塗装業や電気工事士など、建設業で独立開業しようと計画している人の中には、創業融資を検討している人もいるでしょう。建設業で融資を申し込む場合、注意すべき点があるかどうか知りたい人もいるかもしれません。
当記事では、建設業として開業する人が創業融資を受けるためのポイントを解説します。建設業ならではのポイントを押さえることにより、融資申込の準備がスムーズになる可能性があるため、建設業で創業融資を受けたい人は参考にしてみてください。
ポイントは開業のために準備した内容を事業計画書に記載すること
建設業で開業する人が創業融資を受けるためのポイントは、開業のために準備した内容を事業計画書に記載することです。とくに、建設業で創業する場合は事業計画書において重要視される項目があるため、その項目を確認してみましょう。
【建設業で創業する場合に重要視される項目】
- 過去の経験
- 取引先
- 創業に必要な資金の内訳
- 創業後の資金繰りの見通し
建設業で創業する場合、とくに重要視される項目として「過去の経験」「取引先」「創業に必要な資金の内訳」「創業後の資金繰りの見通し」が挙げられます。開業のために準備した内容を十分に伝えられるような事業計画書を作成するために、それぞれの項目を確認してみましょう。
過去の経験
建設業で創業する場合、「過去の経験」は重要視される項目のひとつです。建設業は専門知識や技術を要する職業のため、独立できるだけの経験や実績をもっているかどうかを創業融資の審査において確認される傾向にあります。
建設業の独立における実務経験は、最低5年以上が目安です。建設業は500万円以上の工事を請け負う場合、建設業許可の取得が必要ですが、建設業許可を取得するためには5年以上の実務経験を求められる可能性があるからです。
また、現場監督や職長などの管理経験がある場合は記載しましょう。「工程管理」「安全管理」「原価管理」などの能力が求められる立場を経験した証明となるため、独立したあと受注できる業務の幅が広いと評価される可能性があります。
なお、実務経験が不足していると感じる場合は、他にアピールできる項目があるかどうか検討しましょう。「資格を取得している」「元請けからの安定的な受注がある」など、経験不足を補う情報を伝えることを検討してみてください。
取引先
建設業で創業する場合、「取引先」は重要視される項目のひとつです。建設業は「元請け」「下請け」「孫請け」などと呼ばれる請負構造で成り立っているため、「自身の階層の位置」「取引条件」などの情報を事業計画書に記載しましょう。
【取引先の確認項目の例】
項目 | 具体例 |
---|---|
販売先 | ・受注先の会社名は? ・元請けか?下請けか? ・支払条件は? ・継続的な受注が見込めるか? |
仕入先 | ・仕入先の会社名は? ・支払条件は? ・安定した材料の仕入れができるか? |
外注先 | ・外注先は? ・支払条件は? ・信頼関係が築けているか? |
取引先の確認項目のひとつは「支払条件」です。建設業は業界の構造上、請負階層が下の業者ほど売上の入金が遅くなる傾向があるため、「月末締めの翌月払い」「月末締めの翌々月払い」など、支払条件を明確に記載する必要があります。
また、取引先との関係性も確認されます。「継続的な受注が見込めるかどうか」「安定した材料の仕入れができるかどうか」など、独立後にスムーズに仕事を請け負える体制が整っているかどうかを記載する必要があります。
なお、すでに取引先からの受注書がある場合は添付しましょう。「工事の受注書」「請負契約書」など、受注予定の工事に関する資料を添付することにより、創業後の事業の見通しを証明できるため、取引先からの受注書がある場合は添付することを検討してみてください。
創業に必要な資金の内訳
建設業で創業する場合、「創業に必要な資金の内訳」は重要視される項目のひとつです。「個人住宅のリフォーム工事」「公共事業の土木作業」など、携わる事業によって必要な設備や備品が異なるため、創業に必要な資金の内訳を事業計画書に明記しましょう。
【創業に必要な資金の内訳の例】
項目 | 費用の例 |
---|---|
登記許可に関連する費用
(500万円以上の工事を請け負う場合は建設業許可が必要) |
0円~30万円 ・自身で登記する場合は不要 ・行政書士に依頼する場合は費用がかかる |
事務所や倉庫費用 | 0円~50万円 ・自宅開業する場合は不要 ・事務所や倉庫を賃貸する場合は初期費用がかかる |
車両運搬費 | 30万円~150万円 ・資材を運ぶための車両(軽トラックやハイエースなど) ・中古車か新車によって価格が変動する |
機材や備品費 | 10万円~100万円 ・「電動工具」「足場」「消耗品」など ・レンタルできる機材があれば利用を検討する |
保険や保証に関連する費用 | 10万円~20万円 ・損害賠償保険(年間5万円~10万円) ・労災保険(年間5万円~10万円) |
合計 | 55万円~350万円 |
建設業が創業に必要な資金として「登記許可に関連する費用」が挙げられます。500万円以上の工事を受注する場合は「建設業許可」の取得が必要となるため、申請手続きを行政書士に依頼する場合は費用が発生します。
建設業が創業に必要な資金として「機材や備品費」が挙げられます。「丸ノコ」「グラインダー」などの工具や「塗料」「養生カバー」などの消耗品が必要になるため、自身に必要な機材や備品を洗い出し、それぞれの内訳を確認します。
なお、建設業として独立開業する場合は「保険や保証に関連する費用」も検討しましょう。建設業は事故のリスクや賠償のリスクなどが考えられるため、万が一トラブルが発生した場合に備えて保険に加入することを検討してみてください。
創業後の資金繰りの見通し
建設業で創業する場合、「創業後の資金繰りの見通し」は重要視される項目のひとつです。建設業は工事完了後に売上代金が入金される傾向があるため、創業初期は人件費や材料費などの支出が先行し、資金繰りが厳しくなる可能性があるからです。
創業融資の審査では、創業後の事業の見通しが確認されます。「1か月後に外注先Bへ50万円支払予定」「2か月後にA工務店から100万円の入金予定」など、創業後3か月から半年程度の資金繰りの見通しを示すことにより、審査担当者へ運転資金の必要性を理解してもらえる可能性があります。
また、資金繰りを安定させるための対策を伝えることも重要です。「工期が長い案件は仕掛中に入金してもらう」「入金が早い条件の取引先を増やしていく」など、資金繰りを安定させるための対策を伝えることにより、審査担当者へ返済能力があると判断してもらえる可能性があります。
なお、資金繰りの見通しを踏まえて運転資金の額を設定しましょう。建設業の特性上、創業後すぐには入金されない可能性を考慮し、3か月分から6ヶ月分程度の固定費や材料費、外注費を確保した金額を創業時に調達しておくことを検討してみてください。
審査では事業計画書の他にも確認事項がある
創業融資の審査では、事業計画書の他にも確認事項があります。事業計画書は審査の可否を決める要素となりますが、事業計画書以外にも審査に影響を与える確認事項があるため、建設業で創業融資を受けたい人は押さえておきましょう。
【事業計画書以外の確認事項】
- 自己資金
- 個人信用情報
- 他社の借入
事業計画書以外の確認事項のひとつは「自己資金」です。創業融資を受ける場合は、相応の自己資金を準備することが求められるため、準備してきた経過を含め、金融機関へ預金通帳を見せることにより自己資金額を証明する必要があります。
事業計画書以外の確認項目のひとつは「個人信用情報」です。金融機関は申込者の個人信用情報を閲覧し、「遅延の履歴」「債務整理の履歴」などがあるかどうか確認しているため、金融事故を起こしたことがある場合、審査に影響を与える可能性が高いです。
なお、他社からの借入がある場合、審査時に確認される傾向があります。「住宅ローン」「奨学金」などの返済負担がある場合、事業資金の返済能力を懸念される可能性があるため、生活資金の返済額を含めた収支計画を立てることを検討してみてください。
タンス預金は自己資金として認められない可能性がある
創業融資の審査では、タンス預金は自己資金として認められない可能性があります。とくに建設業は給与を手渡しでもらう機会がある関係上、銀行に貯蓄していない場合も想定されるため注意が必要です。
金融機関は「出所が分かる資金であるかどうか」を確認します。自己資金の証明として預金通帳を確認したときに、タンス預金はお金の出所が分からず、お金の流れが把握できないため、出所不明の資金として扱われ、自己資金と認められない可能性があります。
金融機関は「見せ金でないかどうか」を確認します。見せ金とは、第三者から一時的に借入し、自己資金に相当する資金があると見せかける行為を指しますが、タンス預金の場合、見せ金でないかどうか判断が難しいため、自己資金と認められない可能性があります。
タンス預金がある場合、速やかに銀行に入金するようにしましょう。給料日のあと入金する習慣をつけることにより、定期的な入金の履歴が残るため、自己資金として認めてもらうためにもタンス預金はしないようにしましょう。
まとめ
建設業で開業する人が創業融資を受けるためのポイントは、開業のために準備した内容を事業計画書に記載することです。「過去の経験」「取引先」など、建設業で創業する場合はとくに重要視される項目があるため、それぞれの項目を確認してみましょう。
創業融資の審査では、事業計画書の他にも確認事項があります。「自己資金」「個人信用情報」「他社からの借入」などの要素は、事業計画書以外にも審査に影響を与える確認事項のため、建設業で創業融資を受けたい人はその前提を踏まえておきましょう。
なお、創業融資の審査では、タンス預金は自己資金として認められない可能性があります。とくに建設業は給与を手渡しでもらう機会がある関係上、銀行に定期的に入金するようにし、自己資金の蓄積経過が分かるようにしておきましょう。