企業が成長していく段階を「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」と4つのステージに分けて表すことがあります。今自身の企業がいるステージを把握しておくことで、事業が計画通りに進んでいるかの指標になったり、ステージに合った資金調達方法を選ぶことができたりしますので、計画的な事業運営には欠かせない基礎知識です。
「自分の会社がどのステージに位置しているのかわからない」という方は、この4つの成長ステージと、シードの前段階である「プレシード」についても、区別して説明できるようにしておきましょう。
1.企業の成長段階を示す4つのステージとは?
人が成長するときに、幼年期、児童期、思春期、青年期と段階を経るように、企業も成長していく段階として、「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」と4つのステージがあります。上場していないベンチャー企業に対して使用される表現です。
これらの企業の成長段階に応じて、企業にどのくらい投資価値があるのか事業の評価が行われるため、株式上場を目指す経営者には必須の基礎知識と言えるでしょう。
なかでも、投資を得意とするベンチャーキャピタルでは「シード」以降のステージを、それぞれ「シリーズA」、「シリーズB」、「シリーズC」と呼称します。
「シリーズA」は「アーリー」、「シリーズB」は「ミドル」、「シリーズC」は「レイター」とほぼ同じ位置付けの、表現違いであることを押さえておくとよいでしょう。
スタートアップ企業の資金調達の指標となるシリーズA/B/Cとは
(1)創業前の「シード」ステージ
「シード」(seed:種)ステージとは、創業の準備中の段階のことを指します。創業に際し、ビジネスのアイディアやコンセプトを固める時期です。
アイディアが固まったら、事業として売上を立てることができるのか市場調査などを行い、需要予測をして事業計画を立て、ビジネスプランを創業計画書としてまとめます。
シードステージに位置する企業の資金調達は、自己資金に頼ることが一般的です。ただし、事業を行う場所や設備などを取得するためにまとまった資金が必要な場合、自己資金とは別に、融資を受けて用立てます。
社会的信用の低い創業前の企業は民間の金融機関から融資を受けることは容易ではないので、政府系金融機関の日本政策金融公庫から創業融資を受けるケースが多いです。
日本政策金融公庫は、日本経済発展のために積極的に創業支援を行っていますので、実績がない創業前後であっても「経験」と「自己資金」があれば比較的融資を受けやすいという特徴があります。手元資金が多いほど倒産リスクは低くなりますので、創業時に資金調達をしておくとよいでしょう。
(2)発展途上期の「アーリー」ステージ
「アーリー」(early:初期)ステージとは、発展途上の段階、または創業直後の時期のことを指します。一般的に、創業8年以内、売上高が2億円以下、従業員は数人程度といった成長途中のベンチャー企業が、この「アーリー」ステージです。
廃業するベンチャー企業は、この「アーリー」ステージの段階で廃業するケースがほとんどです。売上はあるものの、まだ赤字が続いている企業もあり、資金繰りが安定しないため、ちょっとしたことで倒産する可能性があります。民間の金融機関からは敬遠されるため、融資を受けるのは極めて困難です。
シードシーズンの企業と同様、政府系の金融機関の日本政策金融金庫の創業融資が利用できます。また、「エンジェル投資家」による資金調達を行う方も珍しくありません。売上高が1億円以上の企業であれば、ハイリスクハイリターンの出資を行うベンチャーキャピタルを利用するケースもあります。
なお、冒頭でも説明した通り、ベンチャーキャピタルの場合は「アーリー」の段階を「ステージA」と呼称するため、時と場合、相手によって表現は使い分けましょう。
「アーリー」ステージの融資方法については、売上高によって場合分けされます。さらに詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
(3)急成長期の「ミドル」ステージ
「ミドル」(middle:中期)ステージとは、急成長の段階、または事業が急激に伸びる時期のことを指します。前年の売上が倍、世間での認知度がアップ、事業拡大のための人材確保を急ぎ、売上に対する人件費のバランスに頭を悩ませる時期です。
一般的には、売上高は5億円超え、従業員数は20名以上の企業で、事業が軌道に乗り、世間にも認知され始めたベンチャー企業が、この「ミドル」ステージだと判定されます。売上実績によっては、民間の金融機関からの融資も受けやすくなっていきます。
ベンチャーキャピタルでの増資を行うと、経営者の持株の比率が下がる、つまり経営権に影響するため、民間の金融機関からの資金調達を優先するケースが頻繁に見られるようになるステージです。
(4)株式の上場も視野に入る「レイター」ステージ
「レイター」(later:後期)ステージとは、株式の上場する前段階、または事業が安定してきた時期のことを指します。一般的には、商品やサービスのバリエーションが増え、広告費の比重が高くなる傾向があります。全国展開や海外展開も始まり、株式上場やM&Aだけでの事業拡大や、新事業の立ち上げも考えるでしょう。
一般的には、売上高は30億円超え、従業員数は50名~100名規模といったベンチャー企業が、この「レイター」ステージだと判定されます。社会的信用が確立され、民間の金融会社からの融資も受けやすくなります。
「レイター」ステージの企業には、資金力があります。ソーシャルレンディングを行っても問題ないでしょう。インターネットを使ったクラウドファンディングのひとつで、短期間に高額の資金調達が行うなど、ビジネスにスピードを求める企業に重宝されている資金調達方法です。
2.シードの前の「プレシード」は創業を思いついた段階
「プレシード」(pre-seed:種の前)ステージは、いわば創業を思いついた段階、創業のコンセプトやアイディアが出てきた時期を指します。
通常、具体的にビジネスプランを創業計画書としてまとめるには、各種調査を重ねて客観的な事実の裏付けをとりますが、それよりももっと抽象的な段階や時期のことを、種の前、プレシードと表現するようです。
プレシードから創業に向けてやるべきこと
思いついた事業のアイディアを具体的にビジネスの形にして次のステージに進むためには、次の5つのポイントを明確にしておく必要があります。
- 事業を行う目的
- 事業のターゲット
- 売上の見込み
- 事業計画
- リスクヘッジ
誰にどのような商品やサービスを提供するのか、売上はどのくらい見込めるのか、客観的な根拠を基に説明できなければ事業が失敗するリスクがあります。創業してから後悔しないために事業として成立するのか、創業前にしっかりとシミュレーションしておきましょう。
プレシード期に事業資金の調達を検討している人は無料診断をお試しください。事業計画や売上から融資に通りそうか、いくら資金調達ができそうかを無料で診断できます。
3.言葉の定義を確認してから話を進めよう!
企業の成長過程の4つのステージと、プレシードについて説明してきましたが、注意したいのは、この線引きが明確ではない点です。
人や立場によってステージの定義に微妙なズレがあるため、投資家などと会話をする際は、使っている用語が同じ概念を指しているかを確認する必要があります。
冒頭で説明した、投資分野で使われる「シード」以降を「シリーズA」、「シリーズB」、「シリーズC」と区別する呼び方は「シードシリーズ」と呼ばれます。ほぼ同じ位置付けの表現違いですが、ベンチャーキャピタルによっては、定義の差異があるため確認が必要です。
「創業期」も、人によって指すことが違うことがあります。
一般的にはシードに該当しますが、プレシードが注目されるようになってからは「創業期はプレシードだ」と定義されたり、広い意味での創業期として「アーリー」と定義されたり、さまざまです。
しかし、このように言葉の定義すら統一されない中で、見失ってはいけないことは「事業拡大していく企業の成長段階を区別する」という意図です。
成長段階を分けることで、適切に企業の投資の価値を計算し、事業評価を行います。双方の行き違いを防ぐためにも、用語の定義を確認してから話を進めるようにしましょう。
まとめ
企業は、人が大人になるのと同じように成長過程があります。
もちろん、成長過程の名前や概念を知らなくても人は大人になりますが、もし知っていれば、子育てに詳しい人・興味がある人とスムーズに話すことができます。また、「自身が今どの成長段階にいるか」を客観的に評価できるだけで、健やかな成長を見込めることでしょう。
企業においても同じです。投資家と話をし、出資を引き出すためにも、企業の経営者はプレシードを含めた成長ステージの位置づけをきちんと理解しておきましょう。