労働保険料の納付方法や保険加入から年度更新手続きまでの流れ

社会保険制度の中の労災保険、雇用保険とあわせて呼ばれるものが「労働保険」です。

健康保険や年金保険とは異なり、個人事業主であっても保険の適用対象となる従業員を雇い入れた場合、労働保険料を納付しなければいけません。また、この労働保険料は、健康保険や年金保険などとは支払い方法が異なるため、個人事業主の方を悩ませる理由の一つとなっています。

この記事では、労働保険の基礎知識から、納付方法、年度更新の支払い手続きなどをご紹介していきます。

1.社会保険制度や労働保険とは?

労働保険料の年度更新手続きについて見ていく前に、社会保険制度や労働保険とは何かを確認しておきましょう。

社会保険制度

「社会保険制度」とは、日常生活での病気やケガ、自分や家族の介護、不況による失業など、日常生活で起こるかもしれない不測の事態のために、備えの役割を持つ公的保険制度の事を言います。この「公的」という言葉が重要で、個人が任意で加入している民間の保険と異なり、公的保険制度には加入義務があります。つまり、対象となる人は強制的に加入しなければならない、ということです。

一般的に社会保険というと、医療保険・年金保険・介護保険の3つを「社会保険」として扱うことが多いですが、この狭い意味の社会保険に「労働保険」の雇用保険と労災保険の2つを加えて呼ぶことも多くなってきています。

社会保険制度とは、医療保険・年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険。広義の社会保険に適用される。(うち、医療保険・年金保険・介護保険は狭義の社会保険にも属される)また、雇用保険・労災保険は労働保険として区分される。

労働保険

次に、労働保険の「雇用保険」と「労災保険」についてご説明していきます。

雇用保険

雇用保険は、働く人が仕事を失ってしまった場合、育児・介護などの理由で休業する場合の手当を給付するための社会保険制度です。

一般的には「失業保険」と呼ばれる保険は、これに当たります。失業した時にお金がもらえるだけでなく、要件を満たせば教育訓練費や引越し費用を出してもらえることもある、トータルで雇用を広くサポートする内容です。

労災保険

労災保険は、働く人が仕事中や通勤時に病気やケガをした場合や、亡くなった場合などに給付される保険です。

運営主体は国ですが、保険料は都道府県の労働局が徴収しています。療養、休業、傷病、障害、遺族、介護などの給付があります。就労についてサポートする内容です。雇用保険との違いとして、簡単に「仕事中の事故(労働災害)で働けなくなったら労災保険」と理解しておくと良いでしょう。

下記のサイトでは社会保険制度についてより詳しく記載しています。ここでは労働保険をメインにお話しましたが、医療・年金・介護・雇用等の保険についても、もっと知りたいという方は是非ご覧ください。

2.労働保険料を納付するには

労働保険の保険料「労働保険料」は、毎年4月1日~翌年3月31日までの1年間を基準にして支払います。これは「保険年度」と呼ばれます。この年度内の全従業員の給与の総額に対して、事業所ごとに定められた保険料率をかけて保険料を算出します。

しかし、年末までの給与の金額を、年初になんて確定できません。従業員が減れば給与の総額は減り、増やせばその分増えます。
そのため、労働保険料は「保険年度ごとに保険料の見積もりを行い納付、給与総額が決定したあとに精算する」という仕組みを取っています。
事業主は前保険年度の保険料を精算しつつ、翌年の新たな保険年度の保険料の計算を行い、納付するための申告と納付の手続きに取り組まなければなりません。これが俗にいう労働保険料の「年度更新手続き」です。
労働保険料の年度更新手続き期間は、毎年6月から7月10日とされています。なお、提出先は厚生労働省管轄の労働基準監督署(通称「労基」「労基署」)です。

保険料の支払い手続きをしない場合や、規定の金額の保険料を納めない場合、過去にさかのぼって保険料を徴収されます。徴収逃れが悪質だと判断された場合、確定した保険料の不足額に対して10%の割合の追徴金を支払うことになるという事も覚悟しておきましょう。

3.保険加入から年度更新手続きまでの流れ

保険加入した年度の保険料の申告と納付の手続きは少しイレギュラーで、翌年から「年度更新手続き」と呼ばれる決まったパターンの作業になります。実際の流れを雇用保険加入日が「平成28年12月1日」としたケースで見てみましょう。

加入手続きは、事務所単位で必要になります。雇用保険については「ハローワーク」、労災保険については「労働基準監督署」で手続きしてください。今回はどちらも「平成28年12月1日」に行われたとして話を進めます。

ー雇用保険で必要な手続きー ①適応事業所設置届→初めて労働者を雇用した事業所が提出します。提出期限は雇用した日から10日以内です。②被保険者資格取得届→加入対象者ごとに提出します。提出期限は雇用した月の翌日10日までです。 【添付書類】・事業形態を確認できるもの・労働保険関係成立届の控え・開業届の控え・労働者名簿・出勤簿(タイムカード)・賃金台帳・パート/アルバイトの場合は雇用契約書

 

ー労災保険で必要な手続きー①労働保険関係成立手続き→初めて労働者を雇用した事業所が提出します。提出期限は雇用した日から10日以内です。②労働保険概算保険料申告書→申告書に記載した概算保険料を納付します。1回目の納付は雇用した日から50日以内です。【必要書類】・事業形態を確認する書類(自宅で事業をしている場合は住民票、貸事務所などの場合は賃貸借契約書)

まず1回目の申告と納付です。

【1回目】平成28年12月1日~平成29年3月31日までの概算保険料を申告・納付〈期限:加入日から50日以内〉この例の場合は平成29年1月20日まで

労働保険料は、毎年4月1日~翌年3月31日までの年度単位に納めるので、平成28年12月1日に加入した場合、平成28年度分の扱いです。加入日からその年度末(このケースでは平成29年3月31日)までの概算保険料を算出し、納付します。納付の期限は、保険加入日から50日以内となります(このケースでは平成29年1月20日)。

「労働保険概算・確定保険料申告書」を作成し、保険料などとともに必要書類を添えて、金融機関にて申告納付します。申告書を、所轄都道府県労働局もしくは労働基準監督署の窓口に提出し、口座振替で支払うこともできます。

 

労働保険料は、雇用保険料と労災保険料を合算した金額をまとめて支払います。基本的には一括払いですが、状況によっては分割での支払いが認められることもあります。その分割払いが認められる状況というのが、以下のような状況です。

・労働保険料が40万円を超えるケース※雇用保険と労災保険のどちらかの保険適用の場合は20万円以上 ・労働保険事務組合に労働保険事務を委託しているケース

分割での支払いを望む場合は相談してみるとよいでしょう。

続いて、2回目の申告と納付、年度の更新手続きです。

【2回目】本年度(平成29年4月1日~平成30年3月31日までの)概算保険料を申告・納付 前年度(平成28年度分)の確定保険料を申告・納付〈期限:平成29年6月1日~7月10日までの間〉

1回目では、労働保険料として概算の保険料を支払っています。そのため「確定した保険料」を元に「概算の保険料」を精算するため、前年度に確定した保険料の申告が必要です。

基本的に、労働保険の年度更新は7月10日が申告納付の期限ですが、その日が休日の場合、翌月曜日が期限となります。例えば、7月10日が土曜日なら、期限は12日の月曜日、7月10日が日曜日の場合は11日の月曜日が期限となります。できれば最終日に駆け込まなくて済むよう、更新時期が迫ってから準備をするのではなく、余裕をもった年度更新手続きを心がけましょう。

4月後半には、管轄の労働基準監督署から一部記入済みの申告書一式が送付されるはずですので、活用すると簡単に申告納付ができるようになります。

なお、予め電子証明書を取得しておけば、電子申請「e-Gov」(イーガブ)での申告納付もできます。申告納付は毎年のことなので、ぜひ活用してみるとよいでしょう。

 

4.労働保険料の算出方法

労働保険料は、事業のために雇用している従業員全員に支払った賃金の総額に対し、決められた保険料率をかけて算出します。ここでいう賃金は、基本給だけでなくボーナスや通勤手当、時間外手当なども含みます。ただし、役員報酬や災害見舞金などの一時金、出張旅費や退職金などは含みません。

【保険料の計算 雇用保険】雇用保険対象者の給与総額×保険料率 【雇用保険の保険料率を記載した表】 【保険料の計算 労災保険】労災保険対象者の給与総額×保険料率 【労災保険の保険料率】労災保険の保険料率は事業の種類がとても細かく分類されています。詳細は下記のPDFを参考にしてください。なんと90種類に分けられています。

 

労災保険の保険料率:厚生労働省HP

注意したいのは、「雇用保険対象者=労災保険対象者」ではない点です。労災保険の場合、パート・アルバイトも含む従業員を1人でも雇えば適用となりますが、雇用保険の場合は以下の条件を満たす必要があります。

・1週間の所定労働時間が20時間以上
・31日以上の雇用をされている
・学生や生徒ではない
・取締役、役員、監査、個人事業主ではない

なお、雇用保険については、事業者と従業員の双方が負担し合いますが、労災保険料は全額が事業者負担となり、従業員の給与からの天引きはできません。

雇用保険を含む労働保険の加入に関する条件や手続きなど、もっと詳しく知りたい方は次の記事もあわせてご参照ください。

まとめ

労働保険料の年度更新手続きは、労働者のためのもので、個人事業主にとっては煩わしい印象を受けるかもしれませんが、雇用保険の加入のメリットは事業主にもあります。

例えば、厚生労働省の助成金制度の多くは、雇用保険に加入していなければ申請できません。従業員を雇用したい、職場環境を見直したいなど、助成金を使って事業をよりよくする一歩としても、労働保険料の年度更新手続きの理解は欠かせないと言えるでしょう。過不足なく、滞りなく申告納付ができるよう、まずは知ることから始めてみましょう。

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