法人が使える資金調達方法というと、まず金融機関からの借入をイメージする人が多いかもしれません。
事実、金融機関からの借入をメインに資金調達する法人は多いですが、それ以外でも資金調達する方法は存在します。それぞれ調達できる金額や入金までのスピードも異なるため、事前に特徴を理解しておけば資金繰りに有効に活用できるでしょう。
当記事では、法人が使える資金調達方法について、資金調達額と入金までのスピードの観点から解説していきます。
目次
法人が使える資金調達方法
法人が利用できる資金調達方法は以下の通りです。
資金調達方法 | 調達額 | 入金スピード |
金融機関からの借入 | 数十万円~数十億円 | 1か月~6か月 |
出資 | 数十万円~数十億円 | 1週間~6か月 |
社債 | 少人数私募債は1億円未満 | 6か月の募集期間あり |
補助金、助成金 | 制度による | 後払いになるケースが多い |
ファクタリング、手形割引 | 売掛債権による | 最短即日~1か月 |
当座貸越 | 100万円~数千万円 | 最短即日(初回審査は除く) |
ノンバンクのビジネスローン | 1万円~1,000万円 | 最短即日~1か月 |
金融機関からの借入、出資、社債はその他の資金調達方法と比較して調達額が大きくなる傾向があるため、入金スピードも1か月から長いと6か月程度かかることがあります。
一方で、ファクタリングと手形割引、当座貸越とノンバンクのビジネスローンは日頃の運転資金を調達する方法として利用されることが多いため、金融機関からの借入等の方法と比べると、調達額も少額で入金スピードも最短即日からと早い傾向にあります。
補助金、助成金は国や自治体が管轄している制度で、申請対象となる補助金、助成金があれば積極的に活用している中小企業もあります。申請する制度にもよりますが、入金スピードが遅い傾向にあります。
それぞれの資金調達方法について理解を深め、自社にあった資金調達方法を選択、併用しながら事業を行うことが安定した資金繰りにつながるでしょう。
法人が借入できる金融機関と特徴
法人が借入できる金融機関として、日本政策金融公庫、信用金庫、地方銀行、商工中金、都市銀行などが挙げられます。
金融機関名 | 概要 |
日本政策金融公庫(国民生活事業) | 政府系金融機関。一般貸付の融資上限額は4,800万円。個人事業主、小規模事業者をメインターゲットとしている。 |
信用金庫 | 会員出資の非営利法人。融資上限額は各信用金庫によるが、会員の出資が財源のため、億単位の融資は難しい傾向。融資をうけるには会員になる必要がある。 |
地方銀行 | 多くの中小企業、中堅企業へ融資を行う。営利組織のため個人事業主や小規模事業者、創業間もない企業などは融資をうけにくい傾向。融資上限額は各地方銀行によるが、億単位の融資も見込める。 |
日本政策金融公庫(中小企業事業) | 上記の日本政策金融公庫の別事業部門。中小企業から中堅企業までをメインターゲットとしている。融資上限額は制度によるが7億2千万円程度。 |
商工中金 | 政府と組合の共同出資により設立。中小企業から中堅企業までをメインターゲットとしている。融資上限額は公式サイトに記載されていないが、億単位の融資も見込める。融資をうけるには組合員になる必要がある。 |
都市銀行 | 全国や海外にも広く支店をもっている大規模な普通銀行。みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行がこれにあたる。資金力があり、中堅企業から大手企業をメインターゲットに数千万円~数十億円の融資が可能。 |
金融機関といってもそれぞれ設立背景や運営目的も異なるため、融資上限額やターゲット層も違います。
入金スピードについては、企業の財務内容にもよるため公表している金融機関は少ないですが、融資金額が高ければ高いほど慎重な審査が必要になるため、調達期間が長期化すると考えられます。
自社の事業規模によって融資相談する金融機関を選択する
融資相談するときは、自社の事業規模によって金融機関を選択しましょう。金融機関の融資ターゲット層に自社が当てはまらないところに融資の申し込みをしても、審査がうまくいかない可能性があります。
日本政策金融公庫の資料によると、日本政策金融公庫国民生活事業の融資先1件あたり平均貸付残高は約1,000万円で、信用金庫は4,300万円、国内銀行は1億80万円と記載されています。あくまで平均値なので目安ではありますが、金融機関ごとに融資先への貸付金額が異なることが分かります。
業種にもよるため一概にはいえませんが、借入は月商の3から6倍程度までに収めるのが健全な財務内容という見方があるため、それに当てはめると日本政策金融公庫で融資をうける企業の月商は150万から300万程度、信用金庫は月商700万から1,400万程度、国内銀行は月商1,600万から3,300万程度の事業規模となります。
上記の数字は平均値から算出したため、実際には月商が融資希望額の1/3であっても借入できないということではありません。しかし、金融機関ごとの融資ターゲットを理解したうえで、自社の現在の事業規模と希望する資金調達額のバランスを考慮し、融資相談先を決定したほうがスムーズに審査に進める可能性が高いでしょう。
法人が出資を希望するときの検討先と特徴
法人が出資をうけたいときの検討先と特徴は以下の通りです。
調達先 | 概要 |
ベンチャーキャピタル(VC) | 未上場の企業へ投資する専門会社。IPOやM&Aなど出資先がイグジットしたときの株式売却益がVCの収益となるため、出資先の経営支援を行いイグジットまで伴走することが多い。数千万円~億単位の出資も可能。 |
エンジェル投資家 | 個人投資家。創業前から創業直後の、事業がアイデア段階の企業に100万円単位の小口で投資することが多い。個人のため決裁が早く、迅速な資金調達が行える。 |
クラウドファンディング | クラウドファンディングのサイト上で出資を呼びかけ、出資が調達希望額まで達したら取引成立するシステム。数百万円~数千万円単位の調達が多い。調達中は多くの投資家や一般人の目に留まるため、サービスのリリース前に市場の反応も知れる点が特徴。 |
出資は金融機関からの借入と同じくらいの資金調達額が見込めますが、返済の必要もない点が借入と異なります。その代わり、自社の株式を投資家に譲渡して、利益が出た際は配当を支払い、経営権も一部与えます。
投資家は企業の成長のため、経営ノウハウなどの有益なアドバイスや人脈の提供をしてくれることもありますが、経営権を行使して経営者と意見が対立するおそれもあります。出資をうけるときは株主比率の構成を考えるなど、長期的な資金計画を立てておく必要があるでしょう。
VCやエンジェル投資家、クラウドファンディングはスタートアップ向けの調達方法
出資のなかでもエンジェル投資家やベンチャーキャピタル、クラウドファンディングはスタートアップ向けの資金調達といえます。これらの投資家たちは、創業間もない企業に投資し、企業が短期間で成長し上場などによって投資回収することを期待しているからです。
事業内容にもよるため一概には言えませんが、企業の事業成長フェーズごとに出資をうけやすい調達先が以下のように変わっていきます。
エンジェル投資家 | 事業アイデア段階
小口資金を手早く集められ事業を立ち上げやすい |
クラウドファンディング | 開発中。リリース準備段階
資金調達しながら開発製品について市場の反応も確認できる |
ベンチャーキャピタル(VC) | 商品完成。売上拡大段階
多額の資金を調達し量産体制を整えるなど売上を急拡大させられる |
スタートアップ企業は市場調査や商品開発に長い時間をかけるなど創業期は売上の見通しが立てづらく、返済負担のある借入よりも出資をうけるほうが資金繰りしやすい傾向にあります。
一方で、中小企業のようなスモールビジネスはエンジェル投資家やVC、クラウドファンディングなどの出資をうけづらいです。そうした投資家は短期間で大きなリターンを期待するので、中長期での緩やかな成長を望む事業に出資しないためです。
自社がスタートアップ企業ならば、出資は積極的に検討したい資金調達方法といえますが、もし当てはまらないならば、下記に記載した取引銀行や取引先から増資を行う方法を検討してもいいでしょう。
中小企業でもチャレンジングな取り組みを行う際は増資の検討余地がある
中小企業でもチャレンジングな取り組みを行う際には、既存の取引先から出資をうけて増資する資金調達方法が検討可能です。出資者によっては、短期的な配当金のリターン以外で出資価値がある場合もあるからです。
2021年11月に経済産業省がまとめた「中小企業者のためのエクイティファイナンスの基礎知識」によると、中小企業への出資者候補として「取引銀行」と「取引先」を挙げており、どちらも配当金などの金銭的な投資リターンだけでなく、安定した取引などのシナジー効果を期待できると述べています。
出資をうける企業側は、すでに借入実績のある銀行に出資者になってもらうことで、これまで以上の経営サポートが受けられる可能性があり、財務管理や借入計画なども相談しやすい状況をつくることができます。銀行側は優良顧客への安定的な融資が確保できる狙いがあるでしょう。
取引先から出資をうける場合は、すでに自社事業への理解も深いためアドバイスや協力体制をとってくれる可能性があります。取引先側にとっても、新規事業などに取り組む得意先へ投資することで今後の取引拡大が期待できる狙いもあるでしょう。
中小企業はスタートアップと異なり、短期的な上場などによる出資者への高リターンは見込めません。しかし、出資をうけることで関係が強化され、長期的な取引の継続が見込めるなどの観点から、近年増資による資金調達事例も増えつつあります。該当する場合は、取引銀行や取引先へ相談してみても良いでしょう。
社債は原則一括償還の借入
社債は原則一括償還の借入のようなものです。社債は企業が投資家に向けて発行する債券のことで、債券に記載された金額を期日に一括で返し、期日までには利子を定期的に支払います。公募債という不特定多数の人に発行する社債もありますが、中小企業は私募債を活用すると手続きも簡略化でき便利です。
私募債 | 概要 |
少人数私募債 | 6か月間で50人未満を対象に発行する私募債。取引先や家族、知人や従業員などの縁故者に発行するのが一般的。発行総額が1億円未満であれば行政上の手続きなく手軽に発行できる。 |
プロ私募債 | 適格機関投資家(プロの投資家)のみに向けて発行する私募債。金額の上限なし。銀行が主体となって発行の手続きを行うケースが多い。 |
満期になると一括で償還が必要ですが、その間の返済負担が減るため新規事業などに挑戦する際には有効な資金調達方法といえます。
少人数私募債であれば信用情報や借入状況に関係なく資金調達が可能
少人数私募債であれば信用情報や借入状況に関係なく資金調達が可能といえます。企業が主体となって縁故者へ社債の購入をお願いするため、財務内容だけでは社債購入の可否を判断されない可能性があるからです。
金融機関からの融資であれば、主に財務内容や借入の状況をもとに審査され、借入残高が多くある先への大型の資金調達は難しい場合があります。縁故者であれば、業界の情勢や社債発行企業の内情、経営者の人柄などの定性的な部分も踏まえて社債購入を決めるケースもあります。
また、少人数私募債であれば償還期限や金利も発行企業が決定できます。業種や設備投資するのかなどにもよりますが、償還期限は3年から5年の間で設定し、金利は社債購入者のためにも金融機関より高めに設定することが多いです。
財務内容に関わらず資金調達できるとはいえ、社債購入をお願いする際は資金計画を作成したり決算内容を開示したりするなど、相手に誠実に対応することが大切です。社債発行後も、定期的な報告を行うことで社債購入者の信頼に繋げていきましょう。
補助金と助成金は国や自治体が管理する返済不要の制度
補助金と助成金は国や自治体が管理する返済不要なお金が支給される制度です。
中小企業庁による検索ポータルミラサポPlusなどで対象の補助金、助成金を検索できます。
今回は幅広い業種の法人が活用できる補助金と助成金を3つずつ記載しました。
補助金、助成金の種類 | 概要 |
ものづくり補助金 | 生産性向上のための設備投資が対象。
補助金額は100万~1,000万、補助率は中小企業1/2、小規模事業者2/3 |
事業再構築補助金 | 事業再編や業種転換、新分野の開拓など新たな取り組みに対する経費が対象。
補助金額通常枠は100万~6,000万、補助率は2/3 |
IT導入補助金 | 生産性向上のためのITツール導入費が対象。
補助金額通常枠はA類型が5万円~149万、B類型が150万~450万、補助率は1/2以内。 |
雇用調整助成金 | 経済上の理由で休業せざるをえないとき、従業員の雇用を守るため、日額8,355円を上限に、中小企業は1/2の助成率で支給。 |
人材確保支援等助成金 | 従業員の確保や離職防止を目的に9つの目標が設けられている(2023年6月現在)。
各目標を達成したら助成金が支給される。 |
人材開発支援助成金 | 正社員を対象に、業務の習得やスキルアップにつながる研修等の費用と研修中の賃金を一部助成。7つのコースが設定されている(2023年6月現在)。 |
補助金と助成金の大きな違いは、補助金は条件をクリアしていても申請が通らない可能性があるのに対し、助成金は条件をクリアしていれば申請が承認される点です。どちらも申請書類の作成などに手間がかかるため、期限に余裕を持って準備するようにしましょう。
また、補助金も助成金も支給までに時間がかかり、一度企業が費用を立て替えて、あとから支給されるケースが多いです。高額な補助金、助成金を利用する際は、支給されるまでの間の資金繰りについても考慮する必要があります。
事業再構築補助金など、計画書を作成し認定経営革新等支援機関の確認を受けることが申請条件となる補助金も存在します。株式会社Solaboも経営革新等支援機関の認定を受けた支援機関として補助金申請のサポート事業を行っているため、ぜひお気軽にお問合せください。
ファクタリングと手形割引は売掛金以上の資金調達はできない
ファクタリングと手形割引は売掛金以上の資金調達はできません。なぜなら、ファクタリング、手形割引はどちらも売掛金を期日より前に現金化するサービスだからです。
概要 | |
ファクタリング | 売掛債権の請求書等を業者へ提出する。業者での審査を経て、請求書等にある売掛金から手数料を引いた分を現金化してくれる。 |
手形割引 | 約束手形を手形割引業者か銀行へ持っていくと、業者もしくは銀行での審査を経て、割引料(手数料)を引いた分を手形の支払期日より前に現金化してくれる。 |
ファクタリングは売掛先にファクタリングの利用を通知しない2者間ファクタリングと、売掛先にファクタリングの利用を通知する3者間ファクタリングに分類されます。
2者間ファクタリングの手数料は10%から20%に対し、3者間ファクタリングの手数料は1%から10%です。
手形割引を利用する場合、手形割引業者の手数料は5%から20%に対し、銀行で割引するときの手数料は1%から5%です。
ファクタリングと手形割引は融資と異なり、売掛債権を早期に現金化しているだけなので返済の必要はありません。資金調達額も売掛金以上にはならず、引かれる手数料も高いため、一時的な資金繰りを補てんする目的での利用にとどめるのが良いでしょう。
当座貸越は限度額内であれば繰り返し借入できるサービス
当座貸越は、あらかじめ設定された枠(極度額)内であれば毎回審査せずとも繰り返し借入、返済ができる商品のことです。金融機関に申し込み、審査を経て当座貸越契約を締結する必要があります。
事業用の当座貸越には2種類あります。
概要 | |
専用当座貸越 | 融資専用口座を作成し、借入枠内であれば自由に借入と返済が可能。 |
一般当座貸越 | 当座預金口座と連動していて、残高を超えた引き出しや引き落としがあった場合、借入枠内であれば自動的に借入される。 |
専用当座貸越だと、キャッシュカードや借入請求書等で借入したい額を自由に引き出すことができます。たとえば、支払いが重なり500万円を借入したとして、後日資金が潤沢になったからまとめて返済する、といった手続きが行えます。
一般当座貸越だと、買掛金支払いの引き落とし日などに当座預金口座の残高が不足していた場合、自動的に不足分が借入された状態になります。このとき口座には-500,000などのマイナス表記がされます。残高不足のため引き落としされず、支払いが遅れてしまったなどのミスを防ぐことができます。
当座貸越は企業にとっては便利な資金調達方法ですが、金融機関側にとっては都度審査ができず貸し倒れのリスクが高いため、通常融資よりも金利が高めに設定され、審査も慎重になる傾向にあります。当座貸越契約自体も1年契約で、更新時に再度審査する金融機関が多いです。
当座貸越は急な資金不足に対応できる便利な調達方法といえます。しかし、金融機関側はリスクがあるため、信頼のおける顧客でないとやりたがりません。まず通常融資などで返済実績を積んでから、当座貸越について相談するほうが良いでしょう。
ノンバンクのビジネスローンは緊急で運転資金が必要になったときの資金調達方法
ノンバンクのビジネスローンは緊急で運転資金が必要になったときに利用しやすい資金調達方法といえます。審査期間が短く迅速に資金を調達できるため、急な資金繰りの悪化に対応しやすいからです。
ノンバンクのビジネスローンの中でも、審査のたびに申し込みが必要なビジネスローンと、設定枠内であれば繰り返し借入可能なカードローンと呼ばれるビジネスローンがあります。
概要 | |
ビジネスローン | 金融機関の融資と同じように、借入のたびに審査が必要。
融資上限額は300万から1,000万程度。 |
カードローン | 最初の審査時に上限枠が設定され、枠内であれば繰り返し借入が可能。融資上限額は300~500万程度。 |
金融機関の融資と比較すると、急いで資金調達したい顧客ニーズに合わせて審査を短期間ですませ融資するため、貸付リスクが高まり金利も高くなります。業者によりますが、最大金利は18%のところが多いです。
また、ノンバンクの業者によっては、法人対応しておらず個人事業主のみに貸付しているところもあるため、事前に確認が必要です。
ノンバンクからの借入は急な資金調達に柔軟に対応してもらえるところが利点ですが、金融機関からの借入と比較すると高金利なため、あくまで緊急時の短期運転資金としての利用にとどめておくと、便利な資金調達方法といえます。
まとめ
法人が使える資金調達方法は、金融機関からの借入以外にも方法があります。創業時や新事業展開、設備投資などの高額な資金調達時には、融資の他に出資、社債の発行などを検討してもいいでしょう。運転資金を素早く調達したいときにはファクタリングや手形割引、当座貸越やビジネスローンも選択肢として考えられます。
また、調達額や入金スピードだけでなく、金利や手数料、用意する書類の手間などのコストも加味しつつ、調達後の資金の使い方や返済計画などもイメージしながら資金調達方法を検討することが大切です。
ときには顧問税理士や国や自治体が行っている無料の経営相談なども活用しながら、自社に合った資金調達方法で資金繰りの悩みを解消していきましょう。