の経費にできます。個人事業主では「事業用」の家賃は経費として計上できますが、「居住用」の家賃は経費として計上できません。
- 日当
日当とは、出張等で遠方に行く際にかかる細やかな経費補填や、慰労の意味で支給できる経費です。個人事業主では支払いできません。
- 保険料
個人事業主の場合、最大12万円までしか生命保険料の控除はつきません。一方で法人では保険の種類にもよりますが、全額損金、1/2損金など上限なく計上できます。
次に控除についてご紹介します。
控除とは、「扶養する家族がいる」「障害者がいる」「住宅を購入した」等の個人的な経済事情を税金の計算に反映させる制度です。
大きく「所得控除」と「税額控除」があります。
法人でも個人事業主でも複数控除の制度は使えますが、今回は代表的な所得控除を1つずつ紹介します。
法人では社長自身の給与(役員報酬)を経費として扱えると記載しました。これに加えて、法人では、給与金額に応じて55万円以上の給与所得控除がつきます。
個人事業主の場合、青色申告控除が最大65万円つきます。2020年の確定申告より青色申告控除金額は、e-Tax による申告(電子申告)または電子帳簿保存をすれば65万円、紙媒体での申告では55万円となりました。
法人のメリット②法人は赤字のとき9年間繰り越せる
法人のメリットの2つめは、赤字のとき9年間繰り越せることです。
法人の場合は繰越控除という制度が使えます。繰越控除とは、赤字の場合、翌年度以降に9年分繰り越せる制度です。
個人事業主の場合は3年、法人の場合は9年分繰り越せます。黒字化した年から、過去3年もしくは9年の間の赤字をさかのぼって相殺することができ、税金額を減らせます。
法人のメリット③法人は融資の準備がしやすい
法人のメリットの3つめは、融資の準備がしやすいことです。ここでは、創業時、事業開始後の融資を受けるタイミングごとに見ていきましょう。
創業時の融資
創業時の融資は、法人と個人事業主でさほど違いはありません。どちらも融資は「自己資金」「経験」「個人の信用情報」などから総合的に判断されます。
ただし、訪問看護事業など、事業を始めるにあたって法人化が必須の事業は、法人化していなければ融資が受けられません。
なお、法人で融資を受ける場合、法人の内容を確認する履歴事項全部の証明書などが必要です。資料を用意するまでは融資を進められないため、準備に時間がかかると言えるでしょう。
早めに融資を受けたい場合、個人事業主でも始められる事業は、個人事業主で融資を受けることも一つの手です。
事業開始後の融資
事業を既に開始している場合、金融機関の融資の可否は、基本的には事業実績で判断されます。事業実績をしっかりと証明できる方は信用を得られますが、実績が証明できないと、審査は厳しくなるでしょう。
法人は、決算ごとにきっちりと決算書を作成しているため、融資の準備がスムーズに行えます。一方で、一般的に個人事業主には定期報告の義務がないため、定期的に記録をつけてない場合は融資の準備に時間がかかる可能性があります。
もちろん、個人事業主でも、認定支援機関からの保証を得たり、きちんと実績を証明できたりすれば問題ありません。
当社株式会社SoLabo(ソラボ)は認定支援機関として、創業前後のサポートをしております。まずは一度ご相談ください。「法人設立の相談をしたい」「個人事業主として創業したい」方は、専門スタッフが対応します。
法人のメリット④法人は商売をする上での信用がある
法人のメリットの4つめは、商売をする上での信用があることです。
法人は商売をする上での信用があるとされますが、事業内容によっても、慣例的に「法人=信用」と考えられるケースと、あまり関係しないケースがあります。
例えば、私達が飲食店を決めるときに法人化しているか、法人化していないかはあまり気にしません。
「法人=信用」と考えられる背景には、法人は個人事業主よりも存続にお金がかかるため、維持難易度が高いことがあります。
事業規模が大きくないと法人化するメリットがないため、法人には個人事業主よりも事業規模が大きいことが一般的です。法人というだけで、ある程度大きさを持った事業規模が保証されるため、法人というだけで社会的信用があるのです。
そのため、法人化すると、金融機関からの融資が受けやすくなったり、人材を採用しやすくなったりします。また、法人でないと取引ができない企業とも、取引できるようになります。
法人のメリット⑤法人は事業承継しやすい
法人のメリットの5つめは、事業承継しやすいことです。
事業を譲り渡す事業承継の面では、個人事業主よりは法人が有利です。
法人の場合、代表取締役・代表社員の後任を就任させれば存続でき、事業承継しやすいと言えます。
個人事業主の場合、代表者が死亡すると、預金口座が凍結されたり、資産が相続の対象に入ったりするため、一般的に事業承継はしにくいです。
法人のデメリット
では次に、法人のデメリットを見ていきましょう。法人のデメリットは3つあります。
- 開業手続きに時間とお金がかかる
- 社会保険の加入義務がある
- 利益が低くても税率が一定でかかる
それぞれ説明します。
法人のデメリット①開業手続きに時間とお金がかかる
法人の開業手続き
法人設立は形態によって手続方法や費用も様々です。
前章での解説下通り、法人には「株式会社」「合同会社」「合名会社」「合資会社」の4つの形態があります。しかしながら、どの法人形態でも個人事業主よりは手続には時間とお金がかかります。
株式会社 | 合同会社 | 合名会社 | 合資会社 | |
定款認証 | 必要 定款認証 50,000円 |
不要 | ||
印紙税(電子定款による認証の場合はかからない) 40,000円 |
||||
設立登記 | 登録免許税 150,000円 |
登録免許税 60,000円 |
||
合計 | 240,000円 | 100,000円 |
個人事業主の開業手続き
税務署の受付時間内であれば、開業届を提出しその日のうちに手続きができます。税務署の閉庁日(土・日曜日・祝日等)は、送付又は税務署の時間外収受箱に投函することにより、提出することができるため、最寄りの税務署のカレンダーを確認の上準備を進めましょう。
また、開業届にかかる費用は0円です。
法人のデメリット②社会保険の加入義務がある
法人のデメリットの2つめは、社会保険の加入義務があることです。
社会保険とは、国民の生活保障が目的の制度で、「健康保険」「国民年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の総称です。
法人と個人事業主とで、社会保険の加入義務・手続きが違う点をおさえておきましょう。
法人の社会保険
法人の場合、社長一人でも社会保険全てへの加入義務があります。そのため、金額的負担が大きくなるケースもあります。
個人事業主の社会保険
原則として、「国民健康保険(個人事業主用の健康保険)」「国民年金保険」に加入します。
また、常時5人以上を雇っている場合は労働者に「厚生年金保険・健康保険」に加入させる必要があります。
また、パート・バイトなどの雇用形態に関わらず一人でも労働者を雇っている場合は「雇用保険」「労災保険」に加入させる必要があります。
法人のデメリット③利益が低くても税率が一定でかかる
まず、法人と個人事業主ではどのような税金を支払う必要があるか、比較してみましょう。
法人+社長個人の所得税・住民税 | 個人事業主 |
法人税等(法人税+法人住民税+法人事業税+地方法人特別税)
社長個人の所得税・住民税 消費税 固定資産税(償却資産税) |
所得税
個人住民税 個人事業税 消費税 固定資産税(償却資産税) |
消費税・固定資産税は税金の点ではほぼ違いがありません。法人と個人事業主では「売上―経費=利益(所得)」の「利益(所得)」にかかる税金の種類が違います。
法人は「利益(所得)」に法人税がかかります。
個人事業主は「利益(所得)」に所得税と住民税がかかります。
ここで税率を比較してみましょう。
所得税の税率は0~最大45%の累進課税*で、法人税の税率は年間所得800万円以下で15%、800万超の部分は23.4%の一定税率*となっています。
*参照先:所得税の税率(国税庁HP)
*参照先:法人税の税率(国税庁HP)
まとめ
今回の記事では法人になるとどのようなことができるのか、法人の種類、個人事業主と比較した、法人のメリット・デメリットを解説しました。
法人について関心をもつのは、創業前か、事業が軌道に乗りはじめたタイミングでしょう。業界や属性によっても事情が変わってくるため、記事を参考にしてよく検討してください。