これから起業を考えている方や、創業したばかりの方は、一度は金融機関からの融資を検討したことがあるのではないでしょうか。
創業時に利用できる融資の種類はいくつかありますが、代表的な融資の一つが「制度融資」です。
「制度融資」とは、地方自治体の認定を受けた上で信用保証協会が保証を行う融資の制度です。創業したばかりでまだ信用力の低い方でも比較的融資が受けやすい制度として知られています。
今回の記事では、この「制度融資」の基礎知識、メリット・デメリット、日本政策金融公庫の創業融資との違いを詳しく解説します。
目次
1.制度融資とは?
(1)制度融資とは
制度融資とは、主に地方自治体、民間の金融機関、信用保証協会の三者が連携して融資を実行する制度です。
利用者が金融機関から融資を受ける際、各都道府県の信用保証協会がその債務を保証することで、信用力が補完されるので、融資が受けやすくなります。
また、地方自治体が申込窓口となり、自治体が利用者の利息を一部負担するなど、借入のハードルを下げてくれるのも制度融資の特徴です。
★ポイント
民間金融機関からはじめて融資を受ける場合、保証協会付の融資を利用するケースがほとんどです。この保証協会付の融資を利用する際に、地方自治体が利息の一部を補填してくれる制度を総称して制度融資と呼びます。
※注意点
民間金融機関で融資を受ける方法は、下記いずれかになります。
・保証協会付融資(制度融資)
・プロパー融資
実績がない会社が初回からプロパー融資を利用できるケースはほとんどありません。民間金融機関と付き合う際は、まずは保証協会付融資を利用すると覚えておきましょう。
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(2)制度融資の主な役割は起業促進
通常、金融機関が融資を実行する場合、その企業の過去の実績を決算書等の業績がわかる資料から信用力を読み取り、金融機関はその企業にお金を貸していいかどうか判断します。
しかし、起業したばかりの企業の場合は、まだ実績もありませんので信用の面では判断が困難です。制度融資では信用保証協会からの保証を受けられるため、起業したばかりの信用力の低い方にとって利用しやすい融資になっています。
もし信用力の高い企業だけが融資を受けやすいとなると、「起業しよう」という人も減ってしまい、新たなビジネスの創出も見込めません。そこで、自治体が借り入れ負担をサポートし、起業時の資金調達のハードルを下げ、日本国内の起業促進を図る役割を担っているのが制度融資なのです。
2.制度融資のメリット・デメリット
制度融資のメリットとデメリットをそれぞれ確認していきましょう。
(1)制度融資のメリット
①審査ハードルが低い
先ほど説明した通り、制度融資は信用保証協会からの保証を受けることで信用力が補完されるため、創業したばかりで実績の少ない方が融資を受けられる制度です。
もちろん、「経験が全くなくても制度融資なら絶対審査に通る!」ということはあり得ませんが、これから起業を考えている方には融資の選択肢のひとつとしておすすめします。
②据置期間が長い
据置期間とは、「元本の支払いをしなくてもよい期間」です。利子の支払いは発生しますが、元本の支払いを先延ばしにできるため、利益がすぐに入ってこない事業などの場合は、手元資金を取り崩す必要がないというメリットがあります。
制度融資では、据置期間が1年程度設けられているため、創業したばかりでしばらく利益を出せない方にとっては資金繰りを乗り切るためのメリットと言えます。
■据置期間について詳しく知りたい方は下記記事もご覧ください。
③金利が低い
制度融資は自治体によってその要件が異なるため、一概に金利が何%とは言えませんが、傾向として1.0~3.0%程度の制度が多くみられます。
東京都千代田区の制度融資「千代田区商工融資あっせん制度」を例にとると、金利は1.8%~2.0%と低金利であることが分かります。自治体によっては「利子補給」といって利息の一部を負担してくれるので、より負担が軽減されるメリットがあります。
(2)制度融資のデメリット
①連帯保証人が必要な場合がある
制度融資では、原則として申込者である経営者本人が保証人となります。
中小企業庁が平成18年度に行った見直しにより、保証協会に対して保証申込を行った融資について経営者本人以外の第三者を保証人として求めることが原則禁止となったためです。
参考:信用保証協会における第三者保証人徴求の原則禁止について(中小企業庁)
但し、自治体によっては連帯保証人が必要になる場合もあります。例えば、東京信用保証協会では、連帯保証人を設ける例外として下記の条件を挙げています。
【連帯保証人をお願いする例外について】
ア. 実質的な経営権を持っている者、営業許可名義人または申込人(法人の場合はその代表者)とともに当該事業に従事する配偶者が連帯保証人となる場合 イ. 本人または代表者が健康上の理由のため、事業継承予定者が連帯保証人となる場合 ウ. 財務内容や経営の状況等総合的に判断して、通常の保証許容額を超える保証依頼がある場合で、当該事業の協力者や支援者から積極的に連帯保証の申出があった場合 |
上記のように経営者の配偶者が事業に従事している場合や、経営者が健康上の問題を抱えている場合など、例外的な事情がある場合は、連帯保証人が求められる場合があります。
自治体によって条件が異なりますので、申込時に必ず確認するようにしましょう。
②自治体毎に制度設計されているので内容が一律ではない
制度融資は、自治体のもとで成立する制度なので、自治体ごとに対象者の条件、融資期間、利率、保証料率など制度の内容が異なります。
例えば、東京都の制度融資を調べてみると、38種類もの制度があることを確認できます。
このように複数種類の制度が用意されており、どの制度が最も適しているか比較検討する手間がかかる点がデメリットと言えます。
もし選択に迷うようであれば、融資支援実績が豊富な認定支援機関に頼むのがベストです。
当サイト『創業融資ガイド』を運営する株式会社SoLaboも3,700件超の融資支援実績を持つ認定支援機関ですので、お気軽にご相談ください。
③融資実行までの手続きに時間がかかる
制度融資の場合、相談から審査を通過し、融資実行まで、約3ヶ月前後の時間がかかるため、手続きにある程度時間がかかる点がデメリットです。
制度融資で時間がかかる理由は、金融機関と信用保証協会の2ヵ所の審査を通過しなければ融資が受けられないからです(初回の融資の場合)。
もし創業前であれば、前もってスケジュールを立て、早めに準備を進めていきましょう。
3.日本政策金融公庫の創業融資と何が違う?
制度融資は、日本政策金融公庫(以下”公庫”)の創業融資と比較されることが多い制度です。いずれも創業時に受けられる融資であり、公的な融資制度のため、創業したばかりの方にはどちらを選ぶべきか分からないという方も多いです。
創業時に公庫で利用できるのは「新創業融資制度」です。
今回は、①融資限度額、②入金までにかかる時間、③金利、④連帯保証の有無、⑤審査の取りやすさの5つの観点から制度融資と公庫の「新創業融資制度」を見てみましょう。
(1)融資限度額
結論から先に述べると、融資限度額に関してはどちらが高いと一概には言えません。制度融資に関しては、選択する制度によって限度額も異なる上、そもそも限度額まで借り入れられるわけではないからです。
公庫の「新創業融資制度」では、融資限度額は3,000万円(うち運転資金1,500万円)と公表されています。
制度融資については、例えば東京都の小規模事業者を対象とした「小口零細企業保証制度」であれば、融資限度額は2,000万円、「小口つなぎ制度」であれば融資限度額は300万円と幅広く設定されていることがわかります。
(2)着金までにかかる時間※
公庫での融資の場合は、審査は公庫のみなので、順調に進めることができれば、申込から着金までの期間は3週間~1か月半程度で済みます。
一方、制度融資は上述したように金融機関と信用保証協会審査を通過しなければ、融資は実行されません。審査機関が2ヶ所になる分、着金までの期間は2~3ヶ月程度と公庫より長くかかります。
着金までのスピード感を重視する場合は、公庫の新創業融資制度をおすすめします。
※いずれも初回の取引が前提
(3)金利と保証料の有無
公庫の新創業融資制度の場合、金利は1.06~2.75%です(令和2年5月1日現在、年利%)。
さらに、公庫には「新規開業資金」「女性・若者/シニア起業家支援資金」など複数の金利引き下げ制度が用意されており、条件に当てはまれば利率を低く抑えることも可能です。
制度融資の場合、上述したように金利は制度によって異なりますが、1.0~3.0%程度のものが多いです。
また、制度融資では信用保証協会への保証料の支払いも別途発生します。保証料の計算式は下記の通りです
信用保証料=貸付金額×保証料率×保証期間(月数)/12×分割係数 例)貸付金額1,000万円・保証料率1.15%・保証期間24ヵ月・満期一括返済の場合 信用保証料=10,000,000円×1.15%×24/12=230,000円 |
保証料は融資実行時に一括でまとめて支払うのが基本です。
しかし、一部例外もあり、例えば東京信用保証協会の場合、保証申込時に「信用保証料分割支払承認依頼書」を提出し、協会が承認した場合は保証料の分割払いも可能になります。
なお、公庫は利子だけで保証料は不要です。
公庫の新創業融資制度と制度融資を金利面で比較する場合は、保証料の有無も念頭に置いて計算するようにしましょう。
(4)連帯保証の有無
公庫の場合、創業融資は原則として無担保・無保証です。当然、代表者が保証人になることもありません。
一方、制度融資は原則として申込者である経営者本人が保証人となります。そのため、万が一、会社が倒産してしまった場合、経営者本人がその負債を負うことになります。
さらに、制度融資では自治体によっては連帯保証人が求められる場合もありますので、制度融資に申し込む場合、保証人の条件も確認するよう気をつけましょう。
(5)審査の通りやすさ
融資審査の通りやすさという観点では、制度融資と公庫の新創業融資制度とでどちらが通りやすいと一概には言えません。
制度融資も公庫も、支店長や担当者によって、審査の通りやすさが変わることも時としてあります。
公庫の場合、融資を受けられるかどうか不安があるようでしたら、公庫と付き合いがあり、融資実績を積んでいる認定支援機関を選ぶことをおすすめします。
■認定支援機関について知りたい方はこちらの記事もご一読ください。
4.制度融資の具体例:東京都の場合
制度融資のメリット・デメリットと、公庫との比較を行ったところで、実際の制度融資の例を見ていきましょう。ここでは、東京都杉並区で創業する(あるいは創業して1年以内)場合を例にとります。
この場合は、東京都の制度融資と、杉並区の制度融資「創業支援資金」の2つの制度融資が選択肢に該当します。
項目 | 東京都の創業融資 | 杉並区の創業融資 |
融資上限金額 | 3,500 万円(融資対象1は自己資金(※3)に 2,000 万円を加えた額の範囲内) | 2,000万円以内(ただし必要額の2分の1相当額まで) 営業に供する自家用自動車は400万円まで(原則として建設業・運輸業の事業用車両を除く) |
融資の対象 | (1)から(3)のいずれかに該当するもの (1)事業を営んでいない個人で、東京都内で創業しようとする具体的計画を有するもの (2)創業した日から 5 年未満である 中小企業者又は組合 (3)東京都内で分社化しようとする会社又は分社化により設立された日から 5 年未満の会社 | 1【創業前】.事業を営んでいない方で、個人または法人として杉並区内で創業しようとする方で次の(1)(2)を満たす方 (1)融資申込み金額以上の自己資金額等があること (2)具体的な計画があること(融資実行後、個人事業は1か月以内に開業、法人は2か月以内に設立すること) 2【創業後】.事業を営んでいない方が法人または個人として杉並区内で創業し、創業した日から1年未満の方。 3【分社化】.中小企業者である法人で杉並区内で分社化しようとする具体的な計画を有する方または分社化により設立された日から1年未満の方。 |
資金使途 | 運転資金・設備資金 | 運転資金・設備資金・運転設備併用 |
利率 | 責任共有制度の対象となる場合 固定金利 変動金利 責任共有制度の対象外となる場合 固定金利 変動金利 | 0.2% (注)住環境と調和した業種(情報・通信や福祉・介護・健康関連などで区が定める業種)の場合にはさらにマイナス0.2% |
元金据え置き期間 | 1年以内(運転資金・設備資金いずれの場合も) | 1年 |
出典:創業支援資金(杉並区)、主な東京都制度(東京信用保証協会)
上記から、杉並区の制度融資の場合、住環境と調和した業種(情報・通信や福祉・介護・健康関連などの区が定める業種)の場合には「0.2%-0.2%=0%」と金利がゼロになることが分かります。
金利がゼロということは、元金のみの返済となりますので、利用者にとっては嬉しい優遇措置ですね。
このように、制度融資は自治体によって条件が異なりますので、制度の詳細は各自治体のWebサイトで確認するようにしてください。
5.制度融資の申し込み方法
制度融資の申し込みは、まず事業所(住居)の所在地がある地方自治体の窓口に相談し、自治体の首長からの紹介状を受け取った後、金融機関の窓口で融資を申し込むという流れになります。
融資の申し込みの際、信用保証協会への保証申し込みについても金融機関を通じて行います。
全体の流れを図にしたものが下記になりますので、申し込み前に確認しておきましょう。
上記図の参考資料:お申込み条件(東京都産業労働局)
6.まとめ
制度融資について詳しく解説してきました。
創業時の資金調達手段として、信用力の低い企業や個人が融資を受けやすく、金利が低いなど、嬉しいメリットが多い一方、審査完了までにある程度の時間がかかるなどデメリットもあります。
日本政策金融公庫の新創業融資制度など、他の融資とも比較しながら、申込を検討してみてはいかがでしょうか。
ご自身にとってどれが最適な制度なのか分からないという方は、弊社株式会社SoLaboまでお気軽にご相談ください。